「明るい高齢者雇用」
第18回 転職でノイローゼ―適応の難しさ痛感―
(「週刊 労働新聞」第2164号・1997年8月11日掲載)
今回は異業種への転職事例を紹介しよう。
高齢者が転職する場合、自分が育った職場、即ち同業種への転職は必ずしも保障されない。異業種への転職ということも念頭に置かなければならない。
某大手輸送機械メーカーから食品化学工場の工場長へ出向したC氏を紹介しよう。C氏は工業高校を出て以来製造技術一筋。出向決定当時は53歳であり、現場の課長であったという。転職先は惣菜メーカーで、資本金1億円、従業員250人程度の企業である。
求人企業側がC氏を採用するかにつき迷った点は、まず異業種で、それも大手企業出身の者が、会社に溶け込めるかということであった。お役人出身者が民間企業に移った場合、判断事項の多さに戸惑い(要するに判断力すら無いということ、さらには責任をとるという態度が長年に亘って欠落していること)、またそのスピードに全くついて行けないこと等から、カルチャーショックを受け、仕事が手につかなくなる、ノイローゼにすらなるという例が非常に多い。20年、30年の間、およそ何をしてきたのか、実は何も仕事をしていなかったのではないかという疑問をもたれる確率が50%以上に及ぶという。民間企業においても、大手企業出身者が中堅中小企業で仕事ができないことを露呈するというケースが役人出身者ほどではないが、よくあるといってよい。求人企業の社長が、大手の人、しかも異業種からの転換で、会社に溶け込めるのかと疑問に思うのも無理からぬところである。
また、中堅中小企業はオーナー企業が多いから、オーナーたる社長の価値観によって採用の成否が決まるといってよい。この求人企業においても、家族構成の中で子供がいないということが懸念事項となった。この社長は、子供がいない人物は部下を指導するのに適切でないのではないかと迷ったというのである。
さて、採用決定のポイントは何といってもC氏の若々しいルックス、態度であり、また前向きな気持ち、即ち中小企業で適当に時間を過ごすのではなく、今までの経験を生かしてやりたかったことを実現するという、まさに前向きな気持ちがあったことにあると採用を決断した社長は語っている。
いってみれば達成意欲が旺盛であるということである。この意欲は先に述べた向上心と直結するものであるが、それがあればこそ若々しいルックス、態度といったものにもつながろう。
それはいうまでもなく、若い時から健康に意を用いるということだけでなく、様々なことに関心を持ち精神的な刺激を求め続けることでもある。
頑迷さを取り除き、過ちは直ちに正す姿勢、そして視力を維持すること、とにかく歩くことなどがその具体策となるが、出向先においてもその若さを維持し、同時に若い人と付き合っていくとなれば、若さをマネージメントする意識と行動がことのほか重要となるのである。
この人物のケースは、転職後1年半経った現在、高い評価を得ているということから、まさに成功例といえるが、やはり高齢者になっても心身共に若さを保つということが秘訣であろう。