2020年10月7日のアーカイブ

 

「中国の最新諸事情」
第9回 デリバリーサービスの台頭

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 出前、デリバリーといった職業について、皆さんはどういうイメージを持っているでしょうか。一時的、補助的な仕事だという印象が多いと思いますが、中国では、近年飲食プラットフォ—ムの台頭とともに、食事の配達人の数が急上昇しました。統計によれば、2020年7月までに専門的な飲食配送人員(外売員)の数は700万人までに達しています。

 その勢力が拡大する裏で、外売員という職業は最も危険な職業になりつつあります。上海交通機関の統計によれば、平均毎日1名の外売員が交通事故で死亡しています。その理由は、アツアツな作り立ての食事を客の前に配達するために、プラットフォ—ムが常に非常に厳しい配達時間制限を設けていることです。制限時間までに配達を完了できなかった場合、外売員に減給、罰金などの処罰が科されます。そのため、外売員の中では、日々シビアな配送時間を守るために、交通信号を無視することが日常茶飯事となり、むしろ、時間厳守で配達するための必要スキルになってしまいました。

 こういった状況や危険と隣り合わせの職場環境を改善するため、中国最大手飲食プラットフォ—ム“餓了麼(ウーラマ)”は“配達制度改革―優しい客の選択機能“を実施しました。その内容とは、出前を申し込む優しいお客が自らの選択で、外売員に5~10分間の猶予時間与えることが可能となる、というものです。これにより、日々時間に追われている外売員に少しの時間の余裕を与えることができます。一見、他人思い、緩やかで良さそうな改革策ですが、実際運行してみると、各方面から大批判が寄せられました。

 なぜかというと、そもそも外売員に厳しい配達時間制度を制定したのはプラットフォ—ム側であり、時間通り配達できないと、罰金を科すのもプラットフォ—ム側です。さらに、配達数で外売員の能力を評価し、一定の配達数に達成できないと解雇するのもまたプラットフォ—ム側です。プラットフォ—ムと外売員の問題はサービス提供者側の内部問題なのに、上記の“優しい客の選択機能”を取り入れることによって、この問題を外部者であり、サービス受ける側のお客に責任転嫁したのです。そして、お客を矢面に立たせ、猶予時間与えないと、人間性に問題があり、優しくない人であると言わんばかりの工夫が施されています。その無責任なやり方は世間の怒りを買いました。

 この問題を弁護士の視点から見れば、契約精神を尊重すべきです。客との契約履行がうまくできないからといって、サービス代金の減額などの努力もせず、道徳的な圧力で、契約内容を一方的に変えようとするプラットフォームのやり方にはとても賛同できません。

 しかし、角度を変えれば、誰しも別の形の“外売員“といえます。自分の権益がプラットフォームに侵害されたとき、きちんと意識をし、自分のために奮闘しているのでしょうか?

 

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