2021年4月28日のアーカイブ

「明るい高齢者雇用」

第25回 最大の国家課題に―待たれる世論の高揚― 

(「週刊 労働新聞」第2171号・1997年10月6日掲載)

 

 高齢者問題は21世紀に向けてわが国最大の国家的課題ともいうべき問題であり、これの前進には国家社会の総力を挙げ、国民一人ひとりがその重大性を認識して日々努力を重ねなければ成果を挙げることは不可能というべきである。この観点で社会世論の面から問題を挙げれば、まず65歳継続雇用は法により努力義務が課せられているのに、総論賛成の後で、何の罪悪感もなしに各論反対が横行することにつき社会世論は何故これを放任するのかということである。社会世論の中で企業が規範意識を持って65歳継続雇用に取り組み、使命感を持って実現せしめるようにすることは、国民一人ひとりがその責任を負う社会世論の重要な役割である。社会世論の喚起を切に望みたい。

 また、高齢者雇用への使命感を有し、先進的に高齢者を大事に雇用する企業の社会的評価をもっと上げるように努力が払われなければならない。高齢者雇用先進企業の社会的イメージの高度化がなされ、社会的責任を遂行する企業の商品、サービスについて社会的認識を深めなければならない。

 さらに雇用流動性への信仰が今や社会世論の中で幅を効かせているが、これへの過信は高齢者雇用を総体として促進するものではない。雇用流動性を高めることが活性化であるとして、高齢者も外部労働市場に任せるべきであるとする議論があるが、これは、高齢者を単なる労働力に還元するだけのものであって、社会的損失をももたらすものである。

 人間は、単に能力だけでなく、企業風土・企業論理を理解して初めて戦力となるが、この企業風土・企業論理をとり払って裸にして、単に労働能力だけを売り物にした時、高齢者はもはや素手で世間と戦わなければならない。雇用流動性への信仰は、高齢者に誠に重い負荷がかかる。

 さて、これまで6回にわたり、末廣毅氏より伺った話を基に連載を進めてきた。高齢者雇用の促進に資するため、様々な障害の排除に取り組む氏の説得力のある問題指摘は、誠に貴重で示唆に富むものであった。高齢者の継続雇用を阻む要因として、企業の姿勢、労働組合・社員全体のエゴ、高齢者自身に関わる問題、世論の4つをあげたが、総じて言えるのは、我々自身の意識の問題、すなわち高齢者をあたかも邪魔者として排除しようとするかのごとき姿勢にあるような気がしてならない。

 超高齢化社会の到来を目前に、高齢者と共生していくのが至極当然であることについて当事者意識を持とうとしない。否、問題を先送りし、忌避しているようにすら見える。明るい高齢者雇用実現のため、単に方法論に終始するのではなく、まず我々自身の意識のあり様こそが問われるべきである。

 今後の人口構成を考えれば、企業活動においても高齢者の存在を無視しては考えられない。一刻も早くこの問題に取り組むことが、熾烈な競争に勝ち残っていくために避けられないテーマであることに気付かなければならない。職場に高齢者がいることが当たり前であって、高齢者と共に働くことが好ましいのだと思える環境を自ら創り出すことが、この問題を解決に導く最重要の方策となろう。

 

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