高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

<第32回>人を上手に辞めさせる(1996年10月24日)

 

 人を上手に辞めさせることについて、管理職ユニオンの資料『第2回職場いじめ110番 相談カルテ』にそのヒントがある。これは先日、TVでも放映された。

 管理職ユニオンには、辞めさせられるかもしれないと自覚する人が自分の保険のために加入し駆け込む。超一流企業の人もいる。この「110番」には5日間で1,032人から電話があったそうだ。そのうちユニオンに加入したのは200人だったとか。

 このカルテの第1項目に「自殺の場合のチェックマーク」とある。

 「処遇上、人間関係上の差別・嫌がらせ」の項目の筆頭に「仕事を与えない」がある。仕事がないことが苦痛(イジメ)になる。この本質を考えることがポイントだ。仕事がない状態にすることがイジメになる。仕事があってこそ満足感がある。

 つまり雇用関係を解消する方法のひとつは、企業に対する不満感を醸成することだが、それには、①仕事を減らす、重要な仕事から外す ②賃金を低くする(直接的過ぎて、あまりいい方法ではない) ③人間関係を遮断する、この3つがある。

 そこで、人を上手に辞めさせるにはこの3つの手続きを少し、あくまでもほんの少し始めてから、「実は辞めてもらいたい」と言うのが一番効果的なやり方だ。3つのことが充分な状況にあって辞めてもらいたいというのでは成功しない。

 特に人間関係を遮断するには、口をきく回数を少なくする、目線を合わせる回数を少なくする、という方法をとる。

 雇用関係は、代理が許されない人と人の契約関係だから人間関係といえる。人間関係は、思いを伝える/伝わるというコミュニケーションによって維持される。だから、従来と比べて何となく口をきく回数が減ったとなると、人間関係が希薄化する、雇用関係が希薄化する、結合の絆が細くなる、というプロセスになる。

 しかも重要な仕事が与えられない、あるいは減ったとなると、人間になる機会が減ることになる。人は仕事・労働を通じてこそ人間になる。手・足・口・頭、特に仕事で頭を使うということは人間的な能力を活性化させることだから、その機会が質量ともに低下するとなると、ここで働くことの意味を失う、という心理状態になる。

 そして引導をわたす。決断を迫る。「残念だが君を引き受ける職場がないから新天地を切り拓いてほしい。この際、勇退してもらいたい。ついてはこれこれの条件をつける……」といった話の切り出し方をする。その前段として上記の3つの手続きを踏む。

 雇用関係が解消されるということは、「首切り」という言葉のとおり、死に近いものを意味する。人間として付き合ってもらえなくなるということだ。

 管理職ユニオンがここまで踏み込んで分析しているのだから、まして私たち経営者はもっと考えることが必要であろう。

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