「明るい高齢者雇用」

第31回 「背中の力」で勝負―60歳代の職業生活:生きる人脈、経験

(「週刊 労働新聞」第2177号・1997年11月17日掲載)

 

 高齢者雇用として成功するには、自分の目標・生き方をなるべく早い時期から明確に意識しなければならない。そこで、高齢者雇用の現実のタイプを分類してみよう。

 (イ)チャレンジ型

 外に機会を求め、重要な役割を担って活躍する型である。それには、人材として評価される総合能力を持ちあわせていなければならないし、キャリアが新しい仕事にマッチするということも必要である。もちろんこのチャレンジ型が可能であるのは、充分余力がある者でなければならないことになる。そこでは当然、健康問題を克服するだけでなく、若々しさが必要ということにもなり、さらに言えば、親の七光りではないが、今までの人生の軌跡の中で、背中を活用できるだけの実績、人間関係を構築していかなければならない

 一例を紹介しよう。甲氏は北陸地方の出身者であるが、高卒で日本の代表的なある商社に勤めたところ、支店長まで昇りつめた。しかし、その学歴と部下の不祥事により、出世の限界を感じていたところ、そば屋チェーンから転職のお話をいただいた。新分野ではあるが、仕事の類似性があった。商社においては、産元機能、即ち部材問屋機能があるが、チェーン店の展開において、その産元機能で覚えた知識・システムを生かすことができるということである。

 転職に当たって、一番気掛かりだったのは奥様の意向だったが、奥様も転職を快諾した。「あなたはせんべい屋の息子なんだから、そば屋に勤めても別におかしくない」という言葉で本当にほっとしたということである。

 チャレンジ型においてとかく問題になるのは、配偶者の意向である。配偶者が企業ブランドにとらわれている、あるいは冒険に逡巡するとチャレンジする機会を失うが、この場合は、夫人の言葉に半ば励まされて、チャレンジを決意したということである。

 このそば屋チェーンは、結局店頭公開するに至り本人は社長まで勤めたが、もちろんそれは『背中の力』が大いに役に立ったことは言うまでもない。小麦粉の手当てで、食材の手当てに商社に勤めていた知識・体験、さらに人脈が役に立ったし、またシステム作りに当たっても、その知識が役に立った。また、海外出店という大胆な企ても可能になったし、ベンチャーキャピタルや政府系銀行とのつながりも新しく開拓できた。言ってみれば、商社で身に付いた『背中の力』が大いに役に立ったのである。

 (ロ)エキスパート型

 例えば乙氏のケースがこれに当たる。乙氏はニューヨーク支店で法務部門の責任者であったのだが、日本の代表的な製鋼会社が当時まだ珍しかった法務部を設けることになった際に、その経験を買われ責任者として引き抜かれた。その条件として65歳までの雇用も保障された。すなわち、このタイプは専門的な知識・経験を生かし、即戦力として機能するということになる。従来のキャリアの延長線上にあるパターンだが、それだけでは足りない。別の職場ということになれば様々な新しい環境に遭遇するから、応用性・弾力性が不可欠な要素となる。

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