「明るい高齢者雇用」
第32回 失敗体験をバネに―60歳代の職業生活:”裏キャリ”も駆使
(「週刊 労働新聞」第2178号・1997年11月24日掲載)
前回に引き続いて、高齢者の雇用のタイプを、その実例をもとに考えていきたい。今回は高齢になって花開くケースと、人生における夢を実現するケースを紹介する。
(ハ)リカバリーショット型
30年、40年の職業人としての人生において、挫折感を味わうこと一再ならずという人物が、思いがけず高齢者雇用の場において花咲き、実らせるということもある。まさに明るい高齢者雇用を実現するのである。それには、裏のキャリアとか失敗体験をバネに、第2の仕事人生を切り拓くという状況で構築される場合が多い。そこでは、新分野が大方であるので、出向経験があるとか、あるいは彼が専門としてきた仕事以外の脇の仕事に従事したことがあるとかいった裏のキャリア、即ち本筋の経験でないものを駆使して仕事をする、生きる、ケースが多い。限界体験・失敗といった苦しい思いをしたことが、この時初めて生きてくるケースも極めて多い。
人生後半労働で三段跳びした丙氏について述べよう。丙氏は繊維の仕事を長年務めていたものであるが、子会社に移った時に、人員整理という限界体験をした。そこで初めて総務部の仕事を学んだのである。さらに、畑違いの電気メーカーの総務を任され、そして日本を代表するある大きな会計事務所に移って、総務部長に就任したのである。人生後半労働の三段跳び、スリークッションであった。即ち人員整理を実行し、またそのことにより関連会社の総務部に勤め、最終的には会計事務所に勤めることになったのである。それは、1つには先に述べた通り限界体験をしたということであるが、実は人柄に優れていたということである。明るい高齢者雇用を実現する本人の資質として、能力・意欲・人柄が必要である。能力が要求されることは言うまでもないことであるが、意欲が求められるのは、まさに求めてこそ与えられる世界であるからである。そしてなぜ人柄が必要かといえば、「年下の者と仲間になる」ことが、高齢者雇用における明るさを発揮する第一の要素と言ってよいからである。もちろん、能力・意欲・人柄が共に前向きな存在であることが問われるが、とりわけ人柄には前向きな明るさが大切だということである。
三段跳びのリカバリーもまさに本人の人柄のよさの賜物であった。
(ニ)ライフスタイル選好型
自分の個性や特技との適合、または独自のライフスタイルの選択といった視点から雇用の場を見つけて、明るい高齢者雇用を実現しているグループもある。個性を生かす・特技を生かす・趣味を生かす・信条人生観を尊ぶ、といった世界にライフスタイル型がある。要するに「自分に生きる」ということである。例えば教師になりたいと少年時代から数十年夢見てきたところ、高齢になって初めて、教師の場が与えられ活躍する、まさに仕事に励むということを初めて体験・体感することになったのは、その事例であろう。人生における憧れを実現し得たというライフスタイル型として、まさに充実した明るい高齢者雇用となるのである。