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「明るい高齢者雇用」

第34回 中年自殺が増加へ―衰える心身機能:“心”の問題重要に

(「週刊 労働新聞」第2180号・1997年12月8日掲載)

 

 高齢になれば誰しも人間としての機能が低下する。明るい高齢者雇用の実現には、この事実を受容し、前提としてかからなければならない。60歳の定年を境にガタッと落ち込む人がいる一方で、第2の職場でかくしゃくとして働く人も多い。そこで、今回からは労働科学の側面からこれらの心身の様子を検討し、明るい高齢者雇用のあり方をまずは「心身」という大きな枠組みの中で分析してみよう。

 まず第1に指摘しなければならないのは、「精神」の機能も「体」以上にバラエティーに富むという事実である。つまり、精神機能は高齢になっても十分な機能を保っている面もあり、50歳代まで発達し続け、60歳位までは30歳以前よりも水準が高いものも出てくる。精神的といっても数多くの機能があり、単純に同じ様に加齢に伴い低下するとは言えないのである。高齢者は機械的な暗記には弱いが、意味を持った事柄の記憶はさほど悪くないという実験結果も出ている。

 また、高齢者に対する記憶のさせ方も、自分にあったスピードで覚える場合には若者との成績の違いは少なくなってくる。高齢者の記憶実験の成績などがかなり異なってきたり、精神機能が単純には衰えていないという結果が出るのは、覚える内容や覚え方の違い、練習の効果による差であるとされている。これらが高齢者の個人差に他ならないのである。

 この個人差はまさに20歳・30歳からの心構え、即ち「精神」にみずみずしさを涵養することへの努力があったかどうかによって顕れる

 次に「心」の問題の極端な例である精神疾患や自殺の例で、精神的不健康の実態を見てみる。警察庁が最近発表した自殺統計では、50歳代の割合が90年代に入り徐々に増加しており、また、管理者の割合の伸びが著しくなっている。一方、都内の金融機関の調査では、精神疾患と診断される例が中間管理職に多く、とりわけ最近では30歳代の男性に目立つと報告されている。「体」以上にばらつきがある「心」の問題は、今後の高齢者雇用問題に大きく投影する。

 さて、「せっかく高齢者になったのだから」というコンセプトでなければならないと提言しているのは、(財)労働科学研究所労働生理心理研究部主任研究員・前原直樹氏である。労働科学研究所は、工場やオフィスなど産業現場の労働に関する実証的な調査研究を行い、作業方法、職場環境や労働生活の改善に役立てることを目的に活動している文部省所管の民間研究所である。その研究方法は、医学、心理学、工学、社会科学などにまたがる学術的なアプローチを基に、現場の問題解決に有効な科学的で現実的な対策を提言するというユニークな特色をもっている。1996年の『労働の科学・51巻・7号』で前原氏は「せっかく中年というハンディを背負ったんだから」という巻頭言を書いているが、そこでは「21世紀はハンディを持ちながら働き続ける人が増える時代であり、その中心は体力が衰えた中高年であることは間違いない。」だからこそ「体力の衰えを経験と知性で補うことが必要だ」と述べている。

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