「明るい高齢者雇用」
第38回 人間性重視の職場を―衰える心身機能:企業努力も不可欠
(「週刊 労働新聞」第2185号・1998年1月12日掲載)
これまで述べてきたような高齢者であるがゆえの社会的、肉体的、精神的な制約をクリアし、様々な機能を維持するための方策として、どのような視点があるのか。
現代では、仕事がソフト化し、判断・意思決定、点検・検査、監視などの精神的な機能を発揮することが求められている。一方、身体的な作業能力を必要としない仕事はないのだから、判断力などの機能を充分果たすためにも、身体的機能は重要となる。高齢者は少しでも眼や耳などの働きの低下を遅くするような努力を怠るべきではないし、それをサポートする企業側の種々の対策も必要となる。
また、病気になると気力面でも弱気になりがちとなる。高齢者には心身の「健康」が特に大切となろう。作業関連疾患やストレス関連疾患といわれる高血圧や糖尿病などの成人病は、仕事に関連した要因により発症したり進んだりすることが判ってきている。つまり、これらの成人病の予防には、仕事の仕方、職場の組織や作業環境も考慮しなければならないということになる。
生産性の点からも、後に紹介するトヨタ自動車(株)の白水宏典常務取締役は次のように語っている。「工場では、作業が定時終了の時にはトラブルが少なく、ラインは止まることなく完全生産稼働ができます。しかし、残業を要請される日には、稼働時間が長くなるので人も機械も連続運転で疲れが出て効率が悪くなるのです。そこでこれまで定時と残業の間には労働時間の関係から休憩がなかったのを、例外として、思い切って『品質チェックタイム』という名目でラインを止めることにしました。休止する時間を設けることで、ラインの総合稼働率が向上しました」。
空白の時間を設けて作業者を緊張から解き放つことにより、生産性を上げることに成功したこの例は、作業条件にストレス緩和策を講ずる必要のあることの1つの証左であろう。
働きやすい職場づくりが高齢者の職務満足や意欲づくりの保証となる。活力ある国民経済の維持発展のためにも、また、中高年者が自らのQOL(Quality of Life…生活及び人生の質)を高めるためにも「中高年が働きやすい職場づくり」「高齢者が生活しやすい社会づくり」は避けることはできない。さらには、この中高年齢層をターゲットとした「働きやすい職場づくり」こそが若年者をはじめ職場の人たちにとっての働きやすい職場づくりに通じ、組織や社会の活性化をもたらすものと考えられる。高齢化社会における職場環境づくりはこのような「より人間らしい仕事や職場づくり」を推進する以外にない。
さて、今後の中高年問題を考える際には、中高年の労働能力の活用こそ高齢化社会における国民経済の活力を維持する途でもあり、急速に進行しつつある高度情報通信技術はそのような労働環境を実現する上で役立つ可能性を大いにもっていることに留意する必要がある。こうした技術基盤のうえに労働環境の整備や労働条件を中心とした労働生活の質(quality of working life)の向上を目指すことが今後の高齢化社会において欠くことができないものとなっているのである。