「明るい高齢者雇用」
第40回 完全自動化を拒否―衰える心身機能:適切なトヨタの歩み
「週刊 労働新聞」第2187号・1998年1月26日掲載)
トヨタ自動車(株)の白水宏典氏が常務取締役に就任した時、第2の創業期の基礎作りに役立ちたいとの抱負を述べ、その具体的な方策として、高齢化を受け身で捉えるのではなく、自ら活性化を図り次世代への掛け橋として第2の基礎作りに役立ちたいという考えを示している。
役員の就任挨拶で高齢者雇用の問題に触れた事例は寡聞にして知らない。白水氏が初めてである。これはトヨタ自動車が日本の先進企業としてひたむきに努力していることの具体的な裏付けの1つであろう。
さて、その白水氏に平成9年9月11日にお会いした。先の豊富に関連してご質問したところ、企業における高齢者のあるべき姿の象徴として、この春、NHKの日曜インタビューで将棋の米長邦夫9段が先輩棋士のあり方を語ったことを引用された。米長9段は若い棋士たちと一緒になって将棋を打つ時に、「若い人を引っ張っていく」という気概でないと高齢の棋士とし十分な働きはできないという。即ち「若い人に混じって」とか、「若い人の中で」といった気分ではだめだということである。勝負の世界で自らを磨き、かつ次代を築く棋士を育てるには、このような積極的な姿勢が不可欠であろう。企業においても、単に先人としてではなく、まさに若いものの指導者という気持ちが高齢者自身になければ、明るい高齢者雇用は実現しないということである。
そんな考えから白水氏は、トヨタ自動車はかねてから満55歳になると職場でお祝い会をするのが慣例であったが、それを廃止したというのである。なぜならば、そのお祝い会をした翌日から隠居という気分に陥るから、むしろ明るい高齢者雇用の弊害となると判断したのである。お祝い会を廃止した結果、55歳といった壁は自然に薄まり、55歳以上になってもなお第一線ではつらつと働くということになる。
トヨタ自動車においても当然現場の自動化は推進されている。しかしこの自動化は、度が過ぎると機械が人間を隷属させていくことになる。そこで白水氏は完全自動化に疑問を持ち、いつも人間が機械の主人になり、機械の面倒を見るという立場に立って主体的な労働が展開されるべきとの思いから、完全自動化を拒否したという。
高齢者雇用になると一層この点が大事となってくる。機械に使われる存在となれば、精神的な瑞々しさが失われている高齢者にとっては、まさに人間は機械の道具と化してしまうことになる。人間の瑞々しさは主体的な工夫があって、即ち創意工夫、頭を使うという状況があって初めて可能だからである。明るい高齢者雇用には、完全自動化はむしろ弊害が多いという指摘も適切なものとして耳を傾けた。
次回は、海外生産の拡大、国内需要の伸び悩み、そして若年層の製造業離れのなか、トヨタ自動車が、訪れつつある高齢社会を見据えたライン作りのために、環境・道具・設備の改善・管理等の面から中高年作業者に望ましい作業環境を研究するプロジェクトを機能させているという状況の一端をご紹介しよう。