「明るい高齢者雇用」

第42回 国家試験に挑戦―衰える心身機能:東京美装が訓練校

「週刊 労働新聞」第2189号・1998年2月9日掲載)

 

 高齢になると、労働意欲に対してフィジカルアクティビティ(身体的能力)・スキル(技能)が衰えていくのは必然のことである。トヨタの事例に続き、企業側の職場の環境、道具、設備の改善により中高年労働者が重要な戦力となっている企業をご紹介しよう。

 東京美装興業(株)は、ビルの設備・清掃・警備・運営支援サービス・商品販売の5つを提供するビルメンテナンスの総合管理業者として、創立40周年を迎えた現在、従業員7000名余を抱える企業に発展している。そしてこの5つの業務を支えるために、人材育成、研究開発、事業開発の3つの支柱を確立する一方、ビルの管理のみならず、運営即ちビルマネジメントに新しい扉を開こうとしている。今回は、臼杵繁取締役人事部長と前川甲陽技術開発センター長のお二人への取材を基に、同社の「明るい高齢者雇用」をご紹介しよう。なお、参考として同社技術開発案正田浩三氏が(財)労働科学研究所の協力を得て行った科学的調査をまとめた資料を使用させて頂いた。

 東京美装興業には現在60歳以上の従業員が約600人在籍している。60歳定年制度を採用しているが、本人の意思と健康診断の結果で65歳までの継続雇用が可能なのである。定年に達した者のうち、約85%が継続雇用を希望し、嘱託社員となる。ちなみに、継続雇用者の一部に高年齢者多数雇用奨励金が助成されているが、平成10年度より制度が改定され、削減される方向にある。

 ビルメンテナンス業の災害の発生率は建設業、製造業よりも高い。これは、中高年者が多いという事実によることが第1の理由として挙げられ、中途採用者が多いことによる経験不足が続く。そこで東京美装興業では、業務災害を防ぎ貴重な人材の安全を確保して、人手不足を解消し、高齢者にも働きやすい職場を作り上げている。

 高齢者の清掃中の災害では転倒、特に床洗浄中の転倒事故が約半数を占める。例えば転倒し骨折すれば休養期待が3カ月にもなってしまう。貴重な人材が職場に復帰できなければ人手不足に拍車がかかる。そこで、滑り転倒を解消するため、作業手法を洗浄によるメンテナンスからドライメンテナンスへ移行しようと労働作業環境の整備に努めている。

 作業者に分かりやすく扱いやすい機械化を図ることも作業環境整備の1つである。加齢によって作業能率が落ちるのは避け難いことである。例えば早朝限られた時間内に定められた作業を終えることがなかなか難しくなる。そこで同社は、昭和53年より東京と認定の事業内訓練校を設置し、技能向上訓練を通じて従業員の技能向上を促進させている。高齢者も積極的にビルクリーニング技能士という国家試験に挑戦し、有資格者はすでに300人を超えている

 清掃業務の完全機械化は難しい。もちろん能力の個人差は著しい。そこで、作業者、特に高齢者にとって使いにくい機械・器具を見直し、小型で軽い、安全で使いやすい製品の採用と安全教育を行っている。

 次回は、精神面から中高年労働者を支え、企業体として一丸となる同社の状況をみてみよう。

 

ご利用案内

内容につきましては、私の雑感等も含まれますので、真実性や正確性を保証するものではない旨ご了解下さい。

→ リンクポリシー・著作権

カレンダー

2022年9月
« 8月   10月 »
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

最近の投稿

カテゴリー

月別アーカイブ

プロフィール

高井・岡芹法律事務所会長
弁護士 高井伸夫
https://www.law-pro.jp/

Nobuo Takai

バナーを作成