「明るい高齢者雇用」
第43回 職場の「和」大事に―衰える心身機能:神経症など予防を
(「週刊 労働新聞」第2190号・1998年2月16日掲載)
前回は、作業方法・機械を見直し、中高年作業者が生き生きと働ける労働環境の整備を図り、人手不足解消を実現している東京美装興業(株)の状況をご紹介した。次に、同社の明るい高齢者雇用実現に向けての要件である健康管理・衛生管理についてみてみよう。
東京美装興業では、50歳以上の従業員が約50%を占めている。定期健康診断の報告によれば、高齢者の中の3割程度が「要再検査」等の所見があり、従業員の出退勤と健康相談に留意している。
精神疾患では家庭環境と対人関係の悩みがノイローゼ、あるいは出勤拒否につながることもあることから、(財)労働科学研究所が開発した蓄積疲労兆候インデックス(CFSI)でチェックするなど、精神的ストレスについても、情緒面の安定の調査を行っている。因みに労災には電車のプラットホームでの事故が多いという。中高年労働者は疲労度も高く、俊敏性も年齢とともに衰えていくことから、通勤・帰宅時の混雑に充分対応できにくくなることもその一因といえよう。この点からも企業は気配りが必要である。
作業者にとり疲労した心身を休める控え室の環境も大切な要素の1つである。狭く暗い部屋では、とても疲れを癒すことなど出来ない。やはり換気の良い清潔な部屋、特に高齢者業者には部屋の気温設定にも留意し、冷暖房や窓がきちんと設置されていることが望ましい。また、流し台などの設備に対する要望も高い。仕事の仕方、職場の組織や作業環境を考慮しなければならないことは第で既に述べたが、その時にご紹介したトヨタ自動車の例にみられるように作業中の緊張を解くことで生産性・能率が上がることからも、控え室の環境整備の必要性は認められよう。
組織については、従業員同士が限られた空間で長時間一緒に作業をするため、福利厚生施設の充実、グループ(職場)ごとの春秋のレクリエーションに補助金を出すなど、「人と人の和」をことのほか大事にしている。現場の主任クラスには人間的な幅、「職場の父親」の役割が要求される一方、女性が60%が占める中、最近では女性の主任が輩出している。
モチベーションを高めることが「明るい高齢者雇用」を実現するには何より大事なことである。東京美装興業はスキー部に力を注いでおり、オリンピック等に選手を送ることも目指しているが、それは職場の同僚が世界の檜舞台で活躍することによって末端の社員のモチベーション、やる気を刺激することにあると言ってよい。清掃という業務自体、陽の当たらない仕事である。八木祐四郎代表取締役会長は、このことを実践してJOC専務理事になり、今回の長野オリンピック団長を務めるに至り、役員及び選手10名が、この長野オリンピックに参加している。
同社のスキー部員はシーズン外は、午後3時まで通常業務に当たり、それ以後を練習に打ち込むことになる。スキー部員も一般社員と同様の業務を担当し、引退後は同社に勤務するということが一体感を強めると共に、社是である「ファミリー精神」と「低く座して高く考える」というモットーを実践しているのである。