「明るい高齢者雇用」
第45回 「自分軸」の確立を―衰える心身機能:企業頼みではダメ
(「週刊 労働新聞」第2192号・1998年3月2日掲載)
71歳で新しい職場に飛び込んだ足代清氏は中高年の就職・転職に関するアドバイスとして5つのポイントを挙げている。
第1番目として「30代で自分の専門領域を見極め、その後に自分の商権を確立すること」。商権とはギブ&テイクのできる有望な人脈、把握された市場、商売に関する専門知識の総体である。彼自身、中国大陸を長春からウルムチまでビジネスとして飛び回った経験があり、地域特性に応じたきめの細かいコンサルティングができる由縁である。もし、あたなが人事部長という立場で、「自分の商権」という言葉を自信を持って発する中途採用の商談者に出会ったならば、それだけで「採用!」と判断するのではないだろうか。「自分の商権」は、ビジネスマンとしての最上級の付加価値を示す言葉の一つといえよう。
第2番目は「組織の中で歯車にならない努力をすること」である。今や、企業と個人がドライな関係になりつつある。拘束もしないが、ケアもしない関係と言ってもいいだろう。所属する企業にしか通用しない能力は最早能力とは言い得ない時代になっている。彼の場合は中国という国を商売上のみならず、歴史、風土の上からも知り抜いたエキスパートとしての強みがあり、その能力は銀行でも商社でもメーカーでも必要とされていたに違いない。「エキスパートになれ、資格を取れ、忙しがるな、自分が活かされなければ転職もよし」という彼のアドバイスから、企業に主軸を置いた価値観ではなく、自分のキャリア形成のために何をすべきかという「自分軸」が若い時から確立されていたことがうかがえる。「自分軸」の確立はプロとしての業務遂行を促し、業績への貢献につながるのみならず、労働市場における個人の価値を高めることになる。
第3番目には「商談は人間が行うものである」。OA化が進み、いわゆる事務作業レベルの仕事はコンピュータが極めて効率的に処理してくれる時代になった。その分営業マンであればピュアセールスタイム(営業に専念できる時間)が確保でき、商談に専念できることになるはずであるが、肝心の商談ができない若い営業マンも多いと彼は指摘している。そして、「商談はコンピュータがやってくれるわけではない。外に出て、対話を通じて商売ができることが営業マンとしての最低条件だ」という。
第4番目に「“使ってもらう”という謙虚な姿勢を持て」を挙げる。高齢者の転職・再雇用の厳しさは経験した者でないと分からない。長年勤務した会社と新しく勧める会社では、そもそも労働市場における価値が異なる。圧倒的な買手市場での売手側の立場の弱さを認識し、応募者としての謙虚さを身につけていないと第1次面接の突破も困難であろう。
そして彼は、最後のアドバイスとして「家族の理解が大切」であることを強調している。仕事と家庭の両立ができて初めて一人前のビジネスマンになる。彼は単身赴任の多い日本人の中で、ホームベースとしての家庭の重要性を充分理解しており、欧米企業のビジネスマンの様に家族も含めて現地化することで厚い信頼のネットワークを獲得できたのである。