境健一郎の「高井先生との出版」の最近のブログ記事

 

第12回  『一流の人は小さな「ご縁」を大切にしている』

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 本書は高井伸夫先生が傘寿を迎えられたときに、自分を支えてくれた「縁にまつわる智恵」についてまとめられ、かんき出版から出された書籍です。

 

 「縁」を深く掘り下げ、出会った縁を広げ、深め、そして長く続けていくための心づかいや、そのためのシステム作り、さらには悪い縁を見極めていく方法などについて書かれています。

 

 先生は、自らの体験から、

 「人間には宿命と運命がある。宿命は変えることはできないが、運命を変えることは可能。その運命を変えるものは、縁を活かす力」

 と強調されています。

 

 高井先生にお会いすると、思い出す人がいます。

 

 約40年くらい前にお会いした、東北大学学長退任後、4代目の癌研付属病院院長となり名医といわれた黒川利雄先生です。黒川先生は患者さんに接する前には、必ず白衣のポケットに入れたホッカイロで手を温めてから、微笑みながら頷きながら、脈を計られるのです。

 

 その理由を聞いたところ、次のように答えられました。

 「病院の廊下で順番を待っている患者さんの心理は、ガンに対する恐怖心で不安なはず。そういうときに、冷たい手で患者さんに触れると、それだけで〝ひやっと”される。それをいくらかでも和らげてあげたい。それだけでも心が少し落ち着くはず。そして安心と勇気が与えられればと、願っています」と。

 相手を思いやる心が、多くの患者さんに「黒川先生とつながっている」と安心させ、信頼されていたのでしょう。

 

 相手から相談を受けることを仕事とされている高井先生も同じように、いつも泰然自若たいぜんじじゃくとして、笑顔を大切にされています。

 先生は仏教用語の『和顔施わがんせ』(笑顔を人に施すことで、自他ともに功徳くどくを得ることができる)の教えを自分に言い聞かせているそうです。

 

 そして、お会いした人には、「何かお役に立つことはないか」「誰か紹介できないか」といつも思いをめぐらしながら、会話や会食をされている姿が浮かびます。

 

 

 本書の、ほんの一部を紹介します。

 著者の「小さな縁をも大切にする」考え方や体験を参考にしていただければと思います。

 

 

  • 縁づくりは初対面で決まる

 

 「縁づくりがしやすいのは、お互いが『縁をつくりたい』と意識しているときです。なかでも初対面のときは、絶好のタイミングと言えます。なぜならお互いに、相手のことを知りたいと思う気持ちが非常に強いからです。それだけ『縁の種』を蒔く土壌が整っているのです。

 

 そのために一番大事なのは、会う前に『どんな人かな』とワクワクする気持ちを自ら高めて、笑顔で、つまりマインドセットをして接することです。

 そうすれば自分が発する〝あなたを好きになりたいオーラ”が出て、相手が発する〝あなたのことを好きではありませんオーラ“をうまく消すことも可能です。

 

 このように誰かと縁を結ぶ絶好のタイミングは、初対面のときであること。そして縁が確定するのは、その出会いが二度目へとつながったときであることを覚えておいてください」

 

 

  • 「縁に気づく感性」を高める

 

 「徳川将軍家の剣術指南役に留まらず、幕閣として大きな影響力を持っていた柳生家に次のような家訓があると言われています。

 

 『小才は縁に出合って縁に気づかず、

  中才は縁に出合って縁を活かさず、

  大才はそでり合う縁をも活かす』

 

 あなたは、どれに当てはまると思いますか?

 そこで、縁に気づく感性を高めるポイントをあげます。

 

ポイント① 感謝グセを身につける

人間は一人では生きられません。さまざまな人やモノに助けられて、この世に生かされています。そのことに感謝する気持ちがあれば、自ずと『縁に気づく感性』が磨かれます。縁という偶然を必然に変えるには、感謝の気持ちが欠かせません。

 

ポイント②  好奇心をもって行動する

『知りたい』『やってみたい』ことが増えれば増えるほど、情報アンテナの感度が鋭敏になります。情報・知識というものは、好奇心のある人のところに集まってくるもの。それによって、縁を自然と引き寄せることができ、自分自身の人間としての幅が大きくなっていきます。

 

ポイント③ 自分自身の強みや魅力をよく知る

せっかく縁ができても、相手に『また会いたいな』と思ってもらえる何かがないと、付き合いを積み重ねていくことができません。どんな小さなことでもいい。今までに周囲から褒められたり、感謝されたりしたことを思い出してみてください。その褒め言葉はそのまま自分の強みであり、魅力なのです。自信をもってアピールしましょう。

 

ポイント④ 相手を知る

『相手が何に関心を持っているのか』『何を認めてもらうと嬉しいのか』を知ったうえで、自分は相手に何を提供できるのか、どうすれば喜んでもらえるのかを考える必要があります。老子の言葉に『人を知るものは智なり、自ら知るものは明なり』があり、縁につながる言葉です。

他人のことを理解できる人は智恵の優れた人だけれど、それ以上に素晴らしいのは、自分自身のことをよく知っている人である、という意味。ポイント③と④をセットでとらえてください。

 

ポイント⑤ 自然をよく観察する

人間は自然の一部です。縁もまた作為的ではなく、自然に、偶発的に生じるもの。ですから自然との関わり合いのなかで、その変化をしっかり観察していると、ひょいと顔を出す縁に気づけるようになります。たとえば強風で大きな木がポキッと折れるのに、竹はしなやかに持ちこたえる。その観察のなかで、「本当の強さ」を感じたら、「無言の教え」との出会いになります。これは日本人の得意なことです。誰かと会ったり、手紙を出したりするとき、時候の挨拶から入ることが多い。自然を観察して、コミュニケーションに活かす術が身についているのです」

 

 

  • 「会えて良かった」と思ってもらう3つの力

 

 「1つ目は、相手にとって参考になる意見や考え方を述べる力。

 相手が興味を持ってくれそうな話をする。そのためには、できれば相手のことを事前にできるだけ調べておきたいもの。 

 

 2つ目は、相手がしてほしいことを察する力。

                                        

 相手が困っていることなどを上手にすくいあげて、何らかの力になること。自分の力でできることがあれば提案してみる。もし自分が直接力になれない場合でも、『その件なら、力になれそうな人を知っています』という形で、誰かを紹介する方法があります。

 

 3つ目は、相手と交わした会話について、お互いが今後どう行動していくか、その見通しを明確に伝える力。

 ここをうやむや・・・・にしたまま終わると、相手に『会えて良かった』と思ってもらえません。そのときの会話を受けて、自分はいつごろ、どのように行動するのか、具体的に示す必要があります。

 

 とくに気をつけなくてはいけないのは、『今度』というあいまいな言葉。『今度』は当てにできないと思われるだけ。いつ行動するかを明確にしておくだけで、あなたへの信頼度は違ってきます」

 

 

  • 「淡交」が「縁」をつなぐ

 

 「縁に恵まれている人と、縁に薄い人との違いは、人に関する関心の度合いだと言えます。

 ただし、関心が強ければ強いほどいい、というわけではありません。しかも、自分の利益のために利用しようという下心があれば、なおさら人は離れていきます。

 

 何事もそうですが、人に対する関心も『ほどほど』が良いのです。

 その程度を抑えるために重要なのが、『淡』の精神を持つことです。

 

 荘子そうじはこう言っています。

 『君子くんしまじわりあわくして水のごとく、小人しょうにんの交わりは甘きことれいの若し』

―優れた人の付き合いは水のように淡白なので、交際が長続きする。小人物の付き合いは甘酒のようにベタベタしていて、利害関係がなくなると、やがて途絶えてしまう。

 

 良い縁をつないでいくための基本は『淡交』。

 いちばん大事なのは、相手に対して『爽やかで、ひとかどの人物である』という印象を持ってもらうことなのです」

 

 

  • 「縁」の修復には、「陰褒め」が効く

 

 「縁というものは、ちょっとしたことで簡単に切れてしまうもの。交流を続けたいなら、修復に努めなければなりません。いちばんいいのは、『陰褒め』という手法です。

 

 文字通り、本人に直接ではなく、本人と親しい人に間接的に褒め言葉を言うのです。自分への褒め言葉が第三者から伝わると、その信憑性がより高まります。単なるお世辞や社交辞令ではなく、本心から自分を褒めてくれたと感じるのです。

 

 しかも褒め言葉には、『相手にも、褒め言葉のお返しをしようという気持ちを起こさせる』という性質があります。こうして〝褒め言葉の連鎖“が起こると、二人の関係は間違いなく修復されます」

 

 

  • 相手の立場で態度を変えない

 

 「相手が自分より年下だとか、地位が低い、能力が劣る、弱い立場にある、とわかると、たちまち見下すように横柄にふるまう人が少なくありません。

 相手がどういう人物であれ、人と接するときは、礼節を尽くすという軸を持つことを心してください。

 

 そのために私が日頃心がけているのは、できるだけ『命令形で話さない』ということです。

 『私はこう思うけど、どうですか?』『こう考えてはどうでしょうか』というふうに、問いかけの形で発言するのが一番です。

 

 相手に自分で決めたように思ってもらう言い方をすれば、成果が上がってくるのです」

 

 

  • 「縁」を大切にする人は、お墓参りを欠かさない

 

 「あなたは親族や友人、知人のお墓参りをしていますか?

 この世で交流した人との縁は、亡くなっても、輪廻りんね転生てんしょう、生まれ変わって、また来世で出会いたい。縁というものは時空を超えて続くもので、どちらかの死をもって切れるわけではないと思っています。

 

 お墓参りをする人たちは、『いまは亡き先祖や肉親たち、または特にお世話になった先輩たちに、恥をかかせたくない』という気持ちが強いので、正しく生きようと努めている人が多いように思えます。

 だから、私はお墓参りを大切にする人を信じます」

 

 

  • 「縁」は回すと、どんどん大きくなる

 

 「『縁の総量』というものを意識したことがあるでしょうか。

 

 福沢諭吉は『学問のすゝめ』のなかで、こんなことを言っています。

 『人と交わらんとするにはただに旧友を忘れざるのみならず、兼ねてまた親友を求めざるべからず』

―古くからの親友を大事にしながらも、新しい友を求めなさい―というのです。   

 

 縁というのはお金と同じで天下の周りもの。貯め込んでいるより、どんどん使った方が世の中に回っていきます。ですから、せっかくの縁を自分一人でため込んではダメ。ほかの人にも〝縁のお裾分すそわけ”をしながら、縁の総量をどんどん増やして、ぐるぐると回していくと、ダイナミックな縁のネットワークをつくることができるのです」

 

 

  • 頂いた名刺を活かす管理法

 

 「名刺は縁の証です。それなのに名刺をおろそかに扱っている人が多いような気がします。

 

 私は名刺の管理を月2回くらいのペースでします。その間にいただいた名刺をボックスから取り出し、名刺交換時に記入しておいた『お会いした年月日』『個人名』『会社名』『所在地』の4つをデータ化します。名刺の裏に書かれている情報(紹介者、同伴者、お会いした場所)があればそれも一緒に保存。

 

 その後、名刺を『引き続き交流を続けたい人』と『もう接触する機会がほとんどない人』と、2つに分けます。

 その2種類に分ける観点は、『自分自身の人格形成や仕事にプラスになるかどうか』ということです。人格的に優れているとか、豊富な知識や経験・情報、幅広い人脈を持っているなど、自分を刺激してくれるものをお持ちの方ならいいのです。

 

 そうして親しくなりたいと思った人には、今後も交流を続けていけるように、積極的に働きかけます。たとえば『事務所報』を送ったり、メールマガジンを発信したり、講演会にお招きしたり……。一度の出会いを継続する縁につなげる方途ほうとさぐることに余念がありません。

 

 ほとんど覚えていることですが、『この人は誰のご縁で知り合ったのかなぁ』と気になったときは、まず『個人名』から検索します。名刺交換した年月から、スケジュール表をたどって、紹介者や同伴者、出会った場所などがわかることが多いのです。そのとき改めて当時の状況や、紹介してくれた人の顔を思い出して感謝します。

 

 また地方へ出張する場合、その地域で縁のある人の名簿を見ながら、『せっかくだから、ついでに久しぶりにお会いしに行こう』と欲張りな計画を調整して〝ついで訪問“することもあります。

 

 いずれにせよ、名刺はきちんと管理し、記憶しておいてこそ、縁をつないで人脈を形成していくうえで意味のあるツールになるのです」

 

 

第11回 『労務も知らずに上司といえるか』
雇用崩壊時代に生き抜く

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生がかんき出版から、表題の『労務も知らずに上司といえるか』を出版されたのは、2009年3月のことです。

 

 その前年、2008年前半までのビジネス社会の課題は、高齢化、少子化、グローバル化などの転換期に、どう対応するかでした。しかし、その効果的な解決策が定まる前に、アメリカのサブプライムローン問題に端を発したリーマンショックと、それに連鎖した世界的な金融不況が始まったのです。

 

 日本も2008年後半から瞬く間に、百年に一度とも言われる世界同時大不況に巻き込まれました。第2次世界恐慌とも言われたものです。

 

 

 ちなみに、恐慌(パニック)とは、経済用語ではなく、本来は心理学用語です。猛烈な不況の中で、社会全体がいいようのない不安や閉塞状態に陥り、先の見えない恐怖と戦う心理状態に追い込まれてしまったことをいいます。

 

 多くの企業が、このような先行き不透明な経営環境の変化や売上不振に耐えきれず、リストラやワークシェアリングなどによって、人件費削減や雇用調整を余儀なくされていました。

 

 このころに本書が出版されたのです。

 

 2009年に出版された書籍であり、現在は法改正により変更されている法律や指針もありますが、コロナ禍で、倒産、閉鎖、縮小などの危機を迎えた現在でも、参考にしたいことが多い内容です。

 

 そのコロナ禍のなかで、リモートワークやテレワークなどを体験したことにより、新しい雇用・勤務形態やビジネス、働き方、生き方が生まれつつあります。

 どのような時代になっても、個人も、企業も、生き抜く原則が、「高井哲学」として本書に書かれております。

 

 

 本書の「はじめに」の一部に、先生は次のように書かれています。

 その後に、本書より「高井語録」をいくつか集めました。

 

 

 ……このような雇用崩壊、雇用変革ともいえる時代を迎え、この荒波を乗り越え、生き残っていくための新たな課題・・・・・として、本書で特にわたしが強調したいのは、次の点です。

 

 ① 性別、年齢、学歴、雇用形態、国籍による差別をなくし、多様化を活かした組織をつくる。そのために、上司は過去の成功体験に頼らず、自らも成長を続け、部下にも正面から向き合って、よさ・強さをもった人材に成長させる。部下も「自ら正しく成長しよう」という意欲を大いにもつ。

 ② 誠実で成果を出す社員や、非正規社員といえども、専門分野・得意分野を磨いた人が尊ばれる組織や風土をつくるために、“含み損社員”に対し、的確な対応をする。

 ③ コンプライアンスの本来の意味である「社会の要求に応える」ために、「倫理的に、法律的に問題はないか」という社会を洞察する力と、社員をはじめとしたステークホルダーへの愛や慈しみいつくしみの人柄が求められる。

 ④ 今後ますます増えることが予想される部下のメンタルヘルスの問題に、適切な予防と対応をしておく。

 ⑤ リストラとスカウトなどにより、社員の流動化が加速する。それにともない、知的財産、個人情報を守ると同時に、社員や企業の不祥事やトラブルが発生した場合のリスクマネジメントを徹底する。

 

 これらはすべて人事・労務に通じる基本的な課題です。つまり、

 

 「労務を知らずして、上司とはいえない」

 

 という時代になったのです。

 

 私はこれまで、いくつかの企業の再建をお手伝いしてきて、あらためて感じることがあります。

 経営が危なくなったのが、外的要因であっても内的要因であっても、逆境やピンチを乗り切るカギは、「企業は人なり」です。

 

 その根幹となるのが労務です。

 労務とは、「上司と部下とのいい関係」を育むはぐくみ約束事です。

                                       (「はじめに」より)

 

 

  • 雇用崩壊時代のリストラとワークシェアリング

 

◎大恐慌下ではいかなるポストの正社員といえども、
 含み損社員であればリストラの対象とされ、
 解雇される運命にある。

 2008年12月9日付の「朝日新聞」は、アメリカの自動車メーカー「ビック3」のリストラを論じた記事で、「企業が公的資金導入による救済を求めるにあたっては、企業自身も利益の確保のために人件費を削減する義務がある」と論じています。

 このように、恐慌下においては、企業の社会的責任の一端として、リストラする「権利」ではなく、「義務」があるという概念が登場したのです。

 

◎標準化が難しく創意工夫が求められる
 「ハートワーク」の時代には、ワークシェアリングなど
 仕事を分かち合うこと自体が難しい。

 現場の実態をよく知る経営者は、次のように言います。

 「仕事を分け合うことで生産性は落ちるし、また、景気が回復し増産体制に入ろうとしても、一度、〝分かち合い“で力の出し惜しみが恒常化して心身を完全になまらせてしまうと、労働能力は容易には元に戻らず、その結果、企業は立ち行かなくなる」と。

 実際に以前、ベンツはリストラを実施して立ち直り、フォルクスワーゲンはワークシェアリングを選択して失敗したと言われています。

 

 

  • 強い組織をつくる人材マネジメント

 

◎従業員を一律に成長させるシステムは、もはや機能しない。
 今後は能力ある人材を厳選し、選ばれた者に、
 よりいっそう育成・投資を集中する必要がある。

 この人材育成による「選択と集中」を推進するにあたって、もっとも大切なことは、すべての部署で、まず「後継者を育てる」という認識・意識です。企業人、経営者、管理職者にとって最大の課題は、「教育的役割」「後継者育成」である—各リーダーにそう意識させることが、トップおよび上司の責務です。

 

◎能力の優れた社員が増えるにつれ、
 社員の関係はギスギスしていくが、そうなると
 管理職には、より高度なマネジメント能力が求められる。

 これからの管理職は、マネジメント能力、さらにはリーダーシップがあるかどうかによって、部下をもつ「ライン管理職」と、部下をもっていないが、職場の方向性を策定する戦略部隊として機能する「スタッフ管理職」に二極化していく。

 

◎従業員の副業を認める基盤を早急に整える
 必要があるが、副業を認めるにあたっては
 一定の条件を設定しなければならない。

 副業はこれまで原則として禁止されてきましたが、生活のためにダブルインカムを容認する方向に向かうのは必然といえます。ただし、認めるにあたっては就業規則の見直しから着手し、一定の条件を設定しなければなりません。たとえば、「同業他社での勤務は禁じる」「本業に支障をきたさない範囲に限る」などです。

 

 

  • 問題社員・含み損社員などへの対応

 

◎態度には、本人の本気度、やる気、
 モチベーションがはっきりと出るため、
 「態度」の評価をもっと重視すべきである。

 態度は、たんなる勤務態度にとどまりません。人事考課上は、本人の意識や自覚の高さを含む総合的な「執務態度」を意味します。具体的には、「組織の目的と戦略を理解しているか」、「上司が要望していることの意味を理解しているか」、そして「それを自分の日常に落とし込んで行動しているか」などに加え、報告、連絡、相談といった協働的態度のきめ細かさも要求されます。

 

◎人事考課などの資料と客観的合理性があれば、
 賃金の引き下げ措置は、
 法的に可能なことである。

 賃金をダウンせざるをえない社員に対して、人事労務コンプライアンスに則った降給を実施するには、まずは、就業規則に降給規定を設けることです。日本の就業規定には、「年一回昇給する」という規定があるばかりで、降給規定を置いている企業はあまりありません。そして、実際に降給規定を適用し、賃金ダウンを実施するには、人事考課の結果や評価、加えて、客観的合理性、すなわち社会的な妥当性が必要です。

 

◎労基法に「合理的な理由があれば解雇できる」
 という趣旨が盛り込まれたのは、
 企業が終身雇用を維持できなくなったからだ。

 たとえ景気が回復しても、革新を続けない企業に寿命があるように、成長しようという意欲のない個人にも〝賞味期限”があります。とくに成果が挙げられない社員や月給制もしくは年俸制の社員でも、〝賞味期限”が切れた人などを総称して〝含み損社員“といいます。このような人をやむを得ず解雇せざるを得ないところまで企業経営はきているのです。

 

 

  • 部下をもつ人の人事労務コンプライアンス

                                   

◎従業員の能力を常に把握し、時機に応じて
 給与に反映させる賃金制度が必要不可欠。
 定年延長問題は成果主義を促進する側面を持っている。
 (この項は2章より引用しています)

 能力評価を給与に反映させるのであれば、従業員が若いうちから、そうした制度を実施しておく必要があります。みんながみんな、能力があるわけではありません。もともと能力の低い人もいれば、能力はあっても人材としての〝賞味期限”が切れてしまった人もいます。成果主義が強まれば強まるほど、能力以外のことによる差別を禁止するという平等主義が強まり、あらゆる差別は撤廃に向かうはずです。年齢の問題もそうなるでしょう。

 

◎労働の質がソフト産業化すると、
 単純労働者と知的労働者の乖離がますます進み、
 労働時間による賃金決定が不合理なものになっていく。

 今日、労務の提供とは仕事の完成を意味することになりつつあり、労働時間をもって、その対価を計算することは不適切であるという意識が広まりつつあります。これにともない、新たに成果主義賃金体系にもとづく報酬のあり方を、法的に整備することが必要になってきました。その一方で、評価を厳格にし、昇給・降給と昇格・降格の規定とともに厳正に運用する手立てを確立することも重要です。

 

 

  • 部下のメンタルヘルスを意識する

 

◎健康管理は自己管理・自己責任が原点。
 自己保健義務の観点から、企業側も、
 従業員にその意識をうながすような施策を実行すべき。

 下記のような自己保険義務を規定した就業規則を明示している企業は、極めて少ないのが現状です。労災問題が起こると、真っ先に企業の安全配慮義務が問われますが、自分の心身は自分で守るのが原則です。

 「従業員は、自らの責任において健康保持に努めることとする」

 「健康診断の受診義務、必要な場合の再検査の受診義務」

 「従業員は、体調不良時には、職務に優先して、原則として会社が指定する診察機関などで受診する権利および義務を有する」

 

◎労災問題のなかで、もっとも重要かつ深刻なのは、
 メンタルヘルスの問題。上司の選定、職場環境の改善など、
 企業の積極的対応が不可欠。

 人事面では、上司には包容力や人間理解力が求められます。また、上司や管理職を中心に産業医や専門医らとのネットワークを確立するなど、精神障害に対応する体制づくりを考え、精神的健康管理に関する就業規則の整備にも力を入れる必要があります。

 また職場面では職場の温度、空気の清浄度などにも注意し、人間的な温かみがあり、ストレスを蓄積しにくい環境に改善しなければなりません。

 以上のような条件を備えていないと、勤労意欲が阻害され、生産性が減退することになります。これは、たんに従業員の問題にとどまらず、企業の病理現象ともなってくるため、職場環境の改善は、労務管理の重要な課題の一つといえます。

 

◎過労死対策としては、個人の耐性を見て、
 耐えられる人には重要なポストに、
 耐えられない人にはそれに応じたポストについてもらう。

 過労死の問題がクローズアップされたのは、長時間労働の問題だけでなく、ソフト化社会で競争が激化したことにより、頭と心を使うようになったこともその一因であると考えられます。要するに、精神的疲労によるストレスが過労死の主な原因になっているといっても過言ではありません。

 

◎パワハラに過剰反応すると、
 本来の指揮命令が不十分になる恐れがある。
 パワハラとの境界線を理解しておく。

 境界線の判断の基本的なポイントは、上司の指導、注意、叱責などの行為が、「職務と関係のあるものか」「業務上必要なものか」という点にあります。ただし、業務上必要であっても、その行為が、「一般的に必要とされる範囲を逸脱していない」ことに留意し、また人格を否定するような発言は厳に慎まなければなりません。

 

 

  • 知的財産の防衛とリスクマネジメント

 

◎管理責任者は、自社の企業機密・知的財産権を
 管理するだけでなく、他社から借りたり、購入したりしたものの
 管理にも気を配ること。

 その管理を明確にするための原理・原則を明文化しておきます。

 「企業機密・知的財産権の管理責任者を役職として設置する」

 「企業機密などの規定」

 「アクセスできる者の制限」

 「不要になった文書などの破棄」

 「企業機密・知的財産権の創出・評価の規定」

 役員や従業員が業務の過程で企業機密・知的財産権に該当する情報を新たに創出した場合には、その内容を管理責任者に遅滞なく申告し、または事前に報告し、了承を得なければならないという規定をつくっておくことです。

 

◎情報・知識・知恵を集約したものを共有できる
 システムを構築し、組織のフラット化を実現してこそ、
 企業の組織的活動は活力あるものになる。

 知的財産が高い評価を得る時代になると、次のことが重視されます。

 ①事実・データや数多くの情報から抽出された意味ある情報としての「知識」

 ②知識から生み出される付加価値としての「知恵」

 ③問題を迅速に解決する「知的価値」

 昨今、上司や同僚に、こうした情報や知識を開示しないケースが増えています。
 一方、優秀な頭脳を有する人の転職や引き抜きが繰り返されることによって、人材の流動化が生じています。だからこそ、知識や情報などの共有化とナレッジマネジメント、守秘義務の必要性を考える必要があるのです。

 

◎労働関係においては、企業機密の概念は
 まだ確定していない。各企業で営業秘密の範囲を
 意識的に明確にしておく必要がある。

 企業側は、営業秘密の保全を機能させるためには、契約で縛ることが不可欠です。それにより拘束力を生じさせ、損害賠償請求を可能にするというかたちで秘密保全を構築することが求められます。しかも、それに違背した者は、一律に厳しく制裁することを考えておく必要があるのです。

 

次回は12月25日(金)に掲載します。

 

 

第10回 『高井式 一生使える勉強法』(2)
成長モードにスイッチする

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 20年ほど前に、諏訪泰雄氏(前中央労働委員会会長・法政大学名誉教授)が提唱した「キャリア権」という概念があります。

 この理念は、「人びとが意欲、能力、適性に応じて希望する仕事を準備、選択、展開し、職業生活を通じて幸福を追求する権利」と定義されています。

 

 高井伸夫先生は、この概念に共感し、2008年、諏訪氏に座長をお願いして「キャリア権研究会」を立ち上げられました。

 

 さらに先生は、『「キャリア権」 法制化を目指す会』の代表者として、キャリア権の概念を社会に広く知ってもらいたいという思いから、啓蒙活動に力を注がれています。

 

 たとえば、2019年5月より、『週刊新潮』にほぼ隔月で、「キャリア権 法制化の意義」と題した意見広告を執筆されています。直近では、10月22日号に第9回目が掲載され、次回は12月の予定だそうです。

 

 また、『「キャリア権」法制化を目指す会紀要』も発刊されました。

 2020年2月の第1号には13名、9月の第2号には45名の著名な方が「キャリア権」について寄稿されており、読み応えがあり、着実に啓蒙活動の効果が出ているように思えます。

 

 

 さて本号は、前号に続き、かんき出版で先生が執筆された表題の書籍『高井式 一生使える勉強法』からです。

 

 先生は仕事柄、若いときから社長や役員の方との打ち合わせが多く、そこで分かったことは、成功が持続しているリーダーの人たちには共通しているものがあると言われます。

 

 それは「一生、成長し続けたい」という意欲が普通の人より強く、また、それに対して貪欲なまでに「学ぶ心」を持ち続けているということです。

 

 その学びの中身は、次の2つです。

 

 1つは、ビジネスに役立つ能力をつける。

 1つは、人間力をつける。

 

 最近、世の中全体の風潮として、小さな努力で大きな効果を求め過ぎるように思います。

 しかし、とくに勉強では、すぐに身につくものもあれば、一見、要領が悪いような反復行動、反芻思考によってのみ身につく力もあるのです。

 

 したがって、これらを意識して、キャリア形成を計れば、周りからの信頼も増すでしょう。

 あせらずに努力を続けることで、「骨太な人だ」「行動力もあるし、思慮深い人だ」などと思われる人に成長するために、勉強を続けたいものです。

 

 このように、成長した自分像を描きながら勉強することが、結果的に、一番確実に効果を上げる方法だと先生は言います。

 

 本書を読むと、先生が人や情報、読書などとの出会いを、丁寧にスピードを持って、ここまで考えるか、ここまでやるかというくらい対応されているのが分かります。

 

 以下に、項目だけ列挙いたします。先生の視点が伝わると思います。

 

 

  • 高井式・長続き勉強法

 

 第1原則  「いつでも、どこでも」の勉強グセをつける

 第2原則  同じ学びで大きな差がつくノウハウを知る

 第3原則  どんなときも楽しみながら勉強する

 第4原則  学ぶ師やテーマを先に決めておく

 第5原則  人から賢く学ぶ

 第6原則  自分流を貫く

 

 

  • 勉強グセをつける

 

 ・  勉強の習慣化のためには、考えすぎずに、まず何かを先に始めてしまう

 ・ 脳がクリアに働く朝型に替える習慣は、まず「3日続けて」を3クールで身につく

 ・ 忙しい人でも、1週間に1冊は本を読む

 ・ 読むときは2色以上のペンを用意して、重要箇所や気に入った言葉に印をつける

 ・ 新聞は勉強グセと、世の中の動きや変化を読み取るために最適

 ・ ブログ、メールなどもいいが、同時に手紙や日記を手書きで書く

 ・ スキマ時間の使い方で、自然と勉強グセと能力が身につく

 

 

  • 同じ学びで差をつける

 

 ・ みんなが歩む常識路線ではなく、脱常識路線を歩んでみる

 ・ 大きな力を出すには、自分によい形のプレッシャーをかける

 ・ 終身雇用、年功序列の時代は、大きなミスがなければ評価された減点主義の時代。
   いまは加点主義の時代。実績を積み重ねないと評価されない

 ・ 集中力は、数ある人間の能力を、同時に引き出してくれる能力である

 ・ 自己の価値を最大化するには、得意技を持つこと

 ・ 勉強は頭でするだけではなく、汗をかいたり、肌で感じたりすることも大切。
   勉強を頭だけの作業と狭く考えないようにする

 ・ 先見性を磨くために、現在を注意深く見ていく

 ・ 数字に強くないと、ビジネスパーソンとしての賞味期限を早める

 

 

  • 長続き勉強法で楽しむ

 

 ・ つまらないと思う仕事からでも、「固有の面白さ」を発見してみる

 ・ 自分の抱えた課題を、好き嫌いを無視して、まず「見える化」する

 ・ 多様性の時代だからこそ、「無用の用」を知る

 ・ 相手のことを話題にすれば、相手は何時間でも話をしてくれる

 ・ 一人旅で自然と向き合い、自分を見つめなおす                                                           

 

 

  • 人から賢く学ぶために

 

 ・ 何か課題を抱えたら、「他人の知恵を借りる習慣」を身につける

 ・ 質の良いメンター(精神的支援者)をつくっておく

 ・ 歴史上の大人物も師匠にしておく

 ・ 統一ある刺激は数少なくとも、数多い散漫な刺激に勝つ

 ・ 先人から効率よく学ぶ一つの方法は、名言集を読むこと

 ・ グローバル化時代は、語学の前に「日本の歴史と文化、伝統」について学ぶ

 ・ 新聞、雑誌の科学記事に目を通して、理系の感性を磨く

 

 

  • 好奇心を失わないために

 

 ・ 好奇心にとって大切なことは、「子どもっぽさ」を失わないこと

 ・ 人の話をよく聞く勉強ほど、効率的な勉強はない

 ・ たとえお節介と言われようと、「世話好き」も有力な勉強法のひとつ

 ・ アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない

 ・ 自己暗示の法則1 意思と想像が争ったとき、必ず勝つのは想像である

        法則2 意思と想像が一致したとき、その力は和でなく積になる

        法則3 想像力はコントロールできる

 ・ 勉強会やセミナーに参加したとき、何を得たかの検証を怠ってはいけない

 

 

  • 自分流を貫くために

 

 ・ 自分流のメモ術で絶対に外せないポイント

    ①乱筆でメモをしても、新たに書き直すのは手間がムダ

    ②メモのストックは検索可能な状態にしておくこと

         ③情報の出所、メモした日付、自分の感想などを書き込んでおく

 ・ 自分流で勉強する前提である基本の押さえ方には、3つのポイントがある

    ①基本数字を把握すること

       ②原理、法則、定理を知ること

       ③用語(言葉の意味)を正確に理解すること

 ・ 自分流で勉強するときは、「時代遅れ」と思われることを恐れない

 ・ 大事を為すには、七分の道理と三分の無理

 

次回は11月27日(金)に掲載いたします。

 

 

第9回  『高井式 一生使える勉強法』(1)
成長モードにスイッチする

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 勉強熱心な経営者として知られ、その経営力においても、お人柄においても、高井伸夫先生が心から尊敬してやまないお一人に、日清製粉7代目社長の正田修さん(上皇后美智子さまの実弟)がいます。

 

 正田さんご自身が旨とされている「学び」のポイントは次の三つであり、どの一つが欠けてもいけないとおっしゃっています。

 

 ①「人から聞く」「参考文献などを読む」「現場などを見る」

  これらをしなければ、我流・ひとり合点に陥ってしまう。

 ② 「自分の頭で考え抜く」

  自分の頭で考え抜かないと、結局は借り物の知識になってしまい、自分の意見として実行するという本物の迫力を欠いてしまう。

 ③ 「自分で実際に行動して覚える」

  行動が伴わなければ、ビジネスパーソンではなく、ただの評論家になってしまう。

 

 「勉強に対する素晴らしい名言です。このような行動習慣を持ち続ければ、必ず大きな成果をもたらすはず」と先生は明言されています。

 

 

 本号は、かんき出版で先生が執筆された表題の書籍から、下記に格言や名言を紹介します。

 

 

  • 「よく生きる」ために年齢に応じてどのような意識で勉強すればよいのか

 

 『論語・為政第二』に次の有名な言葉があります。

 

 「子曰わく、吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順したがう。七十にして心の欲する所に従えどものりえず」

 

 ・15歳までに「学問に志す」ための勉強をする

 ・30歳代までに「思想や見識を確立する」ための勉強をする

 ・40歳代までに「心の惑いがなくなる」ための勉強をする

 ・50歳代までに「天から与えられた使命を自覚する」ための勉強をする

 ・60歳代までに「何を聞いても耳に逆らうことのない」ための勉強をする

 ・70歳代までに「自分の欲望のままに振舞っても、その行動が道徳からはずれることがない」だけの勉強をする。

 

 

  • 人は何のために一生勉強するのか

 

 「若くして学べば、すなわち壮にして為すにあり、

  壮にして学べば、すなわち老いて衰えず。

  老いて学べば、すなわち死して朽ちず」

 

 江戸時代の儒学者・佐藤一斎の言葉です。充実した人生を過ごすには「生涯勉強」ということ。いま大切なことは「勉強するか、しないか」ではなく、「いかに勉強を続けられるか」といえます。

 

 

  • 成果主義の導入で、評価基準が変わった

 

 「知識より、変化に対応する思考力、企画力、創造力などが重視される時代になった。
 仕事の成果を測る物差しそのものが変容した」

 

 その結果、企業は頭脳労働を重視し、そのときどきの成果に着目するというアプローチをとらざるを得なくなりました。過去にあげた業績や豊富な経験も、それのみでは意味を持たない。それに意味を持たせるには勉強しかありません。

 

 「人は生まれながらにして貴賎貧富の別なし。

 ただ学問を勤めて物事を良く知るものは、貴人となり富人となり、

 無学なるものは、貧人となり下人となるなり」

 

 福沢諭吉は『学問のすゝめ』のなかで、こう述べました。厳しい言葉ですが、この本質は、今の時代も変わっていません。これから先、勉強しない人は確実に淘汰されていくでしょう。すでにそうなってきています。

 

 

  • 勉強とは最初の一歩をまず踏み出すこと

 

 「興味は仕事に伴って、またその最中にもっとも湧きやすい。

  だから、気が向かないなどを口実にせず、

  毎日一定の時間を仕事にささげることである」

 

 哲学者ヒルティの言葉ですが、「仕事」を「勉勉」に置き換えても、まったく同じです。

 

 

  • 新聞は、読む順番にコツがある

 

 「新聞は知りたいことを知るための媒体というよりも、〈世の中の動きを全体的に捉える〉〈知らないことを知る〉ための媒体として捉えるべき。そういうつもりで読んでいくと、大局観が養われる」

 

 以下に新聞の読み方のポイントを挙げておきます。

 ①必ず一面から順繰りに、見出しを眺めるように全面を見る

 ②読むべきと思った記事は詳しく読む

 ③広告面にもざっと目を通す

 ④コラムやエッセイを重視する

 ⑤ 注目記事は切り抜くかコピーをとる

 

 この地道な手順、作業が勉強の基礎になります。

 このような方法で新聞に目を通すと、あなたは前の日の地球上で起きたことの概略を、鳥瞰的に眺めたことになるのです。

 

 着眼大局、着手小局といわれるように、大局観が養われると、自然に「世の中はこんな風でいいのだろうか」「近未来はこうなるから、こんなビジネスが出てくるだろう」という大所に立った考え方ができるようになります。

 

 そして実際に行動に移すときは、一つひとつ細かいところにも、着実に手をつけていくことが望ましいのです。

 

 

  • 教えることで、教わることがいっぱい

 

 「教うるは学ぶの半ばなり」 (中国古典・書経)

 

 これは孔子の言葉です。人に教えるということは、半分自分が学ぶということだ—と。

 もっと勉強したいと思っている人は、人に教えることを考えたらいいと思います。最高の勉強法です。人に教えるとなると、いやでも自分で調べて勉強するようになるからです。

 

 「こちらに〈知りたい〉〈勉強したい〉という強い願望があって、

 なおかつ教えられるのではなく教える立場に立つ。

 そうすると、知りたい願望と教える責任感が、咀嚼そしゃく力を高める」

 

 人と対話をしているときに、不思議に独創的なことを思いつくことはありませんか。これはたぶん、自分のなかにあるものと他人が対話で提供してくれたものとが、自分の中で一緒になって、一つの着想になるのだと思います。

 

 

  • スキマ時間の使い方で、自然と勉強グセと能力が身につく

 

 「まずただ欣求ごんぐの志のせつなるべきなり

 たとえば重き宝をぬすまんと思い,

 強き敵を討たんと思い,

 高き色に会わんと思ふ心あらん人は,

 行住ぎょうじゅう座臥ざが、ことにふれおりにしたがいて

 種々の事は変わり来たれども、それに隨いて

 すきまを求め、心にかけるなり

 この心あながちに切なるもの,遂げずということなきなり」

 

 これは鎌倉時代の高僧・道元の弟子がまとめた語録書『正法眼蔵随聞記』に載っています。

 

 —まず求める気持ちが切実でなければいけない。たとえば宝物を盗もうと思ったり、敵を攻略しようとか、美女を手に入れようと思うとき、暇(スキマ)さえあればそのことを思い続けてみる。そうすれば、望みの叶わないということはない

 

 これを勉強することに引き寄せて考えてみれば、スキマの時間に勉強のことを考え、それを実践すれば、必ずできるということです。

 

 そこでスキマ時間を生み出すためには、前日の夜、寝る前の5分でいいので、翌日のスケジュールをチェックしてください。意外とスキマ時間がつくれることに気がつきます。

 

 ・お客様のところへ行く移動中の電車のなかの20分

 ・次のミーティングまでの15分

 ・同じ仕事をしていたとき、気分転換のために休んだ15分

 

 これらのスキマ時間でできそうな勉強項目を決めておくことです。

 スキマ時間とは、ある意味限られた時間です。

 仕事はタイムリミットを設定して進めるのが成果・効果を上げるコツですが、勉強も同じなのです。

 

次回は10月30日(金)に掲載いたします。

 

 

第8回  『仕事で人は成長する』 (2)
自分がキラリと輝く生き方

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生が出版で読者に伝えたい思いは、次のことでしょう。

 

 「読者の心が温まり、自分を高めるヒントになれば嬉しい」

 「チャンスはいつも、あなたの前を行ったり来たりしている」

 

 前回7月31日号に続いて、本号も表題の本から、このような環境下でも、ビジネスパーソンが生き抜くヒントになる言葉を選びました。

 

 

  • 進化する女性、退化する男性

 

 「男性は退化し、女性は進化していると言われている。

 

 第1に、ほとんどの企業の入社試験で、上位の成績を占めるのは女性である。

 

 第2に、女性は自己投資に余念がない。キャリアアップの有料の研修を自費で受けるのも、女性が圧倒的に多い。男性は身銭を切って研修を受ける人は少ない。

 また、いつまでも輝いていたいために、美しくあろうとすることに貪欲で、スポーツジム、ヨガ、岩盤浴、マッサージなどの情報収集にも余念がない。

 

 第3に、女性の方が情報交換の時間を持つことに積極的である。男性は成果主義によって仕事に追われ、情報交換が途絶えがちになっているという。

 

 第4に、女性はそれなりのポジションが少ないために、チャンスを得ようとキャリアアップを常に心がけているが、男性は意識的・集中的にも勉強しない。

 

 このように意欲を持った女性が、残念ながら管理職として伸びていないのは、言うまでもなく、日本が男社会であるということが背景にある。しかし、そのほかに、子どもを産み育てる性として、女性に本来的に備わっている特長が、原因していると思われる。

 

 そこでは当然のことながら、庇護、つまり自らを守る、自己愛という防衛意識が非常に強くなる。

 その結果として、仕事を他人に渡さず、自分で取り込んでしまうのである。ということは、とりもなおさず、マネジメント力を失うということにつながる。マネジメント力とは、牽制と互助を前提とするが、自分で仕事を取り込んでしまうと、その必要もなくなってしまう。

 

 そこに実は、女性の管理職が数多く現出しないという根本理由があるように思われる。

 これを打破するためには、女性が仕事を他人に任せること。そして、指揮・監督する手腕を身につける必要があるように思えてならない」

 

 このことは、管理職として成長するためには、男性にも欠かせないことと言えます。

 

 

  • 教養の有無で差がつく時代になる

 

 「温故知新という言葉をご存知の方は多いだろう。昔の事柄を研究・吟味して、新しい知識や見解を得ることをいう。『論語』に出てくる言葉である。時代がどんどん進歩し変化していく時代、私たちの目はとかく未来へ向けられがちだが、その目を確かなものにするためには、古い時代を振り返ってみることも必要だ。

 

 とくに古典と言われる書物、絵画、音楽、趣味、嗜好などは、長い年月残ってきたという一事を以ってしても、触れてみる価値がある。そしてそのような価値を、自分のものにすることが、すなわち『教養を積む』ということである。

 

 頭脳がものをいうソフト化時代は、仕事の能力が際立っていれば、一定の業績を収めることができる。しかし、これからの心の時代においては、人の心に触れることのできる人でなければ、良い結果は得られなくなる。

 そのためには教養を積んで心を養っておかないと、心の栄養失調になってしまう。

 

 爆笑問題の太田光さんが最も影響を受けた人物として挙げている亀井勝一郎氏。彼は、

 『若い男性は教養程度が低くなったので、目立つものしか心かれない。発見する能力を失ったのだ。女性もまた、教養程度が低くなったので、目立つようにしか化粧しない』

と言っているが、耳が痛い人もいるのではないだろうか」

 

 

  • 「他者評価」を高める正々堂々

 

 「評価には、客観的と主観的な評価があり、別の視点として、自己評価と他者評価がある。

 成果主義時代の評価は他者評価が軸となるから、個人としては他人にできるだけ高く評価してもらえるように、成果をアピールしたほうがいい。

 そのためのポイントは2つある。

 

 第1のポイントは、たしかな実力を何か一つでいいから、身に付けておくことである。

 ちょっとやそっとでは代わりが見つからないスキル・内容で、仕事に役立つものがいい。

 それを自分の売りにする。そのためには、『彼はこういうことができる』と第三者が見て評価できるように、それを外部に表出することを忘れてはいけない。

 

 第2のポイントは、正々堂々としていること。

 人は他人を評価するとき、いくつかのモノサシ(損得・親疎・上下・適否……など)を持っている。

 だからこそ、全方位的にあらゆる人に好印象を与えるつもりで振る舞うのである。それがいろいろなモノサシによい影響を及ぼす。といって、何もおもねたり、迎合する必要はない。

 

 そういう振る舞いになると、おのずとすること・・・・は限定されてくる。善意とか、明るさ、公平さ、勤勉さ、正直さといったことしかできない。それでいい。極端な話、あなたが『職場で1番、正々堂々としている人』のレッテルが貼られれば、それだけで十分である。

 

 容易に代替えの利かないスキルと、全方位的な好印象。

 この二つが他者評価を高める武器となる。あと大切なことはブレないことである。360度評価の時代、とくにリーダーになればなるほど、これらが求められる」

 

 

  • まず感じる! それから考える!

 

 「私たちは『わかっている』という言い方をよくする。『わかっている』と相手から言われると、『理解しているのだな』と思ってしまうが、ここで安心してはいけない。聞いてわかっているのと、見てわかっているのとでは、理解度に天地の差があるからだ。

 

 私は1日に300枚くらいの仕事上の書類を読んでいる。読めば、『なるほど』と思う。しかし、それだけではダメだと思って、弁護士や秘書と打ち合わせをする。直に会って打ち合わせするのだが、その場にいなければ電話で打ち合わせる。

 そうやって書類を読んで、理解したことを補強する。

 

 しかし、それだけではまだ不十分である。 やはりクライアントとの打ち合わせの場に出ることだ。仕事は常に現場主義だと信じている。

 なぜかというと、頭で理解するほかに、五感でも理解しなければ正しい判断ができないからだ。

 

 現場には、目に見える情景、耳に聞こえる音、鼻が感じるにおい、肌や味覚まで迫るものがある。そういうものが大切な判断材料だ。五感を働かすには現場に立ち会う以外に方法はない。

 

 〝Don’t think,feel “ という言葉がある。『考えるな、感じろ』ということだ。

 私は、『仕事は、まず感じて、それから考える』を求めている。これをクリアするには、現場に出ることが必須になってくる」

 

 

  • 想定の範囲内に未来はある

 

 「未来予測というものは当たらない、と思っている人が多いようだが、詳しく調べてみると、案外当たっている。ここまで文明が進歩してくると、どんな未来も、誰かが想定した範囲内に収まると言ってよいと思う。

 

 その意味では未来を予測することは、なかなか楽しい。

 

 ピーター・ドラッカーは、近未来を予測して言い当てるのがうまかった人だが、彼の未来予測に、

  『今後の企業はフラットな組織に変わっていくだろう』

というのがある。これは既にそうなりつつある。社長から平社員までの階層が少なくなってきた。

 

 なぜなら、情報共有の結果、みんながそれぞれの立場で考える必要が出てきたからである。

 昔は考える人と実行する人が分かれていたが、今はそれでは対応が遅れてしまう。

 組織はフラットになっていかざるを得ないわけである。

 

 未来を見通すには、現在をつぶさに観察して、洞察して推理力を働かせることだ。そして近未来を予測してみる。

  『想定の範囲内』と言えない人は、現在の情報に疎く、また近未来に対して洞察も推察もしていないということになる。想定することがなぜ大切かというと、自分の能力と情報知識を動員することで、未来を見通すことができるからである。

 

 未来を見通すということは、『こうであったらいいな』という夢を語ることではなく、現在と地続きのなかで、自分がどこに位置し、何をするかを考えることだ。

 

 ドラッカーが、『近未来は現在に必ず萌芽ほうががある』と言ったのは至言である」

 

 

  • 決断と責任の修羅場をくぐりなさい

 

 「大正から昭和前期に活躍した経済学者・河合栄治郎は次のように言っている。

 『われわれを成長させるものは、人生における悪戦苦闘である』

 ビジネスの世界で一定の業績を挙げた人は、たぶんこの言葉にうなずくはずだ。要するに成功した人は、みんな修羅場をくぐっているのである。

 

 修羅場をくぐるとは、場数を踏み、時には矢玉に当たってみることだ。

 

 場数を踏むとは、実務で求められる能力の判断力・決断力・実行力をつけるチャンスを多く味わってみることである。

 またビジネスの矢玉とは、『責任を取る』ということである。

 この2つを数多く経験するのが、ビジネスにおける修羅場をくぐるということになる。

 

 成長したいと思うなら、『自分探しをする』などとのんきなことを言っていないで、目の前の現実にどんどんぶつかってみることである」

 

 

 『1勝9敗』(新潮文庫)の著書があるユニクロのオーナー・柳井正さんは、上記にあるように、数多くの修羅場をくぐって、場数を踏み、矢玉に当たってきました。

 

 そして絶えず、今でも、仮説・現場・検証を繰り返しながら、挑戦し続けているのです。

 それらの体験・経験から、胆力が生まれ、判断力・決断力・実行力を磨いてきたのでしょう。

 柳井さんは言っています。

 

 「どんな仕事の失敗も、挑戦し続ける人間の勲章だ」と。

                                 

次回は9月25日(金)に掲載いたします。

 

 

第7回 『仕事で人は成長する』(1)
自分がキラリと輝く生き方

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生が、かんき出版で4冊目に書かれたのが、本書『仕事で人は成長する』です。

 

 今回の新型コロナウイルスによる雇用状況は、解雇等見込み者数が39,059人になり、(令和2年7月22日現在集計分 厚労省職業安定局雇用政策課 政策調整係)、毎週増加しています。

 

 また、リモートワークは新型コロナ終息後も、働き方改革の一つの選択肢として残る可能性が増えました。その結果として、オフィスが縮小され、社員の居場所も雇用形態も新時代を迎える可能性が増しました。

 

 新型コロナウイルスとは直接関係なく、大手金融機関を始め大企業も、次々と人員削減を発表しています。

 

 このような環境下で、「どのようなビジネスパーソンが生き抜けるのか?」のヒントになるのが本書ではないかと、あらためて思えました。

 

 本書は、ビジネスパーソンとして、人間として、成長するために必要な力を下記の5つに分けて、取り上げています。

 

 「仕事の質を高める力」

 「自分を高める力」

 「人を巻き込む力」

 「時代の流れを読む力」

 「リーダーとしての力」

 

 自分の資質を磨き、能力を高めるために、なにをすべきか?

 仕事を、自分自身の人生におけるキャリアデザインの面から捉える参考になります。

 

 本号も表題の本から、【高井語録】を集めていきます。

 

  • 仕事で差がつく簡単な理由

 「成功した人・評価の高い人と、成功しなかった人・評価の低い人との差は紙一重である。

 たしかに結果からみると、両者の間には、天と地ほどの隔たりがあることが多いが、もともとはそんなに差はなかったと思われる。

 なぜなら、スキルという能力の差ではなく、心の持ちようという量りがたい差が原因だからである。

 

 失敗する人や評価が低い人は、仕事に関して執着心が不足し、あきらめが早いケースが多い。

 完成に90%超えるまで前進しながら、

 『だいたいできたから、これでいい』

 という〝だいたい病“のクセがでる人か、

 『もうだめだ』

 という〝敵前逃亡病“のクセがでる人である。

 

 本来、仕事というものは、最後の10%弱が一番手を抜けないところである。とくに始末が悪いのが、〝だいたい病“の人。自分に甘い点数を付けやすいから、反省がない。だからいつまでも成長しない。そういう人に限って、

 『自分の能力が活かされていない』

 と、上司や回りの人のせいにする。

 

 成功する人や評価の高い人は、最後の数%をやり切り、さらに120%の完成度をめざすから、仕事で磨かれ、成長する。120%とは、相手の期待値を上回る仕事をする人である。そこには満足を超えて感動が生まれる。そうなると、その他大勢と違ってキラリと輝く存在になる」

 

  • 自分をブランド化させる

 「ブランドの本質は、『約束』ということである。ブランドものに人が集まるのは、その製品がいつも変わらぬ価値を備えていると信じられるからだ。信じる理由は、ブランドがその価値を約束してくれているからである。人々はそこに『かけがえのなさ』を感じる。

 

 あなたも、そのような人になることを目指せばいい。

 

 『自分をブランド化させる』という発想で、個人のブランドイメージができてくれば、その自分自身のイメージを裏切れないとの気持ちが出てくる。だれでも必死にそのイメージを守ろうとする。

 その努力が、あなた自身をも成長させるのだ。

 

 これまでは過去の実績が評価の対象だったが、変化の激しい時代は、過去の実績だけを見ても正しい判断はできない。『ブランド力』の重要性が増してきている。

 

 では、どうやって自分のブランドイメージをつくるか。

 

 仕事の中身や個人の資質によって違ってくるが、『安心感』と『満足感』がブランドづくりのキーワードになるだろう。この2つをどうやって相手に与えられるかを、徹底的に考えることだ。

 

 私の場合は、決して空約束をしない。法律の仕事は、簡単に約束できない世界だからだ。だが、同時に依頼者を不安がらせないことも、弁護士の大きな役割であると思っているので、それなりの方法をとる。

 

 絶対ではないにしても、まず解決の道筋を示すようにしている。具体的に道筋を示しながら、

『この峠を乗り越えれば、いつごろには穏やかな平野を展望できますよ』

といった言い方をする。不安感というのは、先行き不透明なときに起きるから、曲がりなりにも展望が開ければ安心感が得られる。

 

 次に、

 『私も一緒に登りますよ』

 と付け加えれば、依頼者は安心感と同時に満足感が得られる。

 この2つを持ってもらうことで、『かけがえのない存在』と評価されることになる。

 

 これが、いわば私のブランドということになる」

 

  • 挫折しない目標の立て方

 「目標設定は活力を生む源泉でもある。目標を持つと行動が始まる。行動が始まると一日が充実する。逆に目標を持たないと、知らないうちに人はいい加減になっていく。

 

 また、目標を持つと人は成長する。目標に向かって邁進することが成長につながる。そんなときに素晴らしいアイデアが生まれたり、新しい情報や知識を吸収する力も出てきたりする。

 

 さらに言えば、目標は人を強くしてくれる。つらい出来事や困難にぶつかったようなとき、くじけてしまう人と頑張れる人に分かれるが、目標があれば乗り切る勇気が生まれて頑張ることができる。

 

 では、どうやって目標を持つか。

 それには自分の好きなことを目標にすればいい。ただし、以下の条件がつく。

 ・まず世の中に役に立つこと 

 ・自分を成長させること 

 ・周りの人を幸せにすること

 

 この3つの条件をクリアすれば、後はどんなことでもいい。目標に向かって努力することは、楽しい作業であるはずだが、途中で挫折してしまう人が少なくない。

 

 挫折しないための方法はいくつかある。

  1つは、目標を鮮明にする

  目標は単なる夢でも願望でもない。具体的な着地点を持ったものだ。それを鮮明にさせて
  おかないと、少しも目標へ近づけない。それで挫折してしまうのだ。

 

  1つは、タイムミリットを設ける

  目標はどんなときでも、はっきりと期限を設ける必要がある。期限を決めない目標では、
  『目標を持っている』とは言えない。期限のない目標は、淡い願望に過ぎない。

 

  1つは、目標は必ず紙に書き出す

  頭のなかにあっても目標は目標だが、紙に書き出すのと書き出さないのとでは、達成意欲
  に大きな差が出てくる。書き出す人はよく目標を達成し、書き出さない人は十中八九ダメ
  と思っていい。そのくらい書き出すことは大切だ。

 

  もう一つ加えれば、分相応より大きめの目標がいい

  そのほうが自分の成長につながるからだ。『大きすぎて達成できないのでは……』という心
  配は無用。まじめに正しく考えて前記の条件をクリアした目標なら、大きすぎることは決し
  てない。安心して目標に向かって突き進んでいけばいい」

 

  • 能力を拡大させる考え方

  「ビジネスを効率的に進めていくうえで、きわめて重要な考え方が、『選択と集中』である。

 そのポイントは、次の3点である。

 

  ・やることとやらないことを決める

  ・捨てるものはさっさ・・と捨てる

  ・集中すべきものに専念する

 

 ふだん忘れているが、私たちの生活は『絶えざる選択の積み重ね』によって成り立っている。

 朝目覚めたときから夜眠るまで、何かの選択をしている。その選択の適否によって、人生は大きく変わってくる。

 

 たとえば、食べ物の選択は体調に影響し、人生に大きな影響を及ぼしてくる。お金持ちになるのも、お金に苦労するのも、自らの選択が大きく作用しているはずだ。その意味では、人間に与えられた最高の特権が、『選択』ともいえる。

 

 だが、この選択をほとんど利用しない人がいる。

 また、誤った選択をしてしまう人もいる。

 

 せっかく正しい選択をしても、集中しない人がいる。

 

 適切な選択を行い、極度の集中力を発揮したら、誰もが信じられないほどのキラリと輝く能力を発揮する。人に潜在能力があるとよく言われるが、それを引き出すのは、『選択と集中』によると考えることができる。

 ガンジーの次の言葉と合わせて考えれば、誰にでも、こういうことも起きて不思議ではない。 

 

 『ひとりの人に可能なことは、万人に可能だと私は信じている』 (ガンジー) 」

 

  • 中途半端な仕事人の小理屈こりくつは信用されない

 「幕末の動乱期に活躍した勝海舟に、次の言葉がある。

 『小理屈で諦めてしまうからダメなんだ。世間は生きている。理屈は死んでいる。死んでいるものが、生きているものに勝つことなど、到底できることじゃない』

 

 物事は中途半端にしてはダメだ。何かを始めて経過がうまくいかないと、すぐ諦めてしまう人がいる。そういう人は、『やめることを正当化する理屈』を必ず言う。もっともらしい理屈が山ほど出てくる。そんな人に限って良い成果が挙げられない。

 

 徹底性という精神は、日本人には欠けているところがある。必要性は認めながら、なかなか徹底してやろうとはしない。そのくせ始めてしまうと、今度はなかなかやめようとはしない。だから過去の大きな変革も、外圧によらねばできなかった。

 

 徹底してやり抜くということは、一方で、先に進めなくなったとき、きびすを返してさっさと撤退することでもある。織田信長は、徹底することにけていたが、逃げ足も速かった。このスピード感が、いまの日本社会には欠けている」

 

  • 自分が自分にだまされる

 「自己啓発のポイントは、小さなことから始めるのがいい。

 最初から大げさなことを考える必要はない。問題は継続できるかどうかということ。

 

 継続の試みとして、たとえば『日本経済新聞の【私の履歴書】だけは1年間読む』と決めることをお勧めしたい。決めたらそれを続ける。クセになって、読まないと気持ちが悪いというくらいまで続けること。それができれば、あなたは小さな成功を経験したことになる。

 

 一度決めたことを継続できないのは、自分の行動に対し疑念や迷いが生じるからだ。

 『こんなことして何になる』

 気が乗らないときは、必ずこんな疑問が出る。そういうときは、

 『決めたことだから』

 ということでいい。決めたことは一種の目標だから、それへ向かってひたすら努力をする。やり遂げるには理屈はいらない。

 

 理屈のほとんどは怠け心から発する。これを称して古人は、

 『怠け者の舌だけは怠けない』

 と言った。まさにその通りで、『ほかにやりたいことが出てきた』など、『やらない』ための言い訳が山ほど出てくる。不思議なのは、どれももっともらしく感じられること。それで自分が自分にだまされる。

 

 怠け心を克服するには、試練をゲームのように楽しむクセをつけるといい。ゲームと言うのは意図的に試練をつくって、どちらがそれをうまく克服するかを競うものだ。

 ルールとは試練が姿を変えたものに他ならない。それでいてゲームが楽しいのは、試練を克服することが楽しいからだ。この原理を実生活にも取り入れてみればいい。

 

 継続性を奪うものは、怠け心のほかに、突然訪れる状況の変化もある。いわゆるピンチである。そういうときは対処できないと思うかもしれない。だが、ひとつ良い考えがある。それは、『時にゆだねる』ことだ。

 

 一時的に中断を余儀なくされても、柔軟に事実を受け入れ、またしぶとく始める決心を固めればいい。継続を、あまりマニアックに考えないこと。継続は断続でもいいのである」

 

  • 威張っている人は終わった人

 「『春風を持って人に接し、秋霜を持って自らを慎む』

これは江戸後期の儒学者・佐藤一斎の言葉である。他人に優しく、自分に厳しくあれという教え。

 

 しかし、実行となると意外と難しい。いざ人に接すると、自慢したり威張ったりしてしまう。だが、自己成長のためには、これは一番よくない。

 

 なぜかというと、人の成長は「他人によるところ」が大きいからである。もし周囲に他人がいなければ、成長の契機がつかめない。

 それなのになぜ威張るのか。

 

 謙虚さを見失って、自分を高いところにおいてしまうからである。高いところから見下ろすと、威張るしかなくなる。『バカは高いところに登りたがる』とはそいう意味である。

 

 どんな形であれ、威張っている人を見たら、『終わった人』と思って間違いない。

 なぜなら威張るということは、『過去自慢』にほかならないからである。過去のものだから、道行く人はあまり見ようとはしない。だから、自分から声を大きくして見られることを促しているのだ。

 

 威張る人とは、自分から成長を断念した人と言える。成長していくためには、学ぶ姿勢と同時に謙虚さがどうしても必要だが、それがないのだから、成長するはずがない。

 気を付けたいことは、誰でもこのような人間になるということである」

 

 次回は8月28日(金)に掲載いたします。

 

第6回 『3分間 社長塾』(2)
スピード判断力をつける

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生の本業はもちろん弁護士ですが、皆さまご存知のように、経営の合理化や改革・再建に50年以上の実績をお持ちの方です。

 とくに社長・経営幹部向けの講演や指導は、「半歩先を読み、問題点を的確に指摘し、解決への方向性を具体的に説く」として定評があります。ズバリ本質をつかむ先見性と実践対策を、新鮮さに溢れた分かりやすい言葉で語られることで、83歳になられた現在でも、相談者が後を絶ちません。

 

 前回5月29日号に続いて、本号も表題の本から、とくに社長の戒めとなる言葉を選びました。

 

社長の戒め・8つの言葉

 

①社長はもっと優しさを表現しなさい

  「経済縮小の時代は、経営者だけでなく社員にとっても厳しい時代だ。従来の仕事の質と量では通用せず、成果を上げなければ降給や降格、時には解雇という現実にも直面させられる。

 社員の能力や働きぶりをシビアに評価するのは社長の役割だ。

 ただ、厳しいだけでは組織はまとまらない。社員は血の通わないロボットではない。

 社長が厳しさと同時に、優しさを発揮することで、人間的なつながりが形成され、本当の意味で強い組織になっていく。

 

 レイモンド・チャンドラーの名作『プレイバック』に、

 『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない』

 という有名なセリフがあるが、これを社長用にアレンジするなら、

 『厳しくなければ経営できない。優しくなければ経営する資格がない』

 といったところだろうか。

 

 経営環境が厳しくなると、シビアな面ばかりを強調したくなるが、過酷な時代だからこそ、社長は優しさをいかに表現していくかが、大事なポイントになる」

 

②ケチな社長は嫌われる。ケチらない社長は経営に失敗する

 「社長は基本的にケチであるべきだ。

 コスト感覚のない社長に経営者は務まらない。 

 ただ「うちの社長はケチだ」というイメージが定着すると、社員の士気は上がらない。ケチという印象を社員に与えずに、いかにコストを切り詰めるか。それが社長の腕の見せ所である。

 

 会社に長年貢献した社員の円満退社が決まり、会社でちょっとした送別会を開いてあげることになったとしよう。出席するのは十数人の社員。あなたはどんな送別会を開くだろうか。

 どうせ身内の会なのだから、近所のレストランで1人5000円程度でいいと考える社長は、おそらく社員からケチのレッテルを貼られてしまうだろう。

 このようなときは、思い切って一流レストランで1万円程度の予算でやる。それで辞めていく社員に喜んでもらえ、残る社員の励みになるのなら高い出費ではない。

 

 大切なのは、そこからいかにコストを下げるかだ。

 1万円の予算を想定しているときは、幹事に7000円から交渉してもらう。それで一人9500円になれば500円の節約になる。この500円を『たかが500円』と笑う社長は、経営者には向いていない。おそらく社内のいたるところにムダな500円が落ちており、いずれ自分の首を絞める結果になるだろう。

 社長に必要なのは、『生き金/死に金』の感覚だ。ケチだと思われたら、5000円を使ってもすべてが『死に金』になる。

 

 また社員に気前がいいという印象を与ても、9500円で済むところ1万円かけていたら、500円が『死に金』だ。一方、気前がいいという印象を与ながら500円を節約できれば、使った9500円も、節約した500円も『生き金』に変わる。

 この『生き金/死に金』の感覚がない社長は、『生き金』をケチって企業の活力を失わせ、また逆に、『死に金』を積み重ねて、経営を圧迫させることになる。

 

③社長は異世代の人脈を持て

  「いずれの年代の社長も、世代のかなり離れた上と下の人脈を持ちなさいと伝えたい。

 自分が若い20代の社長なら40・50歳代の、自分が50歳の社長なら75歳の長老から30・40代の人物と親交を持つことだ。

 とくに40代を過ぎると、人間は体力の衰えを感じ始め、年齢を重ねるとともに考え方が保守的になる。そうならないためにも、意識して年下の人物と付き合わないといけない。若い人の得意分野である新しい価値観、新しい発想と交わるために……。

 

 ご自分のアドレス帳に、世代のまったく違う知り合いの名前が、2割以下なら黄色信号、1割以下なら赤信号と認識してもらいたい。

 そんな危険信号がついた社長は、意識して若い人と付き合っていただきたい。

 

 自分で勉強会を開いて若い人を集めてもいいし、若い経営者のいるベンチャー企業に商談を持ちかけてみるのもいい。身近なところで自社の若い従業員と会話の機会をつくったり、自分の息子や娘さんに新商品のアイデアを聞いたりするだけでも、新しい価値観に触れられるはずだ」

 

④社長は「えらい人」になりなさい

  「関西地方では『えらい』という言葉を二つの意味で使う。

 一つは文字通り『偉い』という意味。もう一つが『しんどい』という意味だ。

 私は名古屋の出身なので、幼い頃から自然に二つの意味を関連付けて考えていた。

   誰に教わることなく、しんどいことをするから偉い人なのだと。

 

 ところが、上京後、東京では『えらい』を『しんどい』という意味で使わないことを知って驚いた。辞書で調べてみても、『偉』と言う漢字は、優れている、大きいという意味があるだけで、しんどい、疲れたという意味ではなかった。

 それでも『しんどいことする人=偉い人』という信念は、今も変わらない。

 

 多くの社長は、社長になるまでに『えらい』状況を経験している。しかし、偉くなってから『えらい』仕事を続けている社長は少ない。

 社員が尊敬するのは、自ら汗を流す社長だ。現場にも出て、頭も使い、トラブルがあれば体を張って会社を守る。みんなが躊躇(ちゅうちょ)するようなしんどい仕事を積極的に買って出てこそ、本当の敬意を持ってもらえる」

 

⑤数々の「み」から自分を守れ

 「社長は成功すればするほど、対峙しなくてはならないものが現れる。それは数々の『み』だ

 妬(ねた)み、嫉(そね)み、恨(うら)みつらみ、やっかみ……。

 実際にこれらの『み』の被害にあって、悔しい思いをした社長も多いはずだ。

 

 これらを極力避けるには、感謝の気持ちを常に表すことが大切だ。レベルの低い社長は、物事がうまくいくと自分の手柄にし、妬み、嫉みを買う。一方、失敗すると周囲の責任にし、恨みつらみを買ってしまう。

 社長は成功したときこそ周囲に感謝の意を示し、失敗したときは謙虚に自分の非を認めなくてはいけない。

 感謝のできない社長は、たとえ自分が正しくても、余計な荷物を背負わされることになる。

 

 つまらないことに煩わらされないためにも、常日頃から、『ありがとう』の気持ちを周りに示す習慣を身につけたい」

 

⑥社長は心理学を学びなさい

 「社長が学ばなくてはいけないものは、経済学でもマーケティング理論でもない。

 相手の心を読む心理学だ。

 つねに相手の心理を読む眼力が必要とされるし、相手の心を動かす力も求められる。

 社長はあらゆる面で〝心の達人“でなければならない。

 そこで、とくに実践していただきたいのもが3つある。

 

 第1に、社員の心をつかむために、「勝てば官軍、負ければ賊軍」に徹する。勝つということは、社会に貢献し、実績を残すことだ。

 利益を上げるために、ときに社長は社員に厳しい要求をすることがある。厳しさを突きつけられて喜ぶ社員はおそらくいないだろう。ただ、改革に結果が伴えば、批判は称賛に様変わりする。

 会社の利益が上がって、それが自分たちの給与に反映されれば、抵抗する社員も黙って社長についていく。

 

 第2に、「引くことを知る」である。

 社長になるような人は、元来押しが強く、簡単に引かない肝の据わったタイプが多い。それは良いことだが、引くことを知らずに損をしてしまうこともある。

 強く推したいなら、あえて一度引くことも大切だ。相手が誘い水に乗ったところで、再び押すのもいいし、まだ押すタイミングではないと判断して、時が満ちるのを待つ手もある。いずれにせよ押し一辺倒では、相手の心理的抵抗は強くなって、ますます押しづらくなることを覚えておこう。

 

 第3に、『社長らしく身なりを整える』ということだ。

 見た目と経営能力に直接の相関関係はない。しかし、アメリカで行われた心理実験で、外見のいい人物は能力も高く評価されやすいことがわかったそうだ。

 滅多に会わない顧客や取引先に、外見で能力不足の印象を一度与えてしまうと、あとで挽回するのは困難だ。もちろん恰好さえ良ければいいというものではないのは当然。なにより中身の充実が大切だ。業績を上げて、社長が自信を持てば自ずと軽さが消え、貫禄がにじみ出てくる」

 

⑦社長は常に自己評価を怠るな

 「社長は常にフレッシュであろうと努力しなければいけない。もし、自分に賞味期限が来たことを悟ったら、いさぎよく後継者に会社を託す覚悟も必要だ。

 ただ、オーナー社長の場合は見極めが難しい。

 

 では、自分の引き際を自分で決めるにはどうすればいいのか。

 そこで重要になってくるのが、第二者評価、第三者評価だ。

 

 自分で自分を評価するのは、第一者評価。

  ステークスホルダーの評価が、第二者評価。株主・顧客・従業員・取引先などの評価だ。

 ただ、ステークスホルダーは自分の立場から評価してしまうのが難点だ。

 顧客から見れば、商品やサービスを安く提供してくれる人がよい社長。

 従業員から見れば、給与や待遇の面で優遇してくれるのがよい社長。

 それも評価の一つであるが、公正な評価にはほど遠い。

 

 いちばん良いのは、社外取締役や社外監査役といった第三者に評価してもらうことだ。

 この人にダメ出しされたなら納得できるという人を、きちんと選んでおけば、それが自己評価の参考になる。

 それが社長が最前線で長く活躍するコツである」

 

⑧後継者選びにはシビアな眼を持ちなさい

 「経営者の最後の仕事は、事業承継といえる。

 あくまでも次期社長選びは、温情ではなく、『利益を出せる経営能力を身につけているかどうか』―この一点が、もっとも重要な判断基準となる。

 もし本気で息子や腹心に後を継がせたいと思っているなら、継がせる前に、徹底的に一人前の経営者に鍛え上げなければならない。それができなければ会社を譲るべきではない。それが社員やその家族の生活を預かり、また社会に貢献している会社の社長としての責任である。

 

 では、どんな後継者教育をすればいいのか。

 創業社長と比べて二世が頼りなく見えるのは、経験に裏打ちされた確固たる自信を持っていないからだ。自信がない人は決断も遅いし、周囲を不安にさせる。自信をつけさせるためには、修羅場を経験させるのがいちばんだ。たとえば……

 ・親の手の届く世界の外に放り出す

 ・実力主義の企業でゼロから働かせる

 ・赤字の子会社、不採算部門の責任者にさせる

 こういう地べたを這いずり回るような経験をさせ、その困難を克服してこそ、次の社長としての自信がつくのである。

 

 ところが、多くの経営者は逆の方法で自信をつけさせようとする。彼らもそれに気づいているから、実績をいくら積んだところで、自分の実力でつかんだものでないという不安にさいなまれる。

 息子が複数いるなら、厳正に判断して優秀な人材を選ぶ。劣る方をトップにすえると、その会社はいずれ割れてしまう危険性がある。

 

 息子の後継者教育に成功しなかったら、無理して息子に継がせてはいけない。ホールディング・カンパニー(持ち株会社)を設立して、息子をそこの社長にするといいい。株は息子に、経営は信頼できる経営幹部に、という後継オーナーと後継社長に分けてしまうことである。

 ここは心を鬼にして、シビアな眼を持たなければならない」

 

次回は7月31日(金)に掲載いたします。 

 

第5回 『3分間 社長塾』(1)
スピード判断力をつける

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生が、かんき出版で3冊目に書かれたのが『3分間社長塾』。

 多くの社長や社長を目指す人、中間管理職の人たちから「何度も読み返している」と評判になっている本です。

 

 「デキる社長」と「デキない社長」の差が生じる原因はいくつもありますが、共通して言える大きな要因は、「判断力の差」だ、と本書では言っています。

 さらに、瞬時に情報が世界中にいきわたる現在、すべてに、ますますスピードが最重要視されるようになりました。

 だから、判断力があるだけではダメで、「スピード判断力」でなければ価値がない、と言い切っています。

 

 では、デキない社長は、

  なぜ、判断が遅いのか? 

  なぜ、間違ってしまうのか?

  そしてなぜ、行動も遅いのか? 

 

 その原因は次の3つであると指摘しています。

  一つは、自分の価値観・判断基準が定まらない。

  一つは、視野が狭い。

  一つは、自分にとらわれすぎる。

 

 したがってスピード判断力をつけるには、この三つの原因を潰していけばいい。

 本書には、その潰し方のヒントになることが書いてあります。

 ここから【高井語録】を集めていきます。

 

 なお、先生が塾長をした勉強会の一つに、10年で100回以上続いた人気の『社長フォーラム』があります。本書は、そのフォーラムで特に評判の良かった話をもとに書かれたものです。受講された社長の会社のほとんどが、「大黒字になった」と言われています。

 

  • 考えるよりスピード。スピードをもって結論を実行に移す

 「人間には誰にも迷いが生じる。

 『迷ったら原点に戻れ』

 『迷ったら原理原則に戻れ』

 

 創業経営者なら、どういう会社をつくろうとしたのか。何を大事にして会社を起こしたのか。

 継承経営者なら、この会社の原点は何だったのか。

 人間として、社会人として、やってはならないことは何なのかを思い起こすと、すぅーと目の前の霧が消えていくことが多い。

 

 先手必勝の時代だ。

 先行したヤマト運輸に他の宅配業者はなかなか追いつかない。

 コンビニのセブン-イレブンにしても同じだ。

 

 お客さまのニーズは極めて移り気である。その変化に対応するためには、普段からスピードを意識することである。

 仮説を立てたらすぐ実行。後で検証しながら改善・改良していけばいいのだ。これは社長だけでなく、すべての組織でそのようにスピード化させなければいけない。

 

 スピード判断力を意識できない会社に、明るい未来は訪れない」

 

  • 価値判断の優先順位を決めておく

 「決断は迅速に歯切れよく。これがビジネスという戦場で勝ち残るための秘訣なのだ。

 だが、いざというとき迷いが生じてしまうのはなぜか。

 それは自分の価値判断基準をあいまいにしたまま、その場しのぎで判断しようとするからだ。

 

 例えば、次のケースを考えてみよう。

 新規事業がうまくいかず、赤字の額が脹らんだ。しかし、社会的に意義のある事業だし、いま撤退すると売り上げが下がってしまう。この事業は長年の夢だっただけに、あきらめたくない・・・・・・。

 

 この問題の論点をざっと上げると、次のようになる。

  ・利益が出るのか、損をもたらすのか(損得)

  ・社会的に見て正しいのか、ただしくないのか(正邪)

  ・続けるべきなのか、撤収すべきなのか(存廃)

  ・ことは大きいか、小さいか(大小)

  ・感情を優先すべきか、理屈を優先すべきか(情理)

 

 このように、一つの問題もさまざまな角度から検証できるが、難しいのは、それぞれの価値が衝突する場合だ。経営の現場では、

 『損だが正しい』

 『撤退すべきだが売り上げが下がる』

 というように、ある決断を下せば他の価値判断基準が満たされないことがたびたび起こる。社長があれこれ迷う原因もここにあるのだ。

 

 いま挙げた他にも、経営における価値判断基準にはさまざまなものがある。

 強弱、善悪、和戦、親疎、公私……。

 

 これらの価値のうち何を優先するか、問題が発生するたびに考えていれば、迷うのも当然だ。

 だから歯切れ良い決断を下すためには、価値判断基準を事前に決めておくことだ。

 

 たとえば最初から「損益」を第一に考えると決めておけば、たとえほかの価値判断基準を満たさなくても、スムーズに決断を下すことができるはずだ。

 ただ、判断すべき価値は、時代によって変化するという点には気をつけたい。

 

 では、いま重要な価値判断基準とは何なのか。それは次の3つである。

 ・正邪……ルールに沿っているかどうか

 ・善悪……社会的に良いことをしているかどうか

 ・顧客……お客様に満足していただけることになるかどうか

 

 あなたの判断基準は本当に明確か」

 

  • 商談は3回以内に道筋をつけろ

 「『相手の元に100回通って契約を取った』と自慢げに話す営業マンがいる。確かに、石にかじりついてでも、という精神力には感服する。

 

 しかし、一つの契約を取るのに100回も通っているようでは、仕事は非効率。

 私は3回交渉しても商談が進展しなければ、撤退も選択肢に入れることをすすめている。

 

 3回以内で話をまとめるには、事前の準備と、1回目の訪問に気を配ることが重要だ。

 

 アポイントが取れたら、まず面会していただくことについて礼状を出す。そして初めての面談の二日ほど前に、今回の商談で検討していただきたい内容を書面で送る。この2つをしっかりやれば、こちらの誠意や熱意の大部分は、事前に伝えておくことができる。

 

 そして1回目の訪問では、事前に書面でいろいろ要望を伝えていたとしても、あえてこちらの薦める点を1点に絞って話を進め、あとは柔軟に対応する。

 最初からあれやこれやと要求すると、相手との間に壁ができるばかりだ。譲る姿勢があることを示せば、相手との距離もグッと近くなって、交渉もスムーズに進むはずだ。

 たいていは2回目の交渉でまとまる。

 

 2回目も状況が思わしくなければ、3回目は別の角度から攻めてみる。こちらの味方になってくれる第三者を連れて行ったり、条件をガラリと変えてみたりするといった方法で、1回目、2回目とは違うアプローチをする。

 

 それで進展がなければ、商談は失敗に終わる確率が高い」

 

  • リーダーシップにカリスマ性を加えろ

 「経営者のなかには、

 『リーダーシップのある社長がよい社長だ』

 と信じている人がいる。しかし、それだけではまだ不足だ。

 リーダーシップのある社長は、難局においても素早い決断を下すことができる反面、その強引さゆえに批判を受ける。

 

 リーダーシップのある社長がいる会社でも、社員の3割くらいは何らかの不平不満を持っているのが普通だ。そんな不平不満を弱めさせる力、放棄させる力。それがカリスマ性だ。

 

 カリスマ性のある社長は、同じような決断を下しても、慕われ尊敬される。社員にとってはまさに憧れの対象なのである。

 ただし、カリスマ社長になるには、いくつかの条件がある。

 

 まず第1に、軸足が定まっていること。価値判断基準がふらふらしているようでは、社員はついてこない。

 

 第2に、どんな質問や課題がきても、きちんと答えられることが大切だ。たとえ分からないことがあっても、電話1本で事実関係を確かめることができる人脈を持っている。あるいは、すぐに何にでも応えられる腹心がそばにいるなど、あの社長に聞けば、解決の糸口が見つかると思わせることだ。

 

 第3に、カリスマを作る条件として忘れていけないのは、社長が醸(かも)し出す〝不思議さ“だ。

 知り合いの社長は、会社設立以来、毎朝7時に出社し、深夜2時まで残業して帰るという生活をしている。それなのに疲れた顔は一切見せずに、毎日違うスーツをピシッと着こなしている。

 社員はその姿を見て、「いつ寝ているのか?」と驚き、その超人ぶりに畏敬の念をいだくようになったそうだ。

 

 平凡からカリスマは生まれない。不思議さは、どんなことでもかまわない。この人はすごいと思わせることだ」

 

  • 儲けたければ知性・感性を磨け

 「いま顧客の判断基準は、快か不快か。面白いか面白くないか――。つまり自分のかゆい所を掻(か)いてもらえるかどうかが、財布のひもを緩める基準になる。

 保険業界で常にトップ10に入っているようなセールスマンたちは、ほとんどが次のように話す。

 『アポを取って60分の時間をもらっても、最初の50分は世間話に費やす』

 およそ保険に関係のないことで相手を喜ばせる。これを続けると、こちらから保険の営業をしなくても、保険に入ってくれたり、人を紹介してくれたりするようになるという。

 

 では相手のかゆいところを、どう見極めるのか。これは理詰めではなく、相手が何を考えているかを感じる力、つまり感性が豊かであることを要求される。

 ビジネスは相手があって初めて成り立つもの。儲けたければ、相手の気持ちを考え、思い、感じることが何よりも大切なのである。

 

 知性・感性の時代は、理論だけで人は動かない。

 『理に動く理(り)道(どう)、知に動く知動(ちどう)という言葉は辞書にない。感情で人が動く感動という言葉があるのみ』だ。

 安いから買ってくれる、品質がいいから人気が出る、という理屈だけでは通用しない」

 

  • 稼げる仕組みづくりは、すぐそばにある

 「あなたの会社には、『名物』と呼べるものはあるだろうか。

 社員でもいい。商品でもサービスでも、とにかくお客様の目を引いて、一度は買ってみたい、試してみたいと思われる特長があると、それが業績回復の起爆剤になる。

 もしなければ、自分たちでつくればいい。

 

 私はあるスーパーの再建をお手伝いすることになった。そのとき各店舗の店長に、

 『ジャンル別に名物商品を3つ作ってください』

 とお願いした。たとえば、青果売り場なら産地直送のナス、総菜売り場なら揚げたてのコロッケといった具合だ。最初は各店舗に名物が1つあるかないかの状態だったが、各売り場に3つできるようになると、客足が戻ってきた。

 

 次にお願いしたのが、

 『それぞれ名物店員になってください』

 ということだった。

 

 魚のことなら何でも知っている。レジを打つスピードが速い。いつもニコニコしている……など、なんでもいいから個性を出してお客様に顔を覚えてもらう。

 各店員がそれを心がけることで、お客様とのつながりが太くなり、一時落ち込んでいた売り上げも安定して増えていった。

 

 このように身近にあるものから、名物商品や名物サービス、名物社員を意図的に作れば、業績不振から抜け出すことも可能だ」

 

  • 社長自らが営業のパイプを総点検せよ  

 「全国規模のあるメーカーの経営再建をお手伝いをしたが、業績悪化の原因は営業パイプの劣化だった。

 

 パイプが壊れた原因のひとつは、押し込み販売だった。そこで私は、全役員に担当の営業所を割り当てて、押し込み・押し売りのチェックを徹底的にやってもらった。いわばパイプの総点検だ。

 

 さらに一度失った信頼を回復するため、全役員に担当の販売店や代理店を回ってもらった。

 一度や二度ではない。黒字化するまで、何度でもだ。

 パイプが細くなって行きづらいという販売店があれば、とくに重点的に訪問してもらった。苦情やお叱りに役員が現場で耳を傾けてこそ、信頼回復の足がかりができるし、営業がいかに会社にとって重要なものかが自覚できる。

 

 役員の外回りは社員教育にもつながる。自分の上司が必死に駆けずり回っている姿を見て、社員は営業の厳しさを学ぶ。研修を100回受けさせるより、役員と一緒に頭を下げて回ったほうがずっと効果的だ。

 

 また同時に、役員にはそれぞれの担当営業所で、新しいパイプを作ることもお願いした。つねに新規開拓し、新しいパイプを敷設することで、企業は安定的に成長していける。

 ほかに改善した箇所もあったが、こうした一連の営業改革で、そのメーカーは1年で赤字をほぼ解消できた。黒字化の原動力になったのは、やはり営業力の強化だった」

 

次回は6月26日(金)に掲載いたします。

 

第4回 『3分以内に話はまとめなさい』 (2)
できる人と思われるために

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 以前にある会合で、50代後半の弁護士と隣り合わせになったときのことです。

 偶然にもその方は、ある裁判で、高井伸夫先生が弁護されている企業の相手側の弁護士だったそうです。そのときの高井先生の弁論や尋問が、「敵ながらあっぱれだった。聞きほれた」と思い出を話ししてくれました。「法曹界では、高井氏の反対尋問は評判ですよ」とも語っていました。

 

 先生が塾長をする勉強会の一つに、10年で100回以上続いた人気の『社長フォーラム』があります。そこで講演されたテープを起こして読むと、一字一句そのまま原稿になるほど、しっかり纏まっている。話に無駄がなく、構成も説得力があり、「て」「に」「を」「は」にも配慮された内容です。

 その音源を聞いても、まろやかな口調で、人を包み込むような温かさが伝わって引き込まれます。

 

 このような「話し方」について、どのように身につけてこられたのか。

 3月27日号に引続き、今回も表題の書籍のなかから、【高井語録】を集めていきます。

 

  • 短時間に理解させる話の組み立て方  

 「相手の心に残る話し方のためには、出だしはゆっくり話し始めることが肝要。どんなに持ち時間が短いときでも、最初はつたないまでにスピードを遅くして話し始めると、スムーズに話に入っていけることが多いのです。

 とくに短い時間しかないと思うと、つい早口で始めてしまいがちですが、つんのめったようになって、いつまで経っても自分のリズムになりません。一通りの話はできたとしても、相手へのインパクトは欠けてしまうことになります。

 

 次に大切なのが、話の構成です。

 ご存知の方も多いと思いますが、文章の構成や物事の順序を表すのに、『起承転結』『序破急』という言葉があります。

 『起承転結』は漢詩の句の並べ方からきた4部形式の方法論です。スピーチや講演の場合、とくに気を使いたいのが『起』と『転』です。『起』でどれだけ話し手に関心を持ってもらえるか。これに成功すると、あとの展開がずっと楽になります。『承』ですこし緊張を解き、『転』で変化や落差を演出。そして『結』をスピーディに展開します。

 『序破急』は日本の音楽・舞踊・演劇における構成要素を表したもので、3部形式になっています。
 『起承転結』に比べると、スピード感があり、現代向きと言えそうです。
 話の構成も、このどちらかを選んで進めていくと、話が論理的になり、聞き手に理解しやすくなります。

 『起承転結』のなかに、さらにそれぞれ『序破急』や『起承転結』を入れて、論理的な展開や、ストーリー性を、リズムよく持たせる工夫をされたほうがいい。
 この手法は、3分間という短い時間でも同じです。つまり3分であっても起承転結や序破急は必要で、むしろ短いときほど、話の構成の輪郭がはっきりして理解してもらいやすい。

 

 私の話し方をまとめると次のようになります。

 ・あらかじめ話す内容を決め、資料を準備しておく

 ・はじめは超スローテンポで始める

 ・必ず話す時点の直近の話題を盛り込む(枕詞)

 ・序破急か起承転結で話を構成する

 これが短い時間で話をする基本であり、あとは相手、状況、時間などに応じて、その場で臨機応変な対応をすればいいのです」

 

  • 言葉のベルトをかけよ

 「話の上手な人の手にかかると、相手はちゃんと聞いている。これには秘訣があるのです。
 人間は誰でも、実際の年齢とは別に3つの心をもっていると言われています。親の心(ペアレント=P)、大人の心(アダルト=A)、子どもの心(チャイルド=C)です。

 

 小学校に通うようになった女の子がこう言いました。
 『お母さん、私、明日から小学生でしょ。だからお子様ランチはもうやめようと思うの』
 この子は大人の心で話しているのです。この女の子とスムーズな対話をしたいなら、親も大人の気持ちになってA-Aで会話をすれば、噛み合った話ができます。

 

 しかし、子どもを叱るときは、親がCの心になっては通じにくい。やはりPの心で叱らなければならない。なぜなら親の心なら、『とことん諭す』という気持ちになれます。
 ところが、Aの心で叱ると子どもは反発することが多くなるのです。

 最近、親の幼児虐待事件が増えています。これは、親が子どもを叱るとき、
 『この子は私の人生の邪魔をする』
 といった、自分勝手な大人の心で叱っていることが多いからと思われます。

 

 大人だから『わかるはずだ』とか、親・上司だから『こうあるべきだ』と原理原則に固執することなく、『いま相手はどの心でいるか』『自分はどの心で接するべきか』を考えて話をすれば、あなたの話は、思いのほかよく通るようになるはずです。

 話しがうまくいく状態は、両者が調和的な関係にあるときです。これをラポールといいます。この状態になると、お互いの心にベルトがかかったようになり、話がスムーズに運ぶのです。

 

 その状態に持っていくには、以下のような方法があると言われています。

 ・相手のまねをする

 ・相手に関心のあることを示す

 ・相手とラポールが成立しているかを確認する

 ・相手の価値観を知るために質問する

 ・相手のニーズを知るための質問をする

 この方法を使う場合に、相手の心のPACを考慮していれば、話はうまくいきます」

 

  • 個性とは「自分の見解」の披歴  

 「話をするとき、自分なりの個性を出そうと努力する人がいます。
 自己の独自性を出そうという志は買えますが、必ずしも他人と異なった意見を言う必要はない。
 大切なのは『自分がどう考えるか』ということ。最近は誤解して、『人と違ったことを言おう』とする人が増えてきているようです。これでは真の個性化は図れません。

 

 例えばAさんが強力なインパクトを与え相手を説得したとします。Bさんは同じテーマを自分の気持ちに素直に従って話した。結果はごく平凡な話し方になり、聞き手に強いインパクトを与えられず、必ずしもうまく説得できなかったとします。もちろん話し手に対する信頼性は、Aさん・Bさんが同程度だったとした場合です。

 話しが終わった時点では、AさんのほうがBさんよりも説得力で優れていたことになりますが、人間の態度変化(説得の結果)には、時間という要素が加わる。
 時間要素を加味すると、強いインパクトの説得の効果は右肩下がりに落ち込む傾向がある。

 逆にBさんの緩やかな説得の効果は、時間とともに上昇傾向を見せる。

 どちらが有効かは必ずしも言えませんが、契約書を書かせる様な性質の説得だったら、Aさんはクロージングを早くした方がいいし、Bさんはしばらく間を置いてプッシュしたほうがいい。

 

 結果として、話を通じさせるのに、あまり奇をてらう必要はありません。個性だ、独創性だと騒ぐ必要もありません。
 それより自分自身を磨いて、自分自身が考えて、それを素直に出せば、相手は説得できます」

 

  • 二人称で呼びかける  

 「いくら3分間で話し終えたとしても、相手に影響力というか話したことによる一定の効果が与えられなければ、短く話した意味がありません。
 どうしたら、短く話せば話すほど、相手が耳を傾け、効果が出てくる話し方になるのか。

 

 一つは相手を見て話せ、ということです。

 もう一つは、 『呼びかけ法』という話し方があります。この話し方をすると、ふつうの話し方では『他人事』にしか思えなかったような内容が、ガラリと変わり、聞き手自身の身に迫ってくる感じになる。なかなか便利な話し方です。

 たとえば、戦争反対を人々にアピールしたいとき、
 『戦争になれば多くの人が死にます』
 というような言い方では、『そんなこと当たり前だよ』 と思われてしまいがち。これではまったく説得力がありません。

 だが、学校の先生が生徒たちを前にして、
 『私は君たちの一人だって戦場で死なせたくない』
 と言ったらどうか。話の中身がにわかに自分に迫ってきます。

 

 このように二人称で呼びかける話し方は、きわめて『喚起効果』が高く、聞き手を引き込むことができるのです。

 話でも文章でも、言葉を操る場合の優劣は、喚起力がとても大切。
 喚起とは『注意、関心、自覚、良心などを呼び起こすこと』ですが、同じ言葉を使っても、言葉の組み合わせ方や文体で、喚起力はまったく異なってきます。

 『呼びかけ法』というのは、相手に呼びかけるだけではない。こちらの想いや意思、決意を効率よく相手に伝える方法でもある。だからインパクトがあり、聞いた人は感動したり、決心したり、次なる行動を起こさざるをえなくなるのです。

 つまり、身につまされる思いをさせて、イエスかノーかの判断を求めるところにポイントがあると言えるでしょう。
 そうすることで、相手が意志を表明せざるをえない、意志を固めざるをえない、意見を表明せざるをえない状況にもっていくということです」

 

  • 相手を批判するときの心得  

 「話をしていて、批判したくなるときがあります。その仕方が下手だと話がこじれる。こじれると壊れるか、長引くかどちらかです。といって、しなければならない批判もある。早く話を通すためには、批判のテクニックも大切になってきます。
 批判するとき留意しなければならないのは、普段にもまして、相手の面子(メンツ)をつぶさないような配慮が必要です。

 

 絶対してはいけないのは全否定。
 相手を批判するときは、まず批判の前に相手の話のなかから、肯定できる材料を引き出し、その旨を先に伝えておく。それから批判に入るようにする。
 ただし批判する内容に関しては、妥協してはならない。何がよくないか、はっきりと言うべきです。

 

 次に、批判を批判で終わらせないこと。
 そのためには批判したあとに、必ず『建設的』な意見を付け加えておくこと。このような形で批判すれば、相手との関係をこじらせることなく話が進められます。

 たとえば、
 『売り上げが伸びないことについてどう思うか』
 というのも非建設的な質問です。『どう思うか?』ではないのです。

 『現状はどうか?』

 『原因は何か?』

 『対策は何か』

 『そのときのリスクは何か?』

 『何から始めるか?』

 といった具体的な質問が必要なのです。

 

 当事者意識を持ち、建設的な方向へと話を持っていくことが、極めて重要です」

 

  • 自分の話し方を点検する5項目 

  「言葉は誰でもしゃべれるので、その巧拙がもたらす差を意識しない人が意外と多い。
 しかし、人間は言葉で社会生活を営んでいるので、正しい話し方こそが、人生を切り開いていく重要な道具と言っても過言ではありません。話し方を研究して、人を説得し、人から好かれる話し方をしないと、人生はうまくいかない可能性があるのです。

 

 言葉を操るにあたって、私は次の点に気を付けて点検することだと思います。

➀余計な言葉を使っていないか

 人と話をしたあとの自分の気持ちを考えてみればいい。その人と別れて何か心に引っかかるものがあったら、『言い過ぎたのではないか』と疑ってみること。ほとんどの原因が自分の側にある。
 気楽なおしゃべりは別だが、仕事上の会話の場合は、『余計な言葉は極力使わない』という節約発想が大切。特に知ったかぶりの発言は禁句。

 

②言葉が不足していないか

 これは比較的避けられる。事前に言うべき内容を点検し、最低限これだけは伝えるという項目を頭にたたき込んでおく。そのとき『何項目』と数を意識しておくと忘れにくい。

 

③必要以上に言葉を飾り立てていないか

 言葉を飾り付けると、内容がぼやけてくるおそれがある。下手に飾ることで混乱し、誤解、曲解することがある。仕事上の話では、修飾語はできるだけ使わないようにする。  

 

④相手のためになっているか

 これは見落としがちなこと。普段は気づいていないが、人と会って話をするということは、世の中全体から眺めたら、ものすごく縁のあること。世界には60億の人間がいるが、1人の人間が出会う人はほんのわずか。
 しかも親しく話をする機会を持てるのは、僥倖と言ってもよい出来事。『ああ、この人と出会え、話ができてよかったな』と思われるような話を心がけたい。

 

➄自分のためになっているか

 人と話すのは何か目的がある。その目的が常に自分にとってプラスになるかを考えること。もしプラスにならないなら、話をする必要はない。無理に話をすると、ろくなことにならない。話をする前に『これから話をすることはどう自分のためになるか』を点検することが大切。

 

 この5点をいつも念頭に置いて、自己反省する習慣をつければ、おのずとよい話し方ができるようになります」

 

            次回は5月29日(金)に掲載いたします。

 

第3回 『3以内に話はまとめなさい』(1)
できる人と思われるために

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生が、かんき出版で2冊目に書かれた本が『3分以内に話はまとめなさい』で、これまたベストセラーになりました。

 この本は、先生が行動軸とされている仕事の濃密化・スピード化、そしてコミュニケーション能力について、「話す力」に焦点を当てながら書かれています。

 キーワードは「話をいかに短くするか」です。

 これを意識し続けていると、話し方がうまくなるにとどまらず、自分自身が磨かれ、デキル人と評価されるようになる――そんな本だと評判になりました。

 

 引き続き表題の書籍から、【高井語録】を集めてみます。

 

  • 3分以内に話をまとめる訓練の効果

 「自分の立場が上がったりお付き合いが増えてきたりすると、上司に報告・連絡・相談をする、部下に指示を出す、自分の提案をプレゼンテーションする、会合などでスピーチをする……など、話をする機会がますます増えてきます。

 そんなとき、長い話をする人は、何を話したいかを決める論理力、要約力がないと思われる。

 さらに、聞き手の気持ちを理解していないと思われる。なぜなら、人の話を聞くのは、話すより三倍以上エネルギーがいるのです。このことが理解できない人、思いやりがない人、と思われてもしかたありません。

 話す力を磨くためにも、『3分以内で話をまとめる』という訓練が一番よいと考えています。話を短くまとめる能力を磨くことで、日本人がとかく苦手としている

 ➀論理的な話の運び方

 ②独創的な発想

 ③状況変化に適応する即応性

 ……などが一緒に身についてくるからです。

 

 『ごく簡単な内容なら3分もあれば十分だが、本格的な交渉事や込み入った問題になったら、そんな短い時間で済むわけない』

と思われる人がいるかもしれません。でもデキル人の話しぶりを観察してみてください。みんな短く済ませています。だから多くの仕事をこなせる。話もその例外ではないのです。

 時間があると思うと、どうしても無駄な会話が増えてきます。

 『3分でまとめよう』としたら、どうしても必要な話だけを簡潔に要領よくしようと必死に努力するでしょう。人為的にそういう環境をつくって時間の無駄を省き、簡潔に話す能力を磨くことです。

 『デキル人は多くの時間を持っている』

 『仕事は忙しい人に頼め』

 とよく言われます。

 誰にも等しく与えられた24時間なのに、デキル人がたくさんの仕事をこなせるのは、一つの事柄に費やす時間が短いからです。短い時間を濃密に使っているのが、デキル人の特長なのです」

 

  • デキル人の話し方3要素

 「1つの話に対して3分以内のテンポで話がテキパキ進んでいくと、お互いに快感を覚えるようになり、自然に頭の回転もよくなり、動作も機敏になります。この仕事の快感テンポを味わえたらしめたもの。常にその線を目指して努力するようにすれば、自然に仕事のレベルアップができてきます。

 デキル人の備えるべき話の3要素は次のことです。

 ・きわめて手短である

 ・全体に対する目配りをしている

 ・核心を突く

 どんな場合でも、話はできるだけ『短く済ます』ほうがいい。その理由は、時間を合理的に使うということですが、もう一つ、短い方が印象に残るからです。
『多岐にわたる』とは、全体に対する目配りと解釈すればいいでしょう」

 高井先生のスピーチや会話・対話には、聞き手にその話材の本質や核心にふれながら、共鳴や気づきを引き起こされる人が多い。 それは幅広い教養と、常にアンテナを高くして、新たな情報を蓄積されているからでしょう。  

 

  • 短い時間で感動を与える

 「話をする目的とは、広義の説得です。説得方法には、感動による説得、理性的・理知的な判断による説得、あるいは損得勘定による説得、場合によっては恐怖・脅迫による説得があります。

 もちろん一番好ましいのは、自分のしゃべったことに相手が感動してくれて、自分の思うとおりに行動してくれたら言うことはありません。しかし、それには手間がかかりそう。そこで人はどうしたら数分の短い話で感動してくれるか考えてみましょう。

 

 そのためには『真・善・美』について語ることが効果的です。

 第1の『真』。これは『本音で語る』ということです。つまり真心をもって相手に語りかける。そうすれば相手の真心に触れる。こちらに真心がなければ、相手も決して心を開かない。だからどんな場合も、誠心誠意話をすることが肝要なのです。誠意を込めて語る言葉にワンフレーズが多いことは、名作映画の名場面を思い出していただけるとわかるはず。クライマックスに主人公が話す言葉は短い。

 第2の『善』。これは『前向きな気持ちを駆り立てる話』です。事務所に相談に来る人に私が言うことは『大丈夫、大丈夫』です。そうするとわずかな時間の面談で見違えるように元気になる。これは理性的な理解ではありえない。人を元気にさせるには、未来へ向け希望が持てるような前向きな方向で話をまとめること。これが感動を呼び起こす大きな要素になります。

 第3の『美』。これは『表現手段』と考えてください。同じことを語っても、とげとげしい言葉で語るのと、まろやかな言葉で語るのとでは、相手が受ける印象が違ってきます。だから語るときは、美の構成要素である明るさ・力強さ・優雅さを取り入れた話をすることです。

 

 真心を込め本音で、相手が前向きな気持ちを駆り立てられるような内容を、まろやかな言葉で語れば、短い時間でも相手は感動します。長い話はまったくいりません」

 

  • 最初に「結論」を持ってくる

 「限られた時間で簡潔に自分の言わんとすることを明示するには、まず結論をはっきりさせなければならない。ではどうやったら『最初に結論ありき』の話ができるか。

 条件はいくつかありますが、いちばん大切なのは瞬間的な判断力。これは日頃から意識して訓練しておく必要があります。そのためには、まず結論を先にもってきて、後で理由を縷々(るる)説明していく習慣を身につけるのです。もし説明が中途半端で終わっても、こちらの結論は明確に伝わっているので最低合格点はもらえます。

 結論がまだ簡単には出せないようなときでも、話を簡単に仕上げるには、結論でなくても結論らしきものでもいい。とにかく、両者の話の拠り所になるような前提を1つ掲げて、話を進めるのがベターなやり方と言えます。

 いずれにしても結論を先に言う訓練をすると、その分、思考力も鍛えられることになります。

 『あわてて結論を出して間違っていたらどうするんだ』と心配する人もいますが、中国の兵法に、『兵は拙速を聞く、巧遅を聞かず』(上手で遅いより下手でも早い方がいい)と書かれています。つまり、早ければミスに気づいても、すぐ次の手が打てるからです」

 

  •  相手巻き込んでしまう話し方

 「こちらが一生懸命に話しているのに、相手が少しも乗ってくれないときがあります。部下が他人事のように聞いて『私は関係ない』という態度をとるのは、参加意識が希薄だからです。そのようなときには次の三つのことを実行すれば効果があります。

  ・誉める

  ・頼る

  ・期待する

 

 『誉める』ということで、より効果が出るのは直接誉めるより、陰誉(かげぼ)めです。上司が部下を誉める場合、自分で誉めるだけでなく、当人がいないときに誉める。少し時間がかかるけど本人の耳に入ったとき、真実味を感じ、より嬉しくなるもの。

 山本五十六元帥の有名な言葉に、『やって見せて 言って聞かせて やらせてみて ほめてやらねば 人は動かじ』というのがありますが、ためしに『ほめる』を削除してみてください。名言も形なしになってしまいます。 

 『頼られる』と自己の重要感を感じられるので、人はその気になります。ご存知の人が多いマズローの法則によれば、人間には生理的欲求、安全欲求、所属欲求、自己尊厳欲求、自己実現欲求へと5段階の欲求があります。『頼りにされることによる満足感』は自己尊厳欲求に該当し、人を成長させる要素にもなるので、上司としては取り入れたい態度です。

 『期待される』と人間はそれに応えようとする。これを証明する心理学の実験があります。

 学校で新任の先生がアトランダムに数名の生徒に『成績が上がる』と期待する。そうすると期待された生徒の成績は『期待効果』によって本当に上がるのだそうです。

 

 誉める、頼る、期待する……3つとも『話すことだけ』で実現できることです。自分の話すことに相手を巻き込んでしまうためには、『言うことを聞いてくれない』と嘆くよりも、この3つを根気よく試してみることです」

 

次回は4月24日(金)に掲載いたします。

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