A社自力再建の指針に関する助言の最近のブログ記事

 

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2015年5月3日(日)12:33
東京都千代田区永田町二丁目にてスミダノハナビを撮影
花言葉「辛抱強い愛情」「クールな美しさ」 

 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

 

提言

 



<1> 新経営体制の確立のために

 

  1. 社長はA社の自力再建のために全力投球していること、これに失敗すれば最早A社の自力再建の道は残されていないことを社内の隅々にまで周知せしめること
  2. A社の自力再建にあたる社長としての所信を、定期的に簡潔に、パターンを統一して、わかりやすく全社員に披攊すること
  3. 直ちに全役員に日付を空欄とする辞表の提出を求めること
  4. 社長と共にA社の再建を体を張って実現しようと考え、行動する役員によってのみ非常事態下にある役員会を構成する考えであることを宣言すること
  5. A社より少数精鋭、一騎当千の役員体制を早期に確立すること
  6. 営業用役員は顧問に就任せしめ、その報酬はメリット(成功報酬)システムによること
  7. 組織を全面的に見直し、営業強化に資する体制であるか否かを確認すること、すなわち役員の配置あるいは管理職の配置において適材適所であるか否かを全社的に改めて検証することをも含む
  8. 社長は何事についても責任者を指名し、且つタイムリミットを設定し、これを厳守させること
  9. 会社再建に力を発揮し得ない役員や管理職者には、現在のA社の力においてポストを提供し得ないことを知らしめること
  10. 技術者を適宜営業第一線部門に配置すること
    営業部門、セールスマンに技術教育を実施すること
  11. 全社部門から選出した再建策策定委員会を発足せしめ、2週間以内に昭和●年、●年度の採算分岐点を確定させること
    (それは年間250億円を超えるものと目されるが、A社と比較して、何が故にかかる高額の採算分岐点となるかを分析することをも含む)
  12. 上記委員会において、1月後の役員会に付議できるよう、A社自力再建策を社長に答申させること、就中その中には昭和●年度に採算分岐点に到達さしめる上で、人員合理化が必要であるか否かを必ず答申させること
    (時間厳守)
  13. 全管理職者、あるいは一般社員有志に対してA社再建の私案を書面にて募る旨公示すること
    (社長宛親展とし、時間厳守)
  14. 再建策策定委員会の社長宛答申を役員会にかけ、必要な具体的施策については昭和●年度内に実施に移すこと
    (遅滞は許さぬこと)
  15. 管理職者へ権限を委譲すること
  16. 成り行き任せの経営を打破するために、役員を含め会社の隅々まで厳正なる信賞必罰の態度を以って臨むこと
  17. 社訓・社是を見直したうえ、事業所内各所に掲出し、毎日の朝礼において、役員・管理職者はもとより全社員に唱和させること
    (見直しに当っては、A社再生の祈願を込めて当ること)
  18. 朝礼を毎日励行し、発言者を特定の者に限定せず、主催者が適宜に指名して、全社員が絶えず会社のために何を為すべきかを主体的に考える習慣づけを行うこと
    尚、役員はどこかの朝礼に必ず出席すること
  19. 人事考課結果を賃金に反映させること、すなわち査定制度の導入を早急に検討し実施すること
  20. 社内報を最低毎月1回発行し、経営意思の浸透を図ること
    (必要あれば連日にわたることもいとわぬこと。社員の大半にA社再建にかける会社の真意と思想が誤りなく伝わるようになれば、左程頻繁にわたらずとも自然と用をたすことができるようになってくる。)
  21. 管理職者の意思統一を図り、経営情報を適宜に流すために管理職者対象のニュース媒体を設け、適宜に発行すること
  22. 業務の外注化、他者のもっているノウハウの積極的取り入れを心懸けること

 

 

 


<2> 経営姿勢を正すために

 

  1. 役員は一般社員、管理職者よりも毎日少なくとも30分早く出社すること
  2. 役員の退社は原則として部下が退出した後とすること
    (社員の出退勤、精勤度はこれだけで相当程度改善されよう)
  3. 経営・管理とは看ることにはじまること
    部下の働き、気働きに絶えず気を配り、褒め、叱り、そして叱咤激励することを忘れてはならないこと
  4. 前日遅くまで仕事をしたからといって翌日遅く出勤することは許されないこと
    まして前夜深酒したから……などという遅参はもってのほかであること
  5. 愚痴や批判を社員に語ることはしないこと
    (社員から軽くみられ、軽蔑されるのが落ちである)
  6. 役員は営業日にはゴルフを行わないこと
    (金が惜しいからではなく、時間が勿体ないからであることを明言しておくこと)
  7. 万已むを得ず接待ゴルフをしなければならないときは、月曜日、金曜日、祝祭日の前日と後日を避けたうえ、社長の許可を得たうえで行なうこと
    役員はその報酬の1割を辞退すること
  8. 月間行事予定表を作成し、全社的にこれを知らしめること
  9. 役員は毎日の行動・所在を具体的に予め明らかにし、即時に連絡できるような態勢にすること
  10. 役員は外出した場合には少なくとも2時間おきに会社に電話を入れ、用向きのあるなしを確認すること(糸切れ凧は認めない)
  11. 役員は率先して経費の削減に努めること
    役員専用車を廃止すること
  12. 特段の理由のないグリーン車は利用しないこと
  13. 業者からのリベートの有無につき実態調査をすること
    もし規律違反の事実があれば3年前にさかのぼり即時全額返済させること
    尚、本日以降同様の所為に及んだ者は、背任横領を理由として告訴をする旨を社内に明確に宣言すること
  14. 何事によらず責任者を明確にし、オンタイムで仕事をさせること
  15. 役員はA社が再建会社であることを常に忘れず、社員の行動の範を示さなければならない。行動を正すことが即萎縮管理に陥いることになってはならない。萎縮してしまっては企業の生命源でありバイタリティを喪うことになるので、左様な事態にならぬよう工夫すること

 

 

 


<3> 管理職者の意識改革と能力再開発のために

 

  1. 役員に対する教育を進めた後、管理職者に対する教育を継続的・徹底的に行なうこと
  2. 管理職者に目標管理システムを修得させ、実践させること
  3. 係長あるいは主任に対して実質的権限を一部付与し、責任を自覚せしめること
  4. 各階層別あるいは各部門別の管理職会議を制度的に設営し、効果的に運営するよう取計うこと
  5. 管理職者につき定期異動を励行すること
  6. 管理職者の能力・適格性を年1回必らず全面的に見直すこと
    適格性を欠く管理職者についてはその都度降格すること
  7. 管理職者に責任と能力に相応しい待遇を付与すべく、賃金制度・賃金体系・資格制度につき早急に検討を加えること
  8. 全社共通の認識に立って判断・管理を行う上で、営業現業部門以外の管理職者は、新たに出勤させる土曜日を中心に最低月2回は営業応援を実践し、実体験すること
  9. 会議は営業活動に支障を生じさせぬ時間帯・日時に設営するように心懸けること

 

 

 


<4> 営業の増進及び士気向上のために

 

  1. 営業部門の質的向上を図るのが急務であるので、接遇訓練をはじめとする営業基礎・専門教育を開始し、持続すること
  2. 代理店経由の販売高を策定し、その半期毎1割増を期する施策を具体的に緻密に立案し、直ちに実行に移すこと
  3. 押し込み販売、すなわち架空売り上げを厳禁すること、これを行った責任者については懲罰的人事異動を行うこと
  4. 毎日の売上げが各職場で発表できるようデータ作成をすること
  5. 営業成績向上のために、毎朝一定数の電話を必ずかけさせること、定型的な電話や宿題の電話の外、新規の営業開拓電話を必ず数本含ませるようにすること
  6. 顧客への訪問回数を増加すること、これを組織的にすすめること、行きにくいところへ意識的に訪問すること
  7. 全社員がセールス活動に注目を払うよう、営業応援を計画し実施すること
  8. 全社員にホーレンソーを忘れないよう徹底すること
  9. 不良社員とは上司を疲れさせる社員のことである。裏切る者、背信の者等々の不良社員を牽制することを忘れず、絶えず攻めること
  10. 毎日営業日報を提出させること及びこれの効果的活用を図ること
    (営業日報と日当・交通費の精算が同一の書類様式となっているよう作成することも一案)
  11. 各部門責任者は営業報告書を毎月提出すること
    営業報告書は計画・実績・次の期間の目標・それを達成する具体的手だてを明らかにするものであること
    尚、営業報告書は書式をつくり、簡にして要を得たものとすること
  12. 営業行動基準、標準作業を作成し、合理的、効率的な営業活動の展開を図るようにすること
  13. 各部門別、各支店、各営業所別に5日目毎に営業成績を集計し、それぞれの予算達成度を公表すること
  14. 営業会議を各セクション毎に毎週定期的に開催し、戦略戦術を議し、適宜決定すること
    その決定事項は必ず議事録に留め、次回の会議においてその進捗状況を確認すること
  15. 毎月5日までに作成された月次報告書をもとに、社長が主催して月次業績検討役員会を毎月10日までに開催し、当月及び翌月の取り組みを検討し、重点施策を具体的に決定すること
    責任者への示達と報告を怠らぬこと
  16. 代理店をブロック別に組織化したうえ、貢献度を基準として処遇に差異が生ずるシステムを導入すること
  17. 社内に競争意識を植え付けるべく、営業実績に功顕著の部門、あるいはセールスマンには然るべく(相応の)褒賞を行う制度を設け、実施すること
    但、刺激給政策をとることは不可
  18. 出勤状況良好な者については一定の基準を設けて然るべく(法に抵触しない範囲内で)褒賞する制度を設け、実施すること
  19. 工事は全面的に外注に委託するよう取計うこと
  20. 外注工事単価は小型外注10%カット、大型外注30%カット、平均20%カットの方針で直ちに対処すること
  21. 資材購入単価は10~20%カット、平均15%カットの方針で直ちに対処すること
  22. 全事業所に対して速やかに業務監査を実施すること

 

 

 


<5> 非常事態に即応する労働条件の設定

 

  1. 労働条件の改訂に当っては、それ以外の再建策の改訂如何と併せ検討し進めること
  2. 営業日を増設すること
    全土曜日を営業日とし、とりあえず全役員全管理職者を出勤せしめること
  3. 一般社員については年間所定労働時間を2050時間以上とすること
  4. 残業手当の削減を図るべく労働組合の合意をえた上固定手当制を導入するとともに工事部門の外注化を徹底すること
  5. 再建に支障がある労働協約事項については、組合に積極的に改訂を申し入れ、已むを得ないときは廃棄する手続きをとること
  6. 経営陣の意思力の強靭さ、再建への不退転の覚悟を浸透させる姿勢を示すこと
    すなわち、組合に態度表明するに当っては、真摯に取り組み、最善の案をまとめ、一発回答方式を旨として提示すること
  7. 労組に対する説得活動には役員・管理職者は一枚岩で当ること、ときに社長自らが当たることも必要であること
  8. 争議は好んではならないが、経営の意思を貫徹する上で避けられない争議については断じて惧れないこと

 

 

 


むすび(進んで困難に挑戦すべし)

以上の提言は、A社に企業らしさをとり戻す、すなわち健全な企業に復元させるために最低限必要不可欠であると考える施策を示したものである。
だが、これら施策に入魂させる、すなわち実践は一に懸って新経営陣の精神力・人間力にかかっていると言ってよい。
いずれもA社の現状を考えるとき容易ではないことは充分承知している。
しかし、最早困難であるとか難しいとかいって、A社が直面する問題・課題から逃避をすることは許されないのである。逡巡して困難な命題の解決を1日、1日と先にのばしてみても却って困難を一層深めるばかりであることは否定しようもない事実である。
もとより現状を守ろうとする本能から発する労働組合の抵抗は考えておかねばならない。しかし、それを恐れてはならないのである。労働組合は自らの力で企業再建を果す役割を担うことができない存在である以上、企業はその責任においてこの役を果たさなければならないのである。
企業が健全であることは即社員の幸せに繋がるということを固く確信し、至誠天に通ずの気概をもってことに当たるべきである。
再建を実現した会社は、それぞれに困苦・苦汁を味わって、漸く勝利の果実を手にしたのである。A社もその灯を消してはならない。困難を克服したときの杯を手にすることができたとき、人は峠に立ってものをみる喜びにひたることができる。

以上


追而

尚、毎月1回定例日に本提言に対する経過実効報告が受けられれば、更に現実的な提言をなし得よう。
技術、生産部門ほかに係る提言は、今回は時間的事情もあって割愛した。又の機会に纏めてみる所存ではある。

 

 

第6回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年4月17日(金)東京都千代田区北の丸公園にてノゲシを撮影
花言葉「悠久、追憶の日々」 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

(3)営業のパイプを太くすべし

  1. 積年の弊風からA社と顧客との間を繋ぐ営業パイプは細く、且つひびが入り枯れかかっている。これを健全企業並みの太さに回復し、復元させることは容易なことではない。なぜならば、永い間A社は顧客の不信を買い続け、しかも現在市場は低成長時代ということもあって、冷却し、低迷を続けているからである。その上A社は単に既存の営業パイプを太くするだけでは事足りないのである。
    今までに数多くの有望な営業パイプを自らの至らなさから破壊してしまうという愚を犯してきてしまってもいるからである。積極的に新しい営業パイプを獲得し、敷設していかなければならないという課題もある。

  2. それにはどうするか。

    受注した仕事を果すに当って、真心のこもった誠実味のある仕事の積み上げをひたぶりに行なっていくことである。このことをおいてA社を愛するより多くのお得意様の支持を得ることも、またそれらの支持を介して多くの世間の人々との人間信頼関係を打ち立てることも不可能といってよい。A社ファンの増加を仕事を通じて図っていかなければならない。
    A社製品を使用していただくことの感謝の念と半ば同質のものではあるが、代理店・顧客への気遣い、気働きも極めて大切なことの一つである。例えば、A社の主催するあるいは後援する何かの会合が終って散会となったとする。このとき、A社マンは参加者をまず見送ってから帰るべきである。いかに都合があって帰路を急ぐことがあっても、参会者を心から見送ることをせずに、先にそそくさと帰るようであってはならない。万やむをえず先に帰らなければならないときは、その理由を述べ、心から詫びる気持を表わすようにしなければならない。参会者は自分がA社から大事にされたことを知り、心和むのである。些細とも思われるこのような気配り、心遣いが、営業のパイプのヒビを次第に埋め、やがて中に溜った澱を流し、太く、滔々と音立てて流れる営業パイプをつくりあげていくことも忘れてはならない。

 

 

(4)ホーレンソー(報・連・相)を実践すべし

 

  1. (ⅰ)A社の役員、社員の行動のペースは、他者のそれに比べて大変スローモーだという定評がある。企業人としての反応が鈍いということである。

    何事によらず競争に負けない、競争に打ち勝つということは、平衡感覚とともに力動感、推進力、スピード感覚があるということである。A社は力動感(ダイナミックさ)、スピード感が全社的に欠けている。

    これは、直接の担当者がどうのこうのというより、“社風”が自ずと各々の仕事振りに表われている証左とみるべきことなのである。トップや労務担当者が常に気魄ある仕事をしている会社は、商売においてとろい同左をしようにもしようがないのである。

    百年兵を養うは只一戦に賭けるにありとかという軍隊語録があるが、企業においては毎日毎日、一つ一つの仕事が勝負なのである。油断は禁物である。

  2. 再建会社たる今日のA社は、いってみれば断崖絶壁に立たされているのであるから、猶予は最早ない。即時に前進・展開する姿勢がとられなければならない。

    例えば、外部・顧客から電話がかかってきたら即時に応答し、即時に反応しえないような場合でも、遅くとも1時間以内に的確に応答できるように社内の情報管理を練磨しておかなければならない。ところがA社は商売に直接係わる事柄でも、再三催促されなければ仕事をしないという弊風に全社が覆われているといっても過言ではない。

    「仕事に追われるな、仕事を追え」といった姿勢で全社員が毎日の業務に臨むことが必要である。社員一人一人に自分が一体何によって生活の糧を得、職場を得られているかという基本認識をキッチリと教え込んでいないことの結果と知るべきである。

  3. ポパイの超人的な力はホーレン草から、経営の力もホーレンソーからということを忘れてはならない。仕事をなすに当って「報告・連絡・相談」を常に怠るなということである。

    A社はこの点においても甚しく欠ける面がある。

    企業は内外の関係者との意思疎通、理解、納得、信頼を勝ち得てこそ、しかもそれが幅広く濃厚なものになってこそ所期する活動を実現し得るのであるから、この情報管理において根幹をなす報告・連絡・相談を欠き、あるいはその的確、迅速さを欠くということは、取りも直さずA社が感度不良あるいは情緒障害に陥っているとさえいえる。

    打てば響くす早い反応、あるいは適宜なレスポンスがない人間は、いくら人間的によいところがあるとしても商いには適しないといってよい。

    A社のことを気がかりとしている全ての者を苛立たせ、疲れさせ、反撥させ、遂にはA社から離反させることのないよう、報告・連絡・相談を的確に行なうことが必要である。それにはまず役員間、管理職者間の意思疎通を効率よく実現することが肝要である。

  4. A社は関連先に対して今までの無礼、不義理について罪の意識をもち、詫びる心をもって、今日から迅速・的確に報告・連絡・相談を夫々の職場で実践していくことが必要である。

    方針が明確に打ち出され、報告・連絡・相談のルールが確立し、スムーズに情報が流れるようになって、各々の仕事が真に繁忙を極めてくるようになれば、「俺はその話は聞いていない」とか「俺の方に先にその話をもってこないのはケシカラン」などと怒る手合いは自然と力を失い、消え去っていくものである。

 

 

 

(5)感謝の心を忘れないようにすべし

 

  1. A社の役員・管理職者は、今まで楽な商売をしてきただけに感謝の心が足りないとみられている。要するに苦労を重ねて地道に経営を築いてきた経験を社員共通のものとしてきていないからである。利益という物的成果を究極において目指す企業といえども、生身の人間の心を介して発展するのである。このことを看過して、傲慢に振舞うようなことがあってはならない。

    「楽は苦の種、苦は楽の種(水戸光圀)」、この格言程、破綻に瀕した企業の有様の一面を如実に物語るものはない。事実、当事務所がお手伝いをすることになった再建会社の殆んどは、曽って僥倖にも(?)努力せずして楽なあぐら経営ができたところであり、その慢心と油断が昂じて没落の憂き目に合い、土壇場に差しかかって、死ぬ程の苦労と努力のもとで、僥倖にも(!)会社を建て直すというプロセスを経ているのである。禍福は糾える縄の如しとはよく言ったものである。

  2. 企業に限ったことではないが、「ありがとうございます」という感謝の意を折に触れてことばに表わすことが大切である。書状を送るのもその一つであるし、電話においても(当方からかけた場合でも、先方から掛かってきた場合でも)、電話を切る直前に「ありがとうございます」と一こと付け加えることを、全役員、全社員に徹底させることは大切なことであり、又、商売において極めて効果のあるマナーである。

    また、女性社員には、外から電話がかかってきたら最初に接受させることと、社員からの電話であるときは、「お疲れさまです」「頑張って下さい」の一言を加えるよう教えておくべきである。

  3. 再建過程にあるA社は、交際費や接待費を世間並みに切ることはできない。営業上において苦しい立場に陥いることもあろう。しかし、現実は如何ともし難いのである。経費節減の折柄、営業上必要とする接待も十分にできないことは残念なことではあるが、そのことを率直に開陳して諒解を求めれば、相手先も大方は企業に所属する人であるから、殆んどは了解して下さるに違いない。勿論感謝の心を留めておき、A社が黒字になった暁にはいの一番に具体的に感謝の念を形にして表わすべきことを忘れてはならない。

    「喉元過ぎれば熱さ忘れる。」多くの者が陥いる盲点を直截に指摘する諺である。

 

 

 

第5回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年4月12日(日)7:30 東京都文京区根津神社にてツツジを撮影
花言葉:「節度、慎み」 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

(2)黒字化へ向けて一路邁進すべし

  1. 利益を着実に確保するためには、確固たる目標を設定しなければならない。その目標は、最終的には構成員一人一人に具体的に割り付けられなければならない。またその達成度をなるべく細分化して、定期的に頻繁に公開するように配慮しなければならない(EDPの利用)。もちろん当初から赤字予算の計画を立てる等は論外とすべきである。石に噛り付いてでも、ときには蛮勇をふるってでも、昭和●年度には少なくとも収支の均衡を回復することを大命題として貫徹しなければならない。

     

  2. そのための具体的施策を直ちに、全社組織をあげて取りまとめ、実施に移すことが必要である。

    「3年後には黒字にする」とか「各部門の意見や事情をよく聞いた上で」とかいった悠長で容易な“官僚的”姿勢では、管理職者、社員の意識改革は容易に果たされず、赤字体質から脱却しきることは到底不可能となろう。親方日の丸の公務員ですら、今日そのような対応では生きのびられなくなってきているのである。どだい今後3年間に世界経済、日本経済がどのような変化を示すかは誰も予測できないところであり、ましてや将来に何らの保障もないのに、3年後に黒字化を期待するなどということを述べることは、無責任という範囲を超えて不真面目な計画といわれてもしかたのないものである。

    昭和●年度には必ずA社を黒字にすること、少なくとも収支均衡に持ち込む(例え僅かではあれ黒字になる)計画を直ちに策定する必要がある。このため、全社をあげて役員会に直結する「再建策策定委員会」を組織せしめ、1カ月後の答申を厳命して作業にかからせる(人選を誤らぬこと)ことが必要である。

     

  3. A社は従来商売上の“人間(信頼)関係”で勝負せずに、とかく安売りで勝負してきていると言われている。安売りで勝負することを旨とするから、安かろう悪かろうの評に繋がることも、又、そういわれることも当り前として感じてしまう。それではいけない。今日からは人間信頼関係を基調とする商売の道を歩むとする思い入れが必要である。安かろう悪かろうは単に商品にとどまらずA社の企業それ自体、社風をおとしめることになる。

    信じて頼られる関係は、相手の身になって商売するということである。単に商売の面だけで相手の身になっていたのでは、本当の信頼関係は生まれてこない。相手の身になって考えること、すなわち、相手の悩みや欲求に応えること、相手の全人格に配慮する思いやりがあってこそ、真に持続的な営業基盤が確立されることを忘れてはならない。

    商売においては商品を売ることを通じてA社という会社の精神を売るという思い入れが大切なのである。勿論、商売であるから、短期的であれ、長期的であれ利のないものへの思い切りも大切とすべきである。

     

  4. A社は現在、そして将来に亘って売上増を図り、利益増を図らなければならない。そのためには地道な営業努力、すなわち社会的信用を一歩一歩築き直していく営業努力を着実に積み重ねていかなければならない。

     

  5. それには、全社員が自ら率先してこれに当つてこそ、社員の士気をよく鼓舞することになる。また、A社は様変わりをしたと代理店やユーザーを感動させることにもなる。役員が社員の勤務時間中にゴルフに行ったり、遊びの話などで悦に入ったり、新聞を漫然と読んでいたり、ロータリークラブなどに出向いてエリート意識をひけらかしたり(ロータリークラブそのものがどうこういう訳ではなく、本業を疎かにしてはならないという意味である)、あるいは昼日中からうたた寝などをしていて、どうして社員が業務に真剣に取り組むことができるであろうか。

    儲けるとは信ずる者をつくると書く。社員を信じさせることができずしてどうして顧客をつくり、商品を信用して頂くことができようか。役員たる者、今日只今からA社の営業日にはゴルフはしない、社員に弛んだ姿勢はみせないといった極めて当り前の事柄を実践し、日々営業に対して全力投球をしている姿勢を眼の当りに社員に示さなければならない。仮に営業日にゴルフをする必要があっても、その見返りは仕事において必ず実現しているという実績がある者については、社内からとかくの批判は発せられないものである。

     

  6. 全役員が営業に従事しなければならないということは、何より経営は「販売即経営」そのものであることを体感する必要があるからである。販売のないところに企業は成り立たないのである。売り上げがあがるとは、A社の製品が社会の求めるニーズに応えることができたという証である。売上げをあげるには、一体社会のニーズがどこにあるかをA社の全社員が知らなければならない。自ら営業に当たって、その労苦を味わってこそ社会的なニーズを体感することができる。その体感の上に明日を目指すA社を再構築するのである。方向違いな感覚で再建にとり組む愚を重ねてはならない。かくしてこそA社の健全化への道も誤りなく築かれていくのである。

    斯かる点から、全役員が営業に従事することは、単に社員の士気を鼓舞するだけにとどまらず、自らの経営能力をより高めることにも繋がるのである。

     

  7. 社長、会長は率先して全国の代理店・取引先、末端のユーザーを、くまなく、黒字が定着するまで訪問し続けなければならない。世間はA社の社長、会長だからといって甘えを許してはくれない。ユーザーは神様であると思わなければならない。

    訪問先の始業時刻にあわせて、担当セールスマンと共に訪問し、A社の変わらぬ愛顧と新規取引を要請するのである。決して行きやすいところだけを訪問してはならない。叱られ、苦情を言われることに耐え、その屈辱や助言を経営改革のバネにしなければならない。セールスマンはそれを見て育つのである。

    取締役のうち近々退任させる予定の者とか、どうしても長期間席を外せない業務分掌をあずかる一、二の取締役を除いては、担当地域を必ず割り当てなければならない。(担当地域をもてない役員でも月何日かの短期期間出張は可能なはずである。)

    勿論それらの者は直接現地に赴き、販売第一線において陣頭指揮に当たらなければならない。役員が体を張ってセールス活動に徹すれば、顧客はその情熱に自ずと感じ入り、それが自然に営業成績につながり、黒字化へとつながるのである。セールスマンもその意気込みを体感し、多言を要しなくても夫々に活動しはじめるようになる。要するに役員は第一線のセールスマンたれということである。

    因みに、今までにこの方針を断行した再建会社の全てにおいて、陰日向なく実践した者と、要領を決めこんで逃げを打った者との間に、その後雲泥の差が生じた実績があると聞いている。

 

第4回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年3月29日(日)7:26
東京都目黒区中目黒公園にてハナモモを撮影
花言葉「人柄のよさ、恋のとりこ」 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

2.反省と実践

 

(1)利益追求に執念を燃やすべし

  1. 働くことに真剣であれということは、まず地道な商売を通じて利益をあげることを目標としなければならないということである。なぜならば、利益をあげてこそAの存在が社会的に認知されることになるからである。そのことは、社員の働き甲斐、生き甲斐につながることになる。赤字続きで、明日のことを明るい気持で人に語ることのできない企業において、どうして社員が生き甲斐や働き甲斐を得ることができようか。
  2. 社員は単に賃金労働者として賃金さえ多く貰えればほかは何もいうことを考えている存在ではない。
    「人はパンのみに生きるにあらず」、たった一つの生命を働き甲斐、生き甲斐、すなわち社会との融和を求めて、日々の労働に当たろうとしている存在であることを忘れてはならない。
  3. 損失を計上し続けていては、Aの社会的存在意義はなくなる。それでは社員の毎日の労働はいわば徒労に終り、残るのは疲労と不満ということにもなるのである。
  4. 企業経営をなす役員たる者、黒字を確保することに執念を燃やし、これの実現に全責任を負わねばならない理由がここにこそある。利益追求は元々私欲に端を発しながら、ここにおいてその域を超え、利益追求を通じて社会との関連、連帯を実現し、人間性を顕現させるという大義を実現しているのである。
  5. 企業経営において、実業を通じて利益を実現することは経営者の最大の責務であり、名誉と心得なければならない。この責任を果たす上で、まずこれまでAは利益追求にひたぶりに執着したことがあったかを真摯に省みてみる必要がある。
    今日までの採算の○○法改正や高度経済成長という外的条件に安易によりかかつて、自らの経営改革努力を怠り、成り行きで利益をあげてきたこと、すなわち安住・惰眠を貪り、経営努力を尽くしてこなかったことにAの今日の悲劇があると広く指摘されていることが、見当違いな誤解であると言いきれるかどうかを虚心になって検証してみることが必要であろう。
    己をも冷徹に見据える目があってはじめて明日を見つめる目が冴えてくるのである。視野狭窄は人にあっては一人を歩行困難とするが、マネジメントにおいては経営そのものを誤らせてしまう。
  6. 端的に言えば、Aの現状は倒産会社のそれであるということである。社長交代は何よりもこのことを雄弁に物語っている。破綻に直面した再建会社であるという厳しい現実直視の自覚を欠いては、ここで提言する方策すらその意味を正しく理解しえないこととなろう。
  7. Aが赤字に陥った理由を上記した点に求めず、例えば労使関係が正常でないとか、組合が強いとか、社員の動きが悪いとかなどの理由を挙げて、殊更弁解する者がある。しかし、これは冒頭に掲げた史記の名言「敗軍の将兵を談ぜず」を掲げるまでもなく、弁解に値しないものである。
  8. 労働組合の幹部となっている諸君も、Aがあるとき将来を見込んで採用した人物である。ここにAの責任がはじまっている。自ら採用し期待した社員に経営陣がいいように振りまわされてきたということは、どう抗弁しようと人格、識見、手腕、力量において組合幹部諸君らの方に軍配が上がっていたということである。組合幹部にリードされる経営陣は、世間から笑われても、尊敬や同情はされないことを知るべきである。
    新社長は組合委員長に勝る人格、識見、手腕、力量をもってよく社員を説得し、社員の信頼を獲得しなければならない。企業を維持し、職場を確保し、毎月賃金を支払う責任を負っている経営者においてこれができないということは、己れの力量を恥じいるべき事柄ではあっても、組合に責任をなすりつけ、転嫁しうる事柄ではない。
    同様に、一般社員の無能さや働きの悪さをあげつらうことも、役員としては天に唾することになることを知るべきである。
  9. 経営陣が、Aがここにまで至った原因を心静かに、謙虚に反省し、翻然として自らの非を悟られるならば、A建直しへの執念、利益追求への挑戦の火はそこにおいて自ずと燃え上り、その火は同憂の社員諸氏の胸にも伝わって燃えさかることになるであろう。「徳は孤ならず」、必ず志を同じくする社員が立上ってきてくれることを信じて疑わない。

 

第3回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年3月15日(日)7:25 東京都渋谷区代々木公園にて
サンシュの花を撮影
花言葉:「持続」「耐久」 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

(2) 役員は団結すべし

 

① スポーツ、宗教、軍隊……いかなる組織であれ、その存亡の危機に直面するや、リーダーは異口同音に、そして大抵は無意識に「打って一丸となってこの難局を乗り切ろう」と呼びかける。いわばこのことばは組織体の生命、根源にかかることを表現しているのである。

営利を目的として組織される企業においてもこのことは全く同じである。

「この難局」とは、企業が破綻に瀕しているということであり、「乗り切ろう」とは、企業に健全さ(黒字体質)をとりもどそうということを指す。その手法はといえば、「打って一丸となる」となることにある。

 

② 斯かる点からして、企業の人格体をなす役員たる者は企業の発展を期してよく討論し、よく議論しなければならない。平時であっても、並び大名よろしく何ら建設的な意見を表明しえない者はおよそ役員たるに値しない。まして再建という難業に直面している企業の役員においてをや、である。私心に基盤を置く意見を述べる者もまた役員たるに値しない。斯かる点においてトップは各役員に意見を開陳させる度量と衆愚に陥らぬ指導性をもたなければならない。

また、役員は、議して決したところに従わなければならず、決したところを時機を逸することなく断行しなければならない。

我見にとらわれる者、面従腹背の者はいずれの部位においても有害無益とされようが、最高意思決定をはかる立場にある役員のポストにおいては殊のほか排除されなければならない。

 

③ 社長たる者はよく聞き、よく決し、それを自らが、又部下を駆使して果敢に実行に移さなければならない。社長に決断力、洞察力、統率力が求められ、信賞必罰の姿勢が殊に当たって顕示されなければならない所以は、一に企業の盛衰がここに懸っているからにほかならない。

 

④ 全社員打って一丸となるためには、まず以て社長のもとに役員がよく連帯し、決定事項を時宜を得て効果的に実践することが求められるのである。

役員間に軋轢や抗争があるようでは全社員の心を一つにすることなど夢の又夢と知るべきである。

 

 

続く

 

第2回 A社自力再建の指針に関する助言


 

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2015年2月25日(水)11:29 東京都千代田区三番町にて
菊を撮影(花言葉:高潔、わずかな愛)

 

 

※ 3月6日(金)より、数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載しています。3月6日(金)付記事からお読み下さい。

 

 

1.意識改革の断行

(1)何はともあれ、全社員、就中経営者・管理職者は率先して真面目に働くべし―従来以上に商売のために歩くこと、手を動かすこと、頭を回転させること―

①  いうまでもなく労働の価値はその者の精神的な充実の程度如何にかかっている。要するにやる気、士気である。責任感である。これは一般社員にも要求されるが、殊に会社そのものを体現している役員において強く求められる。

Aのために自己の全てを賭けて真剣に働く態度、気持を常に持ち続けなければならないことはいうまでもない。愛社心を一般社員に求める以前に役員自身が熱い愛社心を体現していかなければならないのである。

しかるに、Aでは従来この点が同業他社の経営陣に比べて稀薄ではなかつたか。そうでないとしたら、Aは今日このような破綻にまで瀕することはなかったであろう。「敗軍の将兵を談せず」とはいうが、同じ失敗を二度とAにおいて繰り返さないためにはまずこのことを教訓として肝に銘じておく必要がある。

 

②  真剣であれということは、従来以上に真剣であらねばならないということだけではなく、同業他社に負けない真剣さ、ひたぶりさが要求されるということである。否、すでに市場競争からなかば落伍し、同業他社から競争相手とも認められなくなってさえいるAを再建し、いつの日か必ず業界トップの○○社や△△社に比肩しうる地位にまで企業体質を強化させようと希求する限り、これらのものに勝り、凌駕する日々の業務展開に関する真剣さ、真面目さが要求されるのは当然である。

要するに、自らの生命を賭してでもやり抜く真剣さ、愛社心がなければ、再建という偉業は到底実現しないと覚悟すべきなのである。生半可なことで男の大事は決することはできない。企業競争に勝つ抜くためには、決断と忍耐、そして時機を逸せぬ勇気が殊のほか必要なのである。

 

③  しかし、これは口でいう程容易なことではない。

習い性となるという言葉があるが、永年の甘い、安逸な習性を一挙に打破することが容易でないことは誰しもよく承知していることである。

それ故、単に「真剣に働かなければならない」といった謳い文句を漫然と掲げるだけでは効果がないことは目に見えている。

そこで、一見辛辣とはなろうが、トップ自らがその実現を期さなければならない「真剣な仕事の進め方」のイロハとその具体的な規律・方向付けを傍目八目の立場からあえてここに提言することとする。

この中で、例えば「役員は一般社員はもとより、管理職者よりも長時間、真面目に働かなければならない」といったことを改めて述べる理由は、A社にとつて今取り組もうとしている自律再建が最後のチャンスであること、そのタイムリミットはここ1年半いないという極めて短い期間しか残されていないという基本的な認識のもとに発想せねばならない事態におかれているからである。

このタイムリミット内に再建の実効を果たし得ないときには、A社はその生命を閉じるということを、全社員の、そして何より全役員の肝にたたきこんでおかねばならない。

 

④ 役員が真剣に経営に取り組むようになれば、自ずからその姿勢からにじみ出る気魄・迫力は管理・監督者を介して社内の隅々にまで浸透し、全社員が見違える程に変貌を遂げることは間違いのないことである。又、これにはトップが真剣であればある程、長い期間を要しないことも経験則から間違いのない事実である。

要するに、全役員が全智、全能、全力を賭けて、必死に社業挽回に取組み、A社 の再建を完遂するか、はたまた今までの惰性のままにA社の落城を役員の資格においておめおめと看取るかは、残された1年半、約500日の去就に全てがかけられているのである。

役員が「えらい人」といわれるのは、えらい(苦しい、つらい)仕事をする人であると観念すべきであり、そうであるからこそ人に尊敬される、「えらい人」と称されるのである。義務を果たさずして報酬や尊称だけを受けようとしても、世人の目はごまかせないことを知るべきである。

 

続く

 

第1回 A社自力再建の指針に関する助言


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2015年2月25日(水)8:25 東京都港区麻布十番1丁目にて
ヒメキンギョソウを撮影
花言葉:私の恋を知って下さい 

 

 

今回から数回に分けて、私が過去に顧問弁護士を務めたある会社の経営危機打開のため、私が社長宛てに提出した再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を、掲載します。

当時、私が顧問弁護士をしていたA社は、明日をもわからぬ経営危機に陥りました。原因は、事業環境の悪化もありますが、社内体制・人心の緩みとそれに起因する顧客の離反にあると私は判断しました。

そこで私は、社長宛てに再建建白書「A社自力再建の指針に関する助言」を提出したのです。

クライアントから事案解決の依頼を受けてただそれをこなすだけでは、飛び込み相談を相手とする弁護士と変わりありません。

顧問弁護士たるもの、必要ならば、ここまで顧問先の心臓部に入り込んで意見を言えるだけの自信と見識を持たねばならないこと、そしてその為には、できる限り顧問先を訪問して現場の空気を吸い、雰囲気を肌で感じ、その実態を知る努力(人脈・情報網の形成も含め)が必要であることと思います。現実としては理想通りいかなくても、日頃から心がけることが重要でしょう。

実業を学ぶ機会が少ない弁護士ではあっても、企業経営にはこれほど多岐にわたる課題があり、弁護士も、法律の専門家であるだけでなく、ひと通りの経営に係る判断力を備えるべきと思います。

2014月1日17日(金)より、「弁護士の営業」をテーマにブログ記事を連載してきましたが、本助言には、顧問契約に基づいて企業側に立つ弁護士としての、私の考え方が投影されています。「弁護士の営業」ブログ記事と合わせて、お読みいただければと思います。

 

 

 

 

はじめに(A社自力再建の指針に関する助言)

 

A株式会社は、時間が限られていることをはじめとする諸条件のもとにおいて、自力再建(年1割の配当を継続的に果し得る企業体質を再構築する)を図るべく、現在その実効ある再建策を必死に模索している。

 

企業は人・物・金といった要素によって構成されるが、究極において「企業は人なり」と言われるように、A社においてもその生死の去就を決するものは人にほかならない。そして、人の人たる所以は心にある。平時においてさえ欠くことのできない人の効率的な管理を、破綻に瀕した今この時に当ってなおのこと強化しなければならない事態に立ち至っている。

 

勝ち戦さの過程での人心の掌握ではない。敗け戦さ、失意の中での人心の掌握である。難しい課題ではある。しかし、これに勝利しないかぎりA社に明日はない。今までにも数多くの企業が破綻に直面し、その存亡をかけてそれぞれの死力を尽し、その内のいくつかはめでたく再建に成功し、且つその後も隆盛発展を遂げている。その成功の要諦はいずれも再建の過程で社員一同が働き甲斐、生き甲斐を体感して、より気持よく日々の業務に当たることができるように創意工夫し、企業経営を改革していったことにある。

 

A社もこれらの成功例に加わらなければならない。そうでなければ滅亡あるのみである。A社を今日の現状から立ち直らせ、企業としての健全さを取り戻すにはどうしたらよいか。自力再建の課題を果す上で必要不可欠とする労働力の効率的な活用と、労働能率の向上・強化を、タイミングを逸することなく実現するにはどうしたらよいか、これらのテーマにつきマネジメントの視点から改革事項をA社経営陣に直言せんとするものである。

 

直面する事態及び事柄の性質上、歯に衣着せず述べさせていただいた。筆の赴くところ、御無礼、見当違いな段があれば、何卒A社の再起を希求せんとする真意をお汲み取りいただきご海容願いたい。

 

尚、今回は時間的都合もあって、基本的なものに限って述べさせていただいた。

 

続く

 

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