『労働新聞』明るい高齢者雇用の最近のブログ記事

「明るい高齢者雇用」

第28回 独立開業も選択肢―自己実現の理想型に― 

(「週刊 労働新聞」第2174号・1997年10月27日掲載)

 

 企業の高齢者雇用の現状とありうべき方向性をデータを基に概観したが、今回は少し違った視点でこの問題を考えてみたい。

 国民金融公庫総合研究所編「新規開業白書」は毎年様々な観点で新規開業の状況を分析しているが、その中でも新規開業者に占める中高年齢者(45歳以上)の割合が増加しているというデータは注目されてよい。独立開業はだれでも一度は夢見るりそうであろうが、実際にそれを実現している中高年齢者が少なくないようである。91年には24.4%だった新規開業者に占める割合が、96年には34.6%と10ポイント以上上昇している。昨今のベンチャーブームの中では、その話題が比較的若年層に集中しているようだが、中高年齢者の新規開業が着実に増加し、今や3人に1人が45歳以上、平均年齢も40.4歳となっている。

 さらに、下図はそれらの新規開業の目的を尋ねた結果だが、「自分の能力を発揮したい」「定年がない」という理由が上位にきている。企業による雇用の継続が期待できない中で自己実現の機会を求め、年齢による制約に縛られずに仕事をしたいという意思が見て取れよう。これらの結果は、開業分野を元の勤務先との関係で見ると一層明らかになる。商品・サービスと市場・販売先が同じといういわゆる「分社型」が52%、市場・販売先は同じだが商品やサービスが異なるという「絞り込み型」が19%、商品は同じで販売先が異なるという「専門知識活用型」が10%と、約8割が何らかの形で、従前の仕事との関連性を持っている。中高年齢者であれば当然ともいえようが、知識や経験、人脈等を存分に生かして、その延長線上で自分のキャリアを花開かせようとする姿である。

 自身の雇用が企業に保障されないとなれば、また、働く場が与えられてもそれが意に沿わないものであるならば、このような独立開業がむしろ奨励されるべきかもしれない。キャリアを全うしようとする姿こそ自己実現の理想像といえる気がしてならないからである。

「明るい高齢者雇用」

第27回 柔軟な就業機会を―一律処遇の必要なし― 

(「週刊 労働新聞」第2173号・1997年10月20日掲載)

 

 前回に引き続き、企業の高齢者雇用の実相を見てみたい。「高年齢者就業実態調査」は今後2年程度の間に高齢者の雇用を増やす意向の有無とその理由を聞いているが、増やすと回答したのは僅か10.7%に過ぎず、前回調査(1992年)に比べて8.5ポイント低下している。一方、増やす予定のない企業が39.4%と、こちらは逆に15.5ポイントの大幅増となった。その理由としては、「高年齢労働者に適した仕事がないから」「若年・中年層の採用で人手は充足できるから」が上位に挙げられている。

 前回述べたが高齢者の雇用は将来的に不可避といえる。増やさないと回答した経営者は時代認識を欠いていると言わざるを得ない。今こと強い危機感を持ち、高齢者の雇用機会の確保、開発に取り組まなければ企業の永続発展はやがておぼつかなくなるであろう。

 他方、高齢者自身の意識はどうであろうか。総理府が行った「勤労意識に関する調査」では、6割弱が65歳位まで、あるいは働ける限りずっとと回答している。まさに類稀な勤勉性であると言えるが、働く理由もまた多様である。図は各年齢層毎に就業理由を尋ねたものだが、生活を維持するためというのは当然としても、年齢の上昇と共に健康維持や生きがい、社会参加へとそのウエートが変化している。また、複数回答で聞いた「熟年ライフに関する調査」でも生計費を得るためという回答が60歳代前半層では60.1%であるのに、60歳代後半層では34.7%である。

 これらの結果は高齢者の雇用の在り方を考える際の重要な視点となる。すなわち必ずしも高齢者を一律に処遇する必要はなく、本人の思考に応じて、正規雇用や賃金の多寡に拘らない柔軟な就業機会を創出する余地が十分にあるということである。働く理由は、実は個人差であって年齢差ではない。体力の衰え等に配慮する必要はあろうが、ことさらに年齢で区別することはなく、むしろ当然のごとく高齢者が職場にいるという状態を実現する方策がもっと検討されてよい。

「明るい高齢者雇用」

第26回 大企業は研究不足―自社活用の努力を― 

(「週刊 労働新聞」第2172号・1997年10月13日掲載)

 

 ここで高齢者の雇用環境を、いくつかのデータをもとに概観してみたい。わが国の高齢化は世界に比類ない速度で進み、21世紀初頭には労働力人口の約5人に1人が60歳以上の高齢者になると見込まれている。図の通り1996年の労働人口は6,711万人で、このうち、60歳未満が5,830万人を占めている。仮に、将来にわたって現在と同程度の経済規模が維持され、その生産性も不変であると想定するなら、2015年には65歳未満の全労働力人口を充てたとしても既に70万人程度及ばず、2025年にはさらに65歳以上の約半数、400万人を加えてようやく現在の60歳未満の労働力人口と同規模になるのである。

 もちろん、このように単純な計算で労働力を云々することはできない。技術革新は間違いなく進み、従って多くの産業分野で労働生産性の向上がみられるはずである。しかしながら、少なくとも各企業においては、現在と同じ従業員の年齢構成を維持することは、若年労働力が大幅に減少することからも困難であると言ってよい。高齢者を雇用することはまさに歴史的必然なのである。

 しかるに各企業の高齢者雇用の現状はどうか。労働省「高年齢者就業実態調査」(平成8年)によると、55歳以上の常用労働者の割合は従業員数30人未満の企業では19.1%であるのに対し、5,000人以上の企業では8.9%と、規模が大きくなる程その割合が少ない。60~69歳層でその差が甚だしく、零細企業の9.1%に対して大手企業は1.3%と7.8ポイントも開く。

 別の調査によれば、従業員数5,000人以上の企業のうち転籍出向制度があるのが4割以上、また、半数以上が早期退職優遇制度を設けている。大手企業での転身の救助や進路選択の一環という、働き続ける意欲のある高齢者を自社で雇用しないシステムが果たして今後とも維持されるべきなのか。大手企業における高齢者の活用について、その研究不足が指摘されなければならない。

「明るい高齢者雇用」

第25回 最大の国家課題に―待たれる世論の高揚― 

(「週刊 労働新聞」第2171号・1997年10月6日掲載)

 

 高齢者問題は21世紀に向けてわが国最大の国家的課題ともいうべき問題であり、これの前進には国家社会の総力を挙げ、国民一人ひとりがその重大性を認識して日々努力を重ねなければ成果を挙げることは不可能というべきである。この観点で社会世論の面から問題を挙げれば、まず65歳継続雇用は法により努力義務が課せられているのに、総論賛成の後で、何の罪悪感もなしに各論反対が横行することにつき社会世論は何故これを放任するのかということである。社会世論の中で企業が規範意識を持って65歳継続雇用に取り組み、使命感を持って実現せしめるようにすることは、国民一人ひとりがその責任を負う社会世論の重要な役割である。社会世論の喚起を切に望みたい。

 また、高齢者雇用への使命感を有し、先進的に高齢者を大事に雇用する企業の社会的評価をもっと上げるように努力が払われなければならない。高齢者雇用先進企業の社会的イメージの高度化がなされ、社会的責任を遂行する企業の商品、サービスについて社会的認識を深めなければならない。

 さらに雇用流動性への信仰が今や社会世論の中で幅を効かせているが、これへの過信は高齢者雇用を総体として促進するものではない。雇用流動性を高めることが活性化であるとして、高齢者も外部労働市場に任せるべきであるとする議論があるが、これは、高齢者を単なる労働力に還元するだけのものであって、社会的損失をももたらすものである。

 人間は、単に能力だけでなく、企業風土・企業論理を理解して初めて戦力となるが、この企業風土・企業論理をとり払って裸にして、単に労働能力だけを売り物にした時、高齢者はもはや素手で世間と戦わなければならない。雇用流動性への信仰は、高齢者に誠に重い負荷がかかる。

 さて、これまで6回にわたり、末廣毅氏より伺った話を基に連載を進めてきた。高齢者雇用の促進に資するため、様々な障害の排除に取り組む氏の説得力のある問題指摘は、誠に貴重で示唆に富むものであった。高齢者の継続雇用を阻む要因として、企業の姿勢、労働組合・社員全体のエゴ、高齢者自身に関わる問題、世論の4つをあげたが、総じて言えるのは、我々自身の意識の問題、すなわち高齢者をあたかも邪魔者として排除しようとするかのごとき姿勢にあるような気がしてならない。

 超高齢化社会の到来を目前に、高齢者と共生していくのが至極当然であることについて当事者意識を持とうとしない。否、問題を先送りし、忌避しているようにすら見える。明るい高齢者雇用実現のため、単に方法論に終始するのではなく、まず我々自身の意識のあり様こそが問われるべきである。

 今後の人口構成を考えれば、企業活動においても高齢者の存在を無視しては考えられない。一刻も早くこの問題に取り組むことが、熾烈な競争に勝ち残っていくために避けられないテーマであることに気付かなければならない。職場に高齢者がいることが当たり前であって、高齢者と共に働くことが好ましいのだと思える環境を自ら創り出すことが、この問題を解決に導く最重要の方策となろう。

 

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第24回 雇用阻害要因:定年後へ準備を―翌日から働く気概で― 

(「週刊 労働新聞」第2170号・1997年9月29日掲載)

 

 高齢者雇用を阻害する3つ目の要因は高齢者自身の問題である。

 (イ)60歳が近づいても世の中を甘く見ている。定年後のバラ色の幻想に取りつかれた結果は、定年前の「亭主元気で留守が良い」が、定年後は「亭主元気で留守番が良い」になってしまう。一年間遊んで、改めて再就職しようとしても、もはや再就職は不可能という状況になっている。定年に達したら、その翌日も働くといった気構えがないと、とても職を得られないのが実情である。言うなれば、高齢者自身に定年後に対する心の準備が全くないといってよい。そして、日に日に退職金が目減りしていき、不安が高じてくるという状況に陥り、まさにバラ色転じて灰色の人生となってしまうのである。定年に達したから一時楽させて頂きたいといった気分でいる者は、明るい高齢者雇用に巡り合うことはないのである。

 (ロ)人生設計における計画性の欠如が高齢者自身の大きな課題である。すなわち定年前に計画的な対応をする姿勢に欠けているのである。定年後も企業社会で必要とされる人間たるべく努力しなければならないにもかかわらず、健康保持・リフレッシュ・能力開発・自己啓発に努めず、専ら企業に委ねる態度で、会社が何とかしてくれるだろうという気持ちに浸っているのである。

 これは、企業側にも責任がある。在職中から定年後の対策に精出しするのを軽蔑する、定年までに燃焼しきらないと忠誠心が薄いと見るような、いわば「命の切り売り」を強いている。だから、定年後のことを念頭に置かずに定年まで必死に頑張ることになってしまう。定年後の失業状態をどうやって克服するかについて問題意識を持たないまま職業生活を終えるということになってしまうのである。

 (ハ)高齢者は人間関係でも問題が多い。どうしても“威張る”人が多い。過去の権威と栄光にしがみつき、とかく若い者に向かって「お前らは~」という発言をしがちで、職場では、「あの人がいると暗くなる」といった状況を作りがちなのである。だから定年前の研修では、“人間関係研修”こそが一番必要とされる。愛されて、皆様の役に立たせて頂くという実力のある、謙虚な高齢者になることが、高齢となって市民権を得るのに何より必要である。謙虚さを欠き、横柄で皆から嫌われる存在となってしまっては、明るい高齢者雇用がありうるはずがない。

 (ニ)また高齢者は、とかく過去にとらわれて、激変する企業社会の中で遅れをとる。パソコンしかりであるが、そもそもセンスがないということになる。時代はどんどん変わっている。即ち足腰の農業の時代から手先の工業の時代に、そして口先の商業・サービス業の時代に移り、頭脳労働・ソフト産業の時代を今迎えようとしている。さらに“心の時代”即ち“良心・自立心・連帯心・向上心”といったものが要求される時代となっているのに、高齢者は、とかくこの心を失った存在となりがちである。

 古いセンスで、すなわち工業化社会あるいは公務員等の古い人間としてとどまっていたのでは、時代遅れの存在として粗大ゴミ扱いされてもやむをえない。

 

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第23回 雇用阻害要因:若返りが活性化か―労組も“自己保身”― 

(「週刊 労働新聞」第2169号・1997年9月22日掲載)

 

 企業側の姿勢にある障害に次いで、高齢者雇用を阻害する2つ目の要因は労働組合・社員自体のエゴである。制度上の問題以上に大きい障害となりかねないが、組合内部や社員の意識の問題かもしれない。

 (イ)“高齢者を抱える・養う”という感覚自体が高齢者雇用を阻害していることは言うまでもない。要するに、若年者が「自分の負担になる」ということで60歳以下の者の排除をサポートしようとする。労働組合・社員も活用に消極的なのである。

 (ロ)また昇進人事関係面での排除賛成論が根強い。人事ローテーションを図るためには、高齢者は不要である、むしろ障害になるという考えである。若返りこそが活性化であるという信仰は、社員にも根強い。それに労働組合も呼応している。そのことは、団塊の世代自体が、明るい職場には若返りが良いと考え、明日はわが身であることを忘れているということでもある。

 自らのエゴを若返りとスリム化の建前論で正当化する50歳前後の団塊の世代の諸君はあと10年もすればわが身に定年が降りかかってくるのであるが、その時になれば今度は65歳以上の高齢化率が20%を超えることになった現実を声高に唱えて継続雇用の主張を始めるというのであろうか。高齢者雇用はすぐにはできない、時間がかかるのであるから、その時になって始めろといわれても、団塊の世代の諸君には間に合わないことになるのである。

 (ハ)実力主義・成果主義と声ばかりは高いが、内実集団主義の美名の下で年功処遇が横行しているところが多い。その結果、働きのない者がいてもそれなりの人事労務管理上の処置をすることなくのさばらせながら、真に排除すべき者を放置しておき、定年制という無難なスクリーンに委ねて、安易な方法によって排除しようとする。つまり、定年制という便利な伝家の宝刀に任せてそれを持つということである。組合もこのやり方を良しとしているようである。定年で退職させられるのでは組合としても文句は言えぬが、定年前ではどんなに能力のない者でも守らざるを得ない。

 また、継続雇用を組合が要求しても見返りにベアを低く抑えられたりするし、継続雇用の低賃金労働者を抱え込むことで組合としては余り得策ではないと考える向きもあるのではなかろうか。パート労働者の取り扱いについてパート労働者を組合内部に吸収することは得策ではないとする議論が組合内部にあると聞くが、高齢者の問題も組合にとってはこれと軌を一にする問題のようである。すなわち組合は、継続雇用で低賃金労働者を容認することは絶対に出来ないとして高齢者の労働条件の高値安定を要求する。そのことが継続雇用を困難にしても、低賃金労働者や条件劣悪者を抱え込むことで自らの運動の足を引張られることにならず済む方が良いとでも考えているのであろうか。

 能力・体力・やる気に大きな差の出る高齢者の賃金を画一的に高値安定させようという要求は不可能を承知で言っているとしか思えない。ここにも総論賛成・各論反対の世界がある。

 

「明るい高齢者雇用」

第22回 雇用阻害要因:全員退職でスッキリ―賃金制度も未整備― 

(「週刊 労働新聞」第2168号・1997年9月8日掲載)

 

 前回は、高齢者雇用における企業の姿勢にある障害について言及した。排除先行の論理、企業のエゴが蔓延し、多様な人事管理制度が検討されていない状況をまず指摘したが、そこに共通するのは、育成や活用といった視点を全く欠いているという点である。

 (ハ)に挙げた複数処遇のメニュー未整備ということでは、査定制度もその例に漏れない。高齢者向けの査定制度が確立されていないのである。例えば体力すなわちリフレッシュ度、やる気、意欲・自己啓発度といったものを査定項目に導入することが望まれるが、それを実施しようとしない。

 賃金制度も単一給管理で、いわゆる若年者・中年者の賃金の6割とか8割といったような単一基準で運用しようとしている。高齢者向けの賃金制度を工夫しないのである。

 身分・資格は専ら嘱託一本ということで、バラエティーに富む高齢者に相応しい対応をしていない。これはまた、育成とか活用とかという思想が希薄であることを物語っている。

 (ニ)そして職場と能力面からの高齢者対策を確立しない。積極面では、高齢者向けの職務の開発あるいは高齢者に時代に即応する新しい能力を身に付けさせるための能力開発といったものが要求されるし、また高齢化に対する支援策としては、職場改善・教育訓練が必要であるが、このような対策を検討して実施しようという意欲が、多くの企業において欠けるといって良い。一部高齢者雇用の先進的企業においては、この問題について極めて熱心であって、力仕事はできるだけ機械に任せ、ムリ、ムダ、ムラを排し、だれでもが楽に働ける職場への転換を図り、能力面では中高年層の活性化を図る能力開発プランを実行したりして、成功している。

 (ホ)高齢者の保有する知識・経験・ノウハウに対する軽視といったことも甚だしい。専ら新技術のキャッチアップのみが先行し、創造力優先で、知識・経験・ノウハウを軽視するといった傾向が極めて強い。現実には、企業は新技術・情報だけでその盛衰が決せられるのではなく、企業の販売組織・技術・財務、さらには人間関係の総合力によってはじめて、その優位性を保てるのであるが、とかく新技術・情報だけに走りがちなのである。

 (へ)かくして企業において高齢者について、排除の論理のみがまかり通り、育成・活用の論理がないことになるが、実は「手間がかかる・リスクがある」といった障害のほかに、高齢者活用は、社内的に評価されないという状況が根本的にあると言って良い。実例としてこれまで定年後散発的に再雇用をしてきた会社で、今後は一律に再雇用を行わないことにしたことが、むしろ社内的に評価を受けているという話を聞いたことがある。会社が必要とする人材を見限ってでも、無能な定年到達者が労働組合をバックに居残ることがないよう全員定年で退職してもらうのがリストラ面ではすっきりするということなのである。

 企業において高齢者対策をなおざりにすることは、一面において企業の技能レベルの低下、企業の体力の脆弱化にもつながる。それは人間の味がまさに成熟しようとしている時にそれを捨て去ることを意味するからである。

 

「明るい高齢者雇用」

第21回 雇用阻害要因:排除の論理が先行―低い大企業の意識― 

(「週刊 労働新聞」第2167号・1997年9月1日掲載)

 

 高齢者雇用において企業の姿勢にある障害とは、(イ)社会的責任論が通らない、即ち企業エゴが蔓延していることが根本である。高齢者を雇用することには、総論は賛成だが、各論になると競争力を減退させるとして「わが社はそれを回避せざるを得ない」と言って反対する。企業にそれを強く勧めれば、法律による強制を求める。すなわち全ての企業が同時に同一の舞台に上がらなければならない。わが社だけ先行実施することになれば、競争上不利益を蒙ることになる。この様なことを罰則もないのに採り入れるなど経営の任にあるものとしては到底考えられないという。だから、あえて言えば、罰則のない状況では、高齢者雇用問題には企業としてはメスを入れられないということになる。

(ロ)また、企業はリストラを進めている、すなわちスリム化を進めているが、大企業においては、高齢者を排除する論理が先行し切っている。つまり高齢者を“育成”“活用する”という意識を全く欠くのである。若年者のみで企業を構成することが、すなわち活性化であるという信仰すら抱いているといってよい。

“生産性は一人当たりで”という論理を進めるのみで、“高齢者を低賃金で雇用して”という人件費効率の考え方が稀薄である。高齢者については、在職老齢年金・雇用継続給付・社会保険料・源泉所得税を総合的に考えなければ、人件費の生産性は出てこない。

仮に60歳到達時の賃金額が月額50万円の人を定年後月額45万円で再雇用すれば、社会保険料などの負担を入れて考えれば、実質会社負担は年に614万円で本人の取得年額は446万円となる。企業負担は本人の能力・退職を考えれば614万円は厳しいかもしれないが、それでは本人の賃金を月額28万円にした時の社会保険料等を入れた実質会社負担額は382万円となり、これなら何とか負担できるということになるのかも知れない。この時の在職老齢年金・雇用継続給付を含めた本人の取得額年額は448万円となり、月額50万円の時の手取り446万円を上回るのである。

以上の試算は社会保険労務士白沢辰夫氏(ビジネスガイド445号[1995/10/10 )によるものであるが、効果的に国の制度を活用すれば、企業負担も少なく、従って人件費生産性を上げながらかつ本人手取り額も相当額を確保し得る途があることを示している。

(ハ)さらに、高齢者についての人事管理が手抜きの状態にあるといって良い。高齢者雇用は中小企業にも、多くが期待されるが、そこでは現実問題として、細かい処遇管理のノウハウを得ようとしない。即ち企業ニーズと高齢者ニーズのマッチングを行って処遇管理を行うという柔軟な発想で、複数処遇のメニューを用意して高齢者を雇用し管理していくという発想が稀薄である

複数処遇のメニューの例としてはA 社員同様、B 28時間/週、C 22時間/週――の3タイプや、フルタイム、パートタイムの2形態制あるいは半日、隔日、フル3形態など色々工夫されて来ているが、まだまだ一般化する状況にない。

 

「明るい高齢者雇用」

第20回 雇用阻害要因:各論大反対の荒波―組合エゴもひびく― 

(「週刊 労働新聞」第2166号・1997年8月25日掲載)

 

 東京都高齢者雇用開発協会は、高齢者問題の推進のため、企業への相談、指導援助、助成金の支給業務などで東京都をカバーする公的機関である。現在、事務局長以下職員23人、企業訪問などを行う高年齢者雇用アドバイザー33人の陣容。「時は今、継続雇用の65歳」というのが協会のキャッチフレーズであるが、これに向けて、総論は理解・賛成、各論大反対の荒海に漕ぎ出し、悪戦苦闘中である。

 その事情をお聞かせ頂いた末廣毅氏は、東京大学法学部を卒業後、三井鉱山(株)に就職。総務部で得た経験を生かし、昭和39年に入社した三井物産(株)では人事、企画業務に注力し、昭和55年より三井海洋開発(株)に出向した。昭和62年には同社常務取締役総務人事部長を務め、同時に三井物産(株)関連事業部部長職を兼任。昭和63年(株)エニー代表取締役社長に就任。平成4年に三井物産(株)を退職後は人事労務面での相談役として各方面で活躍している。公職として、東京都地方労働委員会使用者側委員をはじめ様々な団体において労働問題の委員、役員を歴任し、平成4年6月より東京都高年齢者雇用開発協会雇用アドバイザーとして労働者の雇用開発問題に尽力され、その企業訪問数は既に数百件を数えるに至っている。

 「しかし、その活動の成果の程は、と問われれば、いまだである。リストラの嵐の中で隔靴掻痒の感がある」と末廣氏は語る。以下はアドバイザーとして企業の高年齢者雇用に取り組む末廣氏にお話し頂いたものである。

 「訪問される側にしても、招かざる客なので、空いた時間はなかなか見つからず、また上層部はいつも忙しい。折角、ようようにして時間を割いて話を聞いてもらっても、前半は和気藹々、理解し合って意気投合、されど後半は、わが社のみはリストラの最中で高齢者まで手がまわりかねる云々、丁丁発止とすれ違いの議論となってしまう。話を聞かせて頂き、聞いて頂けたのが望外の幸せと謝辞を述べ、再度来訪の決意を秘めて退出するのが大方のパターンである。

 なかには干天の慈雨、地獄に仏の如き理解力のある優れた経営者の方にお会いでき、問題解決に向け大きな前進をみることがあり、感激し苦労が一挙に氷解する思いのすることもあるが、まだまだ事例としては少ない方で、前途遼遠の感がある。

 しかし、それでも、使命感を奮い起こし、排除先行の各論打破には、地道な説得の努力継続以外には途はないものと思い定めている昨今である。

 高齢者の継続雇用を阻むものとしては様々な要因があるが、敢えて言えば、①企業の姿勢、②労働組合・社員全体のエゴ、③高齢者自身に関わる問題、④世論の面から、といったものがある。さらには、行政サイドの問題もある」。

 「総論は理解・賛成、各論大反対」というのが、まさに高齢者雇用を巡る的を射た指摘であろう。末廣氏は高齢者の継続雇用を阻む要因として4つの観点を提示されているが、次回からは、上記それぞれの問題点について、末廣氏から伺った内容を基に検討していくこととしたい。

 

「明るい高齢者雇用」

第19回 「こだわり」も必要―豊富な経験が裏打ち―

(「週刊 労働新聞」第2165号・1997年8月18日掲載)

 

 年齢を気にしない職種における出向もまた成功する例が多い。

 某大手商社から官庁絡みの仕事をする企業に出向した経理調査役D氏を紹介しよう。65歳までの雇用が保障され、年俸は当面800万円、60歳以降は640万円ということである。2年程で交替してゆく官庁からの出身者である40歳ぐらいの課長とうまくやり、かつ実務ができ、若い人にも教えることが採用要件であった。D氏は現在59歳、入社以来経理一筋であった。前の会社での職位は、56歳まで経理関係の部門で副部長を務めたという。

 経理業務はいわば年齢に関係のない職種であろう。高齢になって肉体的敏捷性が失われてもなお対応できる職種といってよい。そして役人とうまくやっていくとなると、出世欲を前面に見せない人物でなければならない。スペシャリスト志向というのが適当な表現であろうが、結果的に当人が入社以来経理畑一筋で他部署の経験がなかったことが幸いしたのである。

 さて、明るい高齢者雇用の要件には、即戦力、スペシャリストが求められることが一般的である。すなわち実務ができることがその要件となるが、これがしかし容易なことではない。日本においては、ゼネラリストとしてそのキャリアを積むケースが依然多く、さらに一定の年齢に達すると、専らマネジメント業務に終始して、実務から遠ざかることが少なくないからである。

 本来キャリアというものは、知識が多様な対処や判断に伴う経験に裏打ちされて、高いレベルのスキルとなって身につく過程をいうが、その意味では、加齢と共にその能力に厚みが増すことが期待される。

 先の例はその典型ということになろうが、しかし、慣れによる慢心があったり、常に新たな知識を求め吸収しようとする意識がなければ、スペシャリストたり得ることは到底おぼつかないのもまた事実であろう。

 加齢と共に衰える気力・体力を補ってなお余りあるスキルを持つこと、しかもそれが陳腐化していない、生きたスキルであること、そしてそのスキルを実務において活用・応用できることなどが重要となるが、さらに、その人が持つ価値観あるいは生きざまのようなものが出向あるいは転職の成否を分けるような気がしてならない。

D氏のケースでは、本人のプロ意識、さらにある種の自信と自負が、自ずと仕事そのものへのこだわりとなって発揚されたとも言えるだろうか。虚心に返って自分自身の見極めと棚卸しを行い、こだわるべき点が何かを得心した時に、現在の職場への出向が違和感なく受け入れられたに違いないのである。

 出向者と出向先企業が相互に理解し合うこと、それも本人のキャリアのみならず、その背後にある価値観や経営理念を理解することが何よりも重要であることを、この出向例は物語っているようである。

 ここまで4氏の出向事例をもとに、明るい高齢者雇用の実相を見てきたが、さらに次回からは、求人企業の開拓に奔走するある方を通して、この高齢者雇用を巡る障害と解決の方途を考えてみたい。

 

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