『労働新聞』明るい高齢者雇用の最近のブログ記事

 

「明るい高齢者雇用」

第7回 一生で4回は転職―米国 定年に閉塞感なし―

(「週刊 労働新聞」第2153号・1997年5月19日掲載)

 

※当時の掲載文に一部加筆補正をしております。

 前回触れたようにアメリカにも現実には定年制が存在する。しかしその一方年齢差別禁止法も並び立つ。この問題を論ずる上で無視できないのは“企業が定年制度を設けることを禁止する雇用法改正を実現させた(1986年)”全米退職者協会(注:1999年からは正式名称AARP)の存在である。1947年、全米退職教員協会を前身に発足した同協会は、大統領選を含め、議会の公聴会への参加や、議員へのアプローチなど高齢者絡みの政策立案に影響力を持ち、今は会員数3,000万人(注:2018年時点は3,800万人)を超す米国政財界も一目置く巨大組織となっている。会員数拡大の最大の要因は、高齢者でも加入できる健康保険制度を生み出したことにある。アメリカには日本のような公的医療保険制度が整備されていないため、入会希望が殺到した。今でも年会費わずか8ドル(900円から1,000円程度)(注:2018年時点では16ドル[単年払込の場合、5年一括払込なら1年あたり12.5 ドル])で、高齢者向け総合情報誌「モダン・マチュリティ(隔月刊)」を購読でき、協会会員証を持っていれば全米のホテル、レストラン、レンタカーサービスなどで5~10%の割り引きも受けられる。日本ではこのような組織が誕生し機能するようになるだろうか。

 

 Q、定年に閉塞感はありますか。

 A、「定年」に関して余り暗いイメージが無いのは、就職して定年まで1社に勤め続けないのが普通で、一生のうち平均4回は職を、または会社を変わるのが習慣だからだと思います。「辞める」ことは「終わる」のではなく、新しく「出発」することにつながるからです。会社を移るのは、給料その他の条件が良いからです…。「クビ」にせず(実際にはクビなのですが)、「自主的に退職」させるのがこちらの企業のやり方です。なぜならクビになると本当に将来性がなくなり、「終わる」ことになるからです。

 

 アメリカでも(「でも」という表現は適切でないかもしれないが)early retirement(早期退職)制度が一般的に存在することは改めて紹介することとして、雇用が流動化していることが定年に伴う「世間から隔絶されてしまったような自閉的な感情」(藤沢周平「三屋清左衛門残日録」)を緩和するのに役立っているということであろう。

 

 Q、アメリカ人は定年後、「朝寝覚めのベッドの中で、まずその日1日をどう過ごしたらよいのか」考えなければなりませんか?

  A、「定年」とは、年金生活ができるというだけで、アメリカ人は仕事をやめねばならない…という感覚は持ちません。コンサルタントとか、独立事業とか自由業に従事し好きな時に仕事をし、遊びたい時には遊ぶ、という生活を引退生活と心得ています。

   引退して、かえって忙しくなったという人ばかりとも言えるほど、引退してから時間が足りないほどやることは一杯あります。例えば、引退して初めてクラブに入会でき、毎晩社交で忙しいとか、好きな慈善事業の手伝いができたとか、旅行できるとかです。

 

 

 

「明るい高齢者雇用」

第6回 40年勤めてまだ課長―米国では普通のこと―

(「週刊 労働新聞」第2152号・1997年5月12日掲載)

 

 

 前回に続き遠藤安岐子専務理事とのインタビューをご紹介する。

 Q、アメリカでは職務給が一般的と聞きますが。

 A、完全な職務給体系です。新陳代謝は20歳代からあるといえ、できない者は即座に「クビ」…の国ですから、年齢に関係なく、始終、社員は変わっています。給料に関してですが、給料は年齢に関係なく職種で相場がありますので、その職種から上に行かない限り、または会社を変えない限り給料は上がりません。例えば、60歳の方も23歳の方も、もし職種が「セクション・チーフ=課長」だと、全く同じです。40年勤めてまだ課長か、と言われても本人が良いなら会社は高い給料を払うわけではないので、「これでいい」のです。それに対して誰もおかしいと思いませんから。

 

 日本人を規律する「長幼序あり」という儒教的社会感の下で、実力主義が機能するか、賃金が職能給体系に徹することができるかという根本的問題が高齢者雇用の明るさを大きく左右するであろう。しかし日本の年功序列社会の下では就社意識が横溢し、就職意識はない。明るい高齢者雇用の実現に向け、各自がスペシャリスト、プロフェッショナルになる必要があるとなれば、当然職種を格段に意識することになろうし、またそうでなければ明るい高齢者雇用はないということになる。そこにこそ、明るい高齢者雇用を実現する意識改革の原点の1つがある。

 

 Q、アメリカには定年制がありますか。

 A、定年制はあります。アメリカの企業、官庁、地方自治体その他に関しても、定年は一応65歳ですが、これは65歳から連邦政府のいわゆる厚生年金が100%支給されるからです。62歳で引退した場合、年金は65歳まで80%しかもらえないのですが、それでも早く引退する人もあります。但し、これはあくまでも政府で義務付けられている積立年金だけに頼る人で、一般に政府の年金だけには頼らず、個人で年金積立てをしたり、生命保険積立年金などで退職に備えています。

  軍隊や地方自治体(州政府、都政府、市役所)では、25年間勤めると自然に引退となり、それ以上勤めても年金が上がる訳ではないし、給料も上がらないので、普通45歳くらいで引退し、第2の職に就き、年金プラス給料で人生を送る人が多いです。

  また、マイアミ市の職員の場合ですが、25年間市役所に勤めると、仕事をしても、しなくても、年間6万ドルの年金プラス給料が収入なので、かなり裕福です。

 

 アメリカにも定年制があるのである。そしてアメリカでも定年制と年金制度が大いに絡まっているようである。日本において、それが今後可能かどうか、やはり課題であることをここでも知るのである。

 

 

 

「明るい高齢者雇用」

第5回 “3世代雇用”時代へ―若年者との融合前提に―

(「週刊 労働新聞」第2151号・1997年5月5日掲載)

※当時の文章に一部加筆補正の上掲載しております。

 

 前回に続き遠藤安岐子専務理事とのインタビューをご紹介する。

  Q、アメリカ人は日本人に比べて若さを強調しているようですが。

  A、お年寄りは、時代に遅れをとらず、いつまでも若くいられるよう望んでいます。マクドナルド等の安い賃金の店でも仕事をしたがるのは若い人達と交わりたいからです。若い人といると自分も若返るそうです。

 

 アメリカ人は若く見られることが好きである。オルブライト国務長官(59歳・当時)が来日時にカウボーイハット姿で現れたのも、単にカウボーイハットがアメリカの象徴の1つであるだけではないだろう。アメリカの高齢の婦人達の服装は日本と違い赤やピンク・ブルーなどの原色が多く、誠にカラフルである。

 昨年秋の中日新聞特派員記事にも「米国のお年寄りの元気な姿に驚くばかりだ。<中略>遊園地に行けば、おじいさん、おばあさんがジェットコースターや全身ずぶ濡れになる船のスライダーに何度も乗り、そのはしゃぐ様は孫たちを完全に圧倒している。ホワイトハウスの記者会見では、60年代初めケネディ大統領の時から活躍している80歳近い女性記者が最前列で質問する。それにみんな食べる量がすごい…。元気なお年寄りは、若い人達の中に入っていくことを全く苦にしない」と伝えられている。筆者の周辺にも“ドレスアップしてファッションショーに出たり、カラオケでもいいからステージで歌うなど、人の視線を浴びてパフォーマンスする快感は自分を生き生きと若返らせてくれる”とうそぶく輩がいる。

 さて、高齢化社会は3世代雇用の時代となるが、価値観の多様化の下で、企業秩序の維持という課題のほかに、若者達が高齢者を受容できるか、若者が自らの進路を妨害する者としてこれを排除しないかという不安がある。精神心理学的に言えば社会現象となった“オヤジ狩り”や、事業を継承した若手経営者が先代からの高齢者幹部を忌み嫌う傾向にあることがあげられる。また労働経済学的にいえば(欧州諸国全般の特徴的事象といえる)、若年労働者の高失業率問題を解決しようとすることが、陰に陽に高齢者雇用の圧迫要因となっているが、若い人たちの不安やエゴとうまく折り合いを付けていくには、気取らず“皆平等な一平卒”意識を持つことが重要である。

 

  Q、高齢者の男女比は?

  A、日本と比べ複雑さがなく、年寄りなのに…という表現がないように、高齢者は働けなくなるまで一応自由奔放に暮らしています。80歳以上の男女の恋愛等も日常茶飯事ですし、誰も(家族を含め)異常だと思いませんし、干渉もしません。高齢者の女性と男性の比率が4対1なので、女性の方達は張り合うためか、何歳になっても美容院に行き、ドレスアップをし、外食をしたがります。

 

 日本の65歳から74歳の男女比は1対1.25。高齢者女性の雇用問題が、今後大きな社会問題として登場するであろう。

 

 

「明るい高齢者雇用」

第4回 絶えず向上心を―ボランティアの道も―

(「週刊 労働新聞」第2150号・1997年4月28日掲載)

※当時の文章に一部加筆補正の上掲載しております。

 

 南フロリダ日本協会専務理事の遠藤安岐子さんのインタビューを前回に引き続きご紹介する。

 

  Q、高齢者雇用は一般にはどのような傾向でしょうか。

  A、高齢者雇用に関しては政府が年齢差別を禁止していることもあり、仕事をしたい人は誰でも出来ますが、歳をとってもまだ上下関係の激しい企業で「使われること」を好みませんし、企業ではあまり雇用を考えません。40歳を過ぎて移民してきた人達は、年金も少ないので定職を探し生活をたてることを考えるようになります。この場合、年齢より移民に対する差別が有り、職探しは難しいのです。

 

 いまイギリスでは雇用における年齢差別禁止法制定につき活発に論議されており*、労働党では政権についた場合これを制定すると公約している。日本においても定年制が違法とされる余地があるか否かが一つの課題である。

*その後、1999年に「雇用における多様な年齢層に関する行動規範」を発表するも法的強制力はなかった。2000年11月のEU理事会における一般雇用均等指令採択を受け、2006年10月1日に「雇用均等(年齢)規則(Employment Equality (Age) Regulations 2006)」が施行された。

 

  Q、やりがいのある仕事とは何でしょう。

  A、高齢者で企業の社長まで務めた人の「やりがいのある職」は、非営利団体のためのボランティアです。例えばSmall Business Administrationという全国的な団体には何万人という「元…」が登録し、中小企業の若手の人の訓練、相談に当たっています。元コカコーラの副社長を務めた人に会ったこともありますが、この方は無給で創業したばかりの中小企業をまわり、相談に乗って歩いていました。彼によると、年金生活が始まった場合、「給料」としての収入があると年金から差し引かれる上、税金がややこしくなるからボランティアの方が有利なのだといっていました。そして「やりがいがある」とも…。

 

 収入はやりがいの1つではあるが、「人はパンのみに生きるに非ず」、人生の後半を迎えた高齢者だからこそ、仕事内容に心の時代のキーワード“やりがい”が重要な要素となる。ボランティアやコンサルタントの仕事には、「お世話する」「教える」「導く」といった心の要素が満ち溢れているのである。

 

  Q、高齢者のボランタリーの実像を紹介して頂けますか。

  A、ある高齢者の施設での話ですが、そこへ動けない人達の手伝いにボランティアで出掛けます。彼等曰く「これから年寄りの世話にいかなければ…」。その人自身が84歳と聞くと異様ですが、年寄り=動けない、の感覚です。動けなくなるまで皆「若い」のです。

 

 肉体的に80歳の者が20歳の青春を持ち続けることは不可能であるが、“若さ”即ち良心を核に自立心・連帯心・向上心がなお生命力を持ち続けている状態を絶えず意識することが必要である。サミュエル・ウルマンは若さの要素として、美・希望・喜悦・勇気・力を挙げるが、「本人が希望を持って満足感を得る」などは高齢者雇用に置いてことの外意識されるべきであろう。

 

 

「明るい高齢者雇用」

第3回 包容力ある社会へ―企業にも重い責任―

(「週刊 労働新聞」第2149号・1997年4月21日掲載)

※当時の文章のまま掲載しております。

 

 アメリカ南フロリダ日本協会(非営利団体)専務理事をなさっている遠藤岐子さんにこのほどお話しをおうかがいする機会があった。

 南フロリダは避寒地としても有名であるが、マイアミの中心としてカリブ圏・中米・南米の経済の中心として位置付けられている。マイアミから車で約1時間のところにある“ボカラトン”という地域が著名であるが、南フロリダにはボカラトンを始めとする多数の「ハッピー・リタイアメント リゾート地」がある。

 遠藤さんはアメリカに移住され既に28年になるが、南フロリダ・マイアミには24年間にわたって生活されている。最初の17年間は個人で事業をなさり、1989年には商工会議所兼文化教育団体であるアメリカ南フロリダ日本協会を創立された方である。

 協会の仕事の一環で、種々の現地団体、企業との付き合いもあり、日本からの視察団や新聞記者を案内して回っているので、高齢者、アメリカの社会問題等とも日頃接しておられる。

 

Q、アメリカは高齢者であるとか、年齢を意識する社会ですか。

A、アメリカに来て指摘されたのが、歳を気にすることでした。日本のように、「△△歳のくせに」という表現は一切聞きませんし、「言うな」と言われたほどです。要は、“出来るか”“出来ないか”の違いだけなのです。言い換えれば“自分は自由に動けない・独立生活が出来ない”人は世間で別扱いを受けます。ですから、身障者も、年寄りで動けない人も同じ恩恵があり、同じに扱われます。

 

Q、そうするとアメリカでは高襟者も明るく生活していますか。

A、「明るい」「明るくない」の問題は、雇用問題ではなく、年齢を気にする社会かどうかではないでしょうか。

 日本の駅や公共施設を見ても、階段が多く歩く距離も長く、若者本位の国のように受け取れます。年寄りでも若者と同じように生活が楽しめる公共施設があるのがアメリカです。ニューヨークの市バスは老人が乗ろうとすると油圧で車体を下げて乗りやすくします。“ニーリング(ひざまずく)バス”というのですが、まさに老人に公共の乗り物であるバスがひざまずくのです。

 「若くない」と痛感させるようにできている社会と、年齢差を関係なく同じことができる社会。ここに何か重要な観点があるように感じます。

 

 高齢者になれば肉体的老化は避け難い。それゆえ力仕事ができなくなり、また敏捷さに欠けることになるが、それを包容してこそ今後は健全な社会が維持されるということであろう。

 企業の諸施設もそのようなものでなければならないということにつながる。モスクワの地下鉄のエスカレーターのスピードの早さに驚き、そこでは高齢者に対する思いやりがないと強く感じたこともあったが、アメリカから見れば日本社会も同様であろう。

 

 

「明るい高齢者雇用」

第2回 65歳定年の可能性―社会保障にもメスを―

(「週刊 労働新聞」第2148号・1997年4月14日掲載)

※当時の文章のまま掲載しております。

 

 

 定年問題に関しては次の2つに注意しなければならない。1つは中国にも好況感に陰りが生じていることである。例えば、昨年の成長率は9.7%と報道されているが、一時の明るさを失った。中国ですら好況でないという事実のゆえんは、エネルギー資源問題との関わりにある。資源、とりわけエネルギー資源の枯渇という不安・恐怖に、人類は無言の調整作用としてエネルギー等の資源が生産される程度に消費を抑えようとする。環境問題もその1つだが、実はそれが市場経済の進展にブレーキをかけている。

 「行け行けドンドン」、拡大再生産とは資本主義経済の合言葉、市場経済の原則だったが、いま萎縮しがちである。これこそ世界経済が減速経済、不況感を脱却し得ない理由である。先進国成熟社会・日本は更新国以上に資源を消費し、それだけに資源問題を意識せざるを得ない。従って中国以上に日本の高齢者雇用は今後ますます困難となる要因がある。

 第二の注目点は、中国でも(“でも”という表現が適切か否かは別として)退職年齢が年金問題と関わっていることである。日本ではいま65歳への年金受給年齢の引き上げが議論されているが、その背景は以下の通りである。

 今年1月厚生省人口問題研究所から発表された「日本の将来推計人口」によれば、日本の総人口はわずかあと10年間しか増えない。2007年1億2,778万人でピークを抑えた後は減少の一途を辿る。しかもただ減るのみならず若年者の急減と高齢者の急増とが同時進行する。既に日本の高齢化率は欧米先進国並だが、2000年には世界一の高齢国となる。現在1人の高齢者を65歳未満の国民5.8人で支えているが、高齢化率のピーク2049年(32.3%)にわずか2人で支えていかねばならない。年金・医療といった社会保障全体の枠組みに大きくメスを入れない限り、日本経済は破局のシナリオへと向う。未だかつて人口が減って豊かさを維持した国はない。この歴史的事実を厳粛に受け止めねばならない。

 厚生省の試算でも、国民負担率(税と社会保険料が国民所得に占める割合)を高齢化ピーク時でも50%以下に抑えるには“年金・医療の給付を2割以上削減しなければならない”としており、また経企庁の別の試算では、社会保障、国家財政とも無策のまま改革されずに推移したとすると、潜在的国民負担率は2025年73%に達する。もはや「高齢者が社会的に扶養されるだけの存在」という前提では、社会の安定維持が不可能なのである。

 高齢者雇用が促進されれば年金財政は大きく改善され個人や企業の負担も軽減する。高齢者がその人に会った就業形態を選択でき長く現役にとどまれば、年金給付者が減り年金拠出者が増える。これこそ退職年齢と年金問題が不可分で65歳への定年延長が今叫ばれている本質的意味である。

 若年労働力の減少により再び人手が不足し、女性も高齢者も雇用が活況を呈すという楽観論もあるが、はたしてもう陽が昇らない日本経済の下で65歳への定年延長は可能なのか、さらにはそれを可能にする条件を模索してゆくことも課題の1つであることを、中国の例からもうかがい知れる。

 

 

「明るい高齢者雇用」

第1回 失業率5.7%にも―世界的視野から模索―

(「週刊 労働新聞」第2147号・1997年4月7日掲載)

※当時の文章のまま掲載しております。

 

 日本のみならず全世界的にも「明るい高齢者雇用」はないのだろうか。まずは日本の現況を確認してみよう。平成7年10月1日時点で日本の高齢者65歳以上人口は1,860万人と総人口の14.8%を占め(「平成7年国勢調査」より)、65歳以上の労働力率(各年齢層に占める労働力人口の割合)では、日本37.6%、アメリカ9.1%、ドイツ4.6%(いずれも94年男性の数値)と国際的には極めて高い水準にある。

 またいわゆる定年制に関しては、高年齢者雇用安定法等によって平成10年4月1日までに60歳定年制が義務づけられており、現在60歳定年企業の割合は労働省「雇用管理調査報告」によれば、88.3%と着実に定着しつつある。しかし65歳まで働ける何らかの制度(65歳以上定年制、勤務延長制度、再雇用制度)を有する企業は20.4%にとどまっている。総じて高齢者の雇用は厳しく、平成7年平均で全体の失業率3.2%に対し60~64歳は5.7%、有効求人倍率も全体の0.63倍に対し、同0.08倍と全く冷え込んだ状況にある。

 一方中国では法律上の定年は男子60歳、女子55歳だが、現実には国有企業においては30年間働き続ける(国有企業であれば同一企業である必要はなく勤務年数は通算される)と定年時の給与の6~8割の年金が支給される。また、国有企業で30年勤務すると、退職後も終身医療保険の適用を受けることができる(30年未満で退職し、職に就かなかった場合には医療保険の適用がない)。

 このような状況下で、30年勤続した人は“肩たたき”があり退職せざるを得なくなる。退職後の年金の額が840元(1元は約15円)を超えないものには所得税がかからない。ちなみに法律上は800元を超えると所得税が掛かることになっているが、控除が40元あるので、840元ということになる。

 さて実際の退職年齢についてみてみたい。文化大革命時の青年が現在壮年期にある。彼等の修学年限は中学校が2年間、高等学校が2年間と短縮されていたことから、大半は14歳もしくは16歳で労働についた。その大方の者は「下放」により農業に従事し、そのあと大学に進学し国有企業に就職した場合には44歳で退職する途が開かれることになる。

 かくして中国では極めて若くして仕事を離れることが多い。60歳以上の人は退職後専門職に従事できる人は別として、再就職できないといってよい。“一人っ子政策”の下、孫の世話をするのが一般的である。また40~50歳代で退職をした者は再就職を心掛けるが、45歳以上の女性の就職口は、現実にはまずないだろう。

 以上は中国北京の弁護士・王君氏の語るところである。希世軟件系統(上海)有限公司の社員、李国麗さんは、上海(北京に比して経済活動ははるかに好況)では男性は従来55歳が事実上の定年であったが、最近50歳に下がり、女性の事実上の定年は40歳ないし45歳であると語っている。これも中国の実定年年齢が下降していることを裏書きする証言である。

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