2015年1月18日(日)朝7:45 東京都港区芝公園 芝東照宮にて撮影
<梅の花>花言葉 「高潔」「上品」 (白)「気品」
※「労働新聞」2011年7月25日 第2834号「髙井伸夫弁護士の<人事労務の散歩道>」より転載
「ボスの条件」(5) 引き際の見定め
昭和の名横綱栃錦と大鵬が、横綱に昇進したときから常に引き際を頭に置いて精進したというエピソードは、よく知られているだろう。角界のトップに登りつめた横綱としての重責を一身に引き受ける強い覚悟があったからこそ、彼らは雄々しくそして輝いていたのだ。
企業においても、社長や幹部に就任したときに引き際を意識しておかないと、晩節をけがすことになる。引き際の見定めの基準の第一は、心身の健康が保たれているかということである。健康に不安のある者は、トップとしての激務に耐えられず責任を果たせない。第二は、トップやリーダーに就任したときに設定した目標が達成されたかということである。目標達成の目途がたったら、新しい目標を掲げる者にリーダーを引き継がなければならない。第三は、年齢である。いまの時勢からすれば、せいぜい75歳が限度で、できれば60歳前後で引き際を決断するのがトップの役割であろう。今年上半期の社長交代で、新社長の50歳代の比率が前年比5ポイント増という報道があったが(2011年7月8日付日経新聞)、これは企業がいかに激烈な競争にさらされていて、トップに若さと体力が要求されるかを物語るものだろう。
要するに、トップには新陳代謝をはかる義務がある。そうしてこそ企業は、社会の激しい変化についていける。「頭の良い者や力の強い者が勝ち残るわけではない、変化に対応する者だけが勝ち残る」というダーウィンのものとされる言葉は、企業のトップ人事についてもそのままあてはまる。
さて、新陳代謝をはかるためには、トップは後継者を選定し、育成していくことが必要になる。
トップにとって、後継者は見つけ難いものだが、時代の流れに対応するためには、無理をしてでも、後継者を見いだし、育成しなければならない。そして、トップの交代について、社会的な認知を受ける努力をしなければならないのである。
引き際は、前述のとおり「心身の健康」「目標達成」「年齢」の三要素をかけ合わせて、トップが自分自身で決心しなければならない。後継者が見当たらないときに、とかく交代を躊躇しがちであるが、後継者はトップの地位につけば意外に育つ場合が多い。それゆえ、さほど心配する必要はない。
仄聞した某社の例を、反面教師として紹介しよう。既に90歳台半ばである社長が、自分がかわいがっている者を社長に就任させるために、自らは代表権のある名誉会長に就任し、いわゆる情実人事を行った。新社長は経験も能力も不足しているため、社内では納得感が得られないという。一定規模以上の企業で人事が言わば私物化されるこうした例は、いまの時代には非常に珍しいが、これもトップが引き際を決断しないことが産んだ悲劇である。まわりの者は、社長の退任をなかなか進言できないものである。
そして引き際の重要性は、事業についても同様のことが言える。たとえば、企業が中国・アジア諸国等に進出して事業を始めたとしても、撤退を常に意識していなければならない。トップは、そこでの事業展開が自社にとってマイナスであることを直感した時点で速やかに引かなければ、取り返しのつかないことになる。これもトップの下すべき重要な決断のひとつなのである。
以上