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第4回 高井先生言行手控え


 

 

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2015年3月29日(日)7:19
東京都目黒区中目黒公園にてムスカリを撮影
花言葉「通じ合うこころ」 

 

 

築地双六館館長
公益社団法人全国求人情報協会参与
吉田 修

 

 

前々回より、平成元年(1989年)、髙井先生の「就職情報誌の現状と今後のあり方」という演題でお話をいただいた折の講演録から、その示唆と洞察に富む提言を紹介しています。

 

 

■情報メディアの存在意義

 

髙井先生曰く、

 

「不動産や中古車販売業者の中には、商品に瑕疵があると知っていながら販売する不届き者もいる。

これは、商品の詳細な情報を事業者は知っているが、消費者は知らないことによって起こる問題である。

欠陥品を何も知らない消費者に売り付ければ、短期的にはその業者は儲かるかもしれないが、こういう状態を放置したら、やがて消費者は不動産や中古車販売業界を信頼しなくなり、市場は縮小し、崩壊してしまう。情報誌は、事業者と消費者の真ん中に立ち、正確で詳細な情報を提供することによって、消費者を支援し、業界の永続的な繁栄を担保する。

リクルートのような情報メディアの存在意義は、まさにここにあります。万が一、扱う広告に虚偽や誇大があれば、大きな財産的被害が生じます。求人広告の場合は、財産的な被害に留まらず、人間の存在それ自体への攻撃になることになります。そういう自覚の下に、就職情報誌の事業活動に取り組んでいかなければならないのです。」

 

 

■ノーベル賞「レモンの原理」と髙井先生

 

この髙井先生の講演は1989年に行われました。実は、2001年にノーベル経済学賞を受賞した米国のジョージ・アカロフ教授が髙井先生と同じことを述べています。消費者対応部門の方はよくご存じでしょうが、「レモンの原理」と言われるミクロ経済理論です。情報の非対称性がマーケットに及ぼす影響を論じたものです。例えば、中古車市場では、外見からはわからない欠陥車(レモン)と優良車(ピーチ)が混在していると、買い手が高い金額で欠陥車を買うことを恐れ、欠陥車に相当する金額しか払わなくなるため、市場に優良車を出す売り手がいなくなる。売り手と買い手の情報格差が原因で、質の悪い商品しか市場に出回らなくなる「逆選択」が起きるという理論です。

これが続けば市場は消滅します。

アカロフ教授がレモンの原理と呼ばれる学説を発表したのが1970年。日本に紹介され始めたのは2001年以降のことです。おそらく、髙井先生は弁護士の視点で、事業者と消費者、求人者と求職者の関係性を長年観察してこられた中で、独自に髙井先生的レモンの法則を洞察されたのではないでしょうか。本当に驚くべきことです。

 

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(クリックすると拡大します)

 

 

■就職情報誌が陥りやすい三つの問題点

 

髙井先生曰く、

 

「新聞であれ、雑誌であれ、テレビであれ、広告効果を高めるためにお手伝いをするプロセスの中で、誇張した表現、あるいは誤解を招く表現には注意をしなければなりません。特に求人広告においては、三つの問題点に常に留意する必要があります。一つ目は、招致する、誘引する、引っ張り込むという動作にウェートを掛けすぎると、企業概要や労働条件の表記と実態との間にかい離が生じやすくなるということです。二つ目は、就職情報誌は、新聞広告と異なって、より詳細な労働条件の表示を旨として、これを営業の武器としています。より詳細な労働条件を知りたいとする読者に応えるべく、新聞広告に比して、より精緻な労働条件を広告内容とすることになり、客観的な事実との齟齬、ギャップが目立つという現象が出てきます。「委細面談」であればギャップは生じないが、就職情報誌は細かな労働条件を書くことに大きな価値があります。そのために特段の注意を払う必要があるわけです。三番目は、急速に増加してきた広告量の問題です。取扱い量が増えれば、絶対量として不適切な広告表示が多くなる可能性、すなわちスケール・デメリットが発生します。」

 

 

■三つのご助言

 

これら三つの問題点に対して、髙井先生は、日本コーポ事件の最高裁判決(最高裁平成元年9月19日判決)等を踏まえて、以下のご助言がありました。

 

 

  • 求人広告の誘引特性については、法的な責任のみならず、商道徳及び読者の信頼に応えるために職業安定法の労働条件の明示義務を踏まえ、誤解のない平易で的確な表示に努める仕組みを作り、管理・監督をして引き締めていくこと。
  • 詳細な情報提供については、就職情報の専門誌として高いレベルの審査システムを構築し、就業規則・登記簿謄本等審査に伴う提出書類の照合を徹底して行うこと。
  • 委細面談や三行広告ではなく、精査して豊富な情報を提供し続けること。
  • 増加する広告量については、広告制作プロセスの責任体制を明確にするとともに、内部牽制策を厳格に運用すること

 

 

を挙げられました。そして、「求職者の利益に思いを致す社是・社訓を新たに制定することが情報産業の永続性を保障する根源である」ことを繰り返し、強調しておられました。

(つづく)

 

第3回 高井先生言行手控え


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2015年3月4日(水)東京都千代田区三番町にて
ヒマラヤヤマボウシを撮影
花言葉:「友情」

 

築地双六館館長
公益社団法人全国求人情報協会参与
吉田 修

■人間であることは足と手と頭を使うこと

前回より、平成元年(1989年)、髙井先生の「就職情報誌の現状と今後のあり方」という演題でお話をいただいた折の講演録から、その示唆と洞察に富む提言を紹介しています。

 

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(1988年の求人広告業界)

 

 

髙井先生曰く…

 

1700万年前、ヒトはサルに近い存在で四足で歩いていたある時、何かのはずみで太陽の光が目に入って思わずびっくりし、前足二本が地上から離れた。その過程で首がすわって重い脳を支えることができるようになり、両手が重力から解放されて細かな作業ができるようになった。更に、脳を働かせることで頭を利かすことができるようになった。私がこの会場に入ってきた時、拍手で迎えてくださいました。手を打つということは「人間だ、人間だ、お互い人間だ」と言っているわけです。外国人と会う時には互いに握手して「お前も手を持っている。おれも手を持っている」ということを確認し合う。「お早うございます」と頭を下げる。これは「まだ、私は本当の人間ではありません。あなたに学ぶところがあります」「いやいや私こそ、あなたに学ぶところがあります」といっているわけです。日本人は向上心が強く、精神性が高いから、お辞儀で挨拶をするのです。人間であることは、足を使うこと、手を使うこと、頭を使うことなのです。

実は、産業においても、足腰・手先・口・頭から知・情・意の世界へ発展してきました。情の世界は情感すなわち美感の世界です。就職情報誌は知識産業であり、産業のソフト化のまさに取っ掛かりに位置するわけです。

 

■進化論が刺激する想像力

髙井先生は、当時からヒトの進化と産業の発達を関連付けてわかりやすく説明しておられました。農業は足腰の産業、家内制手工業(マニュファクチュアー)は手先の産業、商業は口によるコミュニケーションの産業、ソフト・情報産業は脳の産業、医療・介護・サービスなどのヒューマンビジネスは心の産業である、と。

 

日本ほど進化論を素直に受け入れた国はないといいます。宗教的な束縛が薄く、開放されやすい心を持っているからかもしれません。余談ですが、過日、私も生物の進化と人間の能力の進化について想像力をめぐらせてみました。

 

今から5億4300万年前のカンブリア紀、わずか500万年の間にそれまで数十数種しかなかった生物が突如一万種に爆発的に増加しました。これは生物進化におけるカンブリア大進化(大爆発)と呼ばれています。進化生物学者のアンドリュー・パーカーは、その原因は、生物に「眼」という感覚機能が付加されたことにあったとする光スイッチ説を唱え、近年俄然注目されるようになりました。詳しくは「眼の誕生~カンブリア紀大進化の謎を解く~」(草思社)をお読みください。さて、眼を持つ生物は捕食機会が増え、眼を持たない生物は身を守るための生存戦略(硬組織化、保護色、俊敏性等)を進化させました。これを想像逞しくして、現代に当てはめて考えれば、こういうことになるのではないでしょうか。人類はコンピュータとインターネットにより、記憶とコミュニケーションの能力を飛躍的に向上させた。その結果、暮らし・志向・商品・流通が激変し、仕事の内容を多様化させ、新しい職種を次々と生み出していく。

 

・・・この話はここまでにして、本題に戻ります。

 

 

■就職情報事業が自覚すべきこと

 

続けて先生曰く…

 

一日24時間の中で一番足を使い、手を使い、口を使い、頭を使い、心を使うのはいつでしょうか?それは労働する時間なのです。働くことは人間の証なのです。誰でも向上心を持っており、サルにはなりたくない。そういう気持ちを持っている限り、労働は喜びなのです。その労働に就く瞬間に偽りや欺しがあるということになれば、当然、人の心に翳りが生じます。

心に翳りが生ずれば、心身のすこやかな在り様はなくなります。就職情報は神聖なる人格への担保であるべきなのです。このことを自覚して就職情報誌の活動を展開しなければ、永続的な就職情報誌の事業は成り立ちません。就職情報誌は、その運用を誤ることなく、社会的なニーズに応えることができれば、ますます発展します。

 

リクルート事件による社会的な大バッシングが日々深まっていく中で髙井先生の真実の言葉が聴衆に沁み込んでいきました。

 

 

第2回 高井先生言行手控え


 

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※()内は花言葉

<上段左>2015年2月4日(水)8:07 目黒区上目黒1丁目にて撮影 
チューリップ(思いやり)
<上段右>2015年2月8日(日)7:21 港区六本木5丁目にて撮影 
椿(控えめな優しさ)
<下段右>2015年2月12日(木)7:56 文京区湯島神社にて撮影(当日は「湯島天神梅まつり」が開催中) 
梅(高潔、上品)
<下段左>2015年2月11日(水)8:12 目黒区中目黒公園にて撮影 
アカツメクサ(豊かな愛)

 

 

築地双六館館長
公益社団法人全国求人情報協会参与
吉田 修

 

 

■労働は人格実現の場である

 

私が髙井先生に最初にお願いした仕事はご講演でした。平成元年(1989年)1月のことです。半年間で全国7回もの講演を開催しました。このように密度高く講演をお願いしたことには理由がありました。当時はバブルの絶頂期でありましたが、リクルートは創業以来の二つの危機を迎えていました。一つはリクルート事件です。今では、「リクルートの関連会社である不動産会社の未公開株が賄賂として譲渡され、贈賄側のリクルート社関係者と、収賄側の政治家や官僚らが逮捕され、政界・官界・マスコミを揺るがす、戦後最大の贈収賄事件」とされていますが、当時は新聞報道がどんどん拡大する中で、どこが終着点であり、果たして夜明けは来るのかという不安が社内中を充たしていました。もう一つは、求人情報誌の規制問題です。求人情報誌が入職経路として大きな役割を果たしてくるにつれて、広告と実態が異なるというトラブルも目立つようになってきた中で、一部の労働組合や弁護士が中心となって、求人情報誌の規制を強化する動きが出てきたことです。

 

1989年6月には堀内光雄労働大臣が「リクルート事件の労働省ルートの発端となった求人報誌の法規制問題について内容が不明朗な広告が出る恐れもあり、求職者に不利にならないような秩序ある枠組みを考える必要がある。法的規制も含めて検討し直してみたい」と述べ、自主規制となっている現行制度を見直す姿勢を示しました。これに対し、1985年以来、求人広告の自主規制に懸命に取り組んできた社団法人全国求人情報協会は強い危機感を持ち、以降、今日に至るまで求人広告の適正化に取り組んできたという背景があります。

 

さて、このような社会情勢の中で、髙井先生に就職情報誌事業に携わるほぼすべての従業員に向けて、「就職情報誌の現状と今後のあり方」という演題でお話をいただきました。この講演録(写真)は、今読み返しても、示唆と洞察に富み、求人広告メディアに携わる者の職業倫理に強く訴えかける内容です。今回から数回にわたって、この講演録から髙井先生のお言葉を紹介したいと思います。

 

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最初に「労働」とうものの本質について言及されました。一般の辞書では、労働は「からだを使って働くこと。特に、収入を得る目的で、からだや知能を使って働くこと。」と説明されています。これを先生は講演の冒頭で明快に定義付けられました。「労働は人格実現の場である」と。以降のお話を要約すれば以下の内容になります。

 

「労働契約においては、労働者は労務を提供し、企業は労働者に賃金を支払います。労働者から提供される労務は、労働者の精神・身体と切り離すことができないという意味で、労働者の人格と密接不可分の関係にあります。つまり、働くことは、人間性の表現であり、自己実現でもあります。その労働契約を結ぶことをお手伝いするのが求人メディアです。

 

もしも、求人メディアの広告の内容が事実と異なっており、それを信じて入社した労働者がいた場合、

 

  1. 求人広告の間違いは、労使の信頼関係を壊し、労働者の精神・人格を深く傷つけることになります。
  2. 救済を求められても、もはや現状復帰することはできず、代替物の提供もできません。それゆえに、求人広告の審査の責任は重く、苦情対応はハードになります。だから、信頼される求人メディアを作ることが大切なのです。」

 

会場は水を打ったように静まり返っていたことを覚えています。

 

労働の本質については、古今東西、多くの経済学者や政治家が語っています。

 

  • カール・マルクス:人間の労働力が商品の価値を決める。
  • 高橋是清:「人の働きの値打」をあげることが経済政策の根本主義だ。
  • トマ・ピケティ:資産によって得られる富のほうが、労働によって得られる富よりも早く蓄積されやすく、それが貧富の差を生む。

 

 

労働について、経済理論ではなく、人間賛歌の哲学として捉えておられるのが髙井先生なのです。

(つづく)

 

第1回 高井先生言行手控え


 

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2014年12月28日(日)10:38 東京都北区王子五丁目で撮影
バラ(花言葉(薄オレンジ):「無邪気」)

 

 

第1回 高井先生言行手控え

 

築地双六館館長
公益社団法人全国求人情報協会参与
吉田 修

 

 

2002年二子山部屋の稽古見学.jpg

2002年(平成14年)12月28日
二子山部屋・横綱貴乃花の稽古見学
右から高井先生、ボビン・バジュラチャルヤ氏、私
(ボビン氏については高井先生の2011年9月6日付交遊録参照)

 

 

 

■高井先生との出会い

 

昨年末、高井先生より「これまで色々な場で様々な主張をしてきた。長年の付き合いの中で覚えていることをキーワードを含んだ文で寄稿してほしい」とのお願いがありました。高井先生には、およそ30年間、公私にわたってご指導をいただきました。このような雑文拙文であっても、少しでも先生へのご恩返しが出来ればと思いお引き受けした次第です。

 

高井先生は、私が長年勤めていましたリクルート社の顧問弁護士でいらっしゃいました。最初の出会いは、日本リクルートセンターがリクルートに社名変更した昭和59年の9月だったとお聞きした覚えがあります。

 

当時の田中寿夫常務から高井先生に「関連会社のリクルートフロムエーが詐欺商法の会社の求人広告の掲載を断ったところ、広告契約の債務不履行によって、人を採用できなかったことによる得べかりし利益等を求めた損害賠償訴訟が起こったので、是非対応をお願いしたい。」と申し上げたそうです。

 

この当時既に、高井先生は労務分野で最も著名な弁護士のお一人でした。特に、「反対尋問の名手」として評判が高く、裁判官が先生の反対尋問をわざわざ法廷に見学に来ていたそうです。これはなかなかあり得ないことです。

 

さて、高井先生は仕事を引き受けるにあたって、必ず依頼者の職場を実地見学されるということで、同社の本社を訪れ、社風、職場風土、経営幹部の人となりを肌感覚で把握されました。これに限らず、高井先生の当該事案の現場を踏まえ、そこから発想する現場主義(Here&Nowのリアリズム)はあらゆる場面で垣間見られます。先生の大胆で斬新な発想は、数多い現場のシーンと徹底したロジカルシンキング、そして卓越した記憶力が、灰色の脳細胞の中で生物学的化学反応を起こした賜物なのです。そう感じておられる読者の方も多いのではないかと思います。

 

私が最初に高井先生にお会いしたのは、昭和62年頃だと思います。お引き合わせいただいたのは、赤羽良剛さん(当時リクルート事業部次長、現ブレーン・フォーラム株式会社 代表取締役)でした。

(つづく)

 

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