右から時計回りに
2015年11月7日(土)6:56 目黒区東山1にてビオラを撮影 花言葉:「忠実、誠実」
2015年11月7日 (土)12:48 日比谷公園にてストックを撮影 花言葉:「愛情の絆」
2015年11月22日(日)8:05 早稲田鶴巻町507にてガーベラを撮影 花言葉:「希望、常に前進」
7月24日(金)から、2011年5月~2012年4月にかけて、計12回、『月刊公論』(財界通信社)にて私が連載いたしました「高井伸夫のリーダーの条件」を転載しています。
私の半世紀にわたる経営側の人事・労務問題の専門弁護士としての経験もふまえ、リーダーのあり方について述べた連載です。
これからは、自分一人の信念で周囲をひっぱっていくというリーダーの時代ではありません。優れたリーダーには必ず、”股肱(ここう)の臣、頼れる参謀”が付いているものです。もはや”孤高の人”では、リーダーにはなり得ないのです。
ブログ読者の皆さまに、現代におけるリーダーシップ論を考えていただく一助となれば幸いです。
日本が希望の持てる国であるために
「志」あるリーダーが明日の日本を作る
(『月刊公論』2012年4月号より転載)
私の連載は、予定どおり今号が最終回です。1年間ありがとうございました。改めて「リーダーの条件」を考えてきて思うのは、あらゆる面で多様化の時代を迎えているいまほど、統率力の発揮が難しい時代はないし、また、いまほど統率力が求められる時代もないということです。
「50年後・生産人口の半減」
直近の国勢調査(2010年10月実施)では、国内の日本人人口が前回調査(05年)から37万人(0.3%)減少したことが発表され、国勢調査ではこうした減少は初めてのことである旨、マスコミで大きく取り上げられました。
さらに、この結果をもとにして本年1月30日に発表された日本の「将来推計人口」によれば、2060年の日本の人口推計は、2010年の1億2806万人から4132万人減って、8674万人になるといいます。これは、32%もの減少です。また、少子高齢化が加速し、2060年には、65歳以上の割合は2010年現在の23%(世界最高)から39・9%(5人に2人)になり、一方で15歳未満の年少人口の割合は、同様に13・2%(世界最低)から減少し、9.1%になってしまうといいます。さらには、社会の働き手である15歳~64歳の生産年齢人口も、半減するといいます。(国立社会保障・人口問題研究所)。
これはもはや人口減少というより、国の消滅の始まりといっても過言ではないでしょう。日本は掛け値なしに、存亡の危機に立っているのです。出生率も、1.3人台にとどまりながら、下降傾向が続いています。
かたや新興国は若い人口の比率が高いのが特徴で、15歳未満の人口割合は、中国は19・5%、インドは30・6%、ブラジルは25・5%です(2010年)。日本とは対照的な、まさに活力あふれる社会です。
「人口問題の難しさ」
日本の抱える課題はいくつもありますが、人口減少問題こそ、喫緊に取り組むべき、最も深刻かつ重要なテーマであると私は思います。
日本では1990年代初めにバブル経済が崩壊しましたが、それ以後続く日本経済の停滞は、「失われた20年」といわれています。人口減少問題に無策であり続けることは、この先もずっと経済の活力が低下することを意味します。それは、日本に「失われた『40年』『50年』」をもたらし、社会全体が停滞し続けることになるでしょう。
私はもうすぐ75歳になります。これまで、日本社会のいろいろな変化や紆余曲折を体験してきました。戦争のときはまだほんの子どもでしたが、戦後の物不足やひもじさは痛烈な体験として記憶に刻み込まれています。日本全体が敗戦と貧しさのなかから這い上がってこられたのは、右肩上がりで人口が増え、労働力が潤沢であり、さまざまな生産活動を活発におこなえたことがひとつの大きな要因であったと思います。
人口問題は、女性に妊娠・出産を促すことが必要になりますから、順調に結果が出るとしても、20年~30年のスパンで考えなければならない長期の課題です。しかも、女性が自然に「産みたい」という意欲を持たなければならないのです。これは実に大変なことで、人口増の実現は容易ではありません。
日本が高度成長に浮かれていた1970年代、既に人口減少問題を指摘する専門家がいたと仄聞しますから、政府はなぜその時期に真剣な取り組みをしなかったのかと思いますが、いまでは詮ないことです。
「産業政策の重要性」
私は人口問題の専門家ではありませんから、どのようにすれば実際に出生率が上昇して人口が増えるのか、具体的方策はわかりません。ただ、人口が増えない現実の背景には、いまの社会への期待や希望が薄れていることも大きく作用しているのではないかと直感します。そして、たとえ首尾よく人口増に成功したとしても、日本が展望のない社会であったとしたら、国民は活動の場を持てず、国力は向上しません。つまり、いまの日本では、人口を増やす研究・対策を進めて女性の妊娠・出産への意欲を刺激する方途を探る一方で、日本を未来に対する展望ある社会に作り変える努力も並行しておこなわなければならないのです。
日本は、昨年の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が、31年ぶりに赤字に陥りました(財務省)。いまの日本の企業は「6重苦」に悩まされているといいます。これは「円高」「高い法人税」「貿易自由化の遅れ」「労働規制」「温暖化ガス削減」「電力不足と値上げ」で、さらに「世界経済の減速懸念」や「国内政治の停滞」のふたつを加えて「8重苦」という人もいるようです。そして、いまこれに「人口減少問題・労働力不足」が加わろうとしています。展望ある社会を実現すべく産業政策を充実させなければ、日本社会は「8重苦」以上のさらなる苦しみにとらわれ、沈没してゆくしかないでしょう。いまの日本の国力、経済力からすれば、すべての産業の振興を図る余裕はなく、国として強化すべき分野を決めて注力することが重要です。
「エリート教育の必要性」
未来への展望を開くには、産業政策に加えて、教育の問題も重要です。一時期のゆとり教育のような悠長な発想はできないのです。できない子もできる子も全員を平等に教育することは、日本の国力では難しくなっています。選抜された優秀な生徒・学生にエリート教育を施し、さまざまな分野でのリーダーとして活躍してもらう以外にないでしょう。
折しも、東京大学の浜田純一学長が提唱したことを契機に、大学の秋入学をめぐる議論が巻き起こっています。私は、この動きは、単なる入学時期の問題ではなく、日本の教育全体の仕組みを根本的に作り変えて、世界的な競争に打ち勝とうとする志ある教育者・研究者の勇気ある行動であると受け止めています。それほどに、世界を知る彼らの危機感は強いのでしょう。海外の人材と切磋琢磨して、競争に勝ち抜く者をいかに多く輩出できるかで、日本全体の力は決まるのです。
「優秀人材の海外からの取り込み」
日本の人口を増やして活力を維持あるいは向上させるためには、人口対策、産業政策、教育問題等が重要だとしても、いずれも時間を要します。とすれば、より即効性のある施策にも国は正面から取り組まなければなりません。それは、優秀人材の海外からの取り込みです。各企業は、必要に迫られて外国人の採用比率を高めつつありますが、日本全体としても、各分野で外国人を受け入れる準備に着手しなければならないのです。日本人の労働力が不足することが明らかになっている以上、国は外国人の受け入れに躊躇できないはずです。受け入れを前提として、日本の国力の維持・向上に資するためのシステムをどのようにすればよいか、取り組まなければならないのです。
海外からの優秀人材の受け入れを国家戦略としておこない成功している国としては、シンガポールが有名です。シンガポールの要人から直接話しを聞いた人によれば、この国は厳しい選抜のもと、とくにアメとムチを使い分け、ハングリー精神あふれる海外の優秀人材を国費で集めて厚遇し、それが国全体への刺激にもなっているといいます。日本でもこうした仕組みを作れないものでしょうか。
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人口減少問題をめぐる施策は、どれも結局は強いリーダーシップのもとに行われなければ実現不可能なものばかりです。国際化と社会の多様化と個人主義が進むなかで、効果的な施策を提言し、説得し、意見を集約し、そして実行することは、容易なことではありません。
しかし、こういう時代であればこそ、リーダーが求められるといってよいのです。私はリーダーに求められるのは、最終的には志の高さであると思います。どのようなグループであれ、リーダーは必要です。それぞれの場で、リーダーシップを発揮し、日本を希望の持てる国にしようとする志が、あすの日本を作ると私は信じています。