2016年12月4日(日)14:42 千代田区九段南3にてビオラを撮影
花言葉:「誠実、信頼」
第18回人材グローバル化(4)
(2008年10月27日)
この10月1日に松下電器産業がパナソニックに社名を変更した。同社が目指すのは、真の「Global Panasonic」の実現であるという(同社2007年度決算説明会〔2008年4月28日〕配布資料より)。同社は売上高に占める海外比率が50%程度であり、ライバル社と比べて国内依存度が高いことを弱点として、その克服を成長戦略の一つに掲げた。この社名変更はそこから脱却しようとする姿勢を象徴的に表している。同社は、グローバル化しなければ生き残れないとの判断に立ち未来像を描いていたのだ。
日本企業にグローバル化が必要なのは、諸外国の経済的発展が著しい中で、日本が人口減少から逃れられないからである。日本の総人口1億2700万人余は、2046年には1億人を割り込み、日本全体が“過疎化”し、“うつ状態”に陥るのは明らかである。
「海外人事部」の設置へ
そうした中で日本人が活性化し生きていくためには、発展している海外に市場を求め、自らを磨きあげてグローバル化を進展しなければならない。国としても、企業がグローバル化のために求める、より具体的な実学をベースとした最新の知見を集約する研究機関を持つべき時期にきている。海外事情について調査・研究の余裕のない中小企業でも海外進出できるための情報インフラの整備を主たる目的とする部署を置くべきである。
加えて、企業側のより進んだ対応としては、日本人への人事部とは別の組織として「海外会社人事部」を作らなければならない。なぜなら、現地では、労働法・労働慣習に沿って現地人の人事的な枠組みを決める必要があるからである。例えば、幹部に登用した場合の役割・権限・責任・報酬等について、大企業といえども未整備なところが多い。人材の選抜と定着が難しく、現地マネジメントの悩みになっている。いかに小規模の企業でも、小さいなりにグローバル対応の人事部署を設けることが必要となるのである。
経営的には対症療法的な取組みだけでなく、経営体質自体を強化する観点からの継続的取組みが必要となる。その一環としての海外人事部には、国内人事部と同等の権限を付与する必要がある。海外の占める割合が大きくなるにつれ、将来的に国内人事部以上により大きい権限を付与することになろう。
要するに、日本的な感覚だけで現地スタッフの配置・選抜・教育等を行ってはならず、それぞれの海外拠点に相応しい人事対応がなされなければならない。基本的な思想は、年功要素を排除し、能力重視型あるいは成果重視型の制度を打ち立てることである。グローバルに人材を扱う際の統一価値観であり、統一価値観はこれしかない。
企業における現地化にはいろいろな要素があるが、現地化としては人の問題に行き着く。社長たる者、専務たる者、総務、人事、経理、販売等々要職に就く者の現地化を進めなければならない。経営理念のしっかりした企業ほど、海外の現地雇用の社員に日本人と差異なく接していると感じられる。ただし、文化的な背景や社会性の違いなど働く者のモチベーションにかかわる部分等の心理的な面では、日本人の感覚とは異なるケースが多いので、この点留意する必要がある。それらにきちんと対処しながら、日本の本社と情報を共有し、かつ現地雇用の社員に将来展望をもってもらうという観点からすれば、早い段階で漸次現地社員に経営を委ねる必要があるが、本稿1~3回でも述べたとおり容易ではない。
しかし、終局的にはソニー、日産や日本板硝子のように、外国人社長が日本本社のトップに就任することも厭わないスタンスを持つことが、単なる理想論でなく現実的課題としてこれから次々と登場するであろう。
さて幹部候補となる優秀人材の採用と引留め策は、現地雇用の社員がキャリアを明確に描けるかどうか、特に優秀な者にとって、経営トップになれる夢を描くことができるかどうかにかかっている。中国でいえば、残念ながら日系企業ではその夢を果たせる可能性はまずない。そのため従業員は自身について明確な将来像を描けず、日本の企業は欧米の企業に比して劣位に置かれてしまうのである。
現地主義を貫く方法
日本企業は未だ終身雇用制を基調とした労務管理であるため一旦採用した者を囲い込む傾向があるから、雇用の流動性を旨とする多民族の行動・資質を理解し難いという弱点がある。
要するに、本人の資質が向上し労働価値が高まれば、当然のことながら転職し易くなる。ここにこそ、実は働く者の「学習権」「キャリア権」(本紙2665~2667号掲載拙稿「注目すべき『キャリア権』」参照)の本質があるといってよい。自分を磨き上げることによって、より広い活躍の場を得て、より高い報酬を得ることができる。これは、グローバル化に伴う当然の現象のみならず、国内企業も「学習権」「キャリア権」を意識して人事制度を改めなければならない時代に来ていることを示している。
企業が従業員に対して教育機会を提供し、実行していく姿勢をみせることが必要不可欠であると意識しなければ、企業はグローバル化を達成し得ない。企業自らの現在の成長だけではなく、将来にわたっての成長をもたらす優秀な人材を引き留めることができなくなるのである。
企業のグローバル化とは、競争が一層激しくなるがゆえに、「絶えざるイノベーション」につながっていくことが肝要である。そのために企業は、新商品・新経営システム・人事等の新諸制度・新事業を創出しなければならない。とすれば、本社の所在地は、企業としてのイノベーションを最も良く実現し得るのはどこかという視点から、全世界の都市を候補として検討される必要が生じるだろう。グローバル化の行き着くところ、企業グループが成長し続けるための本社の海外移転が、現地主義を貫く具体的な検討課題として現実性を帯びてくるに違いない。つまり、真のグローバル化とは、このテーマを真剣な態度で検討する姿勢を持つかどうかにかかっているのである。
それにはまず確固たるグローバル戦略を打ち立て、地域ごとに独自の経営組織を構築し、調和のとれた事業計画を推進する母体を作ることが大切である。
本社を日本国内に限定する拘りや先入観がなくなり、海外への本社移転を、身近な感覚で捉えられるようになると、人事労務のあり方も根本的に変質しよう。そのとき日本企業は“三種の神器”~「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の呪縛から解放されることになるだろう。
では、日本企業の近い将来の新三種の神器とは何か?これについては多くの議論を重ねていく必要があるが、目指すべき方向性としては、①「キャリア権の尊重(個人の職業キャリアと人材教育の重視)」、②「ダイバーシティ(性・年齢・国籍によらない雇用の多様性)」、③「日本的成果主義(プロセスと成果の評価)」ではないかと思われる。少なくとも、これらを充足できない企業は脱落する。