青木昌一の『尊親敬師』の最近のブログ記事

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2018年12月2日(土)9:26 西新井大師にて紅葉を撮影

 

 

第12回 人事の役割

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一

 

1.経営の中での人事の位置づけ

私は今年の12月で人事コンサルタントになって18年になります。

その18年の間で「人事部」、「総務部」、「人材開発部」、「労務部」等々。名称は違っていても「人事部」の存在していない会社にお目にかかったことはありません。

業種や規模を問わずどんな会社にも人事部は存在しています。

このことは人事という機能が企業にとって必要で欠くことのできない重要な機能だということを表しています。

一方で「人事部」の機能には性質の異なるさまざまな機能が集約されています。

例えば、各組織と調整しながら人員の配置を決める機能。

給料を計算して社員に支払う機能。そもそもそのためには給与を決定する評価の仕組みを作らなければなりません。もちろんそれも人事の機能です。

また、人的な問題が発生したときにその解決にあたる機能。

社員の福利厚生を考え、実施する機能。

そして社員を採用し、戦力として高い能力を着けさせるために教育を行う機能などなど。

これらの目的は個々にはいろいろとありますが、究極的には世の中のコンペティターとの競争に勝ち、会社が未来永劫継続するために必要な機能だと言えます。

ゴーイングコンサーンと言われますが、企業の寿命が30年と言われる中で、経営としては何としても生き残っていくための取り組みが必須です。

したがって、どの会社においても人事部というのは経営に極めて近い組織だと言っても過言ではありません。人事部に所属する人たちには単に給与の専門家だとか社員のことをよく知っているということだけではなく、自社がどのようなリソースを持ち、それをどう活用して商売をしているのかを熟知し、同時に同業他社のみならず世の中の様々な企業の動向、世の中の状況を吸収するアンテナを備えていることが求められます。そのうえで、それらの知識や情報を駆使して難しい判断を下すことが求められる場面も多いといえます。

 

2.生産性の向上

昨今、働き方改革が各企業において大きなテーマとして取り組みが行われています。政府の「働き方改革実現会議」では19の対応策が提示されましたが、それら対応策の多くに共通する課題が「生産性の向上」です。

最近ICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)やAI(Artificial Intelligence/人工知能)、RPA(Robotic Process Automation/ロボットによる自動化)などこれまであまり聞きなれなかった言葉をしばしば耳にするようになりました。

これらはすべて生産性の向上のために最近研究が進み、さまざまな企業で導入が進んでいるシステムの話です。少子高齢化の問題が取りざたされて久しいですが、これから各企業は本格的に労働人口減少の問題に直面することになります。これまで10人でやっていた仕事を3人でこなさなければならなくなる。そのためには今までと同じやり方では到底やり切れません。

このような状況に対処するために生産性向上に向けての取り組みをしなければならなくなっています。この問題は当然人事部も無縁では済まされません。まず、優秀な人材を採用をしなければなりません。その優秀な人材をさらに磨くために教育していかなければなりません。これは何も研修を施すだけでなく、スキル向上に役立つ仕事に配置することも重要です。その配置は生産性向上をしていくためにこれまでとは全く異なる論理で行う必要に駆られることが予想されます。

人事部ではこのようなシステムの配置と人の配置に関して経営企画や情報システムの担当者そして勿論様々な部署の人とすり合わせを行って決めていく必要がありますし、これらのシステムを使いこなす人材の採用・育成を進めていく必要が出てくるでしょう。

人事部の仕事も劇的に変化する可能性があります。先日も新卒採用においてAIを活用した書類選考を行う企業がニュースで紹介されていました。さらに在宅勤務やそのための就業管理もこれまでとは変わり始めています。これらに対応するために人事部がルール作りをする必要もあります。

生産性の向上は経営としても喫緊の重要課題になっています。企業においてその根幹を担う組織のひとつが人事部であることは間違いありません。

人事部はそういう意味でも企業の中でも極めて経営に近い組織だと言えます。

 

3.終わりに

高井先生はご案内の通り、人事・労務分野の弁護士として活躍されていらっしゃいます。その先生に若い頃にご縁をいただき、今日に至っている私はとても幸せな人間だと思っています。

私は日本総合研究所のコンサルタントとして、主にクライアントの人事制度の設計を中心とする人事施策策定のお手伝いをさせていただいていますが、自分自身が人事コンサルタントとしてさほど秀でているとは思えません。それでも多くのクライアントさんから声をかけていただけるのは企業の人事部や経営が抱える多くの課題を高井先生を通じて学ばせていただいたからに他なりません。さらに様々な企業の経営者の方々や今回述べてきたような経営に極めて近い組織である人事部の方々との取り組みが、コンサルタントにしては現場が分かると認識をいただきクライアントの方々から信用いただけるという循環ができているのだろうと考えています。

 

ここまで一年間連載させていただいたブログも本稿が最終回になります。

この連載のお話をいただいたときに高井先生から「最後はどう締めるのかね?」と尋ねられ、「特に考えていないので、成り行きに任せます。」とお話ししたことを覚えています。

結局、当時お話ししたままの成り行き任せで最終回を迎えることになりました。

これも私らしいかなと思います。

ここまでこのブログにお付き合いいただいた読者の方々と、今回の機会を与えてくださった高井先生に感謝をして筆を置きたいと思います。

ありがとうございました。

 

以上

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2018年10月18日(水)13:10 六義園にてツワブキを撮影
花言葉:「謙遜、先を見通す能力」

 

 

第11回 経営危機下の身の処し方

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木昌一

 

 1.窮極の選択

今回はかつて私が経験したような経営危機下でどうモチベーションを保ち、自らの役割を全うするかについてお話ししておきたいと思います。

今現在、どんなに優良企業であっても10年後に会社が経営危機に瀕することはないとは誰も保証できません。私自身前職の西洋環境開発に入社したときにまさか自分の会社が14年後にこの世から消えてなくなるなどということは露ほども考えていませんでした。

 

さて、自らが所属する会社が経営危機に瀕したらどうするか?

もちろん、そんな会社には早々に見切りをつけて新たな道を見つけて転身することも有力な選択肢です。もし、今の私であればたとえ年齢的に転職が厳しくてもそういう選択肢を志向したのではないかと思います。

しかし、もしあなたが30代半ばまでの若手、中堅であれば、しばらくその環境に置いて厳しい体験をあえて経験してみることをお勧めします。

会社で仕事をするというのは自らを成長させる場であることは誰しも考えるとは思います。しかし、一方で働いて得た収入で生活をしなければなりません。そのことはある意味自らを成長させること以上に重要なことです。まして養っていかなければならない家族があるとしたら、その選択は余計に簡単ではありません。したがって、経営危機に瀕していてもその会社にとどまることは究極の選択とも言えます。

 

2.修羅場の経験

私自身、どうだったのか?

実は当時置かれていた立場のせいで辞めるに辞められなかったというのが正直なところです。まず、会社が極めて厳しい状況に置かれているという情報は他の部署の人より早くしかも詳しく知らされていました。再建に向けて事業ドメインを絞り、人員を削減しても生き残れるかどうかという状況の中で人員を絞るための施策の検討をする立場に置かれたことで、「僕、一足お先に失礼します。」とは言いたくても言えなくなってしまったのです。

とは言え、ここで頑張って会社での役割を全うしたところで将来報われるという保証はどこにもありません。しかし、今思えばあのときの経験が私にとってとても貴重な経験でありさまざまな困難に対して、耐えながら勝機を伺う訓練になっていました。

私の場合、幸いなことに周りの上司や先輩に恵まれていました。例えば極めて厳しい環境下でも先輩や上司の心が折れることはなく、いつも前向きに議論がされていました。あれがもし周りが後ろ向きな愚痴ばかりであれば恐らく私の心は折れて、早々に会社を辞めていたと思います。しかし、当時は周りの先輩たちとも「これだけ大変な思いをしていればどこに行ってもやっていけるよな。」といった開き直りで仕事をしていました。

さらに、幸運にも高井先生に日々起きる様々な問題を報告し、指導していただきながら解決策をひねり出していたことも大きなモチベーションにつながっていました。高井先生に「こうしてみたらどうだい。大丈夫だよ。」と言われると、不思議とどうにかなるような気がしてきます。そういう日々を過ごすことで、いわゆる人事的なスキルが上がり、さまざまな引き出しが自分の中に増えていくことを実感することができていました。

さらに、人事部の後に異動した関連事業部という部署で不良資産つまり保有不動産の売却や関係会社の売却、閉鎖を担当したことで今の仕事につながるスキルを得たとも言えます。交渉におけるポジションのとり方、様々な経営指標を読み取る力、そういったものを実務として身に付けることで単に座学では得られないものを吸収できました。

こういった仕事を通して、どん底の「基準」のようなものが自分の中に培われ、日々増えていく自分の「引き出し」と相まって大きな自信を得ることができた訳です。

 

 

3. 今苦境にあえぐあなたに

「今年度過去最高益の見通し!」といった新聞の見出しが躍る一方で、苦境に喘ぐ企業のニュースも飛び込んできます。

そういう企業で再建に取り組んでいる方に是非以下のような意識を持って仕事に取り組んで頂きたいと思います。

(1)今の苦労は真剣に取り組んでいれば、将来必ず自分の武器になる。

企業の状況が厳しいときというのは、例えば取引先なども極めて厳しい条件を提示してきます。したがって、その厳しい状況を少しでもばん回する必要があります。そのときに「ここはひとつなんとかしてよ!」という精神論は通用しません。相手が「それも良いか」とか「それなら大丈夫」と思ってもらわなければなりません。そのためには現在の状況を分析し、相手にもメリットがあると感じてもらえるような条件をひねり出す必要があります。この訓練はそう簡単には体験できません。

(2)火事場の馬鹿力を体験できる。

厳しい経営環境の中で仕事をやっていれば必ず「もうダメかもしれない」と感じる場面と遭遇することも多いでしょう。そういったときに自分では持っていないはずのスキルが発動されることがあります。私の場合、元来のんびりした性格で締め切りギリギリのおしりに火がつかないと動かない悪い癖がありました。しかし、物事には旬というものがあり、このタイミングを逃したら二度とチャンスは訪れないかもしれない。そういうアラームが鳴るようになりました。その際のいくつかの選択肢に対する判断も比較的適切に選択できるようになっていました。こういった力は意識して働くものではなく、日々ギリギリの中で仕事をしていたからこそ発揮できたに違いありません。

 

会社が傾くような経験をせずに済むに越したことはないのですが、もし、厳しい環境に置かれたときには以上のようなことを思い出して欲しいと思います。

以上

第10回 尋ねることの勇気

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木昌一

 

1.質問力

高校時代、同じクラスにN君という秀才がいました。どの授業でもちょっと分からないこと、疑問な点があると「しつもーん!」と大きな声を出し手を挙げます。そして、自分が疑問に思っていることを遠慮なく質問するのです。

当時、私は彼のことが羨ましくて仕方ありませんでした。と言うのも、私はと言えば、分からないことが分からない。仮にここが分からないと思っても「こんなこと聞いたら頭がわるいのではないかと思われるのではないか?」あるいは「恥ずかしいからあとで調べよう。」などという考えが頭をよぎり、質問することができませんでした。

恐らく高校3年間で先生に質問した回数はゼロ。よく、「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」と言いますが、私は正に一生の恥を積み上げていた訳です。

こんな状況に至ったのにはいくつか理由があったと今では思っています。

(1) 何がわからないのか本当に分からない。

これにはいくつか原因があったと感じていて、大きな原因のひとつがそもそも疑問を持つだけのベースになる知識がない。言い換えると、日ごろの勉強不足が災いした結果だということです。

さらに、人の話を集中して聞いていない。だから重要なポイントを聞き流してしまっている。つまり、質問しようにも先生が何の話をしているのかが分かっていないから質問できない。

(2) 変なプライド

高校生に限らないと思いますが、人から「君はそんなことも知らないのか?」と思われたくないという心理です。実際にはよほどレベルの低い質問をしない限りは誰もそんなふうには思わないのですが、そこが私の浅はかなところです。

(3) 面倒くさい

今思えば大変もったいないことをしていたのですが、人にものを尋ねるという行為そのものを面倒だと思っていた記憶があります。

他にもいろいろとあるのかもしれませんが、以上のようなことだったと思います。

 

2.質問の効用

高井先生とお付き合いをさせていただくようになって感じたのは「よく質問する先生だなあ」ということでした。ここで高井先生と先述のNくんが私の中ではオーバーラップするのです。

高井先生と打ち合わせをさせていただいていて、例えば先生がご存じない言葉を使ったり、話に説明不足な部分があると「それどういう意味?教えてくれよ。」、「そりゃあ、どうしてそうなったの?」ということがしばしばあります。別に詰問されるわけでもなく、ごく自然に質問を投げかけてこられるのです。

 

質問にはいくつか重要なメリットがあります。まず、時間が大きく節約できる。

疑問に思ってもそれを尋ねることなく後で調べようとするとたくさんの時間が必要になります。今ではネットの普及で「言葉」に関しては昔ほどではありませんが、その場で疑問に思ったことを尋ねると一発で解決します。場合によっては数日もほったらかしにして結局分からないまま終わるなんてこともあります。

また、話の内容に関しては大きな広がりが生まれることもあります。例えば、事業の売却を担当していた頃、「●●社の人と話をしていてちっとも交渉が進んでいません。」という話をしたことがありました。「誰と話をしているの?」と尋ねられ、「●●取締役です。」とお答えしたところ、「●●さんならよく知っているよ。」とその場で電話をしていただき、我々では聞き出せなかった、先方で時間がかかっている理由が明らかになりました。

その時は我々が売却しようとしていた関連会社の事務所のひとつが、かつてその相手先とトラブルになったことがある別の会社の物件を借りていることがネックになっていることが分かり話が進まなかったのです。そこで、さっそくM&Aを仲介してくれた会社に仲立ちしてもらい、事なきを得ました。

このような形で質問しなければ触れることのなかった話に辿りつくこともある訳です。

 

3.優秀な人の特性

現在、こうやって多くのクライアント方々と接するようになって、この質問をする力が不足していることを猛省しています。こちらが質問しなければクライアントの方々はこちらが理解していないことを知らないまま話が進んでしまうことがあります。

クライアントさんからすると、質問がないのだから当然理解している、あるいは知っていると判断して話を先に進められます。

後で分かった時に、かなり以前に議論して結論付けたことを再検討しなければならないことさえあります。

例えばその会社あるいはその業界でしか使われていないことばが日常的に使われているケースがあります。そこで確認の質問をしないでやり過ごしていくと核心となる話に辿りつけずに終わってしまうこともあります。

そうならないために我々に限らず企業で仕事を進める場合には「これはどういう意味だろう?」とか「これはなぜなんだろう?」と感じたことは躊躇せずに相手に尋ねる力がとても大切だと思うのです。

私の周りでも優秀だと言われる人のほとんどが疑問をひとつひとつつぶすように質問する癖を身に付けています。

そういった質問を重ねる癖を身に付けていることで、知識の幅が広がり、結果として様々な課題に対する解決の引き出しが豊富なのだと感じています。

「で、お前はどうなんだ?」と訊かれると、「これが簡単なようでなかなか。。。。。」

 

以上

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2017年9月10日(日)10:53 北区豊島8にてエンジェルストランペットを撮影
花言葉:「魅力、愛嬌」

 

 

第9回 対人影響力の極み

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木昌一

 

1.人を巻き込む力

「極み」

とてもインパクトのある言葉ですが、人と人との関係に関しての「極み」を高井先生とのお付き合いを通じて垣間見た気がしています。

企業再建に向けて高井先生のご指導を仰いでいる頃、私が先生の圧倒的な存在感に触れて信者になってしまっていたことは、この連載をお読みいただいている方なら既にお気づき頂けたと思います。

高井先生は当時、「弁護士は一人で仕事をするスタイルをとる人が多いからリーダーシップに長けた人が少ないんだよ。」と仰っていました。私が日本総研に入って様々な専門職の方と接する機会が増え、これは弁護士に限らず専門職の世界、とりわけ高度な専門性を必要とする職種の方々の特徴であると実感しています。一方で高井先生ご自身はというと、強烈なリーダーシップを発揮してクライアントを引っ張って行ってしまいます。

いかに高井先生といえども、ひとりの人間の作業としてできることは極々限られています。それでも多くの会社の支援し、再生させてこられたというのは、ひとえに周り人の巻き込み方に極めて秀でていらっしゃったことで、クライアントの中の多くの人の力を引き出されて大きな力を発揮させていたからだと考えています。

以前、リーダーシップとは「方向を指し示すこと」だと高井先生が仰っていたことをご紹介しましたが、さらに人を巻き込み組織化する能力もリーダーシップの重要な要素なのだと考えています。

ハーバード大学の有名な経営学者であるジョン・コッターは変革型リーダーの重要な要素として「危機感を高める」ことができる。これが企業を変革する際の第一のステップであるとしています。その上で次に「周りを巻き込み組織化する」ということを言っています。

これは私の勝手な推測ですが、高井先生は当時コッターのこの主張を恐らくご存知なかったのではないかと思います。しかし、数々の困難な案件をこなされる中で人を巻き込む力を身につけられたのではないかと考えています。

 

2.勉強会

私が日本総研に入社し、コンサルタントとして歩み始めた頃から、高井先生に様々な勉強会に声をかけられ出席させていただくようになりました。スタイルも様々で「シンクタンクについて考えよう」といったテーマで、人材マネジメントにかかわる方々がごく少数集まるスタイルだったり、年2回の定例的な会に最初のメンバーが知り合いの方々を誘い出席者が増えていきホテルのミーティングルーム集うというスタイルもありました。そこでひとつのテーマに関して各出席者が自らの意見や経験談を紹介し、みんなで議論するようなもの。また、ある時はこのテーマに関しては我が国の第一人者という方をお招きし、基調となるお話を聞きし、出席者が質疑応答をしながらおいしい料理を楽しむ食事会ということもありました。

それらの勉強会に出席されている方々も実に多様多彩な方々でした。大きな会社の役員の方や人事担当者、起業家としてビジネスを立ち上げている方、ジャーナリスト、教育家、会計士や弁護士、医師、コンサルタント 等々。

そこになぜ私がいるのかはいまだによくわからないのですが、実に様々な分野で活躍されていて、すごい方ばかりです。そういう場にいらっしゃる方というのは何かしらそれまでの人生の中で高井先生と知り合われた方ばかりです。高井先生がこのような人と人との縁を極めて大切にされていたことがよく分かります。

 

3.人への影響力

このようなスタイルで広がった高井先生の人脈が実際のところどのくらいなのかは私にも想像がつきません。

ですが、例えばビジネスの種について何か分からないこと、困ったことが発生した場合に高井先生を通じて連絡を取り合ったり、場合によっては出席者同士が新たな人脈として協力し機能し始めるといったこともあります。

私の周りでも高井先生から大きな影響を受けた方はいらっしゃいます。

この連載の第一回でご紹介した西洋環境開発時代の先輩であり直属上司だった課長。西洋環境開発の再建に向けて数えきれないほど多くの回数の高井先生とのミーティングに私は一緒に参加しました。この方がそのまま勢いがついて法曹への道を志すようになり、40歳を過ぎて司法試験に見事合格されました。

現在は紀尾井坂テーミス総合法律事務所で活躍されている西本弁護士がその人です。年に数回今でもご一緒する。。。実態は遊んでもらっているのですが、弁護士を志した理由についてきちんとお話を伺ったことはありません。しかし、当時間近で西本弁護士を見ていて間違いなく高井先生の影響を受けて司法試験に挑戦されたことは疑いようがありません。高井先生と知り合うことがなければ恐らく弁護士としての西本さんはいなかっただろうと思うのです。

さらに私が西洋環境開発の人事部員として最後の頃に北海道の関連会社に出向していた後輩が人事部に異動してきました。一緒に仕事をしていた期間は2年ほどでしたが、この後輩も現在は帯広で弁護士として活躍しています。この後輩の場合、高井先生と直接の面識がないわけではありませんが、さほどでもありません。どちらかと言うと西本弁護士の姿を間近に見て司法試験への挑戦を始めました。そして見事に弁護士として活躍している訳です。つまりは間接的に高井先生の影響を受けた一人と言えるのでしょう。

以上

第9回 対人影響力の極み 

 

「極み」 

とてもインパクトのある言葉ですが、人と人との関係に関しての「極み」を高井先生とのお付き合いを通じて垣間見た気がしています。 

企業再建に向けて高井先生のご指導を仰いでいる頃、私が先生の圧倒的な存在感に触れて信者になってしまっていたことは、この連載をお読みいただいている方なら既にお気づき頂けたと思います。 

高井先生は当時、「弁護士は一人で仕事をするスタイルをとる人が多いからリーダーシップに長けた人が少ないんだよ。」と仰っていました。私が日本総研に入って様々な専門職の方と接する機会が増え、これは弁護士に限らず専門職の世界、とりわけ高度な専門性を必要とする職種の方々の特徴であると実感しています。一方で高井先生ご自身はというと、強烈なリーダーシップを発揮してクライアントを引っ張って行ってしまいます。 

いかに高井先生といえども、ひとりの人間の作業としてできることは極々限られています。それでも多くの会社の支援し、再生させてこられたというのは、ひとえに周り人の巻き込み方に極めて秀でていらっしゃったことで、クライアントの中の多くの人の力を引き出されて大きな力を発揮させていたからだと考えています。

以前、リーダーシップとは「方向を指し示すこと」だと高井先生が仰っていたことをご紹介しましたが、さらに人を巻き込み組織化する能力もリーダーシップの重要な要素なのだと考えています。

ハーバード大学の有名な経営学者であるジョン・コッターは変革型リーダーの重要な要素として「危機感を高める」ことができる。これが企業を変革する際の第一のステップであるとしています。その上で次に「周りを巻き込み組織化する」ということを言っています。

これは私の勝手な推測ですが、高井先生は当時コッターのこの主張を恐らくご存知なかったのではないかと思います。しかし、数々の困難な案件をこなされる中で人を巻き込む力を身につけられたのではないかと考えています。

   

2.勉強会

私が日本総研に入社し、コンサルタントとして歩み始めた頃から、高井先生に様々な勉強会に声をかけられ出席させていただくようになりました。スタイルも様々で「シンクタンクについて考えよう」といったテーマで、人材マネジメントにかかわる方々がごく少数集まるスタイルだったり、年2回の定例的な会に最初のメンバーが知り合いの方々を誘い出席者が増えていきホテルのミーティングルーム集うというスタイルもありました。そこでひとつのテーマに関して各出席者が自らの意見や経験談を紹介し、みんなで議論するようなもの。また、ある時はこのテーマに関しては我が国の第一人者という方をお招きし、基調となるお話を聞きし、出席者が質疑応答をしながらおいしい料理を楽しむ食事会ということもありました。

それらの勉強会に出席されている方々も実に多様多彩な方々でした。大きな会社の役員の方や人事担当者、起業家としてビジネスを立ち上げている方、ジャーナリスト、教育家、会計士や弁護士、医師、コンサルタント 等々。

そこになぜ私がいるのかはいまだによくわからないのですが、実に様々な分野で活躍されていて、すごい方ばかりです。そういう場にいらっしゃる方というのは何かしらそれまでの人生の中で高井先生と知り合われた方ばかりです。高井先生がこのような人と人との縁を極めて大切にされていたことがよく分かります。

 

3.人への影響力

このようなスタイルで広がった高井先生の人脈が実際のところどのくらいなのかは私にも想像がつきません。

ですが、例えばビジネスの種について何か分からないこと、困ったことが発生した場合に高井先生を通じて連絡を取り合ったり、場合によっては出席者同士が新たな人脈として協力し機能し始めるといったこともあります。

私の周りでも高井先生から大きな影響を受けた方はいらっしゃいます。

この連載の第一回でご紹介した西洋環境開発時代の先輩であり直属上司だった課長。西洋環境開発の再建に向けて数えきれないほど多くの回数の高井先生とのミーティングに私は一緒に参加しました。この方がそのまま勢いがついて法曹への道を志すようになり、40歳を過ぎて司法試験に見事合格されました。

現在は紀尾井坂テーミス総合法律事務所で活躍されている西本弁護士がその人です。年に数回今でもご一緒する。。。実態は遊んでもらっているのですが、弁護士を志した理由についてきちんとお話を伺ったことはありません。しかし、当時間近で西本弁護士を見ていて間違いなく高井先生の影響を受けて司法試験に挑戦されたことは疑いようがありません。高井先生と知り合うことがなければ恐らく弁護士としての西本さんはいなかっただろうと思うのです。

さらに私が西洋環境開発の人事部員として最後の頃に北海道の関連会社に出向していた後輩が人事部に異動してきました。一緒に仕事をしていた期間は2年ほどでしたが、この後輩も現在は帯広で弁護士として活躍しています。この後輩の場合、高井先生と直接の面識がないわけではありませんが、さほどでもありません。どちらかと言うと西本弁護士の姿を間近に見て司法試験への挑戦を始めました。そして見事に弁護士として活躍している訳です。つまりは間接的に高井先生の影響を受けた一人と言えるのでしょう。

 

以上

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2017年7月29日(土)7:28 中目黒公園にてアガパンサスの蕾を撮影
花言葉:「恋の訪れ、知的な装い」

 

 

第8回 リストラの攻防


株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木昌一

 

1.初めての高井先生の著書

ご案内の通り、これまで高井先生は数多くの著書を出版されています。私がそれらの著書の中で最初に読ませていただいたのは「リストラの攻防」(1994年民事法研究会)でした。

前職西洋環境開発がいよいよ尋常ではない状態だということで、密かに管理部門で再建策を練らなければならなくなりました。そのことが当時の人事部長から私の上司であり先輩であった課長と私の二人に知らされ、人員を減らすことまで含めて検討しなければならないところまで逼迫していることを告げられました。

ですが、本連載の第一回目に書いた小さな関係会社撤退に関しては高井先生の指導を受け、なんとか対応しきれたものの、本体および他の関係会社をどうすれば良いのかさっぱり分かりません。そのとき「これを読むと良いよ。」と教えてくださったのが、最初に高井先生をご紹介下さった西武百貨店の人事部の課長でした。

その本が「リストラの攻防」でした。このブログの読者の方の中にはご存知の方も多いと思いますが、この本、並みの本ではありません。

 

2.大きな衝撃

まず、タイトル。

「リストラ」などという言葉がタイトルに入っている本など、当時は見たことがありません。このタイトルだけで十分衝撃的でした。

さらにカバーが真っ黒。これから学ぼうとする中身を暗示するような黒いカバーでおおわれています。

そこには後々高井先生から口を酸っぱくして叩き込まれた「短期集中、中央突破」で企業の苦境を脱するための人的リストラの方策が記されていました。

今も高井先生は「原則倒産の時代」であるとおっしゃいます。この本は誰しもが今所属している会社に倒産の危機が訪れる可能性があることを前提に企業人、とりわけ企業経営者や企業の幹部、人事担当者に向けて書かれています。

特に印象深かったのは、リストラを進める際に「神棚にお参りをしなさい」といった趣旨のことが書いてあることでした。そこまで腹をくくる必要があることなのか。私にとっては大きな驚きであり、覚悟をするきっかけにもなりました。

そして内容はというと、率直に言って、最初は意味が分かりませんでした。もちろん言葉は理解できます。ですが、そこに書いてある、しかもかなり平易な言葉で分かりやすく書いてある文章なのに、私の脳みそが勝手に拒否反応を示すのです。「そんなこと無理、とてもできる訳がない。」そうした潜在意識が邪魔をするのです。

後で考えると、もちろん限られたページですからすべてを書き記してあるわけではありません。しかし、逼迫した企業が何をすべきかは、その方策と具体的な方法が丁寧に紹介されているのでした。

 

3.人事権の法的展開

「リストラの攻防」に加えてもう一冊、先生の著書の中で人事担当者としての私が極めて実務的に参考にさせていただいた本があります。それが「人事権の法的展開」(1987年有斐閣)です。

これは当時頻繁に訪ねていた西武百貨店の人事部の方から1995年頃にたまたま

二冊あるからあげるよと頂いたものです。

この本は出版が有斐閣というということからもお分かりいただけるように、極めて専門的な書籍です。労働判例を紹介しつつ、法的な論点を挙げながら高井先生が解説をされている本格的な労働法務の本です。

労働法務と書きましたが、労働関係の問題は法律通りにはいかない部分が数多くあります。とくに解雇関係の問題は民法や労働基準法通りに定められている通りで良いと思ったら大変な問題になりかねません。

そのあたりの法律家でも恐らく分かりにくいと思われることを、丁寧に解説されています。人事担当をしていた当時、この本を読み込みいろいろな問題を想定しながら問題解決の方策を練る、そういうことで大変役に立った本でした。私にとっては人事実務の教科書でした。

西洋環境開発で人事部から異動になったとき、人事部の本棚に置きっぱなしにしておいたために手元に残っておらず、また、すでに絶版になってしまっていたために20年間目にすることができなくなってしまいました。

コンサルタントの仕事をするようになり、労務的な相談を受けたときに、「あの本があれば、似たような事案が紹介されていたよなあ」と思ったことが幾度もありました。

余談になりますが、それがこの4月にたまたまAmazonで検索してみると古書ですが、入手できることが分かり一も二もなくクリックをしました。

こうして改めて「人事権の法的展開」を読んでみると、紹介されている判例は、30年前の本ですから古くはなっています。しかし、その内容は今でも十分に参考になるものです。その一方で昭和50年前後の裁判では今ではとても考えられないようなことが起きていたことがよく分かります。

企業で人事労務を担当されている方には古書でもぜひ入手して参考にしていただきたい一冊です。

以上

 

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2017年6月17日(土)11:59 長野市栗田付近でロベリアを撮影
花言葉:「謙遜」

 

 

第7回 高度プロフェッショナル制度

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一

 

1.残業手当の免除

先日新聞などでも取り上げられていましたが、前回のテーマで残業手当の問題を議論する中で必ず取沙汰されるのが、残業対象にならない職種の新設です。

現在の我が国の法律の枠内で残業手当の対象を外れている職種としては管理監督職がよく知られています。

ただし、以前から本来管理監督職として求められる要件を満たしていないのに、「あなたは当社の管理職です。」と位置づけ、残業手当を支払っていない、いわゆる「名ばかり管理職」の問題があり、10数年前から大きな社会問題として取りざたされてきました。

この管理監督職以外に残業手当の支払いが免除されるものとして裁量労働制があります。裁量労働制とは簡単に言えば、仕事の進め方の裁量権を労働者に委ねる代わりに時間外手当の支給を免除するものです。しかし、厳密に言うと、「残業手当を免除」と表現しましたが、実際には「みなしで時間外の設定を認める」という枠組みの中で、個々の時間外労働時間を細かに積み上げて残業手当を算定することは不要にしますという制度になっています。

裁量労働制にはふたつの種類があり、ひとつは「専門業務型裁量労働制」、もうひとつが「企画業務型裁量労働制」です。

「専門業務型裁量労働制」の適用職種は労働基準法で定められており、それらの職種に限り労使合意など必要な手続きを経て時間外手当の支給を免除するものです。

「企画業務型裁量労働制」はいわゆる企画業務に就くホワイトカラーを対象にみなし時間外を定め、時間外手当の支給を免除する仕組みです。ただし、「企画業務型裁量労働制」は濫用の恐れが高いため、「専門業務型裁量労働制」と比較すると、必要な手続きが厳しく設定されています。

また、管理監督職と異なり休日出勤の手当は支給が免除されるわけではありません。

 

2.新たな枠組み

アメリカなど欧米では残業手当の支給対象にならない仕組みとして、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションが存在しています。

例えばアメリカの場合、「ホワイトカラー要件」、「俸給要件」、「職務要件」の3つを満たせば時間外手当の支払いが免除となります。「職務要件」についてはさらに3つの種類があり、「管理職エグゼンプト」、「運営職エグゼンプト」、「専門職エグゼンプト」が定められています。

先ほど裁量労働制では時間外労働を「みなす」という趣旨のことを述べましたが、そうではなくそもそも時間外労働に対する残業手当の支払いを「免除」する、言い換えると「時間で給料の算定を行うこと自体をやめよう」という考え方のもとに検討されているのが「ホワイトカラーエグゼンプション」です。

ご案内のとおり、一度は2016年4月の導入を目指し、法制化が進められていましたが、さまざまな議論を呼びはしたものの廃案になり一旦表舞台からこの議論が消えました。

しかし、今回「高度プロフェッショナル」制度として再び議論が浮上し、連合から104日の休日確保などの修正条件などが付きはしたものの一定の理解が示されたと報道されています。

 

3.なるか「高度プロフェッショナル制度」

高度プロフェッショナル制度の最大のポイントは労働時間で賃金を決めるものではなく、あくまで「成果」に対して賃金を支払うという考え方に全面的に軸足を移すことにあります。

その要件として、現在なされている報道によると、「研究開発や金融、コンサルタントなどの高度な専門的知識を必要とする業務」に就き、「年収1075万円以上」の者という認定条件が柱になっているようです。

今後詳細な詰めがなされ、「高度プロフェッショナル制度」の法的整備がなされる日も近いと考えています。一方で大きな論点になるのではないかと私が考えているのは「年収1075万円」という報酬要件です。

その他の要件については今の裁量労働制度の枠組みがある程度たたき台として使えそうなので議論は比較的早く進むのではないかと思います。しかし、報酬要件が設定されるのはこの制度が初めてになります。

真偽がまだ確認できていないのですが、1075万円というのは労働者全体の3倍程度の年収で算定されたようです。であれば、ここまで精緻にしなくても1000万円とか1100万円でも良さそうな気がします。

それはともかく報酬要件の1075万円という基準の確定方法と確定時期をどうするかが悩ましいのです。

というのは、サラリーマンの年収が確定するのは12月の給与や賞与が支払われてからになります。仮に残業手当の支給がないとすると、月例給与はほぼ固定になりますが、賞与は会社や個人の評価で大きく変動することが多いと言えます。そうすると1075万円に達すると見込まれていた年収が、賞与が思ったほど伸びず1060万円でしたとなる可能性が現実的に少なからずあります。

また、年収のカウントそのものを4月~3月とするのか、1月から12月にするのかによっても大きく異なります。多くの企業がいわゆる昇格を4月や7月に実施するケースが多く、昇格や昇進によっても年収は変わります。この辺り対象者認定時期も一定のルールを定める必要がありそうです。

とは言えここまで議論が進むと、かつて高井先生がおっしゃっていた成果で給料を決める制度が実現する日はもうまもなくではないかと考えています。

 

以上

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2017年5月28日(日)13:53 中央区銀座5にて紫陽花を撮影
花言葉:「移り気」

 

 

第6回 残業手当に思う


株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一

 

1.成果で測るべき仕事

20年ほど前でしょうか、「時間で給料が上下することはもう今の時代では通用しない。改めるべきだ。」という趣旨のことを高井先生から何度もお聞きしました。同時に「一人の人間の知恵でさほど時間を費やさなくても何億円も稼ぐような時代になった。だからこそ成果で報酬を決める必要がある。」ともおっしゃっていました。

 

2.賃金決定メカニズムのジレンマ

給与に関する「疑問」としてよく言われるのが「効率よく仕事を片付けて残業をしないで済む社員より、効率が悪く残業なしには他の人と同等の仕事ができないのに残業手当によって給料は効率の悪い社員の方が高いのはなぜか?なんとか改めることはできないか?」という話です。このことは企業の人事の方や企業経営者と話をしていても、しばしば話題になります。

残業手当すなわち時間外勤務手当は、今の法律では時間で支払うように定められています。ある程度定められた手順で定められた仕事をこなせば、一人前の人がやればほぼ同じ成果を出せるという仕事における給料の算定には適していると思います。実際には経済環境や会社の持つブランド力そのほかの要因で単純には語れない面も多いのですが、モデルを単純化してものを考えると上記のような仕事に関しては時間で報酬を決めることに合理性があると言えます。

また、かつては今のようなIT技術もありませんでしたから、手数がものを言う仕事も多く、誰がやってもさほど生産性に大きな差がつくことがなかったのだろうと思います。ですので、個人の生産性の差は賞与で少し報いてあげれば社員に対しても折り合いがつく。そんな状況だったのだろうと思います。労働関係の法律もそういった点に着目されてこのような賃金算定のルールが定められたのだろうと思います。

 

3.人の能力で大きな差がつく時代の到来

ところがビジネスがグローバル化し、IT技術も進化を遂げる中で1人の人が生み出す利益すなわち生産性も大きな差がつくようになってしまいました。

ここで私が西洋環境開発の新入社員として給与計算の担当をしていたときの例をご紹介します。

当時、西洋環境開発では15日締めで給与を計算していました。毎月16日から17日の間に私が担当していた東日本の事業所に勤務する社員の勤務報告書が届きます。私はここに記されている各社員の残業時間を集計用紙に手作業で個人別に書き込んでいきます。これを外注していた給与計算をしてくれる会社に18日くらいまでに提出します。

外注先の会社ではキーパンチャーをたくさん雇い、この方々が私の作った集計用紙に記載されている残業時間をコンピューターに打ち込みます。すると20日には給与が計算され、それがまだ袋が閉じられていない、かつ一人ずつ切り分けられていないつながったままの給与明細書と個人別の振込額が一覧になっている銀行への振り込み用紙となって私の手元に届きます。

振込用紙は振り込み日から中3日の営業日をあけて届ける必要がありましたから25日の支給日の場合、21日までに銀行に持ち込みます。これを各銀行では恐らくキーパンチャーの方々が入力しておられたのだと思います。

一方で、私は給与明細を事業所別に送るために、開いて届いた給与明細を袋とじにして1枚ずつ切り分け、あて名書きをして封筒につめて発送したり、本社内の各部署に渡すために輪ゴムで束ねる作業をします。

今、多くの企業では勤怠は各社員が直接システムに入力し、上司がシステム上でそれをチェックして勤怠が確定するとそのまま給与が計算されます。さらに給与明細はWEBで各人が見ることができ、必要なら印刷をすればよいという形になってきています。

これを当時の私の仕事に置き換えるならば、、、ないのです。私がやっていた仕事は見事にシステムに置き換わり完全に不要になってしまった訳です。

私が担当していた仕事はスピードや正確性については個人差はあれ、誰がやっても大きな差はつきません。ですから時間で給与を払ってもそこそこ合理的だと言えたのだと思います。

一方で、給与計算の業務が手作業からシステムに置き換わるとき、このシステムを発案した人たちの仕事は時間で測ることに合理性はあるのでしょうか?

給与計算の業務プロセスをシステムに置き換え、クライアントのコストの引き下げを実現すると同時にシステム会社としてもクライアントから委託料が入り続けるビジネスモデルを作ったことで、大きな成果を上げたと容易に想像がつきます。

 

4.成果主義に思う

上記の給与システムを作る仕事は新しいビジネスモデルを発明したと言えるでしょう。そして時給換算で給与を支払うよりも、その成果の大きさで処遇する方がなじむはずです。アイデアで莫大なコスト削減とそのシステム会社の利益を生み出しているわけですから。

1990年代後半から世間で言われ始めた成果主義は今では失敗だったのではないかと言われることも多くなってきました。どんな仕事でも成果で報いる人事制度に変えたのだけどもうまくいかないケースが数多く出たと言われています。しかし、それは「成果主義」が失敗だったのではなく、成果で測りやすい仕事と測りにくい仕事に対してすべからく成果主義を当てはめようとしたからだと私は考えています。

成果主義のあり方を考えることは、いま話題になっている「働き方改革」を考えることにもつながるのではないかと思っています。

以上

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2017年5月3日(水)8:23 根津神社にてツツジを撮影
花言葉:「節度、慎み」

 

 

第5回 三種の神器

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一

 

1.想定内

ホリエモンこと堀江貴文氏がライブドアの社長として頻繁にマスコミに登場していた頃、さまざまな人から投げかけられる質問に対して「想定内です。」と自信に満ち溢れている表情で答えていたことをご記憶の方も多いと思います。恐らく、堀江氏は実際にいろいろなケースを想定して自社内やご自身の頭の中でシミュレーションをされていたのではないかと思います。その作業があの自信に満ち溢れた表情を生み出していたのだと私は理解をしています。

ビジネスの中には出口の見通せないことに様々な場面で出くわします。そういった場合に想定できていないことをあらかじめ想定できていると極めて楽に仕事を進めることができます。つまり何か困難にぶつかっても「想定内です。」と自信を持って言い放つことができれば、その困難は解決したも同然と言える訳です。

 

2.事前準備

高井先生のお世話になり始めたきっかけは前職西洋環境開発の小さな関係会社の撤退であったことをこの連載の第1回目で書きました。

この時、私たちが高井先生に言われたこと。それは全体のスケジュールを作り、それができたら「大義名分」、「想定状況」、「想定問答」を作りなさいということでした。

「大義名分」とは、このケースで言えば、なぜ会社を撤退しなければならないのか?社員や世間に対してどう説明するのか?その理由をきちんと説明できるようにまとめることを指します。ここで説得力のある説明ができなければ社員の方々からの了解を得ることができません。そうなると、撤退が遅れ、さまざまな支障が生じてしまいます。

したがって、大義名分をしっかり作り、その上で社員の方々に充分な説明を尽くそうということでした。

「想定状況」は、あらゆる事態を想定し、打ち手を考えておくことです。そして何か重大な事態が発生した場合には現場ではどのような処置をし、どこに連絡を入れるかをすべて書き出して共有するためのものです。

「想定問答」は、様々な関係者からの問い合わせ、質問に対してどう答えるかを決めておくことです。したがって、このケースに関して言えば、社員の方々からの問い合わせはもちろんのこと、お客様、取引先、マスコミ、社員の家族など全方位に対して備える必要があります。

想定問答の最大のポイントは尋ねられた人が自分の思い込みで勝手なことを答えることのないよう関係者で平仄を合わせることにあります。そして、すぐに回答しきれないような質問があった時には一度持ち帰って対応を協議し、質問者に回答しなければなりません。しかし、毎度毎度質問を持ち帰っていたのでは、会社に対する不信感が募ります。そういうことをできる限り少なくし、関係者が即答できるようにさまざまな質問とそれに対する答え方を書き出して共有して備える訳です。

この「大義名分」、「想定状況」、「想定問答」を備えることは、その後、私たちが何かを行う際に欠くことができない作業になっていきます。

ですので、この三つの作業を総称して私は密かに「三種の神器」と呼んでいたのです。

 

3.「三種の神器」の本当の効果

これらの作業を行うことで、我々は万全の対策を練り上げることができ。。。。。。いえ、実はそれでもしばしば想定外の事項が生じたり、質問がなされたりします。しかし、この事前の準備を十二分に行うことで、少々のことでは動じない自信が身に付きます。

あることに対して、自らの頭をフル回転させ、あるいは関係者と徹底的に議論を尽くして備えることで、何があってもきちんと対応できる自信が湧いてくるのです。こういった感覚は受験生が問題集でいろいろな問題にあたり、本番で同じ問題が出ずとも、これはこういう風に解けば良いという自信がつくのと似た感覚があります。

人事労務ではこのように先の見通せない対応を余儀なくされることがしばしばあります。したがって、私も客先から労務問題などの相談を持ち掛けられるときには、こういった過去の経験をお話しし、「大義名分」、「想定状況」、「想定問答」を作るようにおすすめするのです。

そして何より自信を持ってことにあたると、不思議なことに問題がうまく解決できるのです。もちろん、その過程で右往左往するような事態も発生します。しかし、充分に準備をしたんだという自信が、自らの動き方や判断を正しく行えるようにしてくれ、問題を解決してくれる訳です。

したがって、私が客先のメンバーによってこれらが作成された場合に最も着目するのは、例えば私が例示をしたものをお渡ししても、さらにこれらを徹底的に見直し、自らの言葉としてまとめ上げられているかどうかです。もし、通り一遍をなめただけだと危うさが残ります。しかし、自分の言葉として本気で見直しをされていると読み取れる場合には、もう大丈夫だと思うのです。 

以上

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2017年3月24日8:02 中目黒公園にて椿を撮影
花言葉:「控えめな優しさ、誇り」

 

 

第4回 コミュニケーションの取り方


株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一 

 

1.きっかけは事件から

ビジネスマンに限らず日常生活においてもコミュニケーションを抜きにして人間関係は成り立ちません。

ビジネスにおいても様々な場面でコミュニケーションのとり方ひとつでその後の結果が変わってしまうことが往々にしてあります。

私自身は決してコミュケーションのとり方がうまい方とは思いませんが、高井先生にお世話になったある「事件」を通じてひとつのポイントを学びました。

前職の西洋環境開発時代に100名ほどの社員規模の会社の経営管理と売却先探しを、いわゆる親会社として担当していたことがあります。その会社は極めて優良な会社で毎年きちんと利益を出し、100%株主である西洋環境開発に配当を出している会社でした。

優良な会社ですので、親会社としては細かな指示を出すことは少なく、西洋環境開発から派遣されている取締役と社外取締役として経営ボードに名前を連ねている先輩等が月1回の取締役会で方針を決める程度の関与の仕方でした。

ところがある日、労働組合の委員長名でこの非常勤取締役である先輩のところに封書が届きます。

 

2.直訴

封を開けると、そこには現場の実質的な責任者で生え抜きのある課長(と言っても、課長はこの方ひとりで、プロパー社員として現場のことも一番よくわかっている方でした。)と意見が合わないケースがたびたびあり、その点を西洋環境開発から派遣されている取締役に調整してもらえるようにお願いしても、ほとんど取り合ってもらえない。挙句の果てにはこんこんと説教をされてしまう始末である。このままでは自分たちが労働組合として社員を守るために何かしらことを起こさざるを得ないところまで追い込まれている。という内容がつづられていました。

そこで先輩と私はすぐその会社がある関西に向かいました。労働組合の委員長と書記長は私とほぼ同世代の方々で、話しやすかったのも幸いでした。

二人と就業時間終了後、居酒屋で待ち合わせ、いろいろと話を聞きました。そこで出た話の細かい部分は割愛しますが、

(1) 課長の方針・指示は難しすぎて社員に徹底するのは厳しい部分があるのだが、命令として指示され、できなければ叱られるので社員としては我慢できない。

(2) そのことを取締役に話をしても、同じ調子で言われてしまい、しかも話をしているとさえぎられて、伝えたいことが伝えられない。

(3) 最後には、お前らがだらしないからだと説教をされてしまい、状況がまったく変わらない。

(4) 思い余って委員長と書記長が相談した結果、ダメ元で親会社である西洋環境開発でこの会社を担当する部署の部長で非常勤取締役を務めている先輩のところへ直訴状を送った。

といった、話しがありました。

とにかく、その場は一旦話を聞くにとどめ、翌日東京に戻り、先輩と私は市ヶ谷の事務所に高井先生を訪ねました。

なぜ高井先生か。

実は西洋環境開発には社員会があり、春闘は社員会と行うものの労働組合はありませんでした。したがって、その前年まで10年ほど人事部に所属していた私も労働組合との付き合い方などまったく分らず、すがれるのが高井先生だけだったのです。

 

3.コミュケーションのポイント

我々の報告を黙って聞かれていた高井先生はおっしゃいました。

「それはコミュケーションが成立していない。コミュケーションというのはお互いが意見をまず聞き、その意見に対して意見を伝える。この繰り返しの言葉のキャッチボールがなければコミュニケーションとは言えないんだ。」

さらに、「とにかくそれ以前に話をよく聞くことが重要だよ。単に話を聞くだけで問題が解決することもあるくらいなんだ。」ともおしゃいました。

この高井先生からの話を受け、先輩と私はふたたび関西に向かい、現地の常勤の取締役の方々、今回たまたま名前が出た課長、組合の委員長、書記長に別々に時間をとってもらいそれぞれ表現にだけ気を付けながら話をしました。

取締役の方々にはとにかく組合の話を聞くことに徹してほしいこと。課長には話を聞くことに加え社員の方々の様子を見極めながら指示出しをお願いしたいということ。

そして、組合の委員長、書記長には取締役等にこういうお願いをしてきたという話をし、一方で別の必要性もあったのですが、月一ではなく、もう少し頻度をあげてこちらに来るので、ざっくばらんに情報交換をして欲しいという話をしました。

その後、毎月2~3回、1泊~2泊くらいのスケジュールで関西を訪ね、高井先生に教えられたコミュケーションの方法を我々も守り、労働組合の幹部をはじめとする社員の方々とコミュニケーションを重ねていきました。

結果として、この会社は第1回目で申し上げたように西洋環境開発が特別清算になる前にある有名な企業に譲渡をすることができ、連鎖倒産を免れました。この譲渡の際に、社員の方々が大きく動揺することなく成功した背景にはこの労働組合の獅子奮迅の活躍がありました。

また、この課長さんは売却後、この会社の業容拡大に貢献され、今ではその会社の社長として活躍をされていらっしゃいます。

そして私は、、、今もこの高井先生からの教えを愚直に実践するよう心掛けています。

 

以上

 

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2017年3月22日(水)8:50 靖国神社にて桜(ソメイヨシノ)の標本木を撮影
花言葉:「純潔、優れた美人」 

 

 

第3回 リーダーシップのあり方

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一 

 

1.リーダーシップの本質とは

コンサルティングの仕事、とりわけ私のような企業の人事制度設計をお手伝いするような仕事をやっていると、クライアントから理論値はこうなのだけど、どうしてもこういう風にしたいという要望を出されることがあります。

例えば、本来人事評価というのは個人の人格や業務外の出来事を反映させることはやるべきではありません。ところが中堅企業の経営者の中には地元の住民の方々を招いて盆踊りを主催するようなケースがあります。事務局として準備や運営をする社員は業務ですが、参加者として出席する社員はプライベートとして参加が推奨されるケースもあります。強制ではなく、会社の思いとしてみんなで地域への貢献をしたいという考え方です。直接的には会社の業績にこういった行動が寄与するケースは少ないかもしれません。しかし、その会社の経営者の方はそういう活動を通じて、地域の方々に地域の一員でありたいという会社の姿勢を知ってもらいたいとの思いがあるのです。

そういう場合、会社としては人事評価の際に盆踊りへの参加してくれた社員に人事評価の際に加算して評価してあげたいという話になるのです。

人事コンサルタントとしての正解は、もちろんそういった業務外のことを人事評価に反映させるべきではないということを主張すべきです。

しかし、私はそういう場合、経営者の方々の思いを十分に伺うようにしています。そして、そこに経営者の方々の熱い思いが詰まっていると感じた場合には、社員にとって一見理不尽に思えることでも、その思いを尊重させていただくケースもあるのです。

この姿勢は高井先生から学んだものです。高井先生はかつてリーダーシップの本質は「方向性を指し示すことである」と、教えてくださいました。ロジカルに理論値を追いかけるばかりではなく、経営者が考え抜いて出した方向性に大きなリスクがなければ多少遠回りになったとしても尊重すべきだ。その方向性を示せることがリーダーには大切な素養なのだと私は解釈するのです。

そして、そのリーダーシップに私は賭ける訳です。

 

2.人事評価とリーダーシップの関係

少し話が脱線しますが、人事評価ではオーソドックスには3つの大きな要素があると言われます。

ひとつは「業績」すなわち仕事の成果です。

ふたつ目に「能力」これは各人が持つ潜在的な力もしくは顕在化された力。近年は行動として示された力をコンピテンシーと呼ぶケースも多くなっています。

そして、最後が「勤務態度」。取り組み姿勢や情意とも呼ばれます。

組織の上の立場に立つ人ほど人事評価では「業績」が問われます。これはいくら能力があったとしても、それを発揮して業績につながらなければ意味がない。成果につながらなければ話にならないという発想です。

これに対してなぜ「能力」の評価が必要なのか。それは少しでも高い能力を発揮することを目指すことで、高いステージに上がってもらいたいという経営者の意思があるわけです。つまり社員の育成のためにこういう力を示し、評価をして処遇に反映するのです。これにより社員は少しでも高い能力を発揮するためにはどう行動すべきかについて理解を深めるのです。

取り組み姿勢は例えば社会や会社のルールを守れとか、仲間と協力して組織としての力を発揮したかといった基準になります。

これらの人事評価の要素の中で「業績」に準じて上位の立場の人に求められるのがリーダーシップです。その組織のリーダーがリーダーシップを発揮することによって組織の力は2倍、3倍に高められ、高い業績を上げる可能性が高くなるからです。

 

3.決断

話を戻しましょう。

「方向性を指し示す。」

文字にすると極めて簡単な言葉なのですが、このことがいかに難しいか。部下や後輩と一緒に仕事をし、多少なりともリーダーとしての役割を担ったことがある方はお分かりいただけると思います。

まず、方向性を決める必要がある。そのためには自分たちのやろうとしている仕事に対して客観的な評価ができなければなりません。多くの情報を集める必要もあります。ところが集まった情報はさまざまなことを物語ります。そうすると、どうすることが仕事の次の一手に最も資するのか、その次には何をしなければならないのか。様々な情報の中から取捨選択して自分なりの考えをまとめなければなりません。そこには様々な迷いが生じることは想像に難くありません。これで本当に良いのか?自分の単なる思い込みではないのか?結果が業績向上につながらなかったらどうしよう?

そんな迷いを断ち切り方向性が見定まったら、次は部下や後輩に伝えなければなりません。そのためにはどういう伝え方をするのか?何かの会議の席で発表するのか?小さなミーティングを重ねて少人数ごとに伝えるのか?

そういう迷いの中での決断が必要になるのです。

高井先生が長きにわたって多くの企業経営者の方から大きな支持を得続けておられるのは、、、、私の推測ですが、、、、「大丈夫。私がついている。」

こういう姿勢でいつも接しておられるからだと思うのです。

以上

 

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