2017年2月11日(土)10:20 蘆花恒春園にて梅を撮影
第2回 解決策は己の中にある
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一
1.事務局長の役割
「誰か事務局長をやってくれ。僕が企業のお手伝いをするときには必ず事務局長を置いてもらっているんだ。」
なかなか手が上がらないので、私はうかつにも「はい。私がやります。」
「事務局長はスケジュールの調整、議事録の作成を頼む。いいかい議事録は一字一句漏らさず会議の記録をとるんだよ。」
小さなリゾート会社の撤退から始まった西洋環境開発の再建に向けての取り組みはその状態が明るみになるにつれて、徐々に範囲が広がっていきます。そこで本格的に高井先生に顧問をお願いし、労務的な対応のご支援をいただくことになりました。ただ、会社としての再建に向けての具体的な策は固まりません。とはいえ、動きが決まってから動き出したのでは後手に回ってしまいます。そこで人事部としては、ある程度先を見越して状況を想定し、準備を整えることにした訳です。
当時多忙を極める高井先生のスケジュールは本当に分刻みです。その多忙なスケジュールの隙間で30分とか1時間の時間を毎週抑えさせていただき、ミーティングを行うことになりました。
ミーティングは一旦録音し、それをワープロで一字一句漏らさぬよう書き起こします。録音した内容を再生しながら1時間の会議を書き起こすのに2~3時間はかかります。当時は今と違い会社の書類はB版全盛。そのB4の紙にびっしり4~5枚になります。
しかし、この議事録の使い道が正直なところ最初のうちはよくわかりませんでした。ほどなくその謎が解けます。
2.プライオリティのつけ方
「青木君、今度の土曜の朝7時半に議事録から課題をリストアップして事務所に持ってきてくれ。読み合わせをやろう。」
ひと月分だったかふた月分だったかは記憶が定かではありませんが、事前にB5の用紙に各ミーティングでポイントになった課題を書き出します。
今、私が所属している日本総研に限りませんが、多くのコンサルティングファームでは、新人研修で要領よくポイントを抜き出しまとめるスタイルの議事録の取り方の訓練を受けます。しかし、当時の一般企業でそこまでやっているところは少なかったのではないでしょうか。私も当然そんな教育は受けていません。したがって、この課題を抜き出す作業も簡単ではありませんでした。膨大な議事録から内容にプライオリティをつけ、それを書き抜くことはかなりのスキルを要します。だからこそ、この一旦一字一句を書き起こし、後でポイントを出す議事録の作成するスタイルは良い訓練になりました。
しかも、高井先生からマンツーマンで指導を受けられる機会にもなります。この時間は後々いろいろな意味で私の財産になります。
3.課題整理
話しを元に戻します。
この箇条書きにしたメモを元に先生と2人での打ち合わせが始まります。「これはどういうことかい?」
「それは恐らくこういうことではないかと思います。」
「ということは、ここが決まらないと打ち手が決まらないな。ここを決めるように伝えておいてくれ。」
そんなやり取りを小一時間したあと、週が明けて先生との打ち合わせ結果を会社に持っていき、社内で対応を練ります。
その結果を持って次の高井先生とのミーティングに備えます。
課題が明らかになり、打ち手が見えてくると、議論が具体的になります。そういう段階に入ってくるとミーティングが始まる前に私が高井先生からある指示を受けます。
4.コーチングの原型
「参加者に紙を配って各自心配ごと、気がかりを書いてもらってくれ。」
心配ごと、気がかり以外に条件はありません。そうするとさまざまな心配ごとが書き出されてきます。レベルも極めて高度な経営的な問題から、本来のテーマから一見かけ離れているような話まで。これを会議の開始と同時に高井先生がひとつずつ書き出した人に説明させていきます。同時に本人に「どうしたら良いと思いますか?」と尋ねます。これによって一瞬にして解決する話、慎重に策を練ってあたらなければならない話が明らかになり、問題が仕訳されてくるわけです。
もうお気づきかと思いますが、これは「コーチング」につながる手法です。当時、「コーチング」などという言葉は世間には広がっていませんでしたから、高井先生も「コーチング」としてこうした作業を行われていた訳ではなく、経験的に問題解決に有効な手法として採用されていたのだと思います。
書き出すという作業によって、まずは書いた本人の頭の中が整理されます。何が問題なのか?それは本当に問題なのか?が自分自身で整理されます。そして、場合によっては書き出して整理しているうちに打ち手が自分の頭の中に湧いてくることもあります。仕事をする際に問題を書き出すというスタイルをとっている方がどのくらいいらっしゃるか分かりませんが、一度試されると良いと思います。
私が日本総研でコンサルティングをやるようになってから、この手法の真似をさせていただき、ずいぶん役立ちました。人事制度を設計する中で事務局が後ろ向きになるケースがあります。そういった時には客先の事務局の皆さんに心配ごと、気がかりを尋ねたり書き出してもらったりすることで議論が徐々に前向きかつ実践的になるのです。
以上