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<働き方改革> 第5回 トランスコスモス株式会社

 

一時、私が体調を崩していたため、連載を休止しておりました連載「働き方改革」ですが、今年からまた再開することと致しました。

再開第一回目に取り上げさせていただくのは、トランスコスモス株式会社様です。

トランスコスモスは本社を東京に構えていますが、大阪本部、名古屋・和歌山・福岡・京都等の支社の他、米シリコンバレーにも支店があり、その社員数は約5万3千人にものぼります。このような大きな会社で、「働き方改革」を推進するためには、どのようなことを行っているのでしょうか。

執行役員 人事本部担当 兼 サービス推進本部人材マネジメント統括部担当 名倉英紀様と人事本部 企画推進部 HR推進部 課長代理の中村彩香様にお話を伺いました。

 

1 意識の共有

トランスコスモスは社員国内約3万5千人の大規模企業であるにもかかわらず、今回の取材で伺ったお話からは、足並みを揃えて働き方改革に取り組まれている様子が窺われました。

これまで別個に行ってきた取り組みを、「働き方改革」という大きなプロジェクトとして一つにまとめ、各々の取組の進捗状況を管理しながら、特に法にかかわってくるものについては人事部主導で促していく、という形態で現在、働き方改革を推進しているとのことです。

会社HPにも働き方改革のページを作成するなど、全社を挙げて働き方改革に取り組んでいることを明瞭にしていることも、良い効果をもたらしているのでしょう。対外的なアピールのみならず、社員に意識改革を促し、働き改革による新制度を利用しやすい環境になっているのだと思います。

 

2 長時間労働の削減

今回の取材でまず印象に残ったのは、労働時間の削減です。

従来100時間を超すことも珍しくなかったという残業時間が、バックアップ体制や日々の管理、長時間の残業が生じた際の役員面談、産業医面談の義務付け、さらには残業が連続した場合は評価へ反映など、徹底した管理や成果主義を採用したことにより、現在は平均して1か月20時間程度になったとのことで、目に見えて成果が出ていることが分かります。

また、上から残業を減らすように指示するだけでは、現場はサービス残業などで対応し、実質的な解決にならないということから、説明会を開き、社員に直接働きかけを行ったそうです。

その他にも、3S運動(※1)のような改善運動を行ったり、コンテスト形式で年間300人以上の優秀な従業員を表彰したりするなど、徹底して業務を改善して、生産性を向上することに務めました。

また、タイムカードのみならずパソコンのログイン・ログアウトの記録、入館・退館記録のチェックなどを通して、毎月厳しく労働時間を管理しているそうです。

 

3 ダイバーシティー

(1)女性活躍推進

トランスコスモスは、IT企業としては珍しく、スタート時は9割以上の社員が女性だったそうで、現在でも正社員の4割、契約社員の8割を女性が占めています。

しかし、以前は、女性の役員が数人いたところ、その後、人数が減少したため、9年前から管理職に占める女性の割合を増やすことを目標として「女性活躍推進プロジェクト」を立ち上げ、現副社長がオーナーとなって、積極的に女性活躍に関する様々な施策に取り組んできたそうです。その結果、管理職に占める女性の割合は、現在は20%近くまで増えてきました。

施策の内容の一部としては、管理職となることに二の足を踏みがちな女性の背中を押し、キャリアアップを促すために、選抜されて全国各本部から集められた優秀な女性社員を対象として、社内研修「キャリアバリュー」では次々世代のマネジメント層にあたる女性社員の育成を行い、「キャリアベーシック」では次々世代のマネジメント層にあたる女性社員の育成と管理職候補の女性向けの研修を行っているとのことです。いずれも、「上を目指すためにはどういったことをしなくてはいけないか」を常に考えて行動することを意識づけるための研修が行われているそうです。

また、女性が働きやすい環境を作る施策の一環として、産休・育休の復帰に当たってのサポートや休暇中のコミュニケーション、児童が小学校3年生修了まで時短勤務を認める等の措置をとり、その結果として、毎年、産休・育休をとる社員が150名程度いる中で、休暇後の復職率は96%を誇ります。現在は、育児のために退職してしまうことを防ぐために、在宅勤務をトライアル的に導入しているとのことです。

こういった取組みが認められ、トランスコスモスは、厚生労働大臣による、「えるぼし認定」(※2) や「くるみん認定」 (※3)など、多くの認定を受けています。

 

(2)外国人労働者の受け入れ

現在、トランスコスモスには、外国籍を有して日本で働いている従業員が300名程度いるそうで、その数は今後も増え続ける見込みです。

毎年、韓国・中国・ベトナムから新卒で10名~15名程度をコンスタントに採用しているのみならず、インターシップの受け入れも積極的に行っているそうです。

他企業でもこれから増えるであろう外国人労働者の採用に向けて留意点を伺ったところ、「相手の文化を尊重すること」というシンプルでありながら真摯な回答をいただきました。また、当然、言葉の問題があるので日本語の勉強会を開催するなど、コミュニケーションをきちんととることも大事にしているそうです。家族を伴って来日している場合、家族へのサポートやケアも検討するなど、慣れない土地で働く労働者に対し、心身ともに手厚い配慮をしています。

 

3 コラボヘルス

トランスコスモスでは、社員の健康管理を推進することができるよう、けんぽ組合と人事が連携を取るよう努めています。今年1月からは、より、けんぽと人事の垣根をとって効率性を高めるために、人事の健康推進課のメンバーを兼務出向という形でけんぽに送っているそうです。

また、産業医・保健師・臨床心理士のチーム化を図り、より有機的に機能するよう整備する予定とのことです。

最終的には、社員に健康診断の受診を促すのみならず、診断結果の分析など受けた後のフォローをワンストップで行うことで、社員一人一人に対する健康をケアし、更にそれができるようになったら、より予防的な施策を一緒になって行うことを目指しています。

 

4 まとめ

実は、今回の取材にトランスコスモスにお邪魔した際に、早くに到着してしまったので、エントランス横のソファをお借りし、10分程度座っていました。

そこで、社員の方たちが出入りをする様子を眺めていたのですが、皆さんの表情の明るさや華やいだ様子が非常に印象に残りました。

今回伺ったお話しからも分かるとおり、トランスコスモスでは、社員が安心して働くことができる空気がまずあり、それに基づいて作られた制度・環境が整っているのでしょう。

また、トランスコスモスでは、女性や外国人など、幅広い人材を積極的に受け入れているように見受けられました。日本経済向上のためには、多様な労働力の確保が必要不可欠ですから、トランスコスモスの受け入れの姿勢や取り組みには大いに学ぶべきところがあると思います。

 

(※1)…職場環境の維持改善で用いられるスローガン。3Sは、整理、整頓、清掃の頭文字。

(※2)…一般事業主行動計画の策定、届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な事業主は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができる。

(※3)…次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動契約を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができる。

 

以上

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2018年12月30日(土)7:31 芝公園にてシロタエギクを撮影
花言葉:「穏やか」

 

 

<働き方改革> 第4回 株式会社グリーンハウス

 

今回は、株式会社グリーンハウス様に伺い、萩原貴子取締役、樋口道雄理事・人事総務部人事労政グループ部長に取材を行いました。

グリーンハウスは、オフィス・工場・学校・ヘルスケア施設での食事提供を受託するフードサービス企業。ほとんどの場合、営業所長が一定の管理責任者であり調理責任者でもあります。フードサービスは一般的に長時間労働のイメージがついてまわる業界ですが、そのイメージを覆す働き方改革への積極的な取り組みについてお話していただきました。

 

1 働き方改革プロジェクトのスタート

 

グリーンハウスでは、昨年7月に、全体プロジェクト責任者の下に3名の役員がそれぞれ自分の所管の部署を中心に改革をしていくために体制を整え、全社を挙げたプロジェクトとして働き方改革をスタートさせました。

プロジェクトの大きな目的は、当然「働き方の改革」ということになりますが、それを達成するために、短期の目標と中長期の目標を設定し、この両方を視野に入れながら推進していく予定とのこと。

具体的には、短期の目標は、人材不足により引き起こされる長時間労働の削減、中長期の目標は、働き方改革宣言を発して働き方改革をどのように進めていくかを全社に周知することとしています。

短期の目標を達成するために、まずは週2回のノー残業デーをスタートさせたそうです。

*参考)「GHG働き方改革 企業宣言(ウエルネスプログラム)」を制定http://www.greenhouse.co.jp/topics/2018/180221.pdf

 

2 ワークスケジュールの見直し

生産性向上のために、ワークスケジュールの見直しにも着手しました。

従来、営業所長自身が長時間労働ありきのワークスケジュールを組んでいましたが、これを見直し、自ら一手に仕事を引き受けるのではなく、負担を分散することを心がけるようになったといいます。また、一つ一つの工程に無駄がないかを日常的に確認するという見直し作業も実践しています。

このような作業は一見地道ですが、全体としての総労働時間の削減のためには避けて通れないものといえるでしょう。

 

3 労働時間ではなく仕事のプロセスと成果の評価を

グリーンハウスでは、単に長い時間働くことを『頑張っている』と評価するのではなく、これまで行ってきた業績(いわゆる売上げ)と成果がどれだけ上がっているかということを一義的に評価するというシステムをより明確にしていこうとしています。

これは、評価項目に業績評価と行動評価という項目を作成し、業績評価では結果を、行動評価では業績の結果を出すためにどういう行動をするのかということを、本人と上司で事前に確認して目標設定をしたうえで、設定したその行動自体ができたか、できたその行動が結果にどう影響を及ぼしているかによって評価を行うシステムです。

この評価システムの肝は、目標を設定する段階で、評価者側、上司側がいかに適切な指導をしているかという点にあります。

これと並行して、「長時間労働」を行っている社員には「働くこと」の意識を変えていくような働きかけを行っているそうで、その一例が、営業の責任者による率先した働き方改革プロジェクトへの賛意の表明とのことです。


4 女性の地位向上

同社はまた、女性社員の比率が高く、その力をもっと活かしたいという思いから、4年程前から人材の発掘と登用、育成といったことを推進し、女性役職者を増やしていく試みを行っています。女性役員比率を20%、部長職比率を25%以上、マネージャー比率を30%以上とすることを目標としています。現時点では、それぞれ達成率が半分程度ですが、各職場において積極的に女性管理職候補者の発掘、育成、登用の動きが定着しつつあるそうです。将来的には、女性だけではなく外国人社員の活躍も広がっていくことが期待されるため、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する活動は今後も重要だと認識しているといいます。

 

5 健康経営への取り組み

①従来からの活動

グリーンハウスの健康経営に対する取り組みは10年以上も前に始まっていて、現在も社内で様々なプロジェクトが進んでいます。特に「歩いて健康プラスワン」というウォーキング推奨プロジェクトは人気で、チームを組んで競い、毎年優秀なチームを表彰しているとのことです。

また、4,000人以上在籍しているという65歳以上の従業員について、体力面から業務負荷や労働時間の管理を徹底しているそうです。


②健康経営・ダイバーシティ推進室

昨年春に萩原取締役が「チーフヘルスオフィサー(CHO)」という健康経営推進の責任者として任命され、それを遂行するための組織として「健康経営・ダイバーシティ推進室」が設置されました。

もともとグリーンハウスはお客様に健康的な食事を提供することを業とする会社であるため、健康促進に関しては、ビジネスとして長年培ったノウハウを蓄積していた。このノウハウを社員に対しても積極的に活かしていこうということで、昨年オフィシャルな形で組織化したのがこの組織です。

今までプロジェクトとして動いていた健康経営に関する活動を、健康経営・ダイバーシティ推進室ができてからは、全社を組織化した定常的な活動として定着を進めています。例えば、毎週フロア全体で行う会社全体朝礼の際に、月1回程度の頻度で、オフィスで働く人たちのための手軽にできるストレッチの紹介などをして、従業員の健康意識を高めるよう努めているそうです。

また、健康経営・ダイバーシティ推進室のメンバーがメールマガジンで季節ごとの注意事項や健康に関するちょっとした情報を発信するという形で、ヘルスリテラシーを上げるための情報発信を継続して行っています。

この活動には、グリーンハウスが開発した「あすけん」という会員180万人に増加中の食事管理アプリも大いに役立っているといいます。「あすけん」を利用したダイエットプログラムにチャレンジする人を社員から募集し、管理栄養士の指導のもと実践したり、上述の「歩いて健康プラスワン」参加者に「あすけん」に登録してもらい、これを利用して歩数の管理を行ったりしているそうです。


③広がる活動

さらにグリーンハウスは、受託する企業等の健康経営を食を通してサポートしており、2014年には「第3回 健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働省健康局長優良賞を受賞しました。「Kenko企業会」という民間団体の創立メンバーでもあるそうです。同団体には、今現在60社程の会社が所属していて、メンバーで「禁煙取り組み」、「食事による健康管理」等、色々なテーマを決めて分科会を作り、勉強会を開催して互いに啓発し合っており、社内外に活動の幅を更に広げているとのことです。

 

6 まとめ

取材前は「フードサービス業界において働き方改革は本当に達成しうるのか?」という疑問を持っていましたが、萩原様と樋口様のお話を伺うと、地道かつ着実な努力により、問題を一つずつクリアし、確かな改革を行うのだという強い意志を感じました。

グリーンハウス様にはぜひフードサービス業界の先頭に立ち、同社が目標としている働き方改革を達成していただきたいと思います。

以上

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2017年7月29日(土)7:26 中目黒公園にてアフリカンマリーゴールドを撮影
花言葉:「信頼、逆境を乗り越えて生きる」

 

 

<働き方改革> 第3回 日本航空株式会社

 

働き方改革第3回では、天王洲アイルの日本航空株式会社(以下、「JAL」)本社に伺って、執行役員兼人財本部長の小田卓也様と人財本部人財戦略部部長の福家智様にお話を聞きました。お2人ともJAL内での働き方改革に尽力され、大西賢取締役会長が「実務派」と太鼓判を押す方々です。

2010年の経営破綻から7年。社員が心身ともに健康的に働ける環境を築き、見事に復活を遂げたJALの働き方改革に迫ります。

 

1 社員を大切にするための働き方改革

(1)社員の意識改革

①トップからのメッセージの発信

2010年の経営破たん後、組織改編や仕事のやり方の見直しに伴い、多くの社員が遅くまで残業する状態が恒常化していたそうです。

その中でも特に多忙であった調達本部が、「社員を疲弊させてはいけない」という思いから、ワークスタイル変革に先陣を切って取り組んだことから、JAL社内での働き方改革は始まったといいます。

この変革について、今回お話を伺った小田様と福家様のお二人が口を揃えて仰られたのは、経営トップである社長から発せられるメッセージの大切さです。

これは社内に発信される社長メッセージにより全社員に告知されるそうですが、2011年から発信を始め、過去にはダイバーシティや女性の活躍推進なども取り上げ、今年はワークスタイル変革の第二段階への取組みを明言されたそうです。

組織のトップからのメッセージには、当然強さがあります。お二人の言葉通り、このメッセージにより、社員が働き方に対する意識を変えて、JAL社内でのワークスタイル変革の推進はよりスムーズになったと言えるでしょう。

 

②ワークショップの開催

また、その他に、社員の意識を変える方法として、JALではワークショップを開催して、ワークスタイル変革について社員が学ぶ場を作り、意識の浸透に努めているそうです。

このワークショップは、収容人数300人ほどのホールを、6つくらいのテーマで分割し、各々のブースで「業務プロセス改革とは」、「テレワークとはどのようなものか」といったテーマを取り上げで講演を行うそうです。参加した社員は、大体1時間で3つ程度のテーマを聴講し、ワークスタイル変革への理解を深めることができます。

これまでに30回程開催されたということで、従業員数1万人を超える大企業ながら地道に取り組んでいく姿勢からは、ワークスタイル変革達成への強い意志が感じられます。

 

(2)ワークスタイル変革の中身

①残業時間の削減

社員の意識の変革については上で述べた通りですが、肝心のワークスタイル変革そのものとしては具体的にどういったことに取り組んでいるのか伺ったところ、まず出てきたのが「徹底した残業時間の削減」といった答えでした。

具体的には、年間就業時間を1,850時間とすることが最終目標ということで、そのためには、年休取得日数20日と、月の残業時間5時間というのが、条件となるそうです。

現在、JALでは部署でバラつきはあるものの、徹底した変革への取組みのおかげで、年休の平均取得日数は17日、月の平均残業時間は11時間になっているそうですが、目標達成のためには、これを更に超える年休の取得と残業時間の削減が必要になってきます。

 

②仕事の効率化

上記の目標を達成するための方策として、小田様と福家様ともに、「業務を見直して、効率の良い働き方、業務プロセスを作成する」ということを、まず検討しているとのことでした。

これについては、オフィスのレイアウトを変更して、無駄な資料を処分し、フリーアドレス化することで打合せの場として使用するスペースの割合を増やす、また、どうしても集中したいときに2時間限定で使用できる席をオフィスの端に設けるなどして、生産性の向上に努めているそうです。

オフィスの写真を見せていただきましたが、確かにすっきりとしていて使い勝手が良さそうです。また、集中するための席も、窓際に設置されているため、周囲を気にせず仕事に没頭できることが想像できます。

この席は実際に人気が高く、常に誰かが使用しているとのことでした。

 

③新しい制度の取り入れ

その他にJALが新しく取り入れた制度として、在宅勤務や不妊治療受診のための休職制度、配偶者の転勤同行休職制度、といったものがあるそうです。

週1回まで認められている在宅勤務は、メールでの申告を認めるなど、申告プロセスを簡易化することで利用しやすくなるよう努めたとのことで、利用延べ人数が直近12ヶ月では延べ人数5,000人超となり、昨年に比べて倍近くと

大幅に増えたそうです。

また、社員のニーズを捉えた休職制度について伺うと、「JALでは、働くためのサポートと休むためのサポート両面から両立支援の取組みを行っている。基本的には、働くためのサポートを主題として進めているが、セーフティーネットとして休むためのサポートには何が必要かという観点から社員のヒアリングを進めた結果、生まれた制度である」旨の説明をしていただき、前回の開倫塾と同様、健全な企業経営のためには、社員の声に耳を傾けることが大事であることを実感しました。


④健康推進企画 JAL Wellness活動

JALではまた、社員の健康管理をどう考えるか、という切り口から、産業医の力を借りて「健康推進企画 JAL Wellness」を2012年から継続して続けているとのことです。

当初は、ウェルネスリーダーを始めとした一部の社員の中での「健康推進のために階段を利用しましょう」、「運動会を開催しましょう」といった自主的な取組みだったそうですが、経済産業省と東京証券取引所が日本再興戦略の一環である「国民の健康寿命の延伸」に対する取組として主催する「健康経営銘柄」を獲得してから、徐々に社内でも注目され始め、今ではJALの目玉と言って良い企画となっています。

「健康経営銘柄」は、従業員の健康に関する取組についての調査を行い、その分析・評価結果を基準として選定する企業を決定するというものですが、応募をすると、健康経営銘柄に選ばれなかった場合でも、他企業と比較して優れている点や劣っている点、日本の企業の中でどれくらいのレベルに位置するのか、といったフィードバックを得ることができるので非常に有用な制度であるとのことです。

JALは2017年には3年連続での健康経営銘柄を獲得するまでとなりましたが、健康経営銘柄は毎年審査により入れ替わり、各業界につき1社しか選ばれないため、3年連続というのは実は非常に大変なことだといいます。

 

2 まとめ

今回、小田様と福家様のお話を伺い、最も印象に残ったのは、JALという企業がそこで働く社員を非常に大切にしている、ということです。

戦後必死に働くことで経済成長を果たした日本ですが、現代においては、企業で働く社員が心身ともに健康であることが、企業がさらに成長し、長く存続していくために必要不可欠な要素であると言っても過言ではないでしょう。

企業における働き方改革が形だけのものにならないためにも、「社員が健康に働くことができる環境を作る。ひいてはそれを企業の成長に繋げる」といった根底にあるべき意識を明確にし、動機付けを行うことは、極めて肝要だと思います。

 

以上

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2017年5月28日(日)8:56 茨城県稲敷郡イーグルポイントにてヤマボウシを撮影
花言葉:「友情」

 

 

<働き方改革> 第2回 株式会社開倫塾~健康経営企業を目指して~

 

「働き方改革」連載第2回目です。いよいよ今回から、実際に企業の皆様が実践されている働き方改革を取り上げていきたいと思います。

今回は、私が日頃から親しくお付き合いをさせていただいている林明夫氏が代表取締役を務める株式会社開倫塾での取り組みについてご紹介致します。

 

1 85歳過ぎまで働ける職場作り

 

株式会社開倫塾は、栃木県で創立され、現在では群馬県、茨城県そして本年7月には東京の墨田区に進出し、その後、荒川区、足立区、葛飾区などでの展開を予定しています。同社は400人という従業員で、60校舎において6,500人もの生徒を受け入れていて、その売り上げ規模は15億円から16億円にも上ります。

 

開倫塾において、林氏が積極的に取り組んでいる「働き方改革」について伺ったところ、「85歳過ぎまで働ける職場作りを目指すことです」という回答がすぐに返ってきて、私は大変に感銘を受けました。林氏の掲げた目標は、現代の長寿化時代に即した素晴らしいものだと思います。

この構想の下では、定年後の従業員は時給制となり、例えば集団授業なら講義1コマにつき1,500円~2,000円、個別指導の場合は1,300円といった扱いになるそうです。

 

林氏は、自身が所属し、幹事を務める公益社団法人経済同友会(東京)で、高齢者の定義を65歳から75歳に繰り上げ、後期高齢者を75歳から85歳に繰り上げ、超後期高齢者を95歳以上とするという施策を積極的に提言し、注目を浴びているとのことです。

 

世間的にもこのような声は高まっていたのでしょう。最近、一般社団法人日本老年医学会では、ようやく75歳からを高齢者とする議論がなされるようになったとの記事を新聞でも目にしました。

林氏はここからさらに進んで、保険料について75歳までは3割負担、85歳までは2割負担、95歳以上は1割負担を原則とするということを提案しています。

 

林氏は、冒頭の「85歳過ぎまで働ける職場作り」という目標を達成するために、まずは労働日数や労働時間を短縮していくことを検討しているそうです。

この点、同社の小島雅子調査部長によると、これは特にホワイトカラーについて当てはまるとのことですが、日本人はITに関する知識が不足しており、加えてパソコンの操作技術が非常に低次元であるため、これを根本的に直さない限り、労働時間の短縮には繋がらないそうです。

したがって、パソコンの知識と操作方法の基礎を労働者が修得しさえすれば、生産性もおのずから上がっていくと小島氏は述べています。

小島氏は、また、Windows10などの新しいオペレーションシステムの導入を薦めています。それも一部の情報技術を専門とする従業員だけではなく、企業全体で導入し、研修を行うことを強く薦めています。

 

2 健康経営

 

内閣府が発表した「平成28年度版高齢社会白書」の中では、65歳以上の高齢者の実に4分の1近くが、現在、健康上の問題で、日常生活動作、外出、仕事、家事、学業、運動等に影響があると回答しています。少子高齢化社会において高齢者雇用の需要は高まる一方ですが、健康問題を原因とする高齢者の仕事の能力の低下は、解決が困難な課題です。

開倫塾では「85歳以上まで働くことができる職場」を実現するために、2015年から「健康経営」という目標を掲げ、これに沿った経営をすべく全社を挙げて取り組んでいるそうです。

開倫塾のように今や「健康経営」を目標として掲げる企業は少なくありません。サントリーホールディングスの新浪剛史社長も、2017年5月29日のNHKの「おはよう日本」のインタビューで、「想像力豊かに新しいものをつくっていくためには、社員一人ずつが健康で、心の余裕があることが必要」と仰っていました。

林氏は、「健康経営」を実践するために、体制を一新したそうです。まず、従業員の健康を担保するには、健康診断を最大限活用するべきであると判断して、塾長室に健康経営企業推進室を設け、担当者を男性から女性に変更し、年齢性別を問わず全社員の健康状態に目が行き届くようにしました。そして、産業医を変更するとともに、定期健康診断を請け負う業者を変え、従来より充実したサービスが受けられるようになりました。

 

開倫塾での健康管理はこれだけに留まらず、歯の検診も健康診断と共に1学期ごとに1回ずつ年3回し、また、産業医や有識者による「健康ライフを考える会」と題する講演会を開催しています。

同講演会は、都度講師を変えるなど、立体的な講演となるよう力を入れて企画しているそうです。

 

また、体重が一定以上の人にメタボ検診を義務付けて、毎月1回産業医、もしくはかかりつけ医に受診することを促す「メタボ検診」の指示勧告書も出しています。

 

林氏によると、具体的な健康促進のために2017年度より、インフルエンザと帯状疱疹の予防接種に補助金を出す制度の導入も決定したとのことです。どの程度の補助金を増額するかは経営状況を勘案して決定するそうですが、同制度はパート従業員からの強い要望を受けて導入する方向で進めているとのこと、こういったところに従業員の声を丁寧に受け止める林氏の真摯な経営姿勢が表れていると思います。

 

さらに、認知症予防のための高齢者の公文式・脳のトレーニングを、その第一歩とすることも構想しているそうです。

先に述べた「平成28年度版高齢者白書」においても、65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症患者であるとの調査結果が出ており、認知症予防が極めて急務である現在、林氏のこういった取組みは、実に的を射たものだといえるでしょう。

 

3 生きる目的を

 

また、林氏は、高齢者が社会の負担とならず、それどころか社会に貢献する存在になるためには、高齢者を含め全ての労働者自身がキャリアを大事にし、社会もまた労働者のキャリアを守る、つまりキャリア権の確立と労働者によるその行使が急務かつ必要不可欠と考え、トップ主導で開倫塾は「キャリア権推進企業」を宣言しました。私もこれには大いに賛同します。

 

労働観というものは、労働を苦役と見るか、あるいは価値ある物に対する取組みと見るかによって、全く異なるものになるでしょう。苦役と見るのであれば労働時間はより短い方が良いに決まっていますが、価値ある物と見る場合は、労働時間は必ずしも短い方が良いということにはなりません。

現在、働き方改革の推進において、労働時間規制派と労働時間反規制派は対立を続けていますが、両派の対立の根源は、このような、労働というものの捉え方にあるように思います。

労働者のキャリア権の確立と、労働者によるキャリア権の行使を実現すれば、労働時間規制への議論もまた変わったものとなっていくのではないでしょうか。

 

御木本幸吉は「長寿のためには生きる目的があることが必要だ」と言っています。長生きするためには、体のみならず心も健康でなければなりません。

日本全体が、健康長寿で働き続ける社会を目指すのであれば、まず個々人が生きる目的を持つことがその第一歩となるのだと思います。

以上

 

 

 

 

<働き方改革> 第1回 総論


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2017年2月11日(土)8:43 千代田区三番町にてジャノメエリカを撮影
花言葉:「休息、幸運」 

 

 

 

<働き方改革> 第1回 総論

 

1 働き方改革の背景

 

日本経済は現在、戦後の高度成長期、その後のバブル景気、そしてその崩壊を経て、生産性が低く成長が滞った状態が長く続いています。

さらに、日本の人口は、現在1億2600万人(2017年2月時点)ですが、2100年には8000万人を割るとの調査結果も出ており、このままいけば日本の財政が破綻するのは必至といえるでしょう。

現時点で、国債、地方債も含めた日本の借金は1,300兆円とも言われていますが、それを現在の人口である1億2600万人で割ると、乳幼児や高齢者も含めて国民1人当たり1,000万円以上の負荷、要するに債務を背負っていることになるのです。

今後、日本の人口が減少していき、4,000万人台に突入すれば、日本国民は1人当たり2,000万、3,000万円という借金を背負っていかなければならなくなります。そうなれば、日本の経済が立ち行かなくなるのは目に見えて明らかです。

そこで、この窮状を乗り越えるために、結婚・出産によって職場から退いた女性や定年退職後の高齢者、障碍や難病を抱える人たち等を雇用し、日本人全員の労働力を十全に活用する、つまり1億総活躍社会の到来が今求められています。 1億総活躍社会を実現するためには、従来の労働時間の長さに頼った企業の運営を見直して、労働時間や労働日数の規制を行うことで労働者の健康状態を心身ともに良好にし、生産性を高めて企業の成長を保っていくこと、つまり働き方の改革が必要になるのです。

 

そしてまた、人間の平均寿命が伸び続けている一方、少子化が進む今の時代においては、日本の人口の4割を65歳以上の高齢者が占めるという時代がすぐそこまで来ています。

このような社会では、大学を卒業し、新卒で就職した会社に定年まで勤め上げ、退職後は支給された年金で暮らす、というこれまでごく当たり前であった人生プランは成り立たなくなるでしょう。若年者が減少すれば、納税額も減り、日本の年金制度は危機に瀕することになります。そうなると、日本人は皆、人生においてかなりの長期間、場合によっては50年や60年にもわたって働き続けることになります。

人は、一般的に、若年期や壮年期のような働き方を一生続けられるような心身の強さを備えてはいませんから、こういった観点からも、働き方を改革することが求められるのです。

 

ただし、働き方改革はあくまでも日本経済を立て直すための手段、いわば目的地に到着するための乗り物であって、道筋そのものではないということを忘れてはなりません。

安倍政権は日本経済の建て直しの方策として打ち出したアベノミクスにおいて、「三本の矢」の一矢の成長戦略を実現する手段として、産業構造改革を唱えていましたが、現時点で目に見える結果は出ていません。

しかし、衰退している地方都市に、これまでのハード産業ではなく、ソフト産業を興すといったようなことでも、日本全体の活性化にはつながるのですから、産業構造改革は、どんどん試みるべきであると私は思います。

世界をリードする日本経済を実現するためには、まずは産業構造改革の成功、つまり歩むべき道筋を明確にすることが必要不可欠で、これができてこそ働き方改革という個々の労働力の運用も正しく機能するようになるのです。

 

 

2 新しい視点、システム

 

しかし、労働時間の規制といっても、生産性の向上と両立し、企業ひいては日本経済が成長するためには、今までと同じような働き方のままで個々人がただ労働時間を短縮していたのでは意味をなしません。

労働時間を規制するということは、人間が成長するために欠かせない「尚、尚」とか「さらに一歩」という心境であり続けること、チャレンジし続けることの足枷になります。人が向上心を持つことが困難になれば、生産性も自ずから下がってしまいます。

この点、中国では、従来、多分に労働者寄りであった労働契約法を、企業寄りに改正しようという動きがあるなど、日本とは逆の方向に進んでいるようです。

中国という大きな国が、労働の質を向上させることになれば、中国経済はより発展していくことになり、日本にとっては今以上に脅威となるでしょう。

さらに、働き方改革によって雇用を増大した場合、それはとりもなおさず賃金政策とも関連することになります。原資が増えない限り、雇用を増やせば賃金が低下するという恐れがあることも留意しなければならないのです。

私の青年時代には「3S運動」や「5S運動」というものがありました。これは製造業やサービス業において職場環境の整備・改善のために使用されたスローガンで、5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・躾を表し、3Sはこの内の整理・整頓・清掃を表しています。こういった運動を通じて、人々や企業は働き方を刷新し、生産性の向上を図ったのです。

働き方改革においては、この「3S運動」や「5S運動」を超える新しい視点、あるいは新しいシステムの導入が必要不可欠なのです。

 

① 賃金体系の見直し

 

この点、生産性を向上させる手段の一つとして、賃金体系の見直しという方法が考えられます。

日本では現在、年功序列給、職能給、という制度を採用している企業が主流ですが、これを成果主義賃金、職務給に転換するのです。

成果主義になれば、賃金を長時間の労働により裏付けるという図式が崩され、無駄な長時間労働が駆逐されます。そして、競争力が増すことにより、企業全体の生産性の上昇につながるのです。

しかし、成果主義も行き過ぎると、より高い成果を挙げるために、労働時間の規制を無視して働くという傾向が強まりかねないので、注意が必要です。成果主義を採用するのであれば、労働時間に規制を設けて、生産性を一定の水準に落としこむシステムの構築が必須といえるでしょう。

この成果主義賃金への移行は、働き方改革を実現し、日本のGDP600兆円を実現するための手段として専ら謳われていますが、しかし、これはある意味では刺激策として実施されるものだということを忘れてはなりません。

成果主義は、本来の日本人の協調志向・安定志向に沿わないものです。また、年功序列給から成果主義賃金体系に移行すれば、日本で従来採用されてきた終身雇用制度を破壊することになるでしょう。

これらのことに配慮せず成果主義をただひたすらに推し進めれば、ストレスによるメンタルヘルス不調者が急増する可能性は極めて高くなるでしょう。

 

② 仕事量の減少

 

また、働き方改革における生産性向上のためには、仕事を少なくすることがポイントだという説もあります。しかし、仕事というのは作業過程においては、何が結果に結びつくかは分からないものであり、どうしたって結果的に無駄になる仕事をせざるを得ないものです。無理に仕事量を少なくしようとすれば、真に仕事の成果を挙げることの妨げにもなりかねません。

つまり、仕事の減少による生産性の向上というのは、仕事の骨格において何が屋台骨になるかを見極めることができる能力があってこそ初めて実現可能になるもので、この能力がなければ仕事を減らすことはできないし、ひいては働き方改革も実現しないことになります。そういう意味において、教育こそが働き方改革の基盤になるのです。

 

③ 勤務体系の見直し

 

現在、長時間労働を規制すべく、既に特別条項付36協定の見直しが図られていますが、過重労働によるストレスを軽減するためには、労働時間の減少に留まらず、勤務体系から見直しを図ることが必要です。

この点、欧州連合(EU)では、1900年代初頭から、加盟国に最低でも11時間の休息確保を義務付ける「勤務間インターバル規制」を導入しています。

これは、日本には存在しない「休息時間」という概念に基づいた制度で、疲労の蓄積を防ぐためには24時間につき最低連続11時間の休息時間を必要とするという考え方に基づいたものです。

日本でインターバル制を導入しているのは、現在ごく僅かな企業に留まっていますが、今年1月30日の参院予算委員会で安倍首相がこの制度の導入を検討する考えを示したことから、今後導入する企業が増えていくことが予想されます。

 

 

3 まとめ

 

このように概観しただけでも、働き方改革はいくつもの大きな問題を内包しています。

しかし、冒頭に述べた通り、日本経済が行き詰っている現在、働き方改革は政府の呼びかけを待たずとも、国民全体で取り組まなければならない課題なのです。

本ブログでは、これから24カ月にわたって24社を取り上げ、各々の企業の働き方改革への取組みと、企業の担当者の方々が考える問題点について提示していきたいと思っています。

読者の皆様が、働き方改革の在り様を見つめ直すための一助となれば幸いです。

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