<働き方改革> 第5回 トランスコスモス株式会社
一時、私が体調を崩していたため、連載を休止しておりました連載「働き方改革」ですが、今年からまた再開することと致しました。
再開第一回目に取り上げさせていただくのは、トランスコスモス株式会社様です。
トランスコスモスは本社を東京に構えていますが、大阪本部、名古屋・和歌山・福岡・京都等の支社の他、米シリコンバレーにも支店があり、その社員数は約5万3千人にものぼります。このような大きな会社で、「働き方改革」を推進するためには、どのようなことを行っているのでしょうか。
執行役員 人事本部担当 兼 サービス推進本部人材マネジメント統括部担当 名倉英紀様と人事本部 企画推進部 HR推進部 課長代理の中村彩香様にお話を伺いました。
1 意識の共有
トランスコスモスは社員国内約3万5千人の大規模企業であるにもかかわらず、今回の取材で伺ったお話からは、足並みを揃えて働き方改革に取り組まれている様子が窺われました。
これまで別個に行ってきた取り組みを、「働き方改革」という大きなプロジェクトとして一つにまとめ、各々の取組の進捗状況を管理しながら、特に法にかかわってくるものについては人事部主導で促していく、という形態で現在、働き方改革を推進しているとのことです。
会社HPにも働き方改革のページを作成するなど、全社を挙げて働き方改革に取り組んでいることを明瞭にしていることも、良い効果をもたらしているのでしょう。対外的なアピールのみならず、社員に意識改革を促し、働き改革による新制度を利用しやすい環境になっているのだと思います。
2 長時間労働の削減
今回の取材でまず印象に残ったのは、労働時間の削減です。
従来100時間を超すことも珍しくなかったという残業時間が、バックアップ体制や日々の管理、長時間の残業が生じた際の役員面談、産業医面談の義務付け、さらには残業が連続した場合は評価へ反映など、徹底した管理や成果主義を採用したことにより、現在は平均して1か月20時間程度になったとのことで、目に見えて成果が出ていることが分かります。
また、上から残業を減らすように指示するだけでは、現場はサービス残業などで対応し、実質的な解決にならないということから、説明会を開き、社員に直接働きかけを行ったそうです。
その他にも、3S運動(※1)のような改善運動を行ったり、コンテスト形式で年間300人以上の優秀な従業員を表彰したりするなど、徹底して業務を改善して、生産性を向上することに務めました。
また、タイムカードのみならずパソコンのログイン・ログアウトの記録、入館・退館記録のチェックなどを通して、毎月厳しく労働時間を管理しているそうです。
3 ダイバーシティー
(1)女性活躍推進
トランスコスモスは、IT企業としては珍しく、スタート時は9割以上の社員が女性だったそうで、現在でも正社員の4割、契約社員の8割を女性が占めています。
しかし、以前は、女性の役員が数人いたところ、その後、人数が減少したため、9年前から管理職に占める女性の割合を増やすことを目標として「女性活躍推進プロジェクト」を立ち上げ、現副社長がオーナーとなって、積極的に女性活躍に関する様々な施策に取り組んできたそうです。その結果、管理職に占める女性の割合は、現在は20%近くまで増えてきました。
施策の内容の一部としては、管理職となることに二の足を踏みがちな女性の背中を押し、キャリアアップを促すために、選抜されて全国各本部から集められた優秀な女性社員を対象として、社内研修「キャリアバリュー」では次々世代のマネジメント層にあたる女性社員の育成を行い、「キャリアベーシック」では次々世代のマネジメント層にあたる女性社員の育成と管理職候補の女性向けの研修を行っているとのことです。いずれも、「上を目指すためにはどういったことをしなくてはいけないか」を常に考えて行動することを意識づけるための研修が行われているそうです。
また、女性が働きやすい環境を作る施策の一環として、産休・育休の復帰に当たってのサポートや休暇中のコミュニケーション、児童が小学校3年生修了まで時短勤務を認める等の措置をとり、その結果として、毎年、産休・育休をとる社員が150名程度いる中で、休暇後の復職率は96%を誇ります。現在は、育児のために退職してしまうことを防ぐために、在宅勤務をトライアル的に導入しているとのことです。
こういった取組みが認められ、トランスコスモスは、厚生労働大臣による、「えるぼし認定」(※2) や「くるみん認定」 (※3)など、多くの認定を受けています。
(2)外国人労働者の受け入れ
現在、トランスコスモスには、外国籍を有して日本で働いている従業員が300名程度いるそうで、その数は今後も増え続ける見込みです。
毎年、韓国・中国・ベトナムから新卒で10名~15名程度をコンスタントに採用しているのみならず、インターシップの受け入れも積極的に行っているそうです。
他企業でもこれから増えるであろう外国人労働者の採用に向けて留意点を伺ったところ、「相手の文化を尊重すること」というシンプルでありながら真摯な回答をいただきました。また、当然、言葉の問題があるので日本語の勉強会を開催するなど、コミュニケーションをきちんととることも大事にしているそうです。家族を伴って来日している場合、家族へのサポートやケアも検討するなど、慣れない土地で働く労働者に対し、心身ともに手厚い配慮をしています。
3 コラボヘルス
トランスコスモスでは、社員の健康管理を推進することができるよう、けんぽ組合と人事が連携を取るよう努めています。今年1月からは、より、けんぽと人事の垣根をとって効率性を高めるために、人事の健康推進課のメンバーを兼務出向という形でけんぽに送っているそうです。
また、産業医・保健師・臨床心理士のチーム化を図り、より有機的に機能するよう整備する予定とのことです。
最終的には、社員に健康診断の受診を促すのみならず、診断結果の分析など受けた後のフォローをワンストップで行うことで、社員一人一人に対する健康をケアし、更にそれができるようになったら、より予防的な施策を一緒になって行うことを目指しています。
4 まとめ
実は、今回の取材にトランスコスモスにお邪魔した際に、早くに到着してしまったので、エントランス横のソファをお借りし、10分程度座っていました。
そこで、社員の方たちが出入りをする様子を眺めていたのですが、皆さんの表情の明るさや華やいだ様子が非常に印象に残りました。
今回伺ったお話しからも分かるとおり、トランスコスモスでは、社員が安心して働くことができる空気がまずあり、それに基づいて作られた制度・環境が整っているのでしょう。
また、トランスコスモスでは、女性や外国人など、幅広い人材を積極的に受け入れているように見受けられました。日本経済向上のためには、多様な労働力の確保が必要不可欠ですから、トランスコスモスの受け入れの姿勢や取り組みには大いに学ぶべきところがあると思います。
(※1)…職場環境の維持改善で用いられるスローガン。3Sは、整理、整頓、清掃の頭文字。
(※2)…一般事業主行動計画の策定、届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な事業主は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができる。
(※3)…次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動契約を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができる。
以上