平成29年11月9日 第2回中小企業と企業統治セミナー 開催報告②
〈第2部〉
「非上場企業のプチ・コーポレートガバナンスのすすめ
――コンプライアンスと企業承継に重点を置いたコーポレートガバナンス」
(講師:学習院大学法学部法学科 教授 小塚 荘一郎 氏)
事例や図解を多く交えながら、日本の中小企業に焦点を置いたお話をして頂きました。
「守り」のコーポレートガバナンス=コンプライアンスの確保
・オリンパス事件
・大王製紙(オーナー経営者のコンプライアンス)
・大塚家具(企業承継の失敗)
・タカタ(ファミリー企業の危機管理)
・東芝「不適正会計」=粉飾決算
・神戸製鋼問題
「攻め」のコーポレートガバナンス
・『日本再興戦略 - Japan is Back -』 (2013)
攻めの会社経営を後押しすべく、社外取締役の機能を積極活用することとする。このため、会社法改正案を早期に国会に提出し、独立性の高い社外取締役の導入を促進するための措置を講ずるなど、少なくとも一人以上の社外取締役の確保に向けた取組を強化する。
国内の証券取引所に対し、上場基準における社外取締役の位置付けや、収益性や経営面での評価が高い銘柄のインデックスの設定など、コーポレートガバナンスの強化につながる取組を働きかける。
平成21年 東証上場規則による独立役員の選任義務づけ
平成24年 東証上場規則改正、取締役である独立役員の選任を強く要請
平成26年(27年施行) 会社法改正(社外取締役を置かない場合、「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務)
平成27年 コーポレートガバナンス・コード適用開始(独立性のある取締役を2名以上選任しない場合、その理由をコーポレートガバナンス報告書で説明する義務)
▼社外取締役、独立取締役を置くか、置かなければその理由を説明する義務を課すこととしたことについて、その考え方の基本は、上場公開企業はモニタリング・モデルと呼ばれる考え方を取り入れてほしいというところにある。
コーポレート・ガバナンスのモデル
(1)モニタリング・モデル
経営者・・・業務執行者
取締役会・・・株主利益に従った経営がなされているかどうかの監督だけをする
⇒ よってここには、株主利益の代表者である独立者が必要
*モニタリング・モデル的に考える会社は大抵、他の企業の有名な経営者に独立取締役を担ってもらっている。
(2)アドバイザリー・モデル
取締役会・・・
監督をしているわけではなく、経営者(典型的には社長)に対しアドバイスをする、アドバイザリーボードであること
⇒ 日本企業が目指していたのはこれではないか?
*アドバイザリーモデル的に考える会社では、例えば海外展開をしようとする際、法務が重要になっているので独立取締役は弁護士にお願いをしたい、税制の問題で悩んでいるので税理士やあるいは国税庁のOBにお願いしたいといった形で独立取締役を選任している。
このモデルにおいては、経営者は、株主利益だけでなく取引先やメインバンクや従業員、地域、いわゆるステークホルダーといった様々な利害を受け止めてバランスさせながら、最終的に望ましい経営をすることが経営の在り方だと考えている。
会社法のエイジェンシー問題
・エイジェンシー問題・・・調整しなければならない利害対立のこと
①経営者vs株主
②債権者vs会社
(債権者:典型的にはメインバンク)
③多数株主vs少数株主
※コンプライアンスの問題・企業承継の問題は、②③の問題にかかってくるものである
例:コンプライアンスの問題・・・タカタ倒産の例(②の問題)
企業承継の問題・・・規模の小さな同族会社で起こる承継争い(③の問題)
エイジェンシー問題から見たファミリー企業
・経営者vs株主の問題は小さい
創業者ファミリーが自ら経営(株主=経営者)
創業者ファミリーが経営者を監督
・多数株主vs少数株主の問題は両義的
経営者が主要株主として会社の将来に利害を保有しているため、経営破綻を回避するという点においては主要株主も少数株主も利害は一致
もっとも、主要株主の私的利益(過大な配当金支払い等)のために利害が対立する可能性がある
日本のファミリー企業
・齋藤卓爾教授の研究 (2008)
上場会社(当時の東証。以下同じ)の中のファミリー企業の割合
ファミリー企業=株主/経営者が創業者一族である会社: 23%
創業者一族が2割以上の株式を保有する会社: 11% (諸外国よりも少ない)
ファミリー企業の利益率――有意に高い(有意:統計的に意味があること)
⇒ つまり、一般的な株主が分散している企業に比べ、ファミリーがしっかりしている企業のほうが利益率が高いといわれる。
創業者の子・孫が株主かつ経営者の会社――トービンのq(株式市場の評価)が有意に低い
⇒ 「創業者の子、孫だからという理由だけで経営者になれたのではないか?」という投資家からの厳しい目
中小企業のコーポレートガバナンス
・「攻め」のコーポレートガバナンス
経営者と株主の利害は基本的に一致=上場企業と同じコーポレートガバナンスの意味は乏しい
企業承継の問題――経営能力とは無関係に次代の経営者が決定されるおそれ
・「守り」のコーポレートガバナンス
コンプライアンス――従業員管理の問題
ファミリーの「私的利益」の問題
解は「中小企業経営のルール化」ではないか?
企業承継問題
・相続と後継者(かつては「東京地裁商事部は家族法担当」とまで言われた)
「私的利益」目当ての後継者のリスク
株主間対立のおそれ
婿養子の意義=外部市場と内部昇進のバランス(上場企業では内部昇進のみ――ファミリー企業の方が進んでいる?)
・種類株式を活用した企業承継?
スキームよりも重要な問題は後継者の選定(ルール化し、客観性、透明性を担保すること)
役員報酬をめぐる紛争
ルールを明確にしておいて、恣意的な判断を排除することが重要である。日本の会社法上も「役員の報酬は株主総会で決める」と書いてあり(会社法361条)、これは株主が経営者をコントロールするという発想であるが、中小企業ではこれだけでは不十分。
コンプライアンスの問題
①コンプライアンス=法令遵守
従業員による不正の予防・早期発見
経営トップ(社長)による不正の予防・是正
「経営トップの周辺」の統制も重要
②内部統制システム(金商法=上場会社)
経営トップによる社内の「統制」
社長自身を止める仕組みではない?
COSOレポート(米国の内部統制に関する基本的な文書)でも経営トップの統制には言及なし
コンプライアンスのシステム化(見える化)
三様監査(監査役、会計監査、内部監査)+会計参与により、監査を充実させる
「スリー・ストライク・ルール」
会計監査、内部監査部門は中小企業にはないところも多いが、個人の会計士など規模が小さくてもいいので、多少でもここを整えていく必要があるのではないか。
中小企業の監督(モニタリング)
中小企業の定義・・・
規模だけから考えると、ファミリー企業(家族・同族会社)、大企業の子会社・合弁会社、ベンチャー企業が含まれる
コーポレートガバナンスについては、「ルール化されているか否か」が重要
株主間契約、種類株式
社内ルールの整備―特に承継とコンプライアンス
新たなタイプの監督(モニタリング)
・多様性(ダイバーシティ)
⇒ 女性、外国人、障がい者などに活躍の場を提供
・ESG(environment, social, governance)
⇒ 環境や人権への配慮をサプライチェーン全体について実施、開示
多様性、ESGについては、大企業だけでなく中小企業でも考えていかなければならない時代になってきた
⇒ 理由の一つとして、中小企業の海外進出がある
「日本型経済」論(バブル経済の時代)や、現在の日本経済
まとめ
主要株主を持つ会社
創業家・一族の影響力=株主利益と経営者の利益の乖離は小さい
(上場会社の子会社も実は同じ)
課題:
経営トップの承継
コンプライアンス(違法行為の予防・早期是正)
これらの課題に限定した「プチ・コーポレートガバナンス」の実践を
以上