「中国の最新諸事情」の最近のブログ記事

 

「中国の最新諸事情」
第9回 デリバリーサービスの台頭

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 出前、デリバリーといった職業について、皆さんはどういうイメージを持っているでしょうか。一時的、補助的な仕事だという印象が多いと思いますが、中国では、近年飲食プラットフォ—ムの台頭とともに、食事の配達人の数が急上昇しました。統計によれば、2020年7月までに専門的な飲食配送人員(外売員)の数は700万人までに達しています。

 その勢力が拡大する裏で、外売員という職業は最も危険な職業になりつつあります。上海交通機関の統計によれば、平均毎日1名の外売員が交通事故で死亡しています。その理由は、アツアツな作り立ての食事を客の前に配達するために、プラットフォ—ムが常に非常に厳しい配達時間制限を設けていることです。制限時間までに配達を完了できなかった場合、外売員に減給、罰金などの処罰が科されます。そのため、外売員の中では、日々シビアな配送時間を守るために、交通信号を無視することが日常茶飯事となり、むしろ、時間厳守で配達するための必要スキルになってしまいました。

 こういった状況や危険と隣り合わせの職場環境を改善するため、中国最大手飲食プラットフォ—ム“餓了麼(ウーラマ)”は“配達制度改革―優しい客の選択機能“を実施しました。その内容とは、出前を申し込む優しいお客が自らの選択で、外売員に5~10分間の猶予時間与えることが可能となる、というものです。これにより、日々時間に追われている外売員に少しの時間の余裕を与えることができます。一見、他人思い、緩やかで良さそうな改革策ですが、実際運行してみると、各方面から大批判が寄せられました。

 なぜかというと、そもそも外売員に厳しい配達時間制度を制定したのはプラットフォ—ム側であり、時間通り配達できないと、罰金を科すのもプラットフォ—ム側です。さらに、配達数で外売員の能力を評価し、一定の配達数に達成できないと解雇するのもまたプラットフォ—ム側です。プラットフォ—ムと外売員の問題はサービス提供者側の内部問題なのに、上記の“優しい客の選択機能”を取り入れることによって、この問題を外部者であり、サービス受ける側のお客に責任転嫁したのです。そして、お客を矢面に立たせ、猶予時間与えないと、人間性に問題があり、優しくない人であると言わんばかりの工夫が施されています。その無責任なやり方は世間の怒りを買いました。

 この問題を弁護士の視点から見れば、契約精神を尊重すべきです。客との契約履行がうまくできないからといって、サービス代金の減額などの努力もせず、道徳的な圧力で、契約内容を一方的に変えようとするプラットフォームのやり方にはとても賛同できません。

 しかし、角度を変えれば、誰しも別の形の“外売員“といえます。自分の権益がプラットフォームに侵害されたとき、きちんと意識をし、自分のために奮闘しているのでしょうか?

 

 

「中国の最新諸事情」
第8回 世界的大企業が詐欺に遭う

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 最近中国の面白いニュースを紹介します。先月中国IT企業最大手のテンセントが3人の詐欺師によって、多額の金銭を騙しとられたことが明らかになりました。
 ことの発端は、中国の最大手IT企業「テンセント」が調味料業界の大手「老干媽」を起訴し、仮差押をしたことです。その理由は、テンセントと老干媽の間で去年から締結していたインターネットCM契約で約定したCM料金が振り込まれていないことでした。テンセントの訴状の中には、その一年間被告のために、数多くCMを作成、ネット上大量の関連商品を販売したにもかかわらず、被告が約定した報酬金おおよそ1600万元(日本円に換算して2億4000万円ほど)が一切支払われていないことが書かれていました。

 非常に明白な事実で争いのない案件とみんな思っていましたが、話が思わぬ展開を見せました。
 実際、裁判での「老干媽」の反論理由は実に簡単で、シンプルです。今まで一度もテンセントにCM依頼どころか、業務連絡をしたことすらないというのです。
 審判を進めると、テンセントが騙されたことが発覚しました。しかも、調べによると、テンセントを騙したのが学歴、技術、特別な権利など何ももってない中年3人組だったのです。その目的は莫大な契約金ではなく、テンセントが運営しているネットゲーム内の課金道具だそうです。ゲーム内の架空の物のために、中国最大手の2社を巻き込んだ詐欺ということで、瞬く間にネット上で話題沸騰となりました。 

 一般人としては笑って済ませるような話ですが、弁護士の私から見れば、数千名以上の弁護士を擁する現在世界屈指のIT会社が、3名の民間人にこんなに簡単に騙されたことは、蟻が象を倒したみたいに感じられます。教訓として覚えておかなければなりませんね。

 

 

「中国の最新諸事情」
第7回 6月から続く豪雨

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 中国では最近大雨が続いています。

 中国国営の宣伝部によると“四川省が80年ぶりの大雨に遇いました”、“その大雨の影響で各地域を合わせて、既に1000万人以上が被害に遭っています”。“数十年ぶりの大型豪雨に苦しんでいる、中国南部地域を中心に26の省、市、自治区を直撃し、甚大な水害をもたらしています”などの報道が相次いでいます。

 6月24日、中国人民日報も“雨が傾くように降り続く”という題を記事にし、6月に入って、豪雨により各地で洪水災害対応レベルをⅣ(最高級)まで切り上げました。

 問題は、その“未曾有”“歴史級”と言われる雨がまだ降り続いていることにあります。6月2日から、ほぼ毎日雨が降っていて、今日(7月3日)まで、一切止む兆しがありません。統計によれば、既に家や建物9300軒が崩壊し、直接的な経済損失だけで241億元(4000億円)に達しました。

 こうした中に、国外メディアから中国水利の奇跡と言われたあの三峡ダムが決壊危機に迫るのではないかという心配の声がまた上がってきました。

 三峡ダムは、中国のみならず、世界最大の水力発電ダムであり、全長は570kmにも及びます(東京から大阪までの距離は550kmです)。年間発電力はおおよそ1000億kwhで、この一つのダムで中国の年間総発電量の5分の1を占めます。

 三峡ダムに纏わる不祥事の声は、竣工当時から出ていました。設計ミスとか、欠陥工事などの見解は後を絶ちません。一定期間ごとに、カレンダーを巡る度に、ネットや外国メディアにより提起されてきました。2009年から10年間の間ずっと、本当に暇な人達です。まさに「隣の芝生は青い」ならぬ、「となりのダムは脆い」という発想です。

 こういうノストラダムス達に言いたいのは、時代は変わったということです。机上の空論からは何にも生み出せません。もちろん、私はテクノロジー至上主義者ではありません。自然に絶対勝つ、何も絶対に発生しない、というようなことは言いません。形あるものはいずれ崩れるでしょう、想定外の災害に遭遇したダムは今まで以上危険に曝されているでしょう。しかし、中国の政府、中国の人民達は必ず全力を尽くして、最善の方法でこの困難を乗り越えるでしょう。今までのように、これからも同じように。

 

 

「中国の最新諸事情」
第6回 民法典の誕生

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 最近、中国において最も熱い話題は<民法典>です。

 2020年5月28日,中国で開会された第十三期全国人民代表大会三次会議で《中華人民共和国民法典》が審議され、可決されました。これは我が国初の民法法典です。2021年1月1日に施行される見通しです。

 <民法典>は、中国現行の婚姻法、契約法、担保法など数多くの法律を整理し、体系化を図ったものです。編纂が何度も失敗し、数十年が経過しました。その過程の中で、計画経済秩序から市場経済秩序、毛沢東から習近平、たくさんの変化と移転を経て、中国特有の事情をめぐり試行錯誤を何度も試みた結果、ようやく一つの法律として固まりました。

 民法典は物権、契約、継続、相続など7編1260条から成り、一個人から社会生活の隅々までの規定を含み、まさに、これからの中国の社会生活の百科事典とも呼べるシロモノであります。

 今回この場を借りて、民法典の中の注目条例一つを紹介しましょう。

 

 離婚に「クーリングオフ期間」

 現在、コロナウイルスの蔓延で外出できず、夫婦が一日中家の中に居て、些細なことで喧嘩をし、双方の感情に亀裂が入り、結果離婚まで発展するケースが増えているそうです。いわゆる「コロナ離婚」というものです。

 当局の調べによると、今年に入って上海をはじめ、深圳など都市の離婚率が急増しています。そのせいで、離婚申請を受ける民政局はすでに、何か月先まで予約が満ぱい状態だそうです。

 その矢先に、今回の民法典の中に離婚冷却期という概念が設けられました。簡単に説明すると、仮に夫婦双方が合意で協議離婚を民政局に申請したとしても、離婚の効力が発効するのは30日以後です。その間、どちらかが後悔し、離婚したくなくなったら、その申請を撤回できるという内容です。もちろん、「コロナ離婚」を食い止めるだけの目的で、この条文を設けたわけではありません。人々の幸せを守るために、衝動的な離婚という悲劇の減少を狙った条項で、為政者の善意が感じられます。

 最初の狙いこそよかったのですが、この条文にパブリックコメントを募集すると、各方面から猛反発をまねきました。 主な意見として「合意離婚なのに、それすら自由にできないの?」と文句を言う人がいれば、「衝動的な結婚は自由なのに、衝動的な離婚には厳しいんだ、まるで入場料だけ集めて、あとで勝手にしろというような悪徳商売だね」と皮肉を言う人もいます。

 私の意見として、結婚、離婚、再婚というのは人の自由です。この制度によって、本来できた協議離婚が一方の撤回により、訴訟離婚に転じせざるを得なくなりました。裁判所の負担が何倍も重くなることを置いたとしても、離婚裁判は大体結審まで時間がかかります(中国実務では最短1年)。その長い間に当事者双方、精神的にも、金銭的にも大きなダメージが受けることになりますし、仮に一方が譲って仮面夫婦になって、婚姻を維持したとしても、当事者の幸せにはならないでしょう。

 そのような結果にならないように、祈るばかりであります。

 

 

「中国の最新事情」
第5回 新型のコロナウイルスについて(4)

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 最近、時間があるので、日本の映画を観ています。最も好きな監督の一人は今村昌平監督です。彼の作風が自然主義で、作品の中に人為的な演出が少ないことや、赤裸々に人間性を描写することが多く、しかも、観客らの欲求に迎合せず、むやみに情を煽るより、人は本能で理性と秩序を踏みにじる生き物であることを伝える故、彼のカメラに映った人々は時々二足立ちの獣に見えます。

 中でも特に大好きな作品は<楢山節考>です。1983年のカンヌ映画祭にてパルムドールを受賞した作品です。今村監督の代表作であるだけではなく、日本映画界の傑作でもあると思います。

 

 映画の概要は、はるか昔、山奥にある村に住む村人が、食料と農産物に恵まれない過酷な環境の中で一生懸命食料を確保し、生き抜いていく物語です。

 そのような背景から、生きるために、村の住人達は楢山参りという決まりを作りました。簡単に言うと70歳を迎えた老人を楢山の奥まで連れて行き、大自然に帰すという名目で置いてくるというものです。いわば棄老行為です。

 主人公の辰平さんが今回70歳になる自分の母親おりんを山の奥に背負っていく番になり、これを巡る子と母の間の葛藤が描かれています。

 映画の最後、お母さんのおりんが息子辰平の未練を断ち切るため、今生別れの時にも、歯を食いしばって、死と直面しながら、ひと声も発せず、片手で心の恐怖を抑え、もう方手で息子を追い払うシーンが観衆一人一人の目に焼き付き、心の深いところに訴えかけたでしょう。このような悲劇を決して繰り返すわけにはいかないと。

 

 映画の中の世界では、人々は貧しくて、食料が足りない時代にいて、自分が生きるために、仕方なく、棄老という苦渋の選択をしたまでです。

 しかし、現在は?コロナウイルスに対抗するために、一部の科学者が集団免疫という概念を言い出しました。簡単に言うと、ウイルスに対して、特に何か対抗策を講じず、一部の人間に感染させ、彼らの免疫力を頼りにし、ウイルスに勝った人が残りの人たちの防波堤となり、ウイルスの感染連鎖を遮断するという発想です。

 一見問題なさそうな方法ですが、しかし、今回のコロナウイルスは老人が特に感染力が強く、病死率が高いです。集団免疫という何もせず、自然の優勝劣敗に任せ、自然淘汰に身にゆだねる予防法では、真っ先に倒れるのは老人です。まさに老人に先に死ねと言わんばかりの対応策です。これと映画の中の、食料の節約ために老人を一人一人山の奥に捨てるという原始的な方法となんの違いがあるでしょう。

 時代は変わりました。人々が一生懸命働き、科学を進展させ、何十倍何百倍の富と物質を作り上げた今、我々の最低限の望みは将来自分が老いた時、自分が山の奥に行かされないこと、そして自分の子孫にそんな決断の時が永遠に来ないことにあるのではないでしょうか。

 しかし残念ながら、この時代になってもなお集団免疫という棄老を優先的に選択する人がいます。彼らが今放棄し、諦めたのは他でもない、今まで彼らに献身的に尽くしてきた先駆者であり、その人たちの行く末は未来の自分であることが何でわからないのでしょう、いや わかりたくないのでしょう。

 時代が変わっても、人の性はそんなに簡単に変わらないということですね。

 

 

「中国の最新事情」
第4回 新型のコロナウイルスについて(3)

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 今回から詳細な数字データの報告を止めることにします。

 既に170以上の国と地域で感染の確認がされている今、日々増加ペース(1日10万人ほど)が加速している感染者数はどこの新聞にも一面に取り上げられているので、ここでもう一度並べるのは遅いし、情報としてはもはや無意味です。

 せっかくですので、この場を借りて、中国のネットで流行っているコロナウイルスに関する情報をお伝えします。今になって、やっと書くことができる内容でもあります。

 次の内容はネットの噂による物で、登場する団体及び個人は実在する団体、個人とはなんら関系ありません。

 2019年12月、新型コロナウイルス(COVID—19)が、まだ、「謎のウイルス性肺炎」と呼ばれていた時、武漢を中心に原因不明の肺炎のクラスターが発生しているのではないかという噂が、既に中国国内の一部のネットで流行り始めました。その後2019年12月28日、“「SARS」新種??”と記載された公文書(診断書)を勤務先の病院で発見した医師李文亮氏がウイチャットを使ってその写真を同窓会のグループに投稿したところ、瞬く間に、中国全土に伝わり、武漢当地の民衆の不安を煽りました。事態の拡散を止めるため、当局公安が李氏を嘘の情報を捏造、流布した罪名で召喚し、特別警告処分が与えられました(李氏はその後、コロナウイルスに感染し、2月7日死去)。しかし、一人の口を塞ぐのは簡単ですが、病状の拡散を防ぐのは容易ではありません。2020年1月から、感染者が続出、ついに死者(1月9日)、外国感染者(1月13日タイ、15日日本)まで出ました。1月23日、発見から一ヶ月半、政府はとうとう武漢市内の人の出入りの制限政策を決めました。

  今になって振り返ると、未曾有の流行病をわずか1ヶ月で突き止め、瞬時に前例のない予防策を打ち出した武漢当局政府の果敢さは称賛に値しますが、一般民衆からの“どうして深刻な状况になる前にもっと早い段階で対策を講じなかったのですか”という声はやはりネット上に後を絶ちません。

 一説として、2019年、2020年の年末年始は、あいにく丁度中国湖北省において一年に一度の最大な政治イベントを開催する時期でした。当該イベントは湖北省全省市民の将来に影響するので、イベントを無事開くことを最優先する武漢当局が意識せず、疫情の重大さを過小評価し、防疫体制の敷設を怠ったのではないか、と言われています。

 もちろん、これはあくまでネットの仮説で、真実ではないと思います。

 しかし、思い起こせば、丁度一世紀前、不沈船と呼ばれたタイタニック号も自らの過信で氷山に衝突し、悲惨な結果を招いたようです。悲劇はいつも繰り返されます(ちなみに、タイタニックには姉妹船が存在します)。

 

 71万と3万3597人、冒頭で記すことを諦めた感染者と死者の数です。これらは、単なる情報や増えていく数ではなく、一人一人の命であることを忘れないでほしい。最優先すべきは命であります。

 

 

「中国の最新諸事情」
第3回 新型のコロナウイルスについて(2)

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 今回も、引き続き新型コロナウイルスについて、被災地中国にいる一中国人として、現在発生している状況を記録します。

 

 まず、今日までの状況を報告します。

 中国衛建委の発表によると、3月2日11時までに、新たな感染者が202人増え、感染者は全部で80026人となりました。その他、死亡者が2912人でした。

 ちょうど一ヶ月前に、本ブログで新型コロナウイルス肺炎に関する報告をしましたが、当時の感染者数は7711人でした。わずか一ヶ月の間にその数は10倍以上にも増えました。しかも、死者が続出しており、この一ヶ月中国は非常に深刻な状態となっていました。

 前回の投稿で、不謹慎にも私は今回の新型コロナウイルスを17年前の「SARS」と比べ、当時心の中で密かに、そろそろ拡大は収束を迎え、たかが「SARS」の再来になるだろうと気楽に考えていましたが、現状を見ると、新型コロナウイルスは「SARS」の再来のどころか、桁違いの規模で、猛スピードで中国、東南アジアのみならず全世界的に広がっています。

 我が国の現時点での反省として、以下の2点の教訓を書留めましょう。

 

 1、無症状感染者の存在

 前回記録したとおり、春節にも関わらず中国全土に発令した自主隔離命令により、自宅待機が余儀なくされてきた日から丁度30日めを迎えました。来週から、各会社が少しずつ仕事復帰でき、ようやく収束の目処が見え、一時の深刻な状況から脱しつつあると言えます。

 しかし、当初1週間で封じ込めると当局が考えたにも関わらず結局30日も掛かったことから、今回の新型コロナウイルスの拡散の予防は非常に難しいということが分かります。理由として、無症状感染者の存在と彼らによる静かな感染拡大が挙げられます。普段身近にいる健康そうな人々がスーパースプレッダーとなりえるし、二次感染、三次感染で多くの人を感染させています。症状がでないため、防ぎようがありません。これが、中国国内で一ヶ月で患者数が10倍にも増えた理由の一つだと思います。

 つまり、自分の周りに武漢に渡航歴ある人がいないから、必ずしも自分が安全だという慢心を持たないほうがいいということです。

 

 2、医療水準、死亡率、26人の英雄

 ネットの流行りで、今、武漢、湖北省の病院に関する映像が数多く流れていますが、見てる周辺の人々には、今回のウイルスは重症症状が必ず出るわけではないし、当地の医療水準が低い、医療常識が足りないから、死者が出ているのではないかという考えがあるかもしれません。この考えは危険です。実際、武漢は非常に現代化した大都市で、決して医療水準が低い田舎町ではありません。更に、感染拡大以来、中国全土からの医療資源が武漢に集まり、各地の精鋭の医者達が昼夜を問わずに患者の救助に力を入れてきました。発表されたデータを見れば、相当なレベルの医療が現地で施されています。

 しかし、2月26日までの統計では、患者とは別に、湖北省内で新型コロナウイルスの治療を第一線で行っていた医者が既に26人も殉職しました。その中には、病院の院長、主任も含まれています。彼らは殆どが治療の中で、患者から新型コロナウイルス肺炎を移され、重症になり、命を落としたのです。

 一国の全力を傾けても患者どころか、医者さえ救命できないような状況なのです。決して、病状が重くないから、医療水準さえ備えていれば、問題ないと今回の新型コロナウイルスを侮ってはならない、油断してはなりません。

 ウイルスの前に、国という境はありません、共にこの国難を乗り越えて行きましょう。

 

 

「中国の最新事情」
第2回 新型のコロナウイルスについて

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 本来、今回は中国の春節に纏わる話を書こうと思っていましたが、不幸にも新型のコロナウイルスが予想外に中国国内に猛威を振るっているので、急遽話を変えて、新型のコロナウイルスについて、被災地にいる一中国人の視点から、現在の状況を記録する事にしました。

 まず、最新情報:1月29日24時までに中国衛建委(中华人民共和国国家卫生健康委员会)は、新たに38人が死亡したと発表しました。中国国内の死者は、これで合わせて170人となりました。
 と同時に、当局は、新型のコロナウイルスによる肺炎の患者が、29日24時までに、新たに1737人増え、7711人になったと発表しました。その他、感染の疑いのある人の数は4148人が増え、12167人と発表しました。(日本では11例)

 単なる数字だけでは、読者の皆様にはその重大性がわからないかもしれませんが、一つの例を上げると、17年前、2002年から2003年の間、半年以上にも渡って、東南アジアに恐怖を与えたとも言えるあの「SARS」も、発見から最終的な撲滅まで中国(香港、マカオーを含め)の感染者は全部で7082人しかいませんでした。
 つまり、わかず2ヶ月(2019年12月発見)の間に、今回の新型のコロナウイルスの規模、感染者、感染の疑いのある者、死亡者などの現状が既にSARSを全面的に超えたということです。しかも、その数が毎日増加し、減少する気配は見当たりません。

 今回の事件について、その発端や拡散の理由などに関して、今まで様々な説が挙げられましたが、人災だという声もありました。しかし、その各説の中に確たる証拠がなく、推測の領域を出ていないものが多いため、正式な発表がない今、私はここで特に言及しませんが、実際発生し、私が今体験している中国政府の対応策について、書きます。

 一つ、今回の春節にあたって、中国人にとって、一年に中で最も外出が頻繁とされる時期にも関わらず、中国政府が、全国を対象として、春節期間中外出を控え、自家隔離するようにという命令が出されました。今日までの一週間、このように篭って過ごす春節は人生初です。(政府命令により、まだ自家隔離中)
 二つ、最も深刻な湖北省武漢市がこれから10日以内に、二つの病院を建設し、竣工させると発表しました。“10日以内に、病院二つを”、豊臣秀吉の一夜城には敵わないが、現代病院建設史上としては、異例、異常とも言えるスピードでありましょう。
 これこそ、中国政府の決心、執行力の現れであります。このような覚悟があれば、今回我々も必ず、迅速に病状に勝つでしょう。 武漢、加油! 中国、加油!

 最後に、この場を借りて、九州の大分市が武漢に救援物資を援助することに対して、感謝いたします。
 大分市、ありがとう、日本、ありがとう。

 

 

今回より、高井・岡芹法律事務所 上海代表処 顧問・中国律師である沈佳歓先生に、中国の最新諸事情についてご寄稿いただきます。連載は1年間の予定です。

 

「中国の最新諸事情」
第1回 秦の始皇帝と香港民主化デモ

 

 最近、出版関連の顧客からある漫画を紹介された。中国の歴史を描いた傑作で、是非読んでみて欲しいと言われた。そう、原泰久による日本の漫画作品“キングダム”であった。秦の始皇帝が難局を乗り切っていき、古代中国を統一し、初の帝国を建設する成長物語である。

 実際、読んでみたところ、実に良くできた作品である。しかし、同時になんだか違和感もある。秦の始皇帝といえば、私の世代から見れば、どちらかと言うと暴君・独裁者的なイメージがあり、鮮血にまみれた印象が圧倒的に強かったが、この漫画の中では人間味溢れたリーダーで皆の憧れといった存在となっている。もちろん、漫画だからといって馬鹿にしてはならない。私は史記など文献を調べ、始皇帝が暴君とされる根源を探し出した。

 その発端には“焚书坑儒(ふんしょこうじゅ)”という歴史事件があった。簡単に言えば、天下統一をし、至上の権利を手に入れた始皇帝の周りに、媚びる詐欺師とヤブ医者が群れてきた。当初は看過ごされた詐欺や騙しはどんどんエスカレートし、ついに、始皇帝の逆燐に触れ、彼らは処分され、詐欺に使われた書籍も焼かれたという事件であった。この出来事が後世の悪意が満ちた人達により誇張され、始皇帝が天下全ての書籍を焼く、自分に反対する学者を皆殺しにしたという話にまで歪曲されたのである。そのため、後世に暴君と残虐者のレッテルが貼られることになってしまった。なんという悲しい結末だろうか。

 真実は語られる度に変わっていくものだ。時間が経てば経つほど物事本来の全貌と目的は見失われるだろう。最近、世間を騒がせた香港でのデモ事件も、最初は「逃亡犯条例」の改正案を巡る紛争だったが、そのうち、改正案の延期が決定されたにも関わらず、デモが止むことがなかった。参加する民衆は、今回の「デモ」という行動の本来の意味についてもう一度考え直す必要がある。始皇帝のように“焚书坑儒”の二の舞にならないことを祈るばかりだ。

 

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