「アメリカの最新諸事情」の最近のブログ記事

 

引き続き若手中国人の米留学生による米国所感を連載いたします。

 

第5回 アメリカのエンターテインメント
~Marvel Japan Market~

 

 派手な服装に身を纏ったスーパーヒーローが活躍し、世界を救う。そんなシナリオのいわゆる「アメコミ映画」は世界に浸透しつつある。ディズニーが所有するマーベルスタジオが制作するマーベル映画は現在20作品以上も上映され、2019年に上映された「アベンジャーズ/エンドゲーム」は「アバター」や「タイタニック」といった名作を抜き、興行収入歴代一位となっている。筆者がアメリカにいた頃、マーベル映画が公開される日は町中が浮き立つ空気になり、映画館では拍手喝采が起こるほどの一大イベントだった。

 しかし、「アベンジャーズ/エンドゲーム」が公開された2019年に、世界中で興行収入一位がマーベル映画に塗りつくされていた中、日本では名探偵コナンの映画が首位に立っていたことで注目を浴びていた。文化の近い隣国の中国や韓国でもメガヒットを出し続けるマーベルスタジオはなぜこうも日本の特殊すぎる市場で他国に比例するヒット作品を出せないのか。

 一つ理由として考えられるのが主人公の年齢だ。日本は漫画、アニメ、映画などのエンタメ業界でやたらと若い主人公を採用する。対してアメリカではハリウッド映画をはじめ、ほとんどの主人公が中年だ。ここには根本的な、成長に対する文化的な考え方の違いが存在する。日本では30歳を超えたら安定した定職につくことが昔から一般的、あるいは理想的とされているため、安定した将来のことよりも自由を謳歌できた10代20代を見ることを好む傾向にある。一方、個人主義の強い欧米では大人になり、親元を離れて独立することで自由を手に入れられると考える傾向にあるため、中年のスーパーヒーローは皆が将来なりたい理想像となっている。

 この理論からすると、青年のピーターパーカーを主人公とした「スパイダーマン」シリーズが日本でもヒット作になったのにも納得がいく。現在リブートされたスパイダーマン作品では主人公が高校生となっており、日本で最も人気なアメコミ映画の一つとなっている。

 メディアやコンテンツを他国に輸出し、相手国の文化を「アメリカナイズ」する手から免れ続ける日本の市場を誇らしいと称揚する声もしばしあるが、私は将来を希望的に見る文化と過去を希望的に捉える文化では生き方や幸福度に大きな違いが生じると危惧している。

 

 

引き続き若手中国人の米留学生による米国所感を連載いたします。

 

第4回 アメリカの音楽
~90年代ヒップホップ文化とトミーヒルフィガー~

 

 米国の音楽産業は黒人と白人、メインストリームとサブカルチャー、そして自由と弾圧など摩擦と対立によって築き上げられたものであることは言うまでもないだろう。白人のエリート社会の象徴だったマンハッタンから押し出され、その郊外にあるハーレムという小さな地域でブルースやジャズ、そしてヒップホップの人気に火が付いたのは米音楽史でも有名な話だ。今回はその黒人音楽ブーム中に起きたアパレル会社のトミーヒルフィガー社への影響について書いていこうと思う。

 90年代のアメリカは英国出身のプロテスタントが経済界や政界でのエリート層を支配していた。ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントの頭文字をとって、WASPという略称で呼ばれていた彼らは、集団内での結婚や縁故採用を推奨していたことから長年米国の支配層に君臨し続けていた。裕福な家庭で育った白人の若者は「プレパラトリー・スクール」というお金持ちの子息が通う名門私立校に通い、ラルフローレンやトミーヒルフィガーのような上質な服を着崩すスタイルが流行っていた。このスタイルはプレッピースタイルと呼ばれ、貧困層の子供たちからは羨望の目で見られていた。

 そんな社会的背景の一方で、都市部の若者の間ではヒップホップブームに火が付いていた。Jay-ZやSnoop Doggなど、ヒップホップ業界からは白人の子供からも親しまれるスターが排出されていた。この時彼らは音楽のみにメッセージ性を持たせるだけでなく、着る服からでも何かメッセージを伝えられないかと模索していた。そして採用されたのが前述のプレッピースタイルであり、人気のラッパー達は凝り固まったブランドや見た目に対するイメージを崩すために、好んでトミーヒルフィガーの服を着てメディアへの露出を増やしていた。黒人のラッパーが富裕層の象徴ともいえる衣服を身に纏った姿は多くの者にとって刺激的だった。貧困層出身のラッパーでも裕福になれるアメリカンドリームを体現していた彼らは、多くの貧しい若者に夢を与え、ブランドの名が爆発的に広まっていく中、トミーヒルフィガーの売上は増加した。当然、白人エリート層からは批判的な声が多かったが、トミーヒルフィガーはブランドのルーツを捨て、ブームに乗ることを決意した。その後、トミーヒルフィガーは大胆に自社の広告に黒人のラッパーを起用した。結果として、90年代にトミーヒルフィガーは国際的にも知られるブランドとなり、ヒップホップブームのおかげでグローバルに展開する大企業となった。

 

注:トミーヒルフィガー…ニューヨーク州出身のファッションデザイナー、トミー・ヒルフィガーが興したファッションブランド。

注:Jay-Z…ニューヨーク州ブルックリン出身のラッパー・プロデューサー・起業家。グラミー賞の常連で、最も偉大なラッパーの一人と評される。妻は歌手のbeyonce。代表曲「Empire State of Mind」は米ビルボードのシングルチャートで5週連続1位となるなど、世界的なヒットを記録した。

注:Snoop Dogg…カリフォルニア州出身のラッパー。これまで発売した楽曲のセールスは全世界で3500万枚にも上る。俳優としても活動しており、数多くの映画に出演している。

 

 

 前々回より、若手中国人の米留学生による米国所感を連載しております。

 

第3回 アメリカの教育

~米国教育の実態~

 

 「日本の教育はアメリカと比べたら」と高々に語られることをしばし見かける。確かに毎年発表される学術論文の数はアメリカの大学が日本のそれをはるかに超えており、ハーバード、スタンフォードといったトップレベルの大学の華やかな話がよく比較対象に出される。しかし、実態は多くの日本人の想像とかけ離れており、教育は現在アメリカが抱える最も大きな問題のひとつである。

 まず、米大学の学費は年々インフレしている。その背景として、国からの支援や公金がニーズに対して圧倒的に足りてないことがある。その上、国内外から生徒を勧誘している多くの米大学はインフラ投資に力を入れていることも要因の一つとして加わる。私が接してきたアメリカの大学生は国際生徒を除くほぼ全員が学費による借金を抱えていた。特に印象的だったのが昼に働き、隙間時間で単位を取りに大学にくる26歳の生徒がいたことだ。表向きにはダイバーシティが学園生活の豊かさにつながることを掲げている米トップ大学は、富裕層しか許容できない額の学費を請求している矛盾を抱えている。

 さらに国外からは盲点になるのがアメリカの高等教育だ。ブッシュ元大統領政権時、2002年からアメリカの公教育に導入されたNo Child Left Behind Act(通称NCLB法)はその名の通り、学力格差が生まれることを防ぐために発案された「どの子も置き去りにしない」ことを主旨にした政策である。NCLB法は共通テストの比重を重くし、生徒がACT (American College Test。米国中部の大学を中心に適性試験として採用)やSAT(Scholastic Assessment Test。米国の各大学で合否基準として広く採用)などの標準テスト*で高得点を取れたか否で学校のパフォーマンスが評価される。その結果、一年間通して学校で学ぶ授業内容が軽視され、生徒は共通テストで点数を取るための勉強をする傾向になってしまった。その為、国家単位で学力は低下し、比重の重い大学入試共通テストなどで不正を働く生徒が一定数いることが一時期問題となった。NCLB法は2015年に撤廃されたが、1世代を影響したこの制度はアメリカ社会に醜い爪痕を残したことで語り継がれるだろう。

*米国の大学進学には、SATかACTのいずれかのテストの点数の提出が義務づけられている。

 

 

 

前回より、若手中国人の米留学生による米国所感を連載しております。

 

第2回 アメリカのスポーツ

~アメリカ三大スポーツについて~

 

 筆者がアメリカで四年間生活する中で最も関心したのがアメリカのスポーツ市場の大きさだ。Netflix(アメリカのオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信サービス)やHBO(アメリカの衛星およびケーブルテレビ放送局)など、動画ストリーミングサービスまたはOTT(Over The Topの略。動画・音声などのコンテンツ・サービスの意。)の先駆者であるアメリカでは、着実に若者のテレビ離れが進行している。そんな中で依然と厚い支持を得て、ケーブルテレビを支えているのがESPN(ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下のスポーツ専門チャンネル。衛星およびケーブルテレビでチャンネルを提供している。)のようなスポーツ番組だ。

 土日の街では私服として選手のユニフォームを着た人を頻繁に見かけ、バーやレストランに足を運んだら必ず店内のどこかでスポーツ中継が行われている。アメリカは多くの国と比べたらスポーツと深い関わりを持つ国だ。日本では正月にお茶の間に集まり、紅白を見るのと同様に、アメリカでは2月になると家族でテレビの前に集まり、スーパーボウル(NFL[ナショナル・フットボール・リーグ。アメリカで最上位に位置するプロアメリカンフットボールリーグ]の優勝決定戦。アメリカンフットボールの最高の大会であり、アメリカ最大のスポーツイベント。)を見る。今は強く根付いた文化により視聴率を保ってはいるが、アメリカスポーツ業界にとってもメディアコンテンツのテレビ離れは無視できない問題となっている。以下本文ではアメリカの三大スポーツにそれがどのような影響を与えるのかを考えていきたい。

 

 新しい世代の若者たちは年々加速するコンテンツ消費になれていることから、長時間スポーツを見ることに飽きやすい。これにより最も打撃を受けているのが野球である。ラジオが人気のメディアだった時代ではアメリカで最も人気のスポーツだった野球は、近年、その試合進行の遅さから若年層ファンの獲得がしづらくなっている。これに対し、MLB(メジャーリーグベースボール。アメリカ所在の29チーム及びカナダ所在の1チーム、合計30球団により編成される、世界で最高峰のプロ野球リーグ。)は一球ごとにピッチャーが待てる持ち時間を減らすなどの施策を打ち出している。ただし、そんな逆風の中でも、MLBは他のメジャースポーツとシーズンが被らないという強みを持っている。特に夏の間はフットボールもバスケットボールもオフシーズンであり、夏休みによる家族での観戦が多いなど、野球はアメリカではファミリーフレンドリーなスポーツとして位置付けされている。

 それに対し、NFLの市場は年々拡大傾向にある。フットボールは性質上、時間との戦いとしての側面があることが人気の理由と思われる。数秒で逆転が可能なことから、目を離せる時間が少ないことが新しい時代のコンテンツ消費に合っているのだろう。さらにこれは他のスポーツにも言えることだが、フットボールでは特に地域愛が強く、もはや地域のローカルチームを応援することは地元愛を主張することと同義のように思われている。フットボールの人気は絶大で、プロのシーズンが行われていない間でも大学リーグのフットボールを見るファンが多数いる。

 NBA(北米で展開する男子プロバスケットボールリーグ)は個人の選手が最も自身のブランドを確立しやすいのが特徴だ。野球やフットボールのように大人数で行うスポーツとは対照的に、バスケットボールは1チーム5人だ。さらに帽子、またはヘルメットで表情が見えにくいといったこともなく、フィールドが比較的小さめであることからプレイ中でも選手一人一人の表情が見える。そして、バスケットボールではパスができるため、理論上では全てのオフェンス(攻撃)を一人のプレイヤーが始動することが可能だ。実際、NBAの試合で最後の数分に入った時、チームのスター選手が単身で敵陣に切り込むことが一般的だ。そのため、バスケットボールは他スポーツに比べ、スーパースターを産出しやすく、選手が自身のアパレルラインやスニーカーを持つことが多く見られる。フットボール同様、最後の数秒で逆転劇が可能であり、コンテンツ消費の高速化による人気の衰えはない。近年ではヤオミン選手(姚明。中国のプロバスケットボール選手。NBAではヒューストン・ロケッツで活躍。身長229cmとNBAの中でも非常に身長が高く、リーグを代表するセンタープレーヤーだった。)の活躍から根付いた中国での厚い支持に規模拡大の可能性を見出している。

 

 

今回より、若手中国人の米留学生による米国所感を連載いたします。

 

第1回 アメリカの政治

~トランプ氏に対抗しうる民主党の有力候補~

 

2016年に世界を騒がせた大統領選挙から早三年、賛否両論で意見の分かれるトランプ大統領は来年の大統領選挙でも共和党の最有力候補として出馬する予定だ。フェイクニュースから移民問題など、数々の爆弾発言や虚言で世の中のお騒がせ者となったトランプ氏だが、驚くことにMoody'sの事前調査ではトランプ氏が大差をつけて民主党に勝利すると予想されている。

 

そんな予想がされる中、民主党にも追い風が見えている。注目なのはやはり2020年のアメリカ大統領選挙で選挙権を持つ人口が、米歴史上最もダイバーシティ(多様性)に富んだ世代であることだ。ピュー・リサーチ・センターによると、全有権者の内、非白人層が歴史上最高となるおよそ3割を占め、1割が1995年以降に産まれた通称ジェネレーションZ世代が占めることとなる。

 

国民の選挙への関心も過去と比べ物にならないほど高くなっている。2014年に行った中間選挙では36.7%の有権者が票を入れたのに比べ、2018年の中間選挙では49.3%もの有権者が投票している。その2018年の中間選挙にて、CNNは投票した有権者を対象に出口調査を行い、18,778人の回答者から大まかな有権者の年齢、性別、人種、住んでいる地域等から投票する傾向を分析している。その調査によると、18-24歳の投票者の68%は民主党を好むようだ。同様に、非白人層の殆どと半数以上の女性投票者も民主党を支持している。そして共和党は例年通り、白人男性の厚い支持を確保している。調査の中にはアンケートも含められており、回答者は具体的なオピニオンに対しYesかNoで答えている。その中で特筆すべき点は「現代のアメリカで白人は優遇されている」というオピニオンに対し、YESと答えた87%の回答者が民主党を支持していることだ。そして例年のように、移民の多い都市部では民主党の支持が厚く、田舎では比較的に共和党を支持している層が厚い。そのどちらにも属せず、支持の変動が激しいサバーブ(市街、郊外)の票をどう獲得するかがカギになりそうだ。

 

民主党の支持が近年増えている最も大きな理由は「トランプに対抗できる」ためであり、民主党自体から厚い支持を得ているスターを輩出した訳ではない。2019年10月末の現時点で、民主党内で最も支持率の高いジョー・バイデン氏のサポーターの多くが「トランプに勝てるから」という理由で彼を支持している。なので現時点ではアメリカの民主党支持者たちは絶対的なリーダーが存在しておらず、これから先も票が激しく流動するだろうと見込める。それを裏付けるように10月23日にCNNから発表された最新の調査では、53%の民主党支持者が支持する候補者を変更することに抵抗はないと答えている。

 

現時点で2020年の民主党代表に選ばれる有力候補は以下の通りだ。

1.ジョー・バイデン(支持率27%)

  ペンシルベニア州生まれの76歳。バイデン氏はオバマ大統領就任時に副大統領として活躍していたことで知られている。オバマ元大統領とは非常に友好な関係を築いていることから黒人層にも厚い人気を得ている。彼は1972年に妻と娘を自動車事故で失ったこともあり、そのことからアメリカのヘルスケアに対して特に関心を持っていると表明している。対立関係にあるトランプ現大統領に対し、バイデン氏は「トランプ氏が8年も就任するとなると、アメリカの本質的なキャラクターを変えてしまうことになるだろう。」と言っている。

2.エリザベス・ウォーレン(支持率23%)

 オクラホマ州生まれの70歳。女性。現在はマサチューセッツを中心にアメリカ北東部で活動しており、ニューヨーク、ボストンといった都市部の所謂リベラル層や女性から厚い支持を得ている。ウォーレン氏はアメリカの「構造から大きな変革」をもたらそうと表明している。具体的には近年インフレしつつある学生ローンの削減、GAFAを始めとする権力を持ちすぎた企業の分割提案、そしてスーパーリッチ層に対する富裕税を設けようとしている。

3.バーニー・サンダース(支持率15%)

  バーモント州出身77歳。今回最も高齢な候補者な上に、10月上旬に心臓発作を起こしたことから体力面でやや心配されていることもある。政治方針としてはユニバーサルヘルスケアを強く支持しており、トランプ現大統領の移民対策に対し、「心のない」行動だと非難しているサンダース氏は移民の親子を引き離す現在のシステム(注)から改善しようと表明している。環境問題に対しても強い意見を持っているサンダース氏は2050年までに自国での化石燃料使用をゼロにすると掲げている。

注:「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)」政策…特に増加しているメキシコとの国境地帯での不法移民の摘発に伴い、2017年10月頃から「逮捕・起訴された親」と「子ども」の隔離が始められ、2018年5月に政策化された。翌6月には国内外からの圧力や強い反発を受け、両親が子どもに「危険」を及ぼさない限り親子を一緒に収容することを定める大統領令が出され、連邦裁判所判事はこの6週間に引き離された子ども推定2700人を親と再会させるよう命じた。しかし、米国自由人権協会(ACLU)は、トランプ政権は交通違反などの軽い罪やネグレクトなどで親を訴え、国境で親子を引き離し続けていると主張している。

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