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2023年2月10日
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「明るい高齢者雇用」

第26回 大企業は研究不足―自社活用の努力を― 

(「週刊 労働新聞」第2172号・1997年10月13日掲載)

 

 ここで高齢者の雇用環境を、いくつかのデータをもとに概観してみたい。わが国の高齢化は世界に比類ない速度で進み、21世紀初頭には労働力人口の約5人に1人が60歳以上の高齢者になると見込まれている。図の通り1996年の労働人口は6,711万人で、このうち、60歳未満が5,830万人を占めている。仮に、将来にわたって現在と同程度の経済規模が維持され、その生産性も不変であると想定するなら、2015年には65歳未満の全労働力人口を充てたとしても既に70万人程度及ばず、2025年にはさらに65歳以上の約半数、400万人を加えてようやく現在の60歳未満の労働力人口と同規模になるのである。

 もちろん、このように単純な計算で労働力を云々することはできない。技術革新は間違いなく進み、従って多くの産業分野で労働生産性の向上がみられるはずである。しかしながら、少なくとも各企業においては、現在と同じ従業員の年齢構成を維持することは、若年労働力が大幅に減少することからも困難であると言ってよい。高齢者を雇用することはまさに歴史的必然なのである。

 しかるに各企業の高齢者雇用の現状はどうか。労働省「高年齢者就業実態調査」(平成8年)によると、55歳以上の常用労働者の割合は従業員数30人未満の企業では19.1%であるのに対し、5,000人以上の企業では8.9%と、規模が大きくなる程その割合が少ない。60~69歳層でその差が甚だしく、零細企業の9.1%に対して大手企業は1.3%と7.8ポイントも開く。

 別の調査によれば、従業員数5,000人以上の企業のうち転籍出向制度があるのが4割以上、また、半数以上が早期退職優遇制度を設けている。大手企業での転身の救助や進路選択の一環という、働き続ける意欲のある高齢者を自社で雇用しないシステムが果たして今後とも維持されるべきなのか。大手企業における高齢者の活用について、その研究不足が指摘されなければならない。

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第29回】「気」の時代~やる気、人気、活気(1996年6月19日)

 

 「心の経営」の次は「気の経営」である。時代背景としてコンピュータ化や国際化などいろいろあるが、やはり仕事に対処するやる気、お客様の信頼を得る人気、職場の活気が、いま一番要求される。

 気の経営の第1は「やる気」だ。やる気とは、人に言われなくても自分で仕事をつくるという姿勢。わが社にはやる気のある人が10人中何人いるか。1人なら普通、2人ならまあまあ、3人なら優良企業だ。3割いるかどうか常にチェックすること。やる気を刺激するには褒めること。特に朝礼で褒める。

 2番目の「人気」とは、名物商品と名物社員の有無である。

 先日から私は、20店舗あるスーパーの再建に取り組んでいる。そこで、ジャンル別に売れ筋(名物)商品があるかどうか、ただし本部の推薦品はダメという条件をつけて1点ずつ出させてリストアップさせた。「なし」ならまず1個つくる。この名物商品が当初のリストを絶えず更新しながら3倍になったら改革は終わる。

 次は名物社員がいるかどうかだ。余人をもって代え難い人をリストアップさせる。万引きの摘発がうまい人、掃除の上手な人、なんでもいいわけだ。そして第三者から評価を聞くこと。みんなが名物商品、名物社員を意識し始めたら成功だ。

 3番目は「活気」「雰囲気」。社長、営業部長、店長はプラス志向でなければならない。「出来ないこと」ではなく「出来ることを課題にする」ということである。

 「気」の営業でもうひとつ大切なのは、お客様の満足感を念頭におくこと。リピート客が増えるかどうか、常連客の数を意識しているかどうか、この1点を営業マンに意識させ続けることだ。

 

 「やる気」、「人気」、「活気」は企業の血液である。「気」をひとつにし、気を整えることが大切。この3つを意識すれば、生き残れる経営体になる。

 

「明るい高齢者雇用」

第25回 最大の国家課題に―待たれる世論の高揚― 

(「週刊 労働新聞」第2171号・1997年10月6日掲載)

 

 高齢者問題は21世紀に向けてわが国最大の国家的課題ともいうべき問題であり、これの前進には国家社会の総力を挙げ、国民一人ひとりがその重大性を認識して日々努力を重ねなければ成果を挙げることは不可能というべきである。この観点で社会世論の面から問題を挙げれば、まず65歳継続雇用は法により努力義務が課せられているのに、総論賛成の後で、何の罪悪感もなしに各論反対が横行することにつき社会世論は何故これを放任するのかということである。社会世論の中で企業が規範意識を持って65歳継続雇用に取り組み、使命感を持って実現せしめるようにすることは、国民一人ひとりがその責任を負う社会世論の重要な役割である。社会世論の喚起を切に望みたい。

 また、高齢者雇用への使命感を有し、先進的に高齢者を大事に雇用する企業の社会的評価をもっと上げるように努力が払われなければならない。高齢者雇用先進企業の社会的イメージの高度化がなされ、社会的責任を遂行する企業の商品、サービスについて社会的認識を深めなければならない。

 さらに雇用流動性への信仰が今や社会世論の中で幅を効かせているが、これへの過信は高齢者雇用を総体として促進するものではない。雇用流動性を高めることが活性化であるとして、高齢者も外部労働市場に任せるべきであるとする議論があるが、これは、高齢者を単なる労働力に還元するだけのものであって、社会的損失をももたらすものである。

 人間は、単に能力だけでなく、企業風土・企業論理を理解して初めて戦力となるが、この企業風土・企業論理をとり払って裸にして、単に労働能力だけを売り物にした時、高齢者はもはや素手で世間と戦わなければならない。雇用流動性への信仰は、高齢者に誠に重い負荷がかかる。

 さて、これまで6回にわたり、末廣毅氏より伺った話を基に連載を進めてきた。高齢者雇用の促進に資するため、様々な障害の排除に取り組む氏の説得力のある問題指摘は、誠に貴重で示唆に富むものであった。高齢者の継続雇用を阻む要因として、企業の姿勢、労働組合・社員全体のエゴ、高齢者自身に関わる問題、世論の4つをあげたが、総じて言えるのは、我々自身の意識の問題、すなわち高齢者をあたかも邪魔者として排除しようとするかのごとき姿勢にあるような気がしてならない。

 超高齢化社会の到来を目前に、高齢者と共生していくのが至極当然であることについて当事者意識を持とうとしない。否、問題を先送りし、忌避しているようにすら見える。明るい高齢者雇用実現のため、単に方法論に終始するのではなく、まず我々自身の意識のあり様こそが問われるべきである。

 今後の人口構成を考えれば、企業活動においても高齢者の存在を無視しては考えられない。一刻も早くこの問題に取り組むことが、熾烈な競争に勝ち残っていくために避けられないテーマであることに気付かなければならない。職場に高齢者がいることが当たり前であって、高齢者と共に働くことが好ましいのだと思える環境を自ら創り出すことが、この問題を解決に導く最重要の方策となろう。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第28回】「人材含み損」清算の時代(1996年5月22日)

 

 経営改革の課題はムダを省くことにあるが、ムダの最たるものは能力のない人間を使っていること。ここに「人材含み損清算」の本質がある。ムダをムダと認めなければならない。

 全社員を対象に、ムダかムダでないかを○△×で印をつけてみればいい。○が3割あったら優秀な会社である。×を継続的に入れ替えていくことによって会社は活性化する。

 例えば、給料50万円の課長。この人が50万円の働きをしているかどうかを点検しなければならない。そのときの尺度は、給料の3.5倍の粗利益をあげているかどうかをみること。50万円の給料をもらうためには粗利で毎月175万円稼がなければツーペイにならない。その基準に達しない人は含み損社員として、社長や人事部長だけでなく全員が認識することだ。

 これからは、個人ごとに適切かどうかを点検する必要がある。時間が給料を決定する時代は去った。彼が「どれだけ成果を出したか」によって決定する時代だ。

 例えば、早足で歩く。社長だけでなく全員が早足で歩く。それが実力主義賃金とか成果主義を旨とする人事制度である。時間の経過で給料がもらえた時代から、早足でどれだけの距離を歩いたか、を測定するシステムである。

 定期昇給制度はやめた方がいい。やるなら定期昇給制度と定期降給制度と抱き合わせでやる。昇進制度も昇進だけではなく降格制度も取り入れる。

 明日、会社に帰ったら管理職を集めて「これからは人材含み損清算の時代になった、と昨日聞いてきた。うちの会社でワースト10の役職者を挙げろ、部下を挙げろ、紙に書いて提出せよ」と言えばいい。そうすればたちまち活性化する。

 

「明るい高齢者雇用」

第24回 雇用阻害要因:定年後へ準備を―翌日から働く気概で― 

(「週刊 労働新聞」第2170号・1997年9月29日掲載)

 

 高齢者雇用を阻害する3つ目の要因は高齢者自身の問題である。

 (イ)60歳が近づいても世の中を甘く見ている。定年後のバラ色の幻想に取りつかれた結果は、定年前の「亭主元気で留守が良い」が、定年後は「亭主元気で留守番が良い」になってしまう。一年間遊んで、改めて再就職しようとしても、もはや再就職は不可能という状況になっている。定年に達したら、その翌日も働くといった気構えがないと、とても職を得られないのが実情である。言うなれば、高齢者自身に定年後に対する心の準備が全くないといってよい。そして、日に日に退職金が目減りしていき、不安が高じてくるという状況に陥り、まさにバラ色転じて灰色の人生となってしまうのである。定年に達したから一時楽させて頂きたいといった気分でいる者は、明るい高齢者雇用に巡り合うことはないのである。

 (ロ)人生設計における計画性の欠如が高齢者自身の大きな課題である。すなわち定年前に計画的な対応をする姿勢に欠けているのである。定年後も企業社会で必要とされる人間たるべく努力しなければならないにもかかわらず、健康保持・リフレッシュ・能力開発・自己啓発に努めず、専ら企業に委ねる態度で、会社が何とかしてくれるだろうという気持ちに浸っているのである。

 これは、企業側にも責任がある。在職中から定年後の対策に精出しするのを軽蔑する、定年までに燃焼しきらないと忠誠心が薄いと見るような、いわば「命の切り売り」を強いている。だから、定年後のことを念頭に置かずに定年まで必死に頑張ることになってしまう。定年後の失業状態をどうやって克服するかについて問題意識を持たないまま職業生活を終えるということになってしまうのである。

 (ハ)高齢者は人間関係でも問題が多い。どうしても“威張る”人が多い。過去の権威と栄光にしがみつき、とかく若い者に向かって「お前らは~」という発言をしがちで、職場では、「あの人がいると暗くなる」といった状況を作りがちなのである。だから定年前の研修では、“人間関係研修”こそが一番必要とされる。愛されて、皆様の役に立たせて頂くという実力のある、謙虚な高齢者になることが、高齢となって市民権を得るのに何より必要である。謙虚さを欠き、横柄で皆から嫌われる存在となってしまっては、明るい高齢者雇用がありうるはずがない。

 (ニ)また高齢者は、とかく過去にとらわれて、激変する企業社会の中で遅れをとる。パソコンしかりであるが、そもそもセンスがないということになる。時代はどんどん変わっている。即ち足腰の農業の時代から手先の工業の時代に、そして口先の商業・サービス業の時代に移り、頭脳労働・ソフト産業の時代を今迎えようとしている。さらに“心の時代”即ち“良心・自立心・連帯心・向上心”といったものが要求される時代となっているのに、高齢者は、とかくこの心を失った存在となりがちである。

 古いセンスで、すなわち工業化社会あるいは公務員等の古い人間としてとどまっていたのでは、時代遅れの存在として粗大ゴミ扱いされてもやむをえない。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第27回】1回の訪問機会を最大限に活かす(1996年3月22日)

 

 私は1日に10本前後の手紙やFAXやメールを出す。書くのは大変だからテープに吹き込む。それを秘書が文章にして送っている。

 内容は、まずはアポイントをいただいたお礼状。2日ほど前になると「予めご検討いただければ幸いです」と、訪問するにあたってのお願いを出す。そして訪問した後のお礼状。

 1回の訪問を多重的に使う。これは人間関係を密にする最もいい方法だ。15分間の面談の前後も手をかえ、品をかえて意思疎通をはかる。そのとき、自分が相手に求めることはなるだけ少なく、できたら1つだけにしておく。情は人のためならず。結局は全部自分に返ってくる。

 営業マン教育では「営業は偶然と奇跡の連続」ではあるが、「そうではない」と教えなければ「偶然を必然にする」とか「奇跡を平常にする」ことはできない。運を否定しなければならない。チャンスは自分でつくるという思想で教育しなければならない。

 そしてチャンスを活かすためには、いつも工夫しなければならない。

 私は、2回目の訪問で状況の進展がみられないと感じたら、3回目から別の方法を考える。セールスに100回通って注文をとったという成功談があるが、それは人的資源とヒマが充分にあった過去の話。いまはそれを実践してはいけない。反復行動が成功する確率は、行動を重ねるたびに小さくなっていく。3回目は別のやり方を工夫しないと成功率はしぼむ。

 営業で初めてのお客様となった相手先には、社長は必ず訪問すること。これが営業の秘訣。初めてのお客様は、見込客がお客様になった歴史的瞬間である。営業部長と一緒に社長も行く。そしてこれは先方の社長、担当部長に会える絶好の機会でもある。営業安定の秘訣だ。そして訪問後は必ず礼状を出す。

 

「明るい高齢者雇用」

第23回 雇用阻害要因:若返りが活性化か―労組も“自己保身”― 

(「週刊 労働新聞」第2169号・1997年9月22日掲載)

 

 企業側の姿勢にある障害に次いで、高齢者雇用を阻害する2つ目の要因は労働組合・社員自体のエゴである。制度上の問題以上に大きい障害となりかねないが、組合内部や社員の意識の問題かもしれない。

 (イ)“高齢者を抱える・養う”という感覚自体が高齢者雇用を阻害していることは言うまでもない。要するに、若年者が「自分の負担になる」ということで60歳以下の者の排除をサポートしようとする。労働組合・社員も活用に消極的なのである。

 (ロ)また昇進人事関係面での排除賛成論が根強い。人事ローテーションを図るためには、高齢者は不要である、むしろ障害になるという考えである。若返りこそが活性化であるという信仰は、社員にも根強い。それに労働組合も呼応している。そのことは、団塊の世代自体が、明るい職場には若返りが良いと考え、明日はわが身であることを忘れているということでもある。

 自らのエゴを若返りとスリム化の建前論で正当化する50歳前後の団塊の世代の諸君はあと10年もすればわが身に定年が降りかかってくるのであるが、その時になれば今度は65歳以上の高齢化率が20%を超えることになった現実を声高に唱えて継続雇用の主張を始めるというのであろうか。高齢者雇用はすぐにはできない、時間がかかるのであるから、その時になって始めろといわれても、団塊の世代の諸君には間に合わないことになるのである。

 (ハ)実力主義・成果主義と声ばかりは高いが、内実集団主義の美名の下で年功処遇が横行しているところが多い。その結果、働きのない者がいてもそれなりの人事労務管理上の処置をすることなくのさばらせながら、真に排除すべき者を放置しておき、定年制という無難なスクリーンに委ねて、安易な方法によって排除しようとする。つまり、定年制という便利な伝家の宝刀に任せてそれを持つということである。組合もこのやり方を良しとしているようである。定年で退職させられるのでは組合としても文句は言えぬが、定年前ではどんなに能力のない者でも守らざるを得ない。

 また、継続雇用を組合が要求しても見返りにベアを低く抑えられたりするし、継続雇用の低賃金労働者を抱え込むことで組合としては余り得策ではないと考える向きもあるのではなかろうか。パート労働者の取り扱いについてパート労働者を組合内部に吸収することは得策ではないとする議論が組合内部にあると聞くが、高齢者の問題も組合にとってはこれと軌を一にする問題のようである。すなわち組合は、継続雇用で低賃金労働者を容認することは絶対に出来ないとして高齢者の労働条件の高値安定を要求する。そのことが継続雇用を困難にしても、低賃金労働者や条件劣悪者を抱え込むことで自らの運動の足を引張られることにならず済む方が良いとでも考えているのであろうか。

 能力・体力・やる気に大きな差の出る高齢者の賃金を画一的に高値安定させようという要求は不可能を承知で言っているとしか思えない。ここにも総論賛成・各論反対の世界がある。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第26回】残心の世界を演出する(1996年2月23日)

 

 コミュニケーションこそ人間関係の基礎だが、私はそこに「残心(ざんしん)」を重要視する。

 「昨日は思いもかけず歓待していただき、たいへん嬉しゅうございました。あまつさえ、その後わずかな時間でありましたがカラオケで共に歌をうたったことが思い出に残ります。こんな機会をまた秋にでも、というありがたいお言葉をいただき、私も心待ちにしております。」とお礼のFAXを出す。

 「ご丁重なお便りをいただきありがとうございました。この秋を楽しみにしております」と返事が来る。

 その返事にまた返事を出す。

 「さっそく私のFAXにお答えいただきありがとうございました。あの時は申し遅れましたが、心ばかりの品を送らせていただきました。ご家族皆さまで召し上がっていただければ幸いでございます」。

 残心の世界である。残心とは、想いを連ねていくこと。営業は、心をつなぐこと、縁をつなぐことで結実していく。

 もちろん必ず書面で出す。電話では残心にならない。

 

「明るい高齢者雇用」

第22回 雇用阻害要因:全員退職でスッキリ―賃金制度も未整備― 

(「週刊 労働新聞」第2168号・1997年9月8日掲載)

 

 前回は、高齢者雇用における企業の姿勢にある障害について言及した。排除先行の論理、企業のエゴが蔓延し、多様な人事管理制度が検討されていない状況をまず指摘したが、そこに共通するのは、育成や活用といった視点を全く欠いているという点である。

 (ハ)に挙げた複数処遇のメニュー未整備ということでは、査定制度もその例に漏れない。高齢者向けの査定制度が確立されていないのである。例えば体力すなわちリフレッシュ度、やる気、意欲・自己啓発度といったものを査定項目に導入することが望まれるが、それを実施しようとしない。

 賃金制度も単一給管理で、いわゆる若年者・中年者の賃金の6割とか8割といったような単一基準で運用しようとしている。高齢者向けの賃金制度を工夫しないのである。

 身分・資格は専ら嘱託一本ということで、バラエティーに富む高齢者に相応しい対応をしていない。これはまた、育成とか活用とかという思想が希薄であることを物語っている。

 (ニ)そして職場と能力面からの高齢者対策を確立しない。積極面では、高齢者向けの職務の開発あるいは高齢者に時代に即応する新しい能力を身に付けさせるための能力開発といったものが要求されるし、また高齢化に対する支援策としては、職場改善・教育訓練が必要であるが、このような対策を検討して実施しようという意欲が、多くの企業において欠けるといって良い。一部高齢者雇用の先進的企業においては、この問題について極めて熱心であって、力仕事はできるだけ機械に任せ、ムリ、ムダ、ムラを排し、だれでもが楽に働ける職場への転換を図り、能力面では中高年層の活性化を図る能力開発プランを実行したりして、成功している。

 (ホ)高齢者の保有する知識・経験・ノウハウに対する軽視といったことも甚だしい。専ら新技術のキャッチアップのみが先行し、創造力優先で、知識・経験・ノウハウを軽視するといった傾向が極めて強い。現実には、企業は新技術・情報だけでその盛衰が決せられるのではなく、企業の販売組織・技術・財務、さらには人間関係の総合力によってはじめて、その優位性を保てるのであるが、とかく新技術・情報だけに走りがちなのである。

 (へ)かくして企業において高齢者について、排除の論理のみがまかり通り、育成・活用の論理がないことになるが、実は「手間がかかる・リスクがある」といった障害のほかに、高齢者活用は、社内的に評価されないという状況が根本的にあると言って良い。実例としてこれまで定年後散発的に再雇用をしてきた会社で、今後は一律に再雇用を行わないことにしたことが、むしろ社内的に評価を受けているという話を聞いたことがある。会社が必要とする人材を見限ってでも、無能な定年到達者が労働組合をバックに居残ることがないよう全員定年で退職してもらうのがリストラ面ではすっきりするということなのである。

 企業において高齢者対策をなおざりにすることは、一面において企業の技能レベルの低下、企業の体力の脆弱化にもつながる。それは人間の味がまさに成熟しようとしている時にそれを捨て去ることを意味するからである。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第25回】幹部の降格人事では何らかの選択的提示をすること(1996年2月2日)

 

 降格人事のとき、役員・従業員は、敗北の恐怖心が死の恐怖心を超えることがある。向上心が萎えるとき、向上心が抑圧されたとき、人間である意味を失う。これが自殺に奔る理由の1つとなる。

 それを避ける方法は、何らかの選択肢を提示する「選択的降格」をとること。「君はわが社の社員として不適だから、部長付参事として働くか、子会社の○○として働くか、決めてほしい」と、選択的提示をする。それによって彼は自分で選んだという状況ができる。そこから自分で活路を拓こうとする。選択の余地のないやり方はできるだけ避ける。

 そして「3日以内に君の気持ちを伝えてほしい」と、タイムリミットを決める。形だけでも了承したというプロセスをとらないと、破局的な降格になってしまう。

 降格人事は、つらいけれどもトップが本人に伝達すること。そのときの切り出し方は「残念だが」という言葉で始める。そして最後に温かい言葉の配慮が必要だ。人事部長が行うと、とかくぶっきらぼうになる。

 もうひとつ、トップが話す前に何気なく、さりげなく、前ぶれを出しておくこと。ある日突然はダメ。

 風土刷新が必要な場合は、まず役員に過去の様々な失態について責任追及をする。これが懲戒解任。降格の極致。これが一番難しい。

 「いろいろあったが、君は退任慰労金なしで辞めてもらわざるを得ないが、君が望めば私なりに今後のことはできるだけのことはしたい。私だけでなく会長も君のことを心配している。社長の私に相談するか会長に相談するか、どちらでもいいから、私にこだわらずに君の気持ちで選べばいい」。このように付け加える配慮がないといけない。

 何でもいい、選択の余地を残して救ってくれる人がいる、という世界を構築していく。そして、打ち明けることができる状況づくりも必要だ。カウンセラーや精神科医を顧問にして、匿名でも相談できるようにする方法もある。これが現実的な解決法である。

 

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