第12回 『一流の人は小さな「ご縁」を大切にしている』
(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎
本書は高井伸夫先生が傘寿を迎えられたときに、自分を支えてくれた「縁にまつわる智恵」についてまとめられ、かんき出版から出された書籍です。
「縁」を深く掘り下げ、出会った縁を広げ、深め、そして長く続けていくための心づかいや、そのためのシステム作り、さらには悪い縁を見極めていく方法などについて書かれています。
先生は、自らの体験から、
「人間には宿命と運命がある。宿命は変えることはできないが、運命を変えることは可能。その運命を変えるものは、縁を活かす力」
と強調されています。
高井先生にお会いすると、思い出す人がいます。
約40年くらい前にお会いした、東北大学学長退任後、4代目の癌研付属病院院長となり名医といわれた黒川利雄先生です。黒川先生は患者さんに接する前には、必ず白衣のポケットに入れたホッカイロで手を温めてから、微笑みながら頷きながら、脈を計られるのです。
その理由を聞いたところ、次のように答えられました。
「病院の廊下で順番を待っている患者さんの心理は、ガンに対する恐怖心で不安なはず。そういうときに、冷たい手で患者さんに触れると、それだけで〝冷っと”される。それをいくらかでも和らげてあげたい。それだけでも心が少し落ち着くはず。そして安心と勇気が与えられればと、願っています」と。
相手を思いやる心が、多くの患者さんに「黒川先生とつながっている」と安心させ、信頼されていたのでしょう。
相手から相談を受けることを仕事とされている高井先生も同じように、いつも泰然自若として、笑顔を大切にされています。
先生は仏教用語の『和顔施』(笑顔を人に施すことで、自他ともに功徳を得ることができる)の教えを自分に言い聞かせているそうです。
そして、お会いした人には、「何かお役に立つことはないか」「誰か紹介できないか」といつも思いをめぐらしながら、会話や会食をされている姿が浮かびます。
本書の、ほんの一部を紹介します。
著者の「小さな縁をも大切にする」考え方や体験を参考にしていただければと思います。
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縁づくりは初対面で決まる
「縁づくりがしやすいのは、お互いが『縁をつくりたい』と意識しているときです。なかでも初対面のときは、絶好のタイミングと言えます。なぜならお互いに、相手のことを知りたいと思う気持ちが非常に強いからです。それだけ『縁の種』を蒔く土壌が整っているのです。
そのために一番大事なのは、会う前に『どんな人かな』とワクワクする気持ちを自ら高めて、笑顔で、つまりマインドセットをして接することです。
そうすれば自分が発する〝あなたを好きになりたいオーラ”が出て、相手が発する〝あなたのことを好きではありませんオーラ“をうまく消すことも可能です。
このように誰かと縁を結ぶ絶好のタイミングは、初対面のときであること。そして縁が確定するのは、その出会いが二度目へとつながったときであることを覚えておいてください」
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「縁に気づく感性」を高める
「徳川将軍家の剣術指南役に留まらず、幕閣として大きな影響力を持っていた柳生家に次のような家訓があると言われています。
『小才は縁に出合って縁に気づかず、
中才は縁に出合って縁を活かさず、
大才は袖振り合う縁をも活かす』
あなたは、どれに当てはまると思いますか?
そこで、縁に気づく感性を高めるポイントをあげます。
ポイント① 感謝グセを身につける
人間は一人では生きられません。さまざまな人やモノに助けられて、この世に生かされています。そのことに感謝する気持ちがあれば、自ずと『縁に気づく感性』が磨かれます。縁という偶然を必然に変えるには、感謝の気持ちが欠かせません。
ポイント② 好奇心をもって行動する
『知りたい』『やってみたい』ことが増えれば増えるほど、情報アンテナの感度が鋭敏になります。情報・知識というものは、好奇心のある人のところに集まってくるもの。それによって、縁を自然と引き寄せることができ、自分自身の人間としての幅が大きくなっていきます。
ポイント③ 自分自身の強みや魅力をよく知る
せっかく縁ができても、相手に『また会いたいな』と思ってもらえる何かがないと、付き合いを積み重ねていくことができません。どんな小さなことでもいい。今までに周囲から褒められたり、感謝されたりしたことを思い出してみてください。その褒め言葉はそのまま自分の強みであり、魅力なのです。自信をもってアピールしましょう。
ポイント④ 相手を知る
『相手が何に関心を持っているのか』『何を認めてもらうと嬉しいのか』を知ったうえで、自分は相手に何を提供できるのか、どうすれば喜んでもらえるのかを考える必要があります。老子の言葉に『人を知るものは智なり、自ら知るものは明なり』があり、縁につながる言葉です。
他人のことを理解できる人は智恵の優れた人だけれど、それ以上に素晴らしいのは、自分自身のことをよく知っている人である、という意味。ポイント③と④をセットで捉えてください。
ポイント⑤ 自然をよく観察する
人間は自然の一部です。縁もまた作為的ではなく、自然に、偶発的に生じるもの。ですから自然との関わり合いのなかで、その変化をしっかり観察していると、ひょいと顔を出す縁に気づけるようになります。たとえば強風で大きな木がポキッと折れるのに、竹はしなやかに持ちこたえる。その観察のなかで、「本当の強さ」を感じたら、「無言の教え」との出会いになります。これは日本人の得意なことです。誰かと会ったり、手紙を出したりするとき、時候の挨拶から入ることが多い。自然を観察して、コミュニケーションに活かす術が身についているのです」
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「会えて良かった」と思ってもらう3つの力
「1つ目は、相手にとって参考になる意見や考え方を述べる力。
相手が興味を持ってくれそうな話をする。そのためには、できれば相手のことを事前にできるだけ調べておきたいもの。
2つ目は、相手がしてほしいことを察する力。
相手が困っていることなどを上手にすくいあげて、何らかの力になること。自分の力でできることがあれば提案してみる。もし自分が直接力になれない場合でも、『その件なら、力になれそうな人を知っています』という形で、誰かを紹介する方法があります。
3つ目は、相手と交わした会話について、お互いが今後どう行動していくか、その見通しを明確に伝える力。
ここをうやむやにしたまま終わると、相手に『会えて良かった』と思ってもらえません。そのときの会話を受けて、自分はいつごろ、どのように行動するのか、具体的に示す必要があります。
とくに気をつけなくてはいけないのは、『今度』というあいまいな言葉。『今度』は当てにできないと思われるだけ。いつ行動するかを明確にしておくだけで、あなたへの信頼度は違ってきます」
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「淡交」が「縁」をつなぐ
「縁に恵まれている人と、縁に薄い人との違いは、人に関する関心の度合いだと言えます。
ただし、関心が強ければ強いほどいい、というわけではありません。しかも、自分の利益のために利用しようという下心があれば、なおさら人は離れていきます。
何事もそうですが、人に対する関心も『ほどほど』が良いのです。
その程度を抑えるために重要なのが、『淡』の精神を持つことです。
荘子はこう言っています。
『君子の交は淡くして水の若く、小人の交わりは甘きこと醴の若し』
―優れた人の付き合いは水のように淡白なので、交際が長続きする。小人物の付き合いは甘酒のようにベタベタしていて、利害関係がなくなると、やがて途絶えてしまう。
良い縁をつないでいくための基本は『淡交』。
いちばん大事なのは、相手に対して『爽やかで、ひとかどの人物である』という印象を持ってもらうことなのです」
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「縁」の修復には、「陰褒め」が効く
「縁というものは、ちょっとしたことで簡単に切れてしまうもの。交流を続けたいなら、修復に努めなければなりません。いちばんいいのは、『陰褒め』という手法です。
文字通り、本人に直接ではなく、本人と親しい人に間接的に褒め言葉を言うのです。自分への褒め言葉が第三者から伝わると、その信憑性がより高まります。単なるお世辞や社交辞令ではなく、本心から自分を褒めてくれたと感じるのです。
しかも褒め言葉には、『相手にも、褒め言葉のお返しをしようという気持ちを起こさせる』という性質があります。こうして〝褒め言葉の連鎖“が起こると、二人の関係は間違いなく修復されます」
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相手の立場で態度を変えない
「相手が自分より年下だとか、地位が低い、能力が劣る、弱い立場にある、とわかると、たちまち見下すように横柄にふるまう人が少なくありません。
相手がどういう人物であれ、人と接するときは、礼節を尽くすという軸を持つことを心してください。
そのために私が日頃心がけているのは、できるだけ『命令形で話さない』ということです。
『私はこう思うけど、どうですか?』『こう考えてはどうでしょうか』というふうに、問いかけの形で発言するのが一番です。
相手に自分で決めたように思ってもらう言い方をすれば、成果が上がってくるのです」
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「縁」を大切にする人は、お墓参りを欠かさない
「あなたは親族や友人、知人のお墓参りをしていますか?
この世で交流した人との縁は、亡くなっても、輪廻転生、生まれ変わって、また来世で出会いたい。縁というものは時空を超えて続くもので、どちらかの死をもって切れるわけではないと思っています。
お墓参りをする人たちは、『いまは亡き先祖や肉親たち、または特にお世話になった先輩たちに、恥をかかせたくない』という気持ちが強いので、正しく生きようと努めている人が多いように思えます。
だから、私はお墓参りを大切にする人を信じます」
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「縁」は回すと、どんどん大きくなる
「『縁の総量』というものを意識したことがあるでしょうか。
福沢諭吉は『学問のすゝめ』のなかで、こんなことを言っています。
『人と交わらんとするには啻に旧友を忘れざるのみならず、兼ねてまた親友を求めざるべからず』
―古くからの親友を大事にしながらも、新しい友を求めなさい―というのです。
縁というのはお金と同じで天下の周りもの。貯め込んでいるより、どんどん使った方が世の中に回っていきます。ですから、せっかくの縁を自分一人でため込んではダメ。ほかの人にも〝縁のお裾分け”をしながら、縁の総量をどんどん増やして、ぐるぐると回していくと、ダイナミックな縁のネットワークをつくることができるのです」
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頂いた名刺を活かす管理法
「名刺は縁の証です。それなのに名刺をおろそかに扱っている人が多いような気がします。
私は名刺の管理を月2回くらいのペースでします。その間にいただいた名刺をボックスから取り出し、名刺交換時に記入しておいた『お会いした年月日』『個人名』『会社名』『所在地』の4つをデータ化します。名刺の裏に書かれている情報(紹介者、同伴者、お会いした場所)があればそれも一緒に保存。
その後、名刺を『引き続き交流を続けたい人』と『もう接触する機会がほとんどない人』と、2つに分けます。
その2種類に分ける観点は、『自分自身の人格形成や仕事にプラスになるかどうか』ということです。人格的に優れているとか、豊富な知識や経験・情報、幅広い人脈を持っているなど、自分を刺激してくれるものをお持ちの方ならいいのです。
そうして親しくなりたいと思った人には、今後も交流を続けていけるように、積極的に働きかけます。たとえば『事務所報』を送ったり、メールマガジンを発信したり、講演会にお招きしたり……。一度の出会いを継続する縁につなげる方途を探ることに余念がありません。
ほとんど覚えていることですが、『この人は誰のご縁で知り合ったのかなぁ』と気になったときは、まず『個人名』から検索します。名刺交換した年月から、スケジュール表をたどって、紹介者や同伴者、出会った場所などがわかることが多いのです。そのとき改めて当時の状況や、紹介してくれた人の顔を思い出して感謝します。
また地方へ出張する場合、その地域で縁のある人の名簿を見ながら、『せっかくだから、ついでに久しぶりにお会いしに行こう』と欲張りな計画を調整して〝ついで訪問“することもあります。
いずれにせよ、名刺はきちんと管理し、記憶しておいてこそ、縁をつないで人脈を形成していくうえで意味のあるツールになるのです」